• 更新日 : 2025年3月3日

委任とは?委託・代理との違い、委任者の義務、委任状などを簡単に解説

委任とは、一定の法律行為を他人に依頼し代わりに行ってもらうことです。日常的な手続でもよく耳にする言葉ですが、企業間でも委任契約は結ばれることがあり、委任には一定のルールがあります。

この記事では、委任と委託や代理の違い、委任者の義務、委任状などについて解説します。

委任とは法律行為を相手に委託すること

委任とは、契約などの法律行為を他人に依頼することです。日常的な例を挙げると、携帯電話の各種変更手続や生命保険の手続などを本人が行えない場合に、家族などの他者に代わりに行ってもらうことも委任行為の1つです。

また、一定の専門的な知識が必要な行為を専門家に行ってもらう行為も委任に該当し、税理士に確定申告などの税金の手続をお願いする行為や、弁護士に訴訟行為の代理を行ってもらう場合などがあります。

委任と委託の違い

委託とは、自社で行うべき業務や行為を、外部の業者や個人に任せることをいいます。

委任は契約などの法律行為を外部の業者や個人に代わりに行ってもらうことを表します。それに対し、委託は、法律行為にかかわらず、一定の業務や行為を任せること自体を表す点が委任と異なります。

ビジネスの場では、よく業務委託契約という言葉が使われます。「外注」や「アウトソーシング」などと呼ぶこともあり、仕事や業務を外部に任せる行為をまとめて委託と呼びます。

委任と代理の違い

委任と似た言葉に代理があります。委任は、特定の法律行為を他者に依頼するのに対し、代理は本人の代わりに意思表示をするという違いがあります。

代理には、「法定代理」と「任意代理」の2種類があります。

法定代理は、法律の規定に基づいて設けられた代理人で、代表例としては、未成年者や病人や高齢者など、何らかの理由で意思表示ができない者に代わって意思表示をする人をいいます。

一方の任意代理は、本人の意思により、本人に代わって一定の事務処理などの権限を代理人に与えることをいいます。代表例が、訴訟の対応を弁護士に依頼するケースです。この場合、弁護士は「任意代理人」となり、委任契約を締結することで成立します。「委任」と「代理」は必ずしもまったく異なる意味として使用されているわけではないため、気をつけて使い分ける必要があります。

委任と準委任の違い

委任と準委任は相手に何を依頼するかが異なります。委任は法律行為を依頼するのに対し、準委任は法律に基づかない行為を依頼するもので、単なる事務処理などを依頼する場合が該当します。

ビジネスの場においての準委任契約は、仕事の完成ではなく、法律行為以外の事実行為をすることを意味します。具体例としては、コンサルティング業務や簡単な資料の作成などが挙げられます。

委任と請負の違い

請負とは、一定の仕事の完成を目的とする契約のことです。仕事を依頼する側を発注者、依頼される側を受注者と呼び、受注者は発注者に対して依頼された仕事を完成させる義務を負います。

代表的なものは建設工事の請負契約です。仕事を請け負った下請会社は、発注者である元請企業に対して、納期までに建設工事などの仕事を完成させる義務があり、仕事の完成をもって報酬が支払われます。

委任は契約などの「法律行為」を行うのに対し、請負は「仕事の完成」が求められるため、何を目的としているかが委任と請負の大きな違いです。

委任者と受任者の義務

委任契約において、依頼をする側を委任者、依頼される側を受任者と呼び、委任者と受任者にはそれぞれ守らなければならない一定の義務があります。

委任者の義務

委任者には、委任をした法律行為をするにあたって発生する費用を、受任者に支払う義務があります。費用の支払いは、受任者から請求があった場合は前払いをする必要があり、後払いの場合は利息を払う必要があります。

例としては、法律行為をするにあたって必要となる手数料や、証明書の発行などにかかる費用がこれに該当します。

また、特段の定めがなければ、委任者は受任者に対して報酬を支払う義務は生じません。ただし、受任者になんら過失なく損害が生じた場合は、受任者に対する損害賠償の義務が生じます。

