• 作成日 : 2025年5月7日

交通事故(物損)の示談書とは?作り方や例文・テンプレートを紹介

物損事故における示談書は、交通事故による物的損害の賠償についての合意を記録するための書面です。交通事故において和解できたときに作成されるもので、人身事故でも物損事故でも必要性に変わりはありません。

当記事ではテンプレートも用意しておりますので、具体例とともに示談書の適切な書き方のポイントをチェックしていただければと思います。

交通事故(物損)の示談書とは?

交通事故の示談書は、交通事故によって生じた損害に関して話し合われた当事者間の合意内容を文書化したものです。

この文書には、事故の概要や損害の内容、賠償金額、支払方法など協議で取り決めた項目が記載されます。記載内容の具体例は、「どのような物的損害が生じたのか」「どの程度の被害額なのか」「いくらの賠償金がやり取りされるのか」などです。

この示談書の主な目的は、被害者の請求権の内容を確定させることと、将来にわたり当該事故に関して新たな請求や紛争が生じないようにすることにあります。

後になって「やっぱり○○の修理も必要だから、その料金分も賠償金を支払って。」と請求することができてしまっては、いつまでも加害者側は損害賠償請求のリスクを負い続けることになります。そのため、被害者と加害者、双方にとって重要な文書といえるでしょう。

物損事故で示談書を作成すべきケース

示談書の作成は当事者の任意で行います。作成義務はなく、作成方法に法律上のルールもありません。当事者の誰が作成しても違法ではないですが、任意保険に加入している場合は保険会社が作成することが一般的です。

ただ、実務上は示談書の作成が必須と考えるべきでしょう。特に以下のケースでは、示談書の必要性がより高いといえます。

  • 高額な損害が発生した場合
    修理費用や休業損害が高額になるケースでは、紛争が蒸し返されることのリスクが大きいため、合意内容を書面で残すことが望ましい。
  • 事業用車両の事故
    企業の車両が関わる事故では、会計処理や保険手続きの関係からも、示談内容を明確に文書化しておくことが望ましい。
  • 損害の項目が複数ある場合
    休業損害や代車費用など多様な種類の損害が生じている場合、内訳や算定根拠などを明確にするためにも示談書が必要。
  • 保険会社が関与しない場合
    相手方が任意保険に未加入の場合はトラブルになるリスクが大きいため、示談書で合意内容を記録にしておく。

交通事故(物損)の示談合意を行う流れ

物損事故における示談合意は、一般的に次に示す流れで進行します。

  1. 当事者間で連絡先の交換や警察への届出を行う
    交通事故直後の対応。可能なら、事故現場の写真撮影や目撃者の確保も行う。事故状況の正確な記録があると、後の示談交渉も進めやすくなる。
  2. 損害額の算定
    業者に依頼するなどして、修理費用などの見積書を取得する。場合によっては、代車費用や休業損害などの算定も行う。
  3. 当事者間または保険会社を通じた示談交渉
    過失割合についても協議し、具体的な賠償金の金額を定めていく。企業の従業員が業務中に起こった事故の場合は、法務担当も加わる。
  4. 示談書の作成
    合意に至ったら示談書を作成する。まずは示談書の原案を作成し、相手方に内容の確認を依頼。必要に応じて修正を重ね、最終的な合意内容を文書化する。相手方から示談書の提示を受けたときは、その内容で問題がないかをチェックする。

その後、示談の結果通りに賠償金のやり取りが行われれば、当該事案は終了です。なお、運転者が任意保険に加入しているときは保険会社が示談交渉などに関与することが多く、金銭の授受も保険会社を通じて行われます。

示談合意書(交通事故・物損)のひな形・テンプレート

交通事故(物損)による示談合意書をスムーズに作成するためには、ひな形(テンプレート)を利用するのが効果的です。契約書を1から作る必要がなくなり、契約手続きをスムーズに進められるでしょう。

ただし、ひな形はそのまま使うのではなく、内容を確認して案件ごとにカスタマイズしましょう。内容を簡単に変更できる、ワード形式のひな形を選ぶのがおすすめです。

マネーフォワード クラウドでは、契約書のひな形・テンプレートを無料でダウンロードいただけます。適宜加筆修正して活用してください。

物損事故における示談書の記載内容

物損事故が発生したときの示談書に記載すべき内容やその書き方の要点を、以下で解説していきます。

当事者や車両情報の特定

示談書は、契約書と同じように当事者の特定が欠かせません。

示談に関わった当事者の氏名(法人の場合は名称)と住所を明記する欄、署名欄と捺印欄も設けましょう。

冒頭にも以下のような前文を設けておくと、示談書の目的や当事者情報が整理できます。

○○(以下「甲」という。)と△△(以下「乙」という。)、は、本日、以下の内容で示談することに合意した。(以下「本合意」という。)

交通事故の場合は、車両情報も「甲所有の自動車(車両登録番号○○…)」などと特定しておきましょう。

交通事故の特定

どの事故に対する示談合意であるのかをはっきりさせるとともに、事故の態様についての認識を合致させるためにも、次のように事故状況を記載しましょう。

例文)

事故発生日時  令和〇年〇月〇日 午後〇時〇分ごろ
事故発生場所  東京都●●区●●1丁目〇番付近の交差点
事故の状況   乙の自動車が上記事故発生現場で信号右折する際、対向車線から走ってきた甲の自動車とぶつかった

損害内容

交通事故によってどのような被害が生じたのか、を明確にします。

例文)

