• 作成日 : 2025年9月16日

利用規約のリーガルチェックとは?確認すべきポイントや進め方を解説

インターネットサービスやアプリを運営する企業にとって、利用規約の整備は避けて通れない課題です。利用規約は形式的な書面ではなく、ユーザーとの契約関係を明示し、トラブルを防ぐための重要な役割を担います。しかし、その内容が不適切であれば、法的責任や信頼の損失といったリスクを引き起こすことにもなりかねません。

本記事では、利用規約のリーガルチェックのポイントや進め方、注意点などを解説します。

利用規約のリーガルチェックとは

利用規約のリーガルチェックは、企業が提供するサービスにおいて、トラブルの予防や法的責任の軽減を図るうえで欠かせない業務の一つです。このセクションでは、利用規約の法的性質とリーガルチェックの定義、役割について解説します。

利用規約と契約書の違い

利用規約は、サービス提供者がユーザーに対して示すサービス利用上のルールを記載したものであり、ユーザーが同意した時点で原則として契約内容としての法的効力を持ちます。ただし、消費者契約法や民法の定めに反する条項、公序良俗に違反する条項などは効力を持たない場合があるため注意が必要です。契約書は当事者同士が協議・署名して成立するのに対し、利用規約は提供者側が一方的に策定し、多数のユーザーに提示される「定型約款」の形態を取ります。ユーザーはクリックやチェックボックスによる同意を通じて契約を結ぶため、交渉の余地が乏しい点が特徴です。したがって、利用規約の内容には十分な法的配慮が求められ、リーガルチェックではその観点から条項の妥当性を検討します。

リーガルチェックの目的

利用規約のリーガルチェックには主に二つの目的があります。第一に、関連法規との整合性を確保することです。提供するサービスに応じて適用される法令(たとえば特定商取引法や消費者契約法など)に違反する条項が含まれていないかを精査し、必要に応じて内容の修正や削除を行います。第二に、企業の法的リスクを最小限に抑えることです。将来的な紛争に備え、免責事項や損害賠償責任の範囲などを明確に定めることで、ユーザーとの間で発生しうるトラブルの影響を軽減できます。あわせて、ユーザーがサービス利用にあたり必要な情報を十分に理解できるよう、規約内容の明瞭化も図ります。

利用規約のリーガルチェックが重要な理由

利用規約の整備を怠ると、企業は多方面で重大なリスクを抱えることになります。以下では、特に留意すべき理由を解説します。

法律違反による損害賠償リスクを回避できる

利用規約に違法な条項が含まれていた場合、企業は損害賠償請求を受けるおそれがあります。ユーザーに不当な著作権の放棄を求める規定や、特定商取引法に違反する迷惑メールの送信を許容する条項などは、監督官庁からの是正命令や指導の対象となります。さらに、実際に消費者から訴訟を提起され、多額の賠償金を支払った例も報告されています。リーガルチェックを実施することで、これらのリスクを事前に把握し、法令に適合しない条項を修正または削除することが可能です。事前対応により、不要な法的トラブルの回避が図れます。

ユーザーの信頼を守り、炎上を防げる

利用規約が企業側に一方的に有利な内容であれば、ユーザーの反発を招く可能性があります。とりわけ、免責規定や利用者投稿の権利処理などが過度に事業者寄りである場合、SNS等での批判や炎上の火種となりかねません。近年は企業の透明性や公平性が重視される傾向にあり、不適切な規約は社会的信用を損なう要因となります。リーガルチェックでは、法的適合性を見るだけでなく、ユーザーにとって納得しやすく、バランスの取れた内容となっているかも確認されます。その結果、炎上リスクの低減やユーザーとの信頼関係の維持につながります。

法改正の影響に対応しやすくなる

近年は民法や消費者契約法などの改正により、利用規約にも影響を及ぼす新たな法的要件が導入されています。2020年の改正民法では、定型約款にあたる利用規約の変更には「合理的な理由」と「事前周知」が必要とされるようになりました。

また2022年に成立(2023年6月施行)した改正消費者契約法では、事業者の軽過失による損害賠償責任を一部免除する条項(いわゆるサルベージ条項)のうち、免責される範囲が不明確なものなどが新たに無効とされました。

