- 作成日 : 2025年8月5日
リーガルチェックにかかる期間は?契約書の種類別の目安や期間を短縮する方法も解説
契約を締結する上で不可欠なリーガルチェックですが、その期間がどれくらいかかるのかは、仕事のスケジュールに直結する重要な問題です。期間の見通しが甘いと、商談の機会を逃したり、プロジェクトの開始が遅れたりするリスクさえあります。
本記事では、リーガルチェックにかかる期間の目安を契約書の種類ごとに解説するとともに、期間が変動する要因や、チェック期間をできるだけ短縮するための具体的な方法を分かりやすくご紹介します。
目次
リーガルチェックにかかる期間の目安
弁護士にリーガルチェックを依頼した場合、期間は契約書の分量や内容の複雑さによって大きく変動します。
契約書の種類 | リーガルチェック期間の目安 | 主なチェックポイント |
---|---|---|
NDA(秘密保持契約書) | 1〜3営業日 | 秘密情報の定義、目的外使用の禁止、有効期間、返還・破棄義務 |
業務委託契約書 | 3〜5営業日 | 業務内容の範囲、報酬と支払条件、知的財産権の帰属、検収条件、解除事由 |
Webサイト利用規約・プライバシーポリシー | 5〜10営業日 | 個人情報保護法への準拠、免責事項の有効性、禁止事項、管轄裁判所 |
M&A関連契約書・ライセンス契約書 | 2週間〜1ヶ月以上 | 対象範囲の正確性、表明保証、補償条項、リスク分配の妥当性など、専門的かつ多角的な検討が必要 |
これらはあくまで目安です。 複雑な取引や、多くの個別交渉事項が含まれる場合は、上記よりも長い時間が必要になることがあります。
リーガルチェックにかかる期間に影響を与える要因
契約書の種類以外にも、リーガルチェックの期間に影響を与える要因はいくつかあります。
契約書の分量と複雑さ
条項が多く、内容が多岐にわたる契約書ほど、詳細な確認が必要となるため時間がかかります。また、契約書が十分に網羅的でなく、不足している条項が多い場合も、弁護士が追加提案を行うために期間が延びる可能性があります。
依頼内容の範囲
契約書に潜在するリスクが高い場合や、大幅な修正が必要となる場合は、その検討と修正案の作成に時間を要します。特に、契約書修正依頼が多数発生する場合は、相手方との交渉期間も考慮に入れる必要があります。
弁護士の稼働状況
法律事務所の繁忙期は事務所や案件の種類によって大きく異なります。決算期前や大型取引が集中するタイミングには依頼が増える傾向がある一方、裁判所の人事異動がある 3 月下旬〜4 月上旬や年末年始は期日が少なく比較的余裕が生じる場合もあります。依頼時には、希望納期が可能か事前確認することが重要です。
依頼者側のレスポンス速度
弁護士が疑問点や追加情報を求めた際に、依頼者が迅速に対応できるかどうかも期間に影響します。情報の提供が遅れると、その分レビューが中断し、期間が延びてしまいます。
リーガルチェックの期間をAIで短縮する方法
AI技術の進化は、リーガルチェックにも大きな変革をもたらしています。具体的には、以下のような方法でリーガルチェックの期間を短縮できます。
定型的な確認作業の自動化
契約書に記載されている一般的な条項の有無や、特定のキーワードの出現頻度などをAIが高速でチェックできます。これにより、人間の弁護士が手作業で行う初期スクリーニングの時間を大幅に削減できます。
テンプレートとの比較分析
過去の自社テンプレートや業界標準の契約書と比較し、AIが逸脱している箇所やリスクが高い可能性のある条項を数秒〜数十秒で特定します。これにより、弁護士はレビューの焦点を絞り込むことができ、効率が向上します。
条項の自動抽出・整理
契約書から特定の条項を自動で抽出し、一覧化することができます。これにより、ツールによってはレビュー時間が80〜90%削減されると報告されています。
潜在的なリスクの示唆
AIは、過去の事例や学習データに基づき、特定の条項に潜む潜在的なリスクを初期段階で示唆することができます。これにより、弁護士はより迅速に問題点に気づき、詳細な検討に移ることが可能です。
リーガルチェックにAIを活用する場合の注意点
AIは非常に強力なツールですが、リーガルチェックの全ての側面を代替できるわけではありません。
法的な判断と複雑な解釈
AIはあくまでパターン認識に基づいた情報処理を行うため、複雑な法的解釈や、個別具体的な事案における微妙なニュアンスの判断はできません。例えば、最新の判例や社会情勢の変化に伴う解釈の変更、あるいは当事者の意図を深く読み取ることは、現在のAIには困難です。
交渉戦略やビジネス判断
契約書は単なる法的文書ではなく、ビジネス戦略の一部でもあります。AIが最も得意とするのは形式的なチェックであり、特定の条項がビジネスに与える影響や、交渉における落としどころ、代替案の提案といった戦略的な判断は、人間の弁護士の専門性と経験に依存します。
オリジナルの契約への対応
テンプレートから大きく外れる、非常に特殊な内容の契約書や、前例のない新規ビジネスにおける契約書の場合、AIが学習しているデータが少なく、十分なパフォーマンスを発揮できない可能性があります。
リーガルチェックを急ぎで依頼する場合の対処法
リーガルチェックの期間は、事前の準備と弁護士との連携、そして緊急時の対処法を知っているかで大きく変わります。
1. 最優先で弁護士に相談し、緊急度を伝える
急ぎのリーガルチェックが必要な場合、何よりもまず弁護士事務所に連絡を取り、その旨を明確に伝えることが重要です。弁護士事務所によっては、緊急案件に対応するための体制を整えている場合があります。
