- 更新日 : 2022年2月9日
宅建業法改正における電子契約の推進とは?不動産取引での重要ポイント
2022年5月、宅建業法改正により不動産取引(賃貸・売買)での電子契約が可能になる見込みです。改正法の施行直前で慌てないために、電子契約に向けた社内環境を早めに整えておくことをおすすめします。今回は、直前に迫った宅建業法改正のポイントと不動産事業者が行うべき対策について解説します。
目次
電子契約とは?
電子契約とは、電子化した契約書に電子署名などを用いて締結する契約形態のことです。
一般的な商取引における契約は、特別なケースを除いて口頭のみでも成立します(2022年1月時点で、不動産取引においては宅建業法第35条・37条によって重要事項説明書などの書面交付が必須です)。
口頭のみで契約が成立するとはいえ、実際は書面を作成して当事者の署名・捺印をするケースがほとんどでしょう。
書面による契約書の作成には、当事者が契約内容に合意したことを確認する、後にトラブルが生じた際の証拠として残すといった意味合いがあります。
電子契約への移行で気になるのは、トラブルが生じた際に「電子契約が証拠として書面による署名・捺印と同等の法的効力を持つのか」という点でしょう。その点については、電子署名法第3条の要件を満たしているかどうかがポイントになります。
詳細は以下の記事で解説しているので、こちらも併せてご覧ください。
2022年5月までに施行が予定されている改正宅建業法によって、不動産取引(賃貸・売買)においても電子契約での手続きが可能になる見込みです。宅建業法の改正でどのような変化があるのか、不動産事業者として何をしておくべきなのかを、次章以降で解説します。
2022年5月までに完了!宅建業法改正におけるポイント
ご存じの方も多いと思いますが、宅建業法は突然改正されるわけではありません。IT重説や電子書面交付など、数年前からの流れを受けてやっと改正されるのです。
宅建業法改正までの流れは少々複雑なので、時系列で確認しておきましょう。
【宅建業法改正までの流れ】
2015年8月~ | IT重説 社会実験開始 | 賃貸 売買(法人) |
2017年10月~ | IT重説 本格運用開始 | 賃貸 |
2019年10月~ | IT重説 社会実験開始 | 売買(個人) |
電子書面交付 社会実験開始 | 賃貸 | |
2021年3月~ | 電子書面交付 社会実験開始 | 売買 |
IT重説 本格運用開始 | ||
2021年5月 | デジタル改革関連法案 公布・成立 | |
~2022年5月 | 宅建業法改正・施行予定 |
※IT重説:相手方に書類を郵送した上で重要事項説明をオンラインで行う方法
※電子書面交付:書類を電子データで相手方に送付し、オンラインで重要事項説明を行う方法
2022年5月までに施行が予定されている宅建業法改正のポイントは、以下の2つです。
- ポイント①重要事項説明書と契約書を電子文書で渡せるようになる
- ポイント②宅地建物取引士の押印が不要になる
ここでは、電子契約に関する改正が行われる背景と、改正のポイントについて解説します。
電子契約に関する宅建業法改正の背景
このたび、宅建業法が改正される理由は、現行の法律と不動産取引の実態や顧客のニーズにギャップが生じているためです。
これまで宅建業者と顧客の間で重要事項説明・契約締結を行う際は、宅地建物取引士による記名押印済みの書面交付が義務付けられていました(宅地建物取引業法 第35条・37条)。そのため、不動産取引における重要事項説明や契約締結は原則対面で行われます。
しかし、近年はポータルサイトや各不動産会社の公式サイトが充実していることもあり、オンライン対応のニーズが高まっています。
また、コロナ禍の影響でタブレットやスマートフォンといった電子機器を利用して内見を行う人も増えており、契約締結まで一度も不動産会社を訪問しないケースも増えています。
不動産業界だけでなく、行政手続きなど各領域においても書面の電子化が進むなど、消費者のニーズや時代の流れが変わっています。このような背景があり、宅建業法の書面規定が改正されることになったのです。
ポイント① 重要事項説明書を電子文書で渡せるようになる
宅建業法改正により、重要事項説明書を電子文書で交付することが可能になります。
