- 更新日 : 2025年4月3日
独占禁止法とは? 企業が注意すべきポイントや何がダメなのかを解説
独占禁止法は、公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることを目的とする法律で、中小企業を含む事業者が対象です。独占禁止法に違反すると公正取引委員会から排除措置命令が出され、無視すると罰則が科されます。事業者は無過失責任のもと、被害者から損害賠償請求を受けるリスクもあります。ここでは、具体例や下請法との関係も含めて解説します。
目次
独占禁止法とは
独占禁止法の正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」です。独占禁止法3条で「事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない」と定められています。
「事業者」「私的独占」「不当な取引制限」の定義は同法2条で定められており、「事業者」には会社の規模等による制限はなく、中小企業なども事業者に該当します。
ここからは、独占禁止法3条で禁止される「私的独占」「不当な取引制限」について解説します。
独占禁止法の目的
独占禁止法の目的は、事業者間の公正かつ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇用及び国民所得の水準を高め、以て一般消費者の利益を確保することと、国民経済の民主的で健全な発達を促進することです(独占禁止法1条)。
市場メカニズムが正しく機能していれば、事業者は自らの創意工夫によってより安くて優れた商品を提供して売上を伸ばすことができますし、消費者もニーズに合った商品を選択することができます。事業者間の公正な競争によって、消費者の利益が確保されるのです。
独占禁止法は、一般消費者の利益確保と経済の健全な発達促進という目的を果たすために、私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法などの禁止項目を定めています。
独占禁止法と下請法の関係
下請法は、独占禁止法を補完するための法律という位置付けです。つまり、独占禁止法はカルテルや談合、私的独占など、事業者間の相互連絡や一社独占によって市場の発展が妨げられる行為を禁止するもので、事業者間の横のつながりに重きを置いて、市場の健全性を保つことを目的とする法律といえます。
しかし、独占禁止法は元請けと下請けの関係性など、事業者間の縦のつながりについてはカバーできていません。優越的地位の濫用の禁止など、独占禁止法による規制もありますが十分ではありません。そこで、下請法がこの点を補完します。下請法は、下請業者への代金支払いの遅延や不相当な減額など、親事業者による優越的地位の濫用を抑止するための法律で、独占禁止法における優越的地位の濫用の点を補完しているといえます。
独占禁止法で規制される行為
独占禁止法で規制される行為には、さまざまな分類が設けられています。以下では、具体例を挙げてそれぞれの規制内容を解説します。
私的独占
私的独占とは、さまざまな手段を用いて市場を独占する行為をいいます。競争相手を市場から排除したり、新規参入者を妨害して市場を独占したりする排除型私的独占、他の事業者の事業活動に制約を与えて市場を支配する支配型私的独占などがあります。
排除型私的独占には以下の例があります。
- 低価格販売
- 相手方に対し、自己の競争者と取引を禁止・制限することを取引の条件とする排他的取引
- 抱き合わせ
- 供給拒絶・差別的取扱い など
支配型私的独占とは、事業者が株式取得などにより他の事業者の事業活動に制約を与えて、市場を支配しようとする行為をいいます。
支配型私的独占が認められた事例としては、食缶供給において50%超のシェアを有する事業者が、競合他社について、工場新設を阻止するなどの干渉行為をしたという事例が有名です。
不当な取引制限
不当な取引制限とは、複数の事業者が競争を回避するために、取り決めや申し合わせ等の方法によりカルテルや入札談合で、互いに自らの行動を調整する行為をいいます。
カルテルの事例としては、化学メーカーが同業7社の担当者と数回にわたって、製品の販売価格の下落防止、価格の引き上げ等について情報交換や意見交換を行ったケースがあります。
入札談合とは、国や地方公共団体などの公共工事や物品の公共調達に関する入札に際し、事前に、受注予定者や受注金額などを決める行為をいいます。