緊急対応には、通常料金に追加料金が発生する場合があります。費用とのバランスも考慮し、事前に確認しましょう。
2. 弁護士が効率的に作業できるよう準備する
期間短縮の最も効果的な方法は、弁護士が契約書レビューに集中できるよう、依頼者側で最大限の準備をすることです。
- 契約書の送付形式
Word形式など、弁護士が直接編集やコメント追加ができるファイル形式で提供しましょう。PDF形式では、テキストのコピーや編集に手間がかかり、その分時間がかかります。 - 指示内容と質問事項の整理
契約書のどの部分を特に見てほしいのか、どんな点が懸念されるのかを具体的に、箇条書きなどで整理しておきます。 - 関連資料の網羅
契約書だけでなく、取引の経緯がわかるメール、見積書、以前の契約書など、関連する資料はすべて最初にまとめて提供します。これにより、弁護士が背景情報を理解するための時間と手間を省けます。 - 担当者の連絡体制
弁護士からの質問に迅速に答えられるよう、担当者がすぐに連絡を取れる体制を整えておくことも重要です。
3. レビュー範囲を絞り込み、優先順位を付ける
時間がない場合、契約書の全ての条項を詳細にレビューするのではなく、特にリスクが高いと考えられる箇所や、ビジネス上の重要性が高い条項に絞ってレビューを依頼することも有効な手段です。
- 重要性の高い条項に限定
例えば、契約の目的、料金体系、責任範囲、解除条件、準拠法・管轄など、ビジネスに直結する根幹部分や、法的な紛争に発展しやすい条項に絞ってレビューを依頼します。 - リスクの指摘のみの依頼
具体的な修正案の作成まで求めるのではなく、問題点の指摘とそのリスクに関するコメントのみを依頼することで、弁護士の作業時間を短縮できる場合があります。 - 致命的な欠陥のチェック
まずは、契約全体の有効性を揺るがすような致命的な欠陥や、自社にとって回復不可能な損害につながる可能性のある条項がないか、緊急で確認してもらうように依頼することもできます。
4. 交渉期間も考慮に入れてスケジュール調整を行う
リーガルチェックが終わっても、相手方との契約書修正依頼の交渉期間が必要です。急ぎの場合でも、この交渉プロセスは省略できません。
- 交渉の時間を見積もる
リーガルチェックの期間だけでなく、その後の交渉にかかる時間も考慮に入れて、全体のスケジュールを組む必要があります。 - 譲歩の範囲を事前に検討
契約書修正を拒否された場合に備え、どこまでなら譲歩できるのか、事前に社内で方針を固めておくことで、交渉がスムーズに進み、契約書に合意できない状況を回避できる可能性が高まります。 - 最悪のシナリオを想定
どうしても合意に至らない場合、断るという選択肢も視野に入れ、その際の対応や次のアクションについても、弁護士と事前に相談しておくことで、いざという時の判断が迅速に行えます。
リーガルチェック後の修正交渉から合意形成までの期間
リーガルチェックが完了し、弁護士からコメントや修正案が提示された後も、契約締結までの期間を意識する必要があります。特に、相手方との契約書修正依頼の交渉は、期間に大きく影響するプロセスです。
交渉がスムーズに進めば数日〜数週間で合意に至りますが、契約書の修正を拒否されたり、双方で契約書に合意できない状況に陥ったりすると、数ヶ月かかる可能性があります。
修正交渉をスムーズに進めるポイント
弁護士から受けた修正提案を元に、相手方と修正交渉を行う際のポイントです。
- 論理的かつ具体的な説明
修正が必要な理由を、単に「弁護士が言っているから」ではなく、法的なリスクや自社にとっての重要性を踏まえ、論理的かつ具体的に説明します。契約書のレビューコメントで得られた情報を活用し、相手方が納得できるような説明を心がけましょう。 - 代替案の提示
相手方が特定の修正案に難色を示した場合、全く別の修正案や代替案を提示することで、交渉が前進することがあります。 - 優先順位の明確化
すべての修正が通るとは限りません。交渉に入る前に、絶対に譲れない重要度の高い修正箇所と、妥協できる可能性のある修正箇所を明確にしておくことで、交渉の長期化を防ぐことができます。 - 冷静な対応
交渉が難航しても、感情的にならず、常にプロフェッショナルとして冷静に対応することが重要です。
合意に至らない場合の期間と選択肢
交渉の結果、どうしても合意できない場合や、自社にとって不利益な条件のままであれば、断るという選択肢も視野に入れる必要があります。
交渉が長期化し、当初のビジネススケジュールに大きな影響が出るようであれば、別の選択肢を検討する期間も考慮に入れなければなりません。例えば、他の取引先を探す、事業計画を見直すなど、次のステップに進むための時間も必要になります。この際も、弁護士は法的な観点から適切なアドバイスを提供し、あなたの意思決定をサポートしてくれるでしょう。
弁護士とAIの協業で、賢く迅速なリーガルチェックを
リーガルチェックの期間短縮には、AIによる効率化と、弁護士の専門的な判断、そして依頼者側の適切な準備と迅速な対応が不可欠です。AIは初期段階のスクリーニングや情報整理において強力なツールとなりますが、複雑な法的判断や交渉戦略においては、依然として経験豊富な弁護士の役割が重要です。
急ぎの案件の場合でも、焦らず、今回ご紹介した対処法を参考に、弁護士と密に連携を取りながら、最適なリーガルチェックを進めていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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