これらの法改正に適切に対応していない規約は、後に無効とされる可能性があり、企業側に不利益をもたらします。リーガルチェックを定期的に行うことで、こうした法改正の影響を規約に的確に反映させ、コンプライアンス上の不備を防ぐことができます。

利用規約のリーガルチェックのポイント

利用規約のリーガルチェックでは、事業内容に適合した法令の遵守だけでなく、契約条項としての妥当性や利用者への配慮までを総合的に検討します。ここでは、重要なチェックポイントを解説します。

サービス内容ごとの関連法令に適合しているか

まず確認すべきは、サービスの内容が関係法令に即して設計されているかです。以下に主要な法律と留意点を示します。

  • 著作権法
    ユーザー投稿型サービスでは、投稿された画像や文章の著作権処理が必須です。たとえば、規約に「投稿されたコンテンツを当社が無償で利用できる」といった条項を記載することは有効ですが、ユーザーに過度の制約を課す表現は避ける必要があります。
  • 資金決済法
    前払式電子マネーやポイントサービスを提供する場合、資金決済法上の規制を受けます。ポイントの有効期限や未使用時の対応、払い戻しの可否などを明示しなければなりません。
  • 特定商取引法
    通信販売やサブスクリプション型サービスでは、メルマガ配信などの広告行為に対するユーザーの事前同意が必要です。利用規約内で明示し、同意取得の記録を残す運用が求められます。
  • 個人情報保護法
    ユーザーから個人情報を取得する場合、収集目的や第三者提供の有無について明記し、プライバシーポリシーと連動させることが基本です。
  • 消費者契約法
    エンドユーザーが消費者であるサービスにおいては、不当な免責や過度な損害賠償請求など、無効とされるリスクのある条項がないか厳しく確認されます。

リーガルチェックでは、これらの法令に照らし合わせて、規約の内容が網羅的かつ適法であるかを判断します。

免責・損害賠償条項が無効にならないか

事業者が責任を回避するために設ける免責条項は、消費者契約法によって制限されているため、表現次第で無効とされる可能性があります。

「当社は一切の責任を負いません」という記述は、消費者契約法第8条により無条件で無効とされます。また、事業者の重大な過失がある場合にまで免責を及ぼす条項も無効と判断されます。そのため、「ただし当社に故意または重大な過失がある場合を除きます」といった例外の明示が不可欠です。

一方、軽過失のみを対象とした損害賠償の上限設定(たとえば「1万円を上限とする」など)は、合理性がある場合に限って有効となることがあります。リーガルチェックでは、判例や監督省庁のガイドラインを参照しながら、免責や賠償条項の記載方法と範囲が適切であるかを慎重に検討します。

規約変更の手続きが民法の要件を満たしているか

2020年4月施行の改正民法では、利用規約のような定型約款を一方的に変更する際には、一定の条件を満たす必要があるとされました。主な要件は以下のとおりです。

  • 変更の合理性
    規約変更の目的が社会的事情の変化や法改正、サービス改善など、合理的であること。
  • 事前通知と周知
    規約変更前にユーザーに通知するか、ウェブサイト等で一定期間掲示し、周知すること。
  • 重大変更時の配慮
    ユーザーにとって不利益となる場合、明示的な同意取得や契約解除の選択肢を提示することが望ましいとされています。

「利用規約は通知なしに変更できる」といった記載は無効とされるおそれがあるため、リーガルチェックでは、変更条項の整備状況も忘れずに確認しなければなりません。

条項ごとの実務的・倫理的妥当性があるか

最後に、リーガルチェックでは形式的な法令順守だけでなく、利用者視点で見て妥当かどうかという観点も重要です。たとえば以下のような項目は、法的には有効でも、ユーザーの反感や誤解を招く可能性があります。

  • 未成年者の利用
    親権者の同意が必要であることを明示しているか。
  • 禁止事項
    迷惑行為や不正アクセスなど、明確かつ具体的に列挙しているか。
  • 準拠法・管轄裁判所
    紛争発生時の対応先を明示し、ユーザーが確認可能な場所に記載しているか。