第○条 甲と乙は、甲所有の自動車(車両登録番号○○…)につき、修理費用を金○○円とする損害、及び乙所有の自動車(車両登録番号△△…)につき、修理費用を金○○円とする損害が発生したことを、相互に確認した。

このように、具体的な被害額も記載しておくとよいです。

示談金とその支払方法

交通事故の場合、一方当事者に全責任があるケースもあれば、他方当事者にも一定の責任が生じるケースもあります。双方の過失の程度に基づいて「過失割合」を認定し、被害者側に少しでも過失が認められるのなら、その分請求額は少なくなることを覚えておきましょう。

交通事故における損害賠償請求では過失割合が大事な要素となりますので、示談書にも請求額に加えて過失割合も明示すべきです。

例文)

第○条 甲と乙は、本件事故の過失割合を、甲〇%、乙✕%とすることにつき合意した。
2 甲と乙は、前項の過失割合に基づき、本件事故における損害負担を、乙が甲に対して金〇円を支払う形の決済とすることに合意した。
3 乙は甲に対し、前条記載の金額を、令和〇年〇月末日限り、一括にて甲の指定する銀行口座に振込む形で支払う。振込手数料は乙が負担する。

例文の第3項にあるように、支払期日や支払方法も定めておきましょう。

清算条項

示談成立後、新たな物的損失が見つかる可能性もあります。その場合、紛争の蒸し返しが起こるおそれがありますので、それを防ぐために次のような清算条項を設けるとよいでしょう。

例文)

第○条 甲と乙は、本合意書に定めるほか、本件事故に関し、甲乙間に何らの債権債務のないことを相互に確認する。

これは、特に加害者側にとって重要な条項です。一方、被害者側は清算条項が設けられている場合、「請求額は本当に十分か」という視点で内容を精査する必要があります。

交通事故(物損)の示談書で確認したいこと

示談書にサインをするとその内容で確定となり、基本的に相手方の同意がなければやり直しはできなくなります。

以下に、被害者側・加害者側双方の立場から確認すべき重要なポイントを整理しましたので、サイン前に問題がないことをチェックしておきましょう。

被害者側

被害者としては、ご自身が受けた損害を適切に補償してもらうことが重要です。以下のポイントを特に注視してください。

被害者が確認すべきこと着目ポイント
示談金額と内訳修理費用や代車費用、その他の損害がすべて含まれているか、見積書や領収書などの根拠資料と金額が一致しているかを確認する。
清算条項の内容示談書に清算条項が含まれる場合、隠れた損傷がないことを慎重に調べる。「例外的に追加請求が認められる条件」を記載してもらうことも検討するとよい。
事故内容の正確性記載された事故日時、場所、状況が実際の事故内容と一致しているかをよく確認する。

加害者側

加害者としては、ご自身に過剰な負担や不利益が生じないように注意する必要があります。以下のポイントを特に注視してください。

加害者が確認すべきこと着目ポイント
示談金額の妥当性被害者から提示された修理費用などが妥当であるかを確認。見積書や領収書など根拠となる資料は必ず提示してもらい、不明瞭な点があれば質問する。事故前からあった傷など、事故との因果関係がないものまで含まれていないか注視する。
清算条項の記載清算条項を必ず含めるようにする。例外的な請求を認める留保条項を記載する場合でも、その範囲は最小限に留めてもらうよう交渉する。
支払条件と実現可能性示談金額の支払方法や期限が現実的か、極端に不利なものとなっていないかを確認。分割払いの場合は利息の大きさにも注意が必要。

公正証書を作成したほうがよいケース

「加害者が任意保険に未加入で、態度に不信感を覚えた場合」には、法的効力のある公正証書を作成するのがおすすめです。公正証書として作成するだけで支払いが保障されるわけではありませんが、強制執行がスムーズになるため回収しやすくなります。

そのほか、「示談金が高額または長期分割払いになる場合」にも、公正証書を作成したほうがよいでしょう。

途中で支払いが滞るリスクがありますので、公正証書を作って、手間と時間がかかる手続きを経ずに差し押さえが実行できるように備えておくと安心です。

交通事故(物損)の示談書の保管について

示談書は物損事故であるかどうかに関わらず、保管期間・保管方法が法令上指定されていません。ただし示談書に記載された履行義務が確実に完遂されるまでは、双方、大事に保管しておいた方がよいでしょう。分割払いとしたときは全額の支払いを終えるまで保管すべきです。

交通事故(物損)の示談書の電子化はできる?

書面で作成した示談書をスキャンし、PDF形式で電子化しても違法ではありません。電子契約により作成された契約書と同じように、効率的な管理が可能となるでしょう。ただし、電子化およびその保存には、改ざん防止措置などが講じられた安全な管理システムを利用すべきです。

なお、公正証書として作成された示談書に関しては、原本が公証役場で保管されます。公正証書の原本は書面で作成しなければならず、電子契約として作成することはできません。

合意内容は必ず示談書にまとめよう

示談書は、交通事故に関する当事者間の合意を明確化し、将来の紛争を防ぐための重要な書面といえます。物損事故は人身事故より被害額が少ない傾向にありますが、合意内容を書面化せず口約束で済ますのは危険です。

物損・人身にかかわらず、合意内容は必ず示談書としてまとめ、後日紛争が蒸し返されたとしても証拠として使える状態にしておきましょう。作成方法や提示された示談書のチェックに不安がある方は、弁護士に相談することをおすすめします。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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