事例としては、千葉県が発注する土木工事および舗装工事の入札参加業者が受注予定者を決め、その受注予定者が定めた価格で受注できるように他の受注者が協力したという例があります。
事業者団体の制限行為等
事業者団体とは、社団や財団、組合等「事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする2以上の事業者の結合体又はその連合体」(独占禁止法2条2項)をいいます。独占禁止法は、事業者団体の活動によって、競争の実質的な制限を行うこと(カルテルや私的独占もここに含まれます)、事業者の数の制限、会員事業者・組合員等の機能または活動の不当な制限、事業者に不公正な取引方法をさせる行為などを禁止しています。
事例としては、タクシー事業者団体がタクシー運賃等の引き上げについて、構成事業者の認可申請すべき内容を決定し、これにもとづいて構成事業者に認可申請をさせるとともに、当該決定に従った認可申請を行わない構成事業者に対して脱会措置を採ったことが活動の不当な制限(法8条4号)に違反するとされた例があります。
競争を実質的に制限する企業結合
競争を実質的に制限する企業結合とは、株式保有や合併等の企業結合により、当該企業結合を行った会社グループが単独で、または他の会社と協調的行動を取ることによって、市場における価格・供給数量などを左右するなど、競争を実質的に制限することができるようになるケースをいいます。
独占禁止法はそのような企業結合を禁止しています。一定の要件に該当する企業結合を行う場合は、公正取引委員会に届け出等を行わなければなりません。
例えば、小麦粉の製造販売業を営む会社が株式取得に際して届け出をして企業結合審査を受けた事例があります。主に当事会社グループの地位や競争事業者の状況、輸入・参入圧力や需要者からの競争圧力等を審査した結果、上位2社で市場シェアの約75%を占めているとはいえ、一定の取引分野における競争を実質的に制限するとは認められないと判断されました。
独占的状態
独占的状態に対する規制とは、競争の結果、圧倒的なシェアをもつ事業者等がいる市場において、需要やコストが減少しても価格が下がらない場合に、競争を促す措置を取ることをいいます。独占的状態により価格に下方硬直性が見られるなど、市場への弊害が認められる場合には、公正取引委員会が、競争を回復するために、事業譲渡を命じることがあります。
独占的状態は、以下のとおり「一定の商品」に関する一定の事業分野で判断されると定義されています。
- 一定の商品等について、年間の国内総供給価格が1000億円を超えること
- 一定の商品等について、第1位の事業者にかかる市場シェアが50%超等であること
上記のような発動要件は、かなり厳しいものであるため、これまでに適用された事例はありません。
不公正な取引方法
不公正な取引方法とは、独占禁止法第19条で禁止行為とされているものを指します。不公正な取引方法は、「自由な競争が制限されるおそれがある」、「競争手段が公正とはいえない」、「自由な競争の基盤を侵害するおそれがある」といった観点から公正な競争を阻害するおそれがあるため規制の対象とされます。
不公正な取引方法には、独占禁止法が規制する行為だけではなく、公正取引委員会の告示によって指定された内容も含まれます。
公正取引委員会の告示である一般指定には、不当廉売、再販売価格の拘束、抱き合わせ販売、不当表示、過大な景品、優越的地位の濫用、取引拒絶、排他条件付取引、拘束条件付取引など多種多様な行為があります。
事例としては、有名スポーツメーカーが、自社が定めた値引価格や本体価格通りに小売業者に販売させていたという例があります。
独占禁止法に違反した場合は?
公正取引委員会が調査し、独占禁止法に違反する私的独占や不当な取引制限があると判断された場合は、当該事業者は、当該行為の差止や違反行為を排除するために必要な措置を取るべきことを内容とする排除措置命令を受けます(独占禁止法7条等)。
また、公正取引委員会から課徴金の支払いを命じられることもあります。
加えて、独占禁止法違反の行為による被害者がいる場合は、被害者から損害賠償を請求されるリスクもあります。損害賠償請求に対しては、事業者は故意過失の不存在を証明しても責任を免れることができない、つまり、無過失責任を負うことになります(独占禁止法25条)。
排除措置命令を無視した場合は?