受任者の義務

受任者には、依頼を受けた事項について注意を払う善管注意義務があります。

善管注意義務とは、社会通念上当然または一般的に必要とされる注意を払うことで、委任者の意向に沿うように事務を処理することが求められます。

また、受任者には必要に応じて委任者に業務の進捗状況・結果などを報告する義務があります。これは委任をした事務が予定通りに進んでいるか、進捗に遅れはないかなどを把握するためです。この件に関して、民法645条により「受任者は、委任者の請求がある時は、いつでも委任事務の処理を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。」と規定されています。

委任が必要な場面

個人間の委任においては、役所などで必要な法律手続を代わりに行うケースがありますが、ビジネスシーンにおいても、業務を行う上で委任が必要となる場面があります。

契約書類の署名・押印を依頼する場合

企業が何らかの契約をする場合は、通常、会社の代表(代表取締役など)の名前で署名を行います。個人事業主や中小企業であれば代表者が自ら署名、押印をすることが可能ですが、大企業になると、多忙なために代表者本人が実際に署名をするのが難しいことがあります。その場合、自社の従業員などに委任をし、代わりに署名・押印をしてもらうことがあります。

この場合に注意をしたいのは、社内規定などにより誰に権限を委任するのかを具体的に定めておくことです。社内に決まりがなく従業員が誰でも署名できると、企業にとってはリスクが生じます。

また、社内の従業員が署名をする場合には、一般的に権限を委任された従業員の名前で署名する場合と、委任を受けた従業員が代表者の名前で署名をする場合があります。

ただし、正当な権限がないにもかかわらず悪意をもって契約書に署名をした場合、トラブルになるばかりか罪に問われることもあります。また、企業としても信頼を失うことにもなりかねません。このような事態を避けるため、どちらの場合でも、会社の権限委任に関するルールを定めておくことが必要です。

代理で公的手続を依頼する場合

社内における公的な手続を依頼する場合も、自社の従業員に委任をすることがあります。

具体的には、会社の設立に伴う法人の登記や公共工事の入札などが挙げられます。

会社を設立した際は、法人の概要などを法務局に登録する法人登記の手続が必要です。ただし、会社の代表者自身は登記手続に不慣れな場合も多く、手続を司法書士などの専門家に委任することがあります。

もちろん、自社に法務部門などがあり、登記手続ができる従業員がいれば、その従業員に委任することもできますが、規模の小さな会社ではあまり現実的ではありません。このような場合は、専門家に委任をするほうが効率的です。

また、公共工事などの入札を自社の従業員に行わせることも委任の1つです。

公共工事の入札も、個人事業主であれば自身で行うことも可能ですが、規模の大きな会社の場合は支店長、営業所長などの支店単位の責任者に委任をすることがあります。

委任状とは

委任状とは、法律行為を他者に委任したことを、その法律行為の相手側に証明する書類です。

一般的には、委任をした側を委任者、委任をされた側を受任または代理人などと呼び、受任者(代理人)が委任者の代わりに手続を行う場合は、委任状の提示を求められることがあります。

委任状の提示が必要な場面の最も一般的な例は、役所などで本人の代わりに住民票(住民票上、同一住所同一世帯の人が請求する場合を除く)や戸籍謄本などの書類を取得する際です。これは各種証明書の交付が本人の意思に基づくものであるかを確認すると同時に、住民票や戸籍謄本などの個人情報の悪用を防ぐことが目的です。

ビジネスの場面においては、会社を設立した時の登記や、株主総会に出席できない場合の議決、その他の法律行為を委任する場合が該当します。

ただし、委任はあくまで「法律行為」を行うものとされているため、社内ですでに作成済みの書類を従業員が提出するのみといった場合は法律行為ではなく、委任状は必要とされない場合もあります。

