- 作成日 : 2023年9月21日
法制執務とは?国や地方公共団体における実務を紹介
法制執務とは、法令の立案・審査に関する事務のことです。国や地方公共団体では法制執務のプロセスに従い、毎年多数の法令が制定・改正されています。本記事では、法制執務の手続きや実務、参考となる本書籍などを紹介します。
法制執務とは
法制執務とは、法令の立案・審査に関する事務のことです。
法令の内容は、社会情勢等の要請に応じてアップデートする必要があります。新しい技術への対応や、変化する社会常識に応じたルール変更などが常に求められています。
法制執務は、こうした要請に応じて法改正や新法制定を行うためのプロセスです。適切な内容の法令を成立・施行へと導くため、慎重なプロセスが整備されています。
国における法制執務
国における法制執務で最も重要なのは、法律に関する立案・審査の業務です。その他、政令・府省令の法制執務も実務上の重要性が高いといえます。
法律の立案・審査
法律の立案・審査は、以下のプロセスに従って行われます。
- 原案作成
内閣または国会議員が原案を作成します。内閣提出法案を起案するのは、所管省庁です。所管省庁は、関係省庁との意見調整や審議会への諮問、公聴会での意見聴取などを行った上で法文を起案します。一方、国会議員提出法案は有志の国会議員が作成します。
- 内閣法制局による審査
内閣提出法案については、内閣法制局が審査を行います。内閣法制局による審査は、立法内容の法的妥当性・立案意図の適切な反映・条文の表現および配列の適切性・誤字のチェックなどの観点から行われます。 - 閣議決定
内閣法制局の審査を通過した法案は、閣議に付されます。閣議は慣例的に全会一致が原則とされています。閣議決定された法案は、内閣総理大臣が国会に提出します。 - 国会における審議
国会に提出された法案について、衆参両院で審議が行われます。国会での法案審議は、まず委員会において行われた後、本会議に移行して採決されます。 - 法律の成立
衆参両院で可決された法案、および参議院で否決された後衆議院で再可決(3分の2以上)された法案は、法律として成立します。成立した法律に主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署します。 - 法律の公布
成立した法律は、内閣を経由して天皇に奏上され、天皇が公布します。 - 法律の施行
公布後、一定期間を経て法律が施行されます。
政令・府省令の制定
政令は内閣が制定する命令、府省令は各府省の大臣が制定する命令です。政令・府省令のいずれも、法律の施行に関する細目的事項を定めます。
政令・府省令の制定は、以下の流れで行われます。
政令の制定 |
---|
|
府省令の制定 |
---|
|
地方公共団体における法制執務
地方公共団体には、地方自治の原則に基づき条例の制定権が認められています。
条例の制定は、以下の流れで行われます。
- 原案作成
条例の原案は、首長または議会が作成します。首長提出条例案については、地方自治体の担当課が原案を作成します。 - 事前審査
原案の妥当性について、文書法務課や例規審査会などによる審査が行われます。 - 首長の決裁
首長提出条例案については、事前審査を通過した後、首長による決裁が行われます。 - 議会における審議
提出された条例案について、議会が審議を行います。まず委員会で審議を行い、その後本会議において議決が行われます。 - 条例の成立
議会で可決された条例案は、条例として成立します。 - 公布
首長が成立した条例を公布します。 - 施行
公布後、一定期間を経て条例が施行されます。
法制執務を理解するための参考書籍
法制執務の理解に役立つ参考書籍を紹介します。
- 『法制執務の基礎知識』(大島稔彦、第一法規)
→法制執務全般に関する基本事項の解説書です。 - 『法制執務詳解』(石毛正純、ぎょうせい)
→法制執務全般に関する詳細な解説書です。 - 『条例・規則作成の手引』(地方自治法規実務研究会編集、第一法規)
→地方公共団体における法制執務の解説書です。
法制執務は国家・地方自治体の重要な機能
法制執務は、国家・地方自治体の立法を支える重要な機能です。
法制執務は、行政機関における詳細な原案の検討・作成と、立法府による多段階の審議によって支えられています。法制執務における慎重な検討・審議の過程は、安易な法令を通過させないためのスクリーニングであると同時に、時流に合わせた適切な内容の法令を成立させることに寄与しています。
国や地方自治体のルールや仕組みを把握するためには、法制執務の理解が必要不可欠です。特に法務担当者は、法制執務の基本的な事項を理解しておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
期限の利益とは?喪失通知書が届いた際の対応も紹介
契約締結にあたり「期限の利益」が与えられることで、債務者は余裕を持って債務の履行に取り組むことができます。しかし民法の規定により、あるいは当事者間の取り決めにより、期限の利益が喪失することもあります。 そもそも期限の利益とは何か、どのような…
詳しくみる民事裁判・民事訴訟とは?費用から流れまでわかりやすく解説
裁判の一種である民事裁判(民事訴訟)は、一般の人が金銭や資産をめぐるトラブルに巻き込まれた際に開かれる可能性がある裁判です。意図せず民事裁判の当事者になると、手続きの流れや費用相場などがわからず戸惑うかもしれません。 そこで今回は、民事裁判…
詳しくみる職業安定法とは?概要や雇用主・労働者が注意すべきポイントを解説
職業安定法とは、労働者の募集や職業紹介、労働者供給について基本となる決まりを定めた法律です。1947年に制定され、順次改正された後、直近では2022年(令和4年)に法改正があり、同年10月1日(一部は4月1日)から改正法が施行されました。職…
詳しくみる下請法違反に該当する行為や罰則は?事例集・チェックシートも紹介
下請法は、下請事業者が不利益を被ることなく公正な取引が行われることを目的として定められた法律です。取り締まりの対象となる取引を限定し、「買いたたき」や「下請代金の減額」などの禁止事項を定めます。 下請事業者と契約を結び、業務を発注する際は、…
詳しくみる建設工事紛争審査会とは?役割から申請方法まで解説
建設工事は請負契約をもとに行われますが、工事を巡って契約当事者間でトラブルが発生することがあります。 建設業法では、建設工事紛争審査会という組織についての規定があります。 今回は、建設工事紛争審査会という組織の概要や役割、費用、申請方法など…
詳しくみる時効の援用とは? やり方や費用、デメリット、失敗例などをわかりやすく解説
時効の援用は、借金の債務者などが、時効の成立により借金の返済義務などの債務が消滅していることを主張することです。書類を作成して債権者に送付するだけなので、簡単に手続きできます。ただし、時効期間が経過していないのに援用してしまい、失敗するケー…
詳しくみる