• 更新日 : 2025年5月13日

独占禁止法とは?違反した企業の事例や規制内容、罰則をわかりやすく解説

独占禁止法は公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることを目的とする法律で、中小企業を含む事業者が対象です。独占禁止法に違反すると公正取引委員会から排除措置命令が出され、無視すると罰則が科されます。事業者は無過失責任のもと、被害者から損害賠償請求を受けるリスクもあります。ここでは、具体例や下請法との関係も含めて解説します。

独占禁止法とは

独占禁止法は、市場における公正な競争を確保するための法律で、正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」です。

独占禁止法3条で「事業者は、私的独占または不当な取引制限をしてはならない」と定められています。

「事業者」「私的独占」「不当な取引制限」の定義は同法2条で定められており、「事業者」には会社の規模等による制限はなく、中小企業なども事業者に該当します。

ここからは、独占禁止法3条で禁止される「私的独占」「不当な取引制限」について解説します。

独占禁止法の目的

独占禁止法の目的は、市場において特定の企業や事業者が支配的な立場を利用して競争を妨げるのを防ぎ、消費者の利益を守ることです。

市場メカニズムが正しく機能していれば、事業者は自らの創意工夫によってより安くて優れた商品を提供して売上を伸ばすことができますし、消費者もニーズに合った商品を選択できます。事業者間の公正な競争によって、消費者の利益が確保されるのです。

独占禁止法は、一般消費者の利益確保と経済の健全な発達促進という目的を果たすために、私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法などの禁止項目を定めています。

独占禁止法は中小企業も対象

独占禁止法2条1項で、事業者は「商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう」と定義されています。会社の規模に関わらず、事業を行う者はすべて独占禁止法の「事業者」に該当するのです。

したがって、中小企業も独占禁止法の対象となります。中小企業であっても、その事業に関して私的独占を行ったり、他の同種事業者とカルテルを行うなど不公正な取引方法を行ったりした場合は、公正取引委員会から排除措置命令を受けたり、課徴金を課されたりするリスクがあります。

独占禁止法の規制内容

独占禁止法の規制内容は、以下の通りです。

私的独占の禁止

私的独占は「排除型私的独占」と「支配型私的独占」に大別されます。排除型私的独占は事業者が単独または共同して、不当に低価格販売などの手段を用いて競争相手を市場から排除したり、新規参入者を妨害して市場を独占したりする行為です。支配型私的独占は事業者が単独または共同して、株式取得などにより他の事業者の事業活動に制約を与えて、市場を支配しようとする行為です。

参考:独占禁止法の規制内容|公正取引委員会

不当な取引制限(カルテル)の禁止

独占禁止法3条で禁止されている「不当な取引制限」の典型例として挙げられるのが、「カルテル」です。カルテルとは、事業者同士が相互に連絡を取り合い、本来ならば各事業者が自主的に決めるべき商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決める行為を指します。

独占禁止法で禁止されている「不当な取引制限」に該当する例には、「入札談合」もあります。談合とは、国や地方公共団体などの公共工事や物品の公共調達に関する入札に際し、事前に受注事業者や受注金額などを決める行為のことです。

事業者団体の規制

独占禁止法では、個別の事業者だけではなく、複数の事業者でつくられる社団、財団、組合などの事業者団体も規制の対象となります。

独占禁止法第8条では、事業者団体の活動として以下の行為を禁止しています。

  • 事業者団体による競争の実質的な制限
  • 事業者の数の制限
  • 会員事業者・組合員等の機能または活動の不当な制限
  • 事業者に不公正な取引方法をさせる行為

企業結合の規制

独占禁止法では、一定の条件の下での企業結合についても規制の対象としています。それまでは各々独立して活動を行っていた企業であったのが、株式保有や合併といった企業結合をすることで、そのグループ企業が市場において独占的なポジションとなることを規制しています。

当該グループ企業が単独で、あるいは他の企業と協調的な事業活動を行うことにより、市場における競争を実質的に制限する事態となる可能性がある場合、その企業結合を禁止しています。

そのため、一定の要件の対象となる企業結合を進めたい場合は、公正取引委員会への届出および報告を行わなければなりません。

独占的状態の規制

独占的状態に対する規制とは、競争の結果、圧倒的なシェアをもつ事業者等がいる市場において、需要やコストが減少しても価格が下がらない場合に、競争を促す措置を取ることをいいます。独占的状態によって価格の下方硬直性といった市場への弊害が見られる際には、公正取引委員会は、競争を回復させる目的で、営業の一部譲渡を命じる場合があります。

独占的状態は、以下の通り「一定の商品」に関する一定の事業分野で判断されると定義されています。

  • 一定の商品等について、年間の国内総供給価格が1,000億円を超えること
  • 一定の商品等について、第1位の事業者にかかる市場シェアが50%超等であること

これらの発動要件は非常に厳格であることから、現在までに、この規制が適用されたケースはありません。

不公正な取引方法に関する規制

不公正な取引方法とは、独占禁止法第19条で禁止されている、公正な競争を妨げる可能性のある行為です。具体的には、自由な競争を制限したり、競争手段が不公正であったり、競争の基盤自体を侵害したりする恐れがある行為に対して、公正な競争を妨げる可能性があるか否かを判断します。

