- 更新日 : 2025年4月30日
宅地建物取引業法(宅建業法)とは?改正内容や注意点などをわかりやすく解説
宅地建物取引業法とは、不動産取引を規制して不正行為を防止し、購入者の利益の保護を目的とした法律です。免許の取得の義務化や不動産広告の規制、報酬に関する規制などが記載されています。
本記事では、企業の法務担当者の方に向けて、宅地建物取引業法の概要や考え方、規制内容、事業者が注意するべきポイントをわかりやすく解説します。
目次
宅地建物取引業法(宅建業法)とは
宅地建物取引業法は、宅地や建物の取引に関する法律です。正式名称は「宅地建物取引業法」ですが、略称として「宅建業法」と呼ばれています。
宅地建物取引業法は、広告や重要事項の隠蔽、契約内容の不明瞭化、価格操作や詐欺的な取引など、不動産業者による不正行為を防止し、購入者の利益を守ることを目的としています。
宅地建物取引業法(宅建業法)の対象
宅地建物取引業法第2条第2項では、適用対象となる宅建業者について定義されています。具体的には、宅地または建物の売買や交換、代理業務、媒介業務を「業として」実施する者が規制の対象です。
宅建業者に該当する業者
宅建業者に該当する業者は、宅地または建物に関する取引を「業として」実施する者です。宅建業を営むためには、都道府県知事または国土交通大臣から免許を受けなければなりません。
具体的には、次のような取引が宅建業に該当します。
自ら取引
自分の土地や建物を売買・交換する行為です。これを業として継続的に行う場合、宅建業に該当します。
代理で取引
他人の代わりに売買、交換、賃貸の契約を締結する行為です。AさんがBさんに「私の代わりに契約してきて」と依頼し、Bさんが契約を締結するケースがこれにあたります。
取引を媒介
他人同士の売買や交換、貸借を間に立って仲介する行為です。土地や建物の売買契約の媒介を業とする不動産仲介業者や、賃貸物件の紹介業務を行う委託業者が該当します。
宅建業者に該当しない業者
宅建業者に該当しない業者は、「宅建業にあたる取引」を実施していない者です。例えば、次のような取引は宅建業に該当しません。
不動産賃貸業
自分の土地や建物を人に貸して、家賃収入を得る業種です。あくまで「自分の物件を貸すだけ」のため、宅建業にはあたりません。
建築業
建築工事を請け負う業種です。土地や建物の売買や仲介をしているわけではないので、これも宅建業には該当しません。
不動産管理業
ビルやマンションなどの管理業務を行う業者です。契約更新の事務や家賃の徴収業務のみを行う事業者については、宅建業法適用対象外とされています。
宅地建物取引業法(宅建業法)の規制内容
宅地建物取引業法は、以下のような内容が規定されています。
- 免許制度
- 不動産広告の規制
- 報酬額の上限
- 宅地建物取引士の設置義務
免許制度
宅地建物取引業を営むには、国土交通大臣または都道府県知事の免許を取得する必要があります。これは、不動産取引における消費者保護を目的とし、免許制を通じて適正な業者管理を行うための制度です。
- 国土交通大臣の免許
複数の都道府県にまたがる事業を行う場合に必要 - 都道府県知事の免許
1つの都道府県内でのみ事業を行う場合に必要
また、宅建業者が営業保証金を供託することで、消費者が損害を受けた場合に一定の補償を受けられる仕組みが整備されています。
不動産広告
不動産広告においては、建物の所在地や規模、性能など、事実と著しく異なる表示をしたり、過度に有利であることをアピールしたりする表示が禁止されています。誇大広告を規制するための規定です。
宅建業者が行う不動産広告には、誤解を招く表現や誇大広告が禁止されています。
報酬額の上限
宅建業者が受け取れる報酬額(仲介手数料)には、上限が定められています。この規定により、宅建業者が不当に高額な報酬を請求することを防ぎ、消費者の利益を守る仕組みとなっています。
売買代金 | 報酬額の上限 |
---|---|
売買代金の200万円以下の金額 | 売買代金×5.5% |
売買代金が200万円超400万円以下の金額 | 売買代金×4.4% |
売買代金が400万円超の金額 | 売買代金×3.3% |
参考:国土交通省 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額
