- 作成日 : 2025年7月9日
消費者契約法第10条とは?該当するケースなどを解説
日常生活を送る上で、私たちはさまざまな契約を結んでいます。スマートフォンの契約、賃貸住宅の契約、ジムの会員契約、オンラインサービスの利用規約など、意識していなくても契約は身近な存在です。
しかし、その契約内容が必ずしも私たち消費者にとって公平とは限りません。そんな時に私たちの権利を守ってくれる法律の一つが「消費者契約法」であり、その中でも特に重要なのが「第10条」です。この条項は、消費者に一方的に不利な契約条項を無効にする力を持っています。
本記事では消費者契約法第10条について解説します。
目次
消費者契約法第10条とは?
この章では、消費者契約法第10条がどのような条文で、私たちの契約にどう関わってくるのか、基本的な考え方と無効となるための要件を分かりやすく解説します。
消費者契約法第10条の条文と基本的な考え方
消費者契約法第10条は次のように規定されています。
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
消費者契約法第10条は、事業者が作成した契約書や利用規約の中に、消費者にとって一方的に不利な条項があった場合に、その条項を無効とするための包括的な規定です。条文では、簡単に言うと「法律の一般的なルール(任意規定)に比べて、消費者の権利を不当に制限したり、義務を重くしたりする条項で、かつ、お互いに誠実に対応すべきという契約の大原則(信義誠実の原則)に反して、消費者の利益を一方的に害するものは無効とする」と定められています。
消費者契約法第10条は、情報量や交渉力で事業者に劣る消費者の保護が目的です。。例えば、事業者の責任を一切免除するような条項や、法外なキャンセル料を定める条項などが、この消費者契約法第10条によって無効と判断されることがあります。消費者契約法には、他にも事業者の責任免除(第8条)や高すぎるキャンセル料(第9条)を個別に規制する条項がありますが、第10条はそれらに当てはまらない場合でも広く消費者を守るための「最後の砦」のような役割を果たします。
無効となるための2つの重要な要件
消費者契約法第10条によって契約条項が無効とされるためには、以下の2つの要件を両方満たす必要があります。
- 第1要件:「任意規定」の適用による場合と比較して、消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する条項であること。「任意規定」とは、当事者間で特別な合意(特約)がなければ適用される法律のルールのことです。この法律のルールと比べて、契約条項が消費者にとって不利な内容になっている場合(例:法律上は不要な義務を課す、法律上認められている権利を制限するなど)に、この要件に該当します。
- 第2要件:民法第1条第2項に規定する基本原則(信義誠実の原則、いわゆる「信義則」)に反して、消費者の利益を一方的に害するものであること。「信義則」とは、契約の当事者はお互いに相手の信頼を裏切らないように誠実に行動しましょう、という契約社会の基本的なルールのことです。この信義則に照らして、問題となっている契約条項が、消費者にとって著しく不公平で、一方的に不利益を与えるものだと判断される場合に、この要件を満たします。この判断は、契約の種類、条項の内容、契約を結んだ経緯など、さまざまな事情を総合的に考慮して行われます。
これらの要件を満たすと判断された契約条項は、法的に無効となり、最初からなかったものとして扱われます。
消費者契約法第10条の改正ポイント
近年の消費者契約法改正のうち、特に第10条に関連する重要なポイントと、それが私たちの生活にどのような影響を与えるのかを解説します。
改正の背景
消費者契約法は、社会の変化や新たな消費者トラブルに対応するために、これまでも何度か改正されてきました。特にECサイトの普及などにより、消費者が意図しないうちに不利な契約を結んでしまうケースが増えたことなどが背景にあります。
2016年(平成28年)の改正では、消費者契約法第10条に関連して、「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項」が、第10条前段(消費者の権利を制限し、または義務を加重する条項)の例として明記されました。
消費者の不作為とは?
「消費者の不作為」とは、「消費者が何もしないこと」を指します。この改正により、例えば以下のようなケースで、消費者が知らないうちに不利な契約を結ばされることを防ぎやすくなりました。
- 無料トライアルからの自動有料移行:「無料お試し期間終了後、解約の連絡がなければ自動的に有料プランに移行する」という条項で、その表示が分かりにくい場合など。
- 一方的な契約更新:「契約期間満了までに特段の申し出がなければ、契約は自動的に同一条件で更新される」という条項で、更新後の条件が不利になるにもかかわらず、その旨が十分に説明されていない場合。
このような「何もしなければ契約成立・継続」とみなす条項は、形式的には「消費者の不作為をもって新たな契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項」に該当し、消費者契約法第10条の第1要件を満たす可能性があります。
ただし、これが直ちに無効になるわけではありません。あくまで第10条の第2要件である「信義則に反して消費者の利益を一方的に害するかどうか」も合わせて判断されます。例えば、自動更新が消費者にとって便利な場合や、解約が容易で不利益が小さいと判断されれば、無効とならないこともあります。
消費者契約法第10条に該当するケース
私たちの日常生活の中で、どのような契約や条項が消費者契約法第10条の対象となり得るのか、具体的な場面を挙げて解説します。
ECサイトの定期購入(サブスクリプション)
近年トラブルが増えているのが、ECサイトでの化粧品や健康食品などの「定期購入」契約です。初回はお試し価格で安くても、実際には数カ月の継続購入が条件になっていたり、解約手続きが非常に分かりにくかったりするケースがあります。