現在本格的に運用されているIT重説は、オンラインによる手続きではあるものの、重要事項説明書などの各種書類は相手方へ事前に郵送することになっています。つまり、顧客の手元に紙媒体の書類を届けた上で重要事項説明を行うのです。
宅建業法が改正されれば、IT重説で郵送が義務付けられていた書類についても電子化される見込みです。電子化される予定の文書は、以下のとおりです。
【電子化される予定の文書】
- 重要事項説明書
- 賃貸借契約書
- 定期借地権設定契約書
- 定期建物賃貸借契約書
- 媒介契約書
- 不動産売買契約書
ポイント➁ 宅地建物取引士の押印が不要になる
現行の宅建業法では、顧客に交付する重要事項説明書などに宅地建物取引士が記名・押印することが義務付けられています(宅地建物取引業法第35条・37条)。
改正後は書面が電子化されるため、押印が不要となる予定です。2022年1月時点で社会実験中の電子書面交付では、電子署名サービスを活用した不動産取引が行われています。
電子署名とは、PDFなどで作成した文書に電子的な署名を施すことです。不動産取引で電子署名を用いる場合は、以下の要件を満たすサービスを利用する必要があります。
【電子署名サービスの要件】
- 顧客が電子署名を施すファイルへの記録を出力して書面を作成できる
- 重要事項説明書などに改ざんが行われていないか確認できる
- 重要事項説明書を作成した宅地建物取引士本人が電子署名を施したと検証できる
電子署名サービスを契約する際は、これらの要件を満たしていることを必ず確認しましょう。
改正に合わせて不動産会社ができること
宅建業法の改正について確認してきましたが、不動産事業者として実際に何をしておけばよいのか気になる方もいるでしょう。ここでは、宅建業法改正までに不動産事業者がとるべき対策について解説します。
ワークフローの見直し
電子契約による不動産取引は、対面での契約締結とはフローが異なります。不動産取引における電子契約の大まかな流れは、以下のとおりです。
【電子契約の流れ】
STEP1:重要事項説明書などの電子ファイルを作成する
STEP2:電子署名を行う
STEP3:相手方へ電子署名済みのファイルを送付する
STEP4:電子書面を交付した上でIT重説を実施する
上記のように、すべてのフローをオンラインで完結するためには、電子契約に対応した仕組みが必要です。
宅建業法改正を機にワークフローを見直し、どのように対応するべきか検討しましょう。電子署名を利用する場合は、以下で紹介するクラウド契約サービスなどの導入を要することがあります。電子署名サービスを提供している各事業者についても、併せて確認しておくとよいでしょう。
クラウド契約サービスの導入
前述のとおり、電子契約に対応するためには電子ファイルを作成する環境や、電子署名ができる仕組みを整える必要があります。しかし、大がかりな機器の購入や高額な初期費用がかかるサービスの導入は難しいケースもあるでしょう。
「コストを抑えたい」「手軽に電子署名サービスを導入したい」といった企業には、クラウド契約サービスの導入をおすすめします。
クラウド契約サービスは、オンライン上で作成した文書の管理や、契約に付随する業務をクラウド上でできるサービスの総称です。クラウド上での契約締結となるので、専用ソフトなどを購入する必要はありません。コスト面や手軽さを重視したい方は、ぜひ検討してください。
情報管理の見直し
オンラインによる重要事項説明は、テレビ会議などのオンラインサービスを利用するため録画・録音が可能であり、高額取引で起こりやすい「言った」「言わない」のトラブル防止に役立ちます。
ただし、不動産取引では個人情報を取り扱うことがあるため、録画・録音について相手方の承諾を得ておいたほうがよいでしょう。録画・録音で得た情報は、個人情報として適切に管理しなければなりません。トラブルを防止するためにも、個人情報保護法を踏まえた文書を用意しておくこと、また適切な情報管理体制を整えておくことが大切です。
社内でのシミュレーション
オンラインによる重要事項説明では、オンラインならではのトラブルが想定されます。
例えば、通信環境によって説明が途切れる、映像を確認しにくいといったトラブルが生じた場合、説明を中断せざるを得ないケースもあるでしょう。顧客側の通信環境に問題がある可能性もありますが、まずは社内で通信環境を確認しておくことをおすすめします。