宅地建物取引士の設置義務
宅建業者は、事務所ごとに5人に1人以上の割合で宅地建物取引士(宅建士)を設置する義務があります。宅建士は、不動産取引の専門家として、重要事項説明(35条書面)の交付と説明、契約書(37条書面)への記名押印などを担当します。取引の相手方である買主や借主に対して、対象物件の権利関係や法的制限、取引条件などの重要事項を適切に説明しなければなりません。
2022年5月の宅建業法の改正内容
宅地建物取引業法は、2022年5月に改正されました。背景には、デジタル化の進歩やニーズの多様化への対応が挙げられます。また、取引の効率化と透明性の向上を目的としています。
具体的な改正内容として、書面の押印が廃止され、電磁的方法を用いた書面交付が認められました。これにより、従来の紙媒体に加え、USBメモリや電子メール、Webサイトからのダウンロードなど、さまざまな方法で重要な書類の授受ができるようになっています。
押印廃止
押印が不要になった書類は、「重要事項説明書(35条書面)」と「契約書(37条書面)」です。これまでは不動産取引において、こうした重要な書類には「印鑑(はんこ)」を押すことが当然とされてきました。しかし2022年5月の宅地建物取引業法の改正により、宅建業者が交付するこれらの書類については押印が不要となりました。
「重要事項説明書(35条書面)」は、不動産の売買や賃貸契約を結ぶ前に、物件の状況や取引条件などを買主や借主に対して丁寧に説明するための書類です。一方、「契約書(37条書面)」は、売買契約や賃貸借契約を正式に結ぶ際に、その契約内容が明確に記載されたものです。
従来は、これらの書類に売主・買主、貸主・借主、仲介業者などの署名と押印が必要でしたが、改正後は押印が義務ではなくなりました。さらに、署名や記名についても、電子的な方法による対応が認められるようになり、手続のデジタル化が進んでいます。これにより、不動産取引がよりスムーズで効率的に行えるようになりました。
電磁的方法による書面交付
電磁的方法による書面交付が可能になったのは、「宅地建物売買等媒介契約書」や「重要事項説明書(35条書面)」「契約書(37条書面)」などです。
もともと宅地建物取引業法では「書面で交付すること」が義務付けられていたため、PDFなどの電子データで書類を送ることは認められていませんでした。
しかし、社会全体でデジタル化が進む中、法律のあり方も見直されることになり、2022年5月に法改正が行われました。それにより、相手の承諾があれば、メールやクラウドサービスを使ってこれらの書類を電子的に交付することが可能になりました。
この改正によって、不動産会社と顧客が対面で会わなくても、オンライン上で契約手続きを完結できるようになり、時間や場所にとらわれない柔軟な対応が可能となっています。
ただし注意点として、電子交付を行う際は必ず相手の事前の承諾が必要です。承諾を得ずに一方的にデータを送っても、正式な交付とは認められません。
また、例外として「事業用定期借地権」の契約では、引き続き公正証書による紙の手続が必要となるため、この点にも留意が必要です。
宅地建物取引業法に違反した場合の罰則やリスク
宅地建物取引業法に違反した場合には、「監督処分」と呼ばれる行政からの処分や、刑事罰、さらには損害賠償といった民事責任まで問われる可能性があります。
そして、この監督処分には「宅建業者」向けのものと「宅建士」向けのものがあり、それぞれ内容や手続が異なります。
宅建業者に対する監督処分
宅建業者に対する監督処分として、処分が軽い順に「指示処分」「業務停止処分」「免許取消処分」の3つがあります。
「指示処分」は、宅地建物取引業法の規定に違反した場合や、関係者に損害を与えた場合などに、国土交通大臣または都道府県知事が宅建業者に対して必要な指示をすることができます。
「業務停止処分」は、指示処分に違反した場合などに、国土交通大臣または都道府県知事が宅建業者に対して、1年以内の期間を定めてその業務の全部または一部の停止を求めることができます。
「免許取消処分」では、不正の手段で免許を受けた場合や、宅地建物取引業法の規定違反、暴力系の犯罪、背任罪により罰金の刑に処せられた場合などに、国土交通大臣または都道府県知事が宅建業者の免許を取り消さなくてはなりません。
