- 作成日 : 2025年3月25日
【2025年4月】流通業務総合効率化法・貨物自動車運送事業法の改正で何が変わる?背景や義務をわかりやすく解説
令和7年4月に改正される流通業務総合効率化法・貨物自動車運送事業法により、荷主や物流事業者、軽トラック事業者に新たに努力義務が課されることになりました。本記事では、改正の経緯や事業者ごとの義務の内容について解説します。なお、流通業務総合効率化法は、今回の改正によって「物流の流通の効率化に関する法律」へと改称されました。
目次
流通業務総合効率化法と貨物自動車運送事業法の改正とは
今回の流通業務総合効率化法と貨物自動車運送事業法の改正の内容を説明する前に、まず改正がどうして行われたのか、いつから改正法が施行されるのかについて解説します。
背景は2024年問題や軽トラック運送業による事故の増加
物流は国民生活や経済にとって非常に重要な社会インフラです。2024年に働き方改革が適用され、自動車運転業務の時間外労働時間の年間の上限が960時間に制限されることにより運転業務の働き手不足が問題化しました。これがいわゆる2024年問題です。2024年問題によって生じた物流の停滞や輸送力不足を防止する必要性に対応するために、今回の流通業務総合効率化法と貨物自動車運送事業法の改正が行われました。
また、直近6年間で軽トラック運送業の死亡および重傷事故件数が倍増しており、安全性を図りつつ物流の持続的成長を図る必要性が生じていたことも改正の背景です。
目的は輸配送の効率化と安全対策の強化
今回の改正では、物流の効率化、商慣行の見直し、荷主および消費者の行動変容について、抜本的・総合的な対策を目的としています。そのため、改正内容は国と事業者が協力して国内の物流を支えるための環境を整備するものです。
また、軽トラック事業者に対し規制的措置を設け、事故防止や安全確保のための対策も強化しています。
改正法の公布日・施行日
今回の改正法は、令和6年5月15日に公布され、令和7年4月1日に施行されます。後述しますが、特定事業者についての一部の制度は令和8年度に施行されます。
改正法による義務事項(1)物流事業者・荷主に対する施策
今回の改正では、各事業者それぞれに対して新たな制度の義務付けや努力義務が定められています。ここでは、各事業者がどのような事業なのか、どういった努力義務が課されているか解説します。
物流事業者の努力義務
トラック、鉄道、湾岸運送、倉庫業者などが物流事業者と呼ばれます。これら物流事業者には物流効率化のために定められた取り組むべき措置について「その事業の実施又はその施設の管理に関し、これらに伴う運転者への負荷の低減その他の貨物自動車運送役務の持続可能な提供の確保に資する措置を講ずる」ということを内容とする努力義務が課されることになります。
取り組むべき措置の例は、積載効率の向上として地域における配送の共同化などで、国が判断基準を策定しており物流事業者はこの判断基準に基づいて対策に取り組みます。
荷主の努力義務
物流の発荷主と着荷主を合わせて荷主と呼びます。荷主についても、物流事業者と同じく取り組むべき措置に対する努力義務が課されています。具体的には、以下の通りです。
まず、「第一種荷主」(貨物自動車運送事業者と最初に運送契約を結ぶ事業者)は、貨物自動車運送事業者、または貨物利用運送事業者に貨物の運送を依頼する際に、以下のような努力義務が課されています。
- 運送にあたる運転者の「荷待ち時間の短縮」
- 「1回の運送で運ぶ貨物の重量を増やす」ことを目的として、あらかじめ定められた措置を講じるよう努めること
具体的な内容は、以下の通りです。
【物流の流通の効率化に関する法律第37条1項】
一 貨物の運送の委託の時から貨物を引き渡し、又は受け取るべき時までの間に、貨物自動車運送事業者等が他の貨物との積合せその他の措置により、その雇用する運転者一人当たりの一回の運送ごとの貨物の重量を増加させることができるよう、貨物の受渡しを行う日及び時刻又は時間帯を決定すること。
二 貨物の受渡しを行う日及び時刻又は時間帯を決定するに当たっては、停留場所の数その他の条件により定まる荷役をすることができる車両台数を上回り一時に多数の貨物自動車が集貨又は配達を行うべき場所に到着しないようにすること。
三 運転者に荷役等を行わせる場合にあっては、パレットその他の荷役の効率化に資する輸送用器具(貨物自動車に積み込むものに限る。第三項において同じ。)を運転者が利用できるようにする措置その他の運転者の荷役等を省力化する措置
また「第二種荷主」(自らが運送を依頼していない貨物を、運転者から受け取る立場の荷主)は、以下のような場合に努力義務が課されます。
- 貨物を運転者から受け取るとき
- 他の人に代わりに運転者から受け取らせるとき
- 運転者に貨物を引き渡すとき
- 他の人に代わって運転者に引き渡させるとき
このような場面では、運送する運転者の「荷待ち時間の短縮」や「1回の運送で運ぶ貨物の重量を増やす」ことを目的として、あらかじめ定められた措置を講じるよう努めることが求められています。具体的な内容は、以下の通りです。
【物流の流通の効率化に関する法律第37条4項】
一 貨物の受渡しを行う日及び時刻又は時間帯を運転者に指示するに当たっては、停留場所の数その他の条件により定まる荷役をすることができる車両台数を上回り一時に多数の貨物自動車が集貨又は配達を行うべき場所に到着しないようにすること。