また、業界の慣習や自主ルール、競合他社の利用規約と比較して、過不足がないかを検討することも、トラブル予防には有効です。

利用規約のリーガルチェックの進め方

利用規約のリーガルチェックを正しく進めるには、社内での対応だけでなく、法律専門家との連携が欠かせません。このセクションでは、実務での進め方について整理します。

社内対応だけでは限界がある

自社のサービス内容を最もよく理解しているのは社内の担当者です。したがって、初期段階として社内法務が利用規約の草案を作成し、自社の業務特性やリスクに即した条項を盛り込むことは有効です。ただし、利用規約には著作権法や民法、消費者契約法など複数の法律が関わるため、社内対応だけでは法的な見落としや解釈の誤りが発生する可能性があります。

なお、弁護士資格のない法務担当者が、業として法的判断を行うことは弁護士法に抵触するおそれがあるため、注意が必要です。ただし、企業内の法務担当者が自社の業務として利用規約の検討を行うことは、通常、弁護士法が禁じる非弁行為には該当しないと解されています。

弁護士によるレビューで制度的・実務的に補強する

多くの企業は利用規約の最終チェックを弁護士に依頼しています。弁護士に依頼すれば、法律の網羅的な確認に加え、訴訟リスクや消費者との紛争事例を踏まえた現実的なアドバイスを受けられる点が大きな利点です。業界特有のトラブルを想定した条項の追加や、過去の炎上事例を避ける配慮など、実務経験に基づくチェックは社内だけでは補いきれません。また、弁護士によるレビューが入ることで、社内外への安心感や説明責任にもつながります。

進め方としては、社内でドラフトを準備し、本記事で解説したチェック項目に沿って一次チェックを実施します。その後、弁護士にレビューを依頼して修正を受け、完成版を整えるという流れが効率的です。最初から外部に丸投げするよりも、ポイントを押さえてから相談することで、スムーズかつ費用対効果の高い対応が可能となります。

利用規約のリーガルチェックのAIツールは活用できる?

契約書のチェック作業にAIを活用する動きが広がる中、利用規約のリーガルチェックにおいてもAIツールが注目されています。効率的なレビューを可能にする一方で、法律上の注意点も存在するため、導入時には慎重な判断が必要です。

AIで効率的にリスク箇所を抽出できる

AIを活用した契約書レビューサービスは、文書内のリスクのある表現や法令との整合性の確認を高速で行うことができます。不当条項の抽出、関連法令へのリンク提示、過去の判例との照合などが自動で行えるため、法務業務の工数削減につながります。ドラフト段階のチェックや複数の規約の比較検討にも有効です。AIを適切に活用することで、ヒューマンエラーの防止や見落としの削減も期待できます。

弁護士法との関係に注意が必要

一方で、AIが独自に法律判断を行うこと自体が弁護士法に直接抵触するわけではありませんが、その結果を人間による確認を経ずに外部へ提供すれば、弁護士法72条違反(非弁行為)に当たる可能性があります。2021年のグレーゾーン解消制度への回答や、2023年に法務省などが公表したガイドラインでは、AIのレビュー結果を人間(特に弁護士)が確認・修正することなく提供するサービスは、非弁行為に該当する可能性があるとの考え方が示されました。

ただし、弁護士が補助的にAIを用いる場合は問題ないとされており、2023年には具体的な運用指針としてガイドラインも公表されています。これにより、AIを使った一般的な契約チェックであれば適法と判断されるケースも明確化されてきました。

最終判断は人間が担うべき

AIの活用は補助的なものであり、最終的な法的判断はあくまで専門家または社内の法務担当者が行う必要があります。自社でAIツールを導入する際には、ガイドラインに準拠した運用体制を整え、AIの提示する内容をうのみにせず、人の目で確認しながら活用することが重要です。AIはあくまで判断材料の一つであることを前提に、安全なリーガルチェックを行いましょう。

適切なリーガルチェックで信頼される規約を整えよう

利用規約は、ユーザーとの契約関係を支えます。不備のある条項は、法的リスクだけでなく企業イメージの低下にもつながりかねません。だからこそ、法令の遵守はもちろん、利用者にとっても納得しやすい内容となっているかを丁寧に見直す必要があります。AIの活用や専門家との連携を通じて、実効性のある規約を構築し、持続的でトラブルのないサービス運営を目指しましょう。


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