宅地建物取引士に対する監督処分
宅地建物取引士(宅建士)に対する監督処分としては、処分が軽い順に「指示処分」「事務禁止処分」「登録消除処分」の3つがあります。
「指示処分」は、2つ以上の事務所で専任の宅建士であると表示させた場合や、他人に名義を貸した場合などに、都道府県知事が宅建士に対して必要な指示をすることができます。
「事務禁止処分」は、指示処分に従わない場合などに、都道府県知事が宅建士に対して1年以内の期間を定めて、宅建士としてすべき事務の全部または一部の禁止を命令することができます。
「登録消除処分」では、事務禁止処分に違反した場合や宅建士登録の失格事由に該当した場合などに、都道府県知事が宅建士の登録を消除しなければなりません。
監督処分の手続き
監督処分は、違反行為があったからといってすぐに実施されるわけではありません。国土交通大臣または都道府県知事は、公開の聴聞を経て、事実確認を行った上で処分を決定します。
監督処分の手続は次の順で行われます。
- 不正な行為
- 聴聞の通知・公示
- 聴聞
- 処分
- 公告
公開の聴聞では、宅建業者や宅建士には「弁明の機会」も与えられ、自分の立場や考えを説明することができます。つまり、処分が不当に行われないように、一定の手続が法律で定められているのです。
なお、業務停止処分や免許取消処分を受けた宅建業者は公告によって公開されます。
罰則
宅地建物取引業法に違反した場合、監督処分だけでなく「罰金刑」や「懲役刑」、宅建士に対する罰則としては「過料」が処せられます。
例えば、無免許で宅建業を行った場合は、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、または両方の刑を同時に受けること(併科)になります。その他、名義貸しをして他人に宅建業の表示や広告をさせた場合は、100万円以下の罰金を処せられます。
宅建士に対する罰則としては、例えば、宅建士証の返納義務に違反した場合などに10万円以下の過料が処せられます。
その他、宅地建物取引業法に違反した場合の罰則は、同法第79条から第86条に詳しく記載されています。
以下、罰則の内容の一部を抜粋します。
・不正の手段により免許を受けた者
・名義貸しをして他人に宅建業を営ませた者
→3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはこれらの併科
・不当に高額の報酬を要求した者
→1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金またはこれらの併科
・専任の宅建士の設置義務に違反した者
・無免所で宅建業者としての表示・広告をした者
→100万円以下の罰金
民事責任
宅地建物取引業法に違反したことによって顧客に損害を与えた場合には、損害賠償請求をされることがあります。これは「民事責任」と呼ばれるもので、たとえ監督処分を受けていなくても、取引相手から訴えられる可能性があります。
例えば、閑静な場所を希望していた購入者に対して、その土地には工業地帯になる計画があるなどの重要な事実を隠して物件を売ったことで、買主が損害を被った場合などがこれに該当します。工業地帯になる計画が進んでいることを購入者に宅建業者が説明しなかったことは、重要事項説明義務違反になります。
社会的信用の低下
宅建業は、信頼が非常に大切な業種です。一度でも宅地建物取引業法の違反が公になれば、その業者や宅建士としての社会的信用が大きく低下します。
たとえ監督処分の内容が軽微だったとしても、「宅地建物取引業法の違反をした」という事実そのものが取引先や顧客からの信頼を損なう原因となり、営業に大きな支障をきたす可能性があります。
宅建業者が特に注意すべきポイント
最後に、宅地建物取引業に関して宅建業者が特に注意すべきポイントを解説します。
重要事項説明書の交付・説明(宅建業法第35条)
重要事項説明書の交付・説明(宅建業法第35条)とは、宅建業者が宅地建物取引士に重要事項説明書(35条書面)を交付・記名・押印させ、契約が成立するまでに買主(売買の場合)、借主(賃貸の場合)、両当事者(交換の場合)に対して重要事項説明書(35条書面)の内容を説明させなければならないことを意味します。