公正取引委員会から排除措置命令が出された場合、その効力を争うためには抗告訴訟を提起するなど、法律上の手続きに則って対抗しなければなりません。このような対抗措置を取らずに放置・無視していた場合は排除措置命令が確定し、確定後も排除措置命令を無視し続けた場合は刑事罰の対象となります。
排除措置命令を無視した場合、事業者には2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます(独占禁止法90条)。事業者が法人または法人でない団体である場合は、その法人・団体の代表者や使用人などに対して罰金が科されます(同法95条)。
中小企業も独占禁止法の対象?
独占禁止法2条1項で、事業者は「商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう」と定義されています。会社の規模に関わらず、事業を行う者はすべて独占禁止法の「事業者」に該当するのです。
したがって、中小企業も独占禁止法の対象となります。中小企業であっても、その事業に関して私的独占を行ったり、他の同種事業者とカルテルを行うなど不公正な取引方法を行ったりした場合は、公正取引委員会から排除措置命令を受けたり、課徴金を課されたりするリスクがあります。
このようなケースは独占禁止法で規制される?
それでは、どのようなケースが独占禁止法で規制されるのでしょうか。本章では過去の具体的な事例を3つ紹介します。
結論から言うと、いずれのケースも独占禁止法の規制対象になります。以下では、どの規制が適用され、どの点が問題となるかという点を解説します。
仕入価格より大幅に安く継続販売する
仕入価格より大幅に安く、かつ継続的に販売する行為は、不公正な取引方法のうちの1つとして禁止される不当廉売にあたります。
不当廉売とは、正当な理由がないのに、商品・役務の供給を、その実際の費用を著しく下回る対価で継続して供給する行為をいいます。
仕入価格より大幅に安く販売することは、供給に要する費用を著しく下回る対価といえます。また、そのような廉価で継続して販売することは、他の事業者の事業活動に影響を与え得るものとして規制の対象になる可能性があります。
人気商品と売れ残りの不人気商品をセットで販売する
人気商品と売れ残りの不人気商品をセットで販売する行為は、抱き合わせ販売にあたります。抱き合わせ販売とは、相手方に対してある商品(主たる商品)の購入等と組み合わせて他の商品(従たる商品)を購入させる行為をいいます。
組み合わせられた商品が、従たる商品といえるか否かは、それぞれの商品が独自性を有し、独立して取引の対象とされているかという観点から判断されます。
人気商品の販売に組み合わせて、独立して取引の対象とはならないような不人気商品を購入させる行為は、抱き合わせ販売として規制対象とされる可能性があります。
コストの上昇分を取引価格に反映しない
コストの上昇分を取引価格に反映しないことは、優越的地位の濫用または下請法上の買いたたきに該当する可能性があります。
昨今、公正取引委員会の価格転嫁政策が活発化しており、「よくある質問コーナー(独占禁止法)」のQ&A(独占禁止法Q&A)や2024年下請法上の運用基準の改正によって、コストの上昇分を取引価格に反映しない行為が優越的地位の濫用の一要件(下請取引の場合は買いたたき)にあたることが明確化されています。
発注者は、受注者から労務費の上昇分に係る取引価格の引き上げを求められていなくても、定期的に労務費の転嫁について発注者から協議の場を設け、取引価格の引き上げを求められた場合には、必ず協議のテーブルにつかなければなりません。
独占禁止法は消費者の利益を守るための法律
独占禁止法は事業者間の自由な競争を確保し、一般消費者の利益を守るための法律です。事業者は自社の利益を減らさないため、同種事業者と協定を結んで価格を設定することもあると思いますが、このような行為は独占禁止法違反となる可能性があります。
入札談合も同じ仕組みです。各事業者が持ち回りで入札できるように最低落札価格を事業者間で調整することは、独占禁止法で禁止されている行為です。
事業者は「自社の利益を確保するためにはやむを得ない」と考えるかもしれませんが、消費者から見ればこのような事業者の行為は背信行為であり、独占禁止法はこのような行為を固く禁止しています。
参考:昭和二十二年法律第五十四号(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)|e-GOV法令検索
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