この規制は、独占禁止法に直接定められた行為だけでなく、公正取引委員会が告示で指定する行為も含まれます。すべての事業者に適用される「一般指定」では、例えば、不当に安い価格で商品を販売し続ける「不当廉売」、商品の販売価格を拘束する「再販売価格の拘束」、強い立場を利用して取引先に不利益を与える「優越的地位の濫用」など、さまざまな行為が指定されています。

事例としては、大手家電専門量販店がカラーテレビ等について仕入価格を著しく下回る価格で販売した事例で、不当廉売にあたる恐れがあるとして公正取引委員会が警告を行ったという事例があります。

独占禁止法を補完する下請法の規制内容

下請法は、独占禁止法を補完するための法律という位置付けです。つまり、独占禁止法はカルテルや談合、私的独占など、事業者間の相互連絡や一社独占によって市場の発展が妨げられる行為を禁止するもので、事業者間の横のつながりに重きを置いて、市場の健全性を保つことを目的とする法律といえます。

しかし、独占禁止法は元請けと下請けの関係性など、事業者間の縦のつながりについてはカバーできていません。優越的地位の濫用の禁止など、独占禁止法による規制もありますが十分ではありません。そこで、下請法がこの点を補完します。下請法は、下請業者への代金支払いの遅延や不相当な減額など、親事業者による優越的地位の濫用を抑止するための法律で、独占禁止法における優越的地位の濫用の点を補完しているといえます。

独占禁止法に違反した最近の企業事例

最近発生した、独占禁止法の違反事例について紹介します。

談合の事案

近年の談合の事案としては、マンションやビルに併設される機械式駐車場の新設工事について、大手建設業者から依頼を受けた違反行為者が供給予定者を事前に決定し、他の事業者はそれに従って価格調整などで協力していたという事案がありま

す。加えて、供給予定者以外は見積価格を意図的に高く提示し、予定者が受注しやすいように操作していました。違反行為者4社は総額約5億円の課徴金を命じられました。

不公正な取引方法の事案①

近年の不公正な取引方法の事案としては、Googleが日本国内のAndroidスマートフォンメーカーに対して行った取引が挙げられます。

Googleは、Google Playの利用許諾と引き換えに、検索アプリのChromeなどをスマホに事前インストールし、目立つ場所に配置するようメーカーに要求したり、広告収益の分配条件として、競合の検索サービスを搭載しないよう排除を求める契約も締結したりしたことが不公正な取引方法の拘束条件付き取引にあたるとされました。公正取引員会はGoogleに対し、違反行為の取り止めおよび将来にわたってもこのような行為をしないことを命じました。

不公正な取引方法の事案②

また、同じく不公正な取引方法の事案ですが、近年、公正取引委員会による執行が活発化しているのが優越的地位濫用の規制です。近年の事案としては株式会社アトレが優越的地位を濫用した疑いにより、公正取引委員会から警告を受けたという事案があります。
これまで、JRE POINTの運営費用はアトレが負担することで出店者と合意していましたが、令和6年7月頃、アトレは取引上の立場が優位であることを利用し、協議なく一方的に運営費用の一部を出店者に負担させる内容へ変更した疑いがあるとされました。

独占禁止法に違反した場合の罰則

公正取引委員会が調査し、独占禁止法に違反する私的独占や不当な取引制限があると判断された場合、当該事業者は、当該行為の差止めや違反行為を排除するために必要な措置を取るべきことを内容とする排除措置命令を受けます(独占禁止法7条等)。

また、公正取引委員会から課徴金の支払いを命じられることもあります。

加えて、独占禁止法違反の行為による被害者がいる場合は、被害者から損害賠償を請求されるリスクもあります。損害賠償請求に対しては、事業者は故意過失の不存在を証明しても責任を免れることができない、つまり、無過失責任を負うことになります(独占禁止法25条)。

排除措置命令を無視したらどうなる?

公正取引委員会から排除措置命令が出された場合、その効力を争うためには抗告訴訟を提起するなど、法律上の手続きに則って対抗しなければなりません。このような対抗措置を取らずに放置・無視していた場合、排除措置命令が確定し、確定後も排除措置命令を無視し続けた場合は刑事罰の対象となります。

排除措置命令を無視した場合、事業者には2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます(独占禁止法90条)。事業者が法人または法人でない団体である場合は、その法人・団体の代表者や使用人などに対して罰金が科されます(同法95条)。

独占禁止法は消費者の利益を守るための法律

独占禁止法は事業者間の自由な競争を確保し、一般消費者の利益を守るための法律です。事業者は自社の利益を減らさないため、同種事業者と協定を結んで価格を設定することもあると思いますが、このような行為は独占禁止法違反となる恐れがあります。

入札談合も同じ仕組みです。各事業者が持ち回りで入札できるように最低落札価格を事業者間で調整することは、独占禁止法で禁止されている行為です。

事業者は「自社の利益を確保するためにはやむを得ない」と考えるかもしれませんが、消費者から見ればこのような事業者の行為は背信行為であり、独占禁止法はこのような行為を固く禁止しています。

参考:昭和二十二年法律第五十四号(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)|e-GOV


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