また、オンラインでは対面よりも顧客の理解度が低下するおそれもあります。特に売買取引においては図面などの資料が多くなる傾向があるため、対面の場合よりも顧客への配慮が必要です。事前に社内でシミュレーションしておくと、顧客に配慮した説明を行えるでしょう。
契約書類等の修正
「記名」「押印」など、対面での書面交付を前提としている文言については、修正が必要になることがあります。各種書類を見直し、適宜修正しておきましょう。
電子契約を用いた不動産取引ならマネーフォワード クラウド契約
2022年5月までに施行が予定されている改正宅建業法によって、不動産取引が大きく変わろうとしています。不動産取引においても、今後は電子契約が一般的になるでしょう。
世の中の流れに対応できるように、ワークフローの見直しやシステムの導入といった社内整備を今のうちに検討してみてはいかがでしょうか。
マネーフォワード クラウド契約は、宅建業法改正による電子契約にも対応しています。クラウド上で契約を締結できるため面倒な手続きが不要で、高額な初期費用もかけることなく電子契約を導入できます。
事業規模に合わせたプランを用意しているので、中小規模から大規模の事業者までおすすめできるサービスです。
よくある質問
宅建業法改正によって電子契約が進められる背景について教えてください
オンラインでの契約手続きの需要拡大により、現行の法律と不動産取引の実態にギャップが生じているためです。顧客のニーズに対応するために、早めに対策を講じておくことをおすすめします。詳しくはこちらをご覧ください。
宅建業法改正による電子契約に関する変更のポイントは何ですか?
改正による電子契約に関する変更のポイントは、「重要事項説明書・契約書を電子文書で渡せるようになること」と「宅地建物取引士の押印が不要になること」です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
職務著作とは?定義と要件について解説!
会社(法人)が提供するプログラムやアプリ、冊子などの著作権を、その会社が「職務著作(法人著作)」として有していることがあります。 ここでは職務著作の定義や必要性、ある著作物が職務著作となるための要件、職務著作における注意点などについて説明し…
詳しくみる2022年6月施行の公益通報者保護法改正とは?事業者がおさえるべきポイントを紹介
2022年6月に改正公益通報者保護法が施行されました。改正を受けて、事業者には従事者の指定や通報に対応する体制の整備など、対応が求められます。違反により罰則が科せられる可能性もあるため、改正のポイントについて正しく理解しましょう。今回は、公…
詳しくみる2023年に施行予定の法改正を紹介!企業法務への影響は?
日本には多数の法律が制定されており、毎年のように何かしらの改正法が施行されています。企業の方がそのすべてを追っていく必要はありませんが、少なくとも企業法務に関わる法律については知識を備えておくことが望ましいでしょう。 そこで当記事では202…
詳しくみる法定代理人とは?権限から任意代理人との違いまで解説
法定代理人とは、本人の意思によらずに法律に規定された法定代理権に基づき本人を代理する者です。これは、契約を締結する際に関わってくる大事な制度の一つです。今回は、法定代理人の権限や任意代理との違いについてわかりやすくご説明します。 法定代理人…
詳しくみる2021年4月施行の高年齢者雇用安定法改正とは?概要や事業者の対応を解説
高年齢者雇用安定法とは、高齢者が活躍できる環境整備を図る法律です。少子高齢化の進行と高齢人材ニーズの高まりに伴い、2021年4月に改正されました。改正により、70歳までの就業機会の確保が努力義務となりました。 この記事では、高年齢者雇用安定…
詳しくみる改正障害者総合支援法とは?改正による事業者への影響まで解説
障害者総合支援法等の障害者支援関連の法律が、2022年4月、厚生労働省により改正が決定され、2024年4月(一部は2023年4月ないし10月)から施行されます。障害者総合支援法とはどのような内容の法律か、改正によって変わるポイントをまとめま…
詳しくみる