二 第一種荷主が措置を円滑に実施するため貨物の受渡しを行う日及び時刻又は時間帯について協議したい旨を申し出た場合にあっては、これに応じて、必要な協力を行うこと。
三 運転者に荷役等を行わせる場合であり、かつ、運転者に荷役等の方法を指示することができる場合にあっては、貨物の品質又は数量がこれらについて定める契約の内容に適合するかどうかの検査の効率的な実施その他の運転者の荷役等を省力化する措置
連鎖化事業者の努力義務
フランチャイズチェーンの本部の事業者を連鎖化事業者と呼びます。連鎖化事業者に対しても、取り組むべき措置に対する努力義務が課されています。
2026年度から特定事業者に課せられる義務
荷主や物流事業者のうち一定規模以上のもの(例えば倉庫業者で貨物の保管量が70万トン以上)は特定事業者とされ、特定事業者に対しては中長期計画の作成や定期報告等の義務付けがされています。
荷主の特定事業者には、物流事業者への規制に加えて、物流統括管理者の選任も義務付けられています。物流統括管理者は中長期計画や定期報告等の作成のほか、事業運営方針の作成や事業管理体制の整備、事業計画の作成、実施など事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位です。
改正法による義務事項(2)トラック事業者間の取引に対する施策
改正貨物自動車運送事業法では、トラック事業者間の取引適正化を図るため、契約手続きの明確化や管理体制の整備に関する義務・努力義務が新たに定められました。ここから、それぞれの内容を確認しておきましょう。
トラック事業の取引についての義務
荷主・トラック事業者・利用運送事業者に対し、運送契約の締結等に際して、提供する役務の内容やその対価(附帯業務料、燃料サーチャージ等を含む。)等について記載した書面による交付等の義務付けも定められています(貨物自動車運送事業法24条2項)。
元請事業者の義務
元請業者には、実運送体制管理簿の作成とその1年間の保存が義務付けられています(貨物自動車運送事業法24条の5)。実運送体制管理簿の記載事項は、①商号又は名称、②実運送を行う貨物の内容及び区間、③実運送時事業者の請負階層です。
また、これに付随して、各事業者には上記の実運送体制管理簿の作成に必要な情報の通知が義務付けられています。
元請事業者の努力義務
元請事業者に対しては、利用運送を行うときに委託先への発注適正化(健全化措置)を講ずることが努力義務とされています(貨物自動車運送事業法24条1項)。
健全化措置の内容は、以下のとおりです。
- 利用する運送に要する費用の概算額を把握して、その概算額を勘案して利用の申込みをすること
- 荷主が提示する運賃や料金が、①の概算額を下回る場合、荷主に対し交渉の申し出をすること、③再委託を行うに際して再々委託の制限等の条件を付すこと
一定規模以上の下請発注を行う元請事業者の義務
一定規模(前年度の利用運送量)が100万トン以上の事業者に対しては、健全化措置に関して運送利用管理規程の作成と、運送利用管理者の選任および国土交通大臣への届出が義務付けられています(貨物自動車運送事業法24条の2)。
運送利用管理規程の内容は、健全化措置の内容や実施のための事業の運営方針、管理体制、運送利用管理者の選任に関する事項です。
運送利用管理者の職務には、健全化措置の事業の運営の方針を決定して、その実施および管理体制を整備すること、および実運送管理簿を作成する場合の作成事務を監督することなどが挙げられます。
改正法による義務事項(3) 軽トラック事業者に対する施策
近年、重大事故が増加している軽トラック事業者に対する規制には、法令等の知識の担保のため、管理者の選任と講習の受講が義務付けられます(貨物自動車運送事業法36条の2)。
また、改正後は国土交通大臣への事故報告も軽トラック事業者の義務です。国土交通省のホームページでは、軽トラック事業者にかかる事故報告と、安全確保命令に関する情報などが追加される予定です。
改正法の努力義務とは?罰則はある?
これまで解説してきた改正法での努力義務は、怠った場合にも罰則規定はありません。もっとも一切のペナルティがないというわけではなく、努力義務の履行を担保する方法は、取り組むべき措置の取組状況について国が各判断基準に基づいて指導や助言、調査や公表の実施です。そのため、改正法に従わない場合、その事実が公になる可能性があります。
特定事業者に対する義務付けに対する実施状況が不十分な場合、より強いペナルティとして、国から勧告や命令が出されます。
改正法に対応するために
今回の改正は、努力義務が中心ですが流通事業を行う企業に対する規制がされています。もっとも、各事業者がこれらの規制に基づいて環境を整えることで、流通業界全体が効率化して業務が円滑に進むことや流通業界の安全が図られることが期待されます。
事業ごとにどのような制度を作る必要があるのか、よく確認して法改正に対応していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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