重要事項説明書(35条書面)は、登記された権利の種類・内容等や法令上の制限などの「取引物件に関すること」、代金、交換差金、借賃以外に授受される金銭や契約の解除などの「取引条件に関すること」などが書かれています。
なお、重要事項説明書(35条書面)の交付・説明について、宅地建物取引士が説明を行う場所に規制はないのですが、説明する際に宅地建物取引士証を提示する必要があります。
契約書の交付(宅建業法第37条)
契約書の交付(宅建業法第37条)は、宅建業者が契約成立した後に契約内容を記載した書面(37条書面)を契約の両当事者(買主・借主だけでなく、売主・貸主にも必要)に交付することをいいます。契約書(37条書面)には、当事者の氏名及び住所、宅地・建物を特定するのに必要な項目、代金と支払時期・支払方法、宅地・建物の引渡時期などが書かれています。
重要事項説明書(35条書面)は宅地建物取引士の独占業務ではありますが、契約書(37条書面)は宅建業者であれば交付可能です。
宅建資格において注意すべきポイント
宅建資格(宅地建物取引士資格)は、毎年多くの受験者が挑戦する人気の国家資格です。なかでも「宅建業法」は得点源となる重要な分野なので、しっかりとした対策が欠かせません。
ここでは、宅建資格の基本から、宅建業法の勉強方法やおすすめの過去問サイトまで、初心者向けにわかりやすく解説していきます。
宅建資格とは
宅建資格とは、「宅地建物取引士」という国家資格を取得するための試験です。不動産の売買や賃貸を仲介する場面で、重要事項の説明や契約書の交付を行うことができる専門職です。この資格がなければ行うことができない業務もあるため、不動産業界では大変需要が高い資格とされています。
試験は年1回、例年10月に実施され、法律や税金、建築の基礎知識など幅広い分野から出題されます。その中でも「宅建業法」は問題数が多く、合否に大きく影響する重要分野といえます。
宅建資格における宅建業法の勉強方法
宅建業法は、出題数が試験全50問中20問と多くの割合を占め、ここで得点できるかどうかが合格を大きく左右します。
まずは基礎用語や条文の内容をしっかり理解することが大切です。最初は難しく感じるかもしれませんが、繰り返し学ぶことで自然と知識が定着していきます。
勉強方法としては、まずテキストを読み、過去問を解くという流れを3回ほど繰り返し、知識を落とし込んでいくことがおすすめです。動画解説付きの講座やアプリも多数あるため、スキマ時間を活用して少しずつ進めるのも効率的です。
宅建業法の問題は、出題パターンに慣れることがポイントです。
宅建資格における宅建業法の過去問題集
宅建試験では過去問の繰り返しが非常に重要です。特に宅建業法の問題は毎年同じような形式で出題されるため、何度も解くことで自然とパターンが身につきます。
おすすめの過去問題集としては、次のような無料・有料のサービスがあります。
スタディング宅建士講座(有料)
セレクト過去問集や13年分テーマ別過去問集があり、初心者にもわかりやすい解説と、アプリで学べる利便性が人気です。
全問解説付 宅建士 一問一答問題集(無料)
スマホで利用可能な問題演習サイトで、全問丁寧な解説付きです。
「みんながほしかった!宅建士シリーズ」TAC問題集
書籍では「みんながほしかった!宅建士シリーズ」TAC問題集がカラー図解や丁寧な解説で大変わかりやすく初心者に人気です。
これらの過去問題集やサイトを使って、問題を解き、間違えた問題を中心に復習していくと、効率的に得点力を上げることができます。
宅地建物取引業法の内容をしっかりと理解しましょう
宅地建物取引業法とは、不動産業者が不正な取引をしないようにするため、不動産購入者の利益を保護することを目的とした法律です。
免許の申請や広告の規制など、不動産の取引業に関する内容が定められています。
事業者が宅建業を行う際には、従業者証明書の携帯や、役員変更の際には変更届出書の提出などを行ってください。
宅地建物取引業法を理解して、ミスのないスムーズな取引を目指しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
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