委任状の書き方・テンプレート

委任状の作成にあたり、このような形でないといけないという明確なルールや様式は特段定められていません。ただし、委任状には必ず記載すべき事項があります。

受任者、委任者それぞれの氏名

委任状には、誰が誰に対して法律行為を依頼したかを明確に記載する必要があります。

委任状の項目の中で最も重要な箇所なので、必ず記載するようにしましょう。注意点としては、受任者(代理人)の氏名も含めてすべて委任者が記載するという点です。

また、個人間の委任の場合は、委任者と受任者(代理人)それぞれの個人名を記載しますが、社内の手続に関する委任の場合は代表取締役〇〇、支店長〇〇などといったように、役職名も記載します。

委任状を作成した日付

委任状には、委任状を作成した日付を記入します。委任状の有効期限は法律で特に決められているわけではありませんが、作成日からあまりにも日数が経過しているものは客観的に見ても信頼性に欠けます。

また、契約の相手や内容によっては、委任状の日付について決められていることがあります。例として、公共工事の入札などにおいては、委任状の日付は「入札書作成日の同日以前」とされています。他にも、手続によっては3カ月以内に作成された委任状を求められることもあります。自治体によっては独自の規定があるため、事前に確認しておきましょう。

委任の具体的な内容

委任状の記載項目の中でも特に重要なものが、具体的な委任内容です。単に委任しますという内容ではなく、具体的にどのような行為を委任するのかを定めておかなければなりません。曖昧な表現だとトラブルになることも考えられるため注意が必要です。

実際に、具体的な委任内容を記載する時は「〇〇の契約に関する△△の手続」や「〜の申請に関する手続」など委任内容を明確にしておくことが必要です。

1つ注意事項を挙げるとすれば、「〇〇に関する一切の権限を委任する」や「すべての権限を委任する」などという曖昧な表現を使うことは避けたほうが良いでしょう。

「一切の」という表現を使うと、すべての手続を受任者(代理人)が行うことができると誤認され、受任者(代理人)の権限が明確ではありません。

委任状のテンプレートは、下記ページからもダウンロード可能です。ぜひご活用ください。

委任を円滑に進めるポイント

委任は、法律行為を相手に依頼する行為であるため、円滑に委任を進めるにはいくつかポイントがあります。特にビジネスの場においては、トラブルを避けるためにも以下の点に注意しましょう。

定期的に進捗確認を行う

委任を受けた側の受任者(代理人)は依頼された行為の進捗状況について、委任をした委任者に適宜報告をする必要があります。

民法645条には「受任者は委任者の請求があれば、いつでも委任事務の処理状況を報告する義務がある」と規定されており、委任した業務がスケジュール通り進んでいるか、問題はないかなどを委任者に報告する義務があり、委任を円滑に進めるためには非常に重要です。

トラブル発生時の対応策を明確にしておく

受任者は、受任した業務を遂行する過程で、相手方との間に何らかのトラブルが発生することも十分考えられます。そのため、トラブルが発生した際にどう対応するかを明確にすることも、委任を円滑に進める上で重要です。

例えば、社内で取り扱う機密情報や個人情報などの重要な事項に関わる委任の場合、それらが流出すると大変な問題になることは言うまでもありません。また、受任者(代理人)の委任契約不履行などの責任を問うことにもなります。

このような大きなトラブルが発生した際に、どのように対応するのかは事前に明確にしておく必要があるでしょう。

報酬を支払う場合は報酬額をあらかじめ定めておく

委任に際し、法律上は原則無償とされていますが、特約で報酬を支払うとした場合は、報酬の額や支払期日などの事項を定めておくことが必要です。

どのような場合に報酬を支払うのか、委任が途中で終了した場合はどうするのかなどは、報酬を支払う場合、必ず定めておきましょう。

委任をする際はトラブル対策をしっかりと

委任は、ある法律行為を他者に任せる重要な手続です。特にビジネスの場において、委任による契約や諸手続は、時に大きなトラブルを引き起こしかねません。

また、社内の業務を特定の者に委任する場合は、多くの場合、委任状の作成が必要です。受任者(代理人)や法律行為の相手方とのトラブル防止のためにも、委任状には必要な事項をもれなく記載し、円滑に業務が進むようにしましょう。


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