このような場合、例えば以下のような条項は消費者契約法第10条によって無効と判断される可能性があります。
- 継続契約であることや総支払額、解約条件などが、申込時に小さく書かれているだけで消費者が認識しづらい。
- 解約方法が電話のみで、その電話がなかなかつながらない。
事業者は、契約期間、支払総額、解約方法などを消費者が明確に理解できるように表示する義務があります。
賃貸住宅の契約
賃貸アパートやマンションの契約書にも、消費者契約法第10条が関わってくることがあります。特に注意したいのが以下のような特約です。
- 高額な更新料:更新料の金額が賃料や契約期間に照らして不当に高額な場合。
- 不当な敷引特約:敷金から差し引かれる「敷引金」が、通常の使用による損耗の補修費用を大幅に超えて高額な場合。
- 借主に一方的に不利な原状回復義務:通常の使用による汚れや傷(経年劣化)まで借主の負担とするような特約。
これらの特約は、内容によっては消費者の義務を不当に加重するものとして、第10条により無効となる可能性があります。
その他のサービス契約
上記以外にも、社会人が利用するさまざまなサービスで第10条が問題となることがあります。
- フィットネスクラブやエステティックサロン:「いかなる理由があっても中途解約・返金は認めない」といった一方的な条項。
- 学習塾や資格スクール:高額な解約金を定める条項や、受講していない期間の授業料返還を一切認めない条項。
- スマートフォンの契約:解約条件が複雑で分かりにくい、あるいは不当に高額な違約金が設定されている場合。
契約書にサインする前には、特に解約条件や事業者の免責範囲、違約金に関する条項などを注意深く確認することが大切です。
消費者契約法第10条により契約条項が無効となるケース
実際にどのような契約条項が消費者契約法第10条によって無効と判断される可能性があるのか、具体的な事例の類型を基に解説します。
事業者の責任を不当に免除・軽減する条項
事業者が自らの責任を不当に免除したり、軽減したりする条項は、消費者契約法第10条によって無効とされる典型的な例です。例えば、以下のような条項が該当します。
- 「当施設内で発生した盗難や事故について、当社は一切責任を負いません」といった、事業者の責任を全面的に免除する条項。
- 事業者の過失によって損害が生じた場合でも、賠償額に不当に低い上限を設ける条項。
消費者契約法第8条では、事業者の故意または重大な過失による損害賠償責任を免除する条項は無効とされていますが、軽過失によるものであっても、その免責の範囲や内容が消費者にとって一方的に不利益な場合は、第10条によって無効となることがあります。
法外なキャンセル料・違約金を定める条項
消費者が契約を途中で解約した場合に支払うキャンセル料や、契約違反があった場合の違約金が、社会通念上相当とされる範囲を著しく超えて高額である場合、その条項の全部または一部が消費者契約法第10条により無効となることがあります。例えば、以下のようなケースです。
- 結婚式場のキャンセル料が、解約時期に関わらず一律で契約金額の大部分を占めるような高額な設定になっている。
- 学習塾の中途解約で、まだ受講していない期間の授業料全額を違約金として請求される。
- 賃貸契約で、家賃の支払いが1日遅れただけで、法外な遅延損害金を請求される条項。
消費者契約法第9条では、事業者に生じる平均的な損害額を超えるキャンセル料や、年14.6%を超える遅延損害金は無効とされていますが、これに該当しない場合でも、全体として消費者にとって著しく不利益な場合は第10条で無効と判断されることがあります。
消費者の正当な権利を不当に制限する条項
消費者が法律上または契約上有しているはずの正当な権利(例:契約解除権、損害賠償請求権など)の行使を不当に制限したり、消費者に過大な義務を課したりする条項も、消費者契約法第10条によって無効とされる可能性があります。例えば、以下のような条項です。
- 商品の欠陥(契約不適合)について、事業者に通知する期間を不当に短く設定する条項。
- 契約解除の手続きを極端に複雑にし、事実上解約を困難にする条項。
- 事業者はいつでも一方的に契約内容を変更できるとする条項。
- 賃貸契約で、賃借人が破産した場合などに、賃料滞納がなくても即座に契約解除できるとする条項。
これらの条項は、消費者と事業者の間の力の差を利用して、消費者に一方的な不利益を強いるものと評価される可能性があります。
契約書に細かく書かれた条項の中には、一見すると問題なさそうでも、実は消費者の権利を不当に制限しているものが隠れていることがあります。疑問に思ったら、安易にサインせず、内容をしっかり確認することが重要です。
消費者契約法第10条は、消費者を守るための法律です
消費者契約法第10条は、情報や交渉力で不利な立場に置かれやすい私たち消費者を、一方的に不利な契約条項から守るための重要な法律です。ECサイトの定期購入、賃貸契約、各種サービス契約など、私たちの身の回りには、この消費者契約法第10条が適用される可能性のある契約が数多く存在します。
特に、事業者の責任を不当に免除する条項、法外なキャンセル料を定める条項、消費者の正当な権利を不当に制限する条項などは、この第10条によって無効と判断される契約は多数あります。また、近年の法改正では、消費者が「何もしないこと」を理由に不利な契約を結ばされることを防ぐための規定も強化されています。
もし、不当な扱いをされた場合でも、消費者契約法第10条で保護される可能性があるので、諦めずに弁護士や消費者センターに相談してみることをおすすめします。
また、事業者側から考えれば、たとえ自社に有利な契約条項を規定しても、消費者契約法第10条に基づいて無効となり、責任を負わなければならない可能性があるので、契約書や約款にどのようなリスクがあるかを弁護士と相談しておくべきでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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