- 作成日 : 2024年1月26日
特許異議の申立てとは?制度の概要や要件、申請方法を解説
特許異議の申立てとは、登録が認められた特許権につき、特許庁に対して異議を申し立てることをいいます。特許掲載公報の発行から6ヶ月間が経過するまでは、誰でも特許異議の申立てを行うことが可能です。本記事では特許異議の申立てについて、制度の概要や特許無効審判請求との違い、手続き・必要書類・費用・注意点などを解説します。
目次
特許異議の申立てとは
特許異議の申立てとは、登録された特許権について、特許庁に異議を申し立てて再審査を求めることをいいます。
特許権が認められるための要件は、特許法で定められています。特許出願された発明が特許法上の登録要件を満たすかどうかは、特許庁の審査官が審査しています。
審査官は十分な調査・検討を経て登録の可否を判断していますが、時にはその判断を誤ってしまうこともあり得ます。
そこで、広く第三者に特許の見直しを求める機会を付与するために認められているのが、特許異議の申立てです。特許掲載公報の発行から6ヶ月が経過するまでの間、誰でも特許異議の申立てを行うことができます(特許法113条)。
特許異議が認められるための要件|該当するケースを紹介
特許異議を認めた場合、特許庁は最終的に取消決定を行います。取消決定が確定すれば、特許権は初めから存在しなかったものとみなされます(特許法114条2項、3項)。
特許異議が認められるのは、以下のいずれかに該当する場合です(特許法113条各号、114条2項)。
①特許法により許容される範囲を超えて、明細書・特許請求の範囲・図面の補正がなされた場合
②以下のいずれかに該当する特許がされた場合
- 日本国内に住所、居所を有しない外国人に対する特許(一部例外あり)
- 新規性が認められない発明
- 進歩性が認められない発明
- 公序良俗に反する発明
- 先願主義に反する特許
③条約に違反して特許がされた場合
④明細書・特許請求の範囲の記載が特許法上の要件を満たしていない場合
⑤外国語書面出願に係る特許の願書に添付した明細書・特許請求の範囲・図面に記載した事項が、外国語書面に記載した事項の範囲内にない場合
特許異議の申立てと特許無効審判請求の違い
特許異議の申立てに類似した制度として、すでに登録された特許の無効を求める「特許無効審判請求」があります。
特許異議の申立てと特許無効審判請求の主な違いは、下表の通りです。
特許異議の申立て | 特許無効審判請求 | |
---|---|---|
制度趣旨 | 特許の早期安定化 | 特許の有効性に関する当事者間の紛争解決 |
手続き | 特許庁と請求人の間で進められる | 当事者(請求人と特許権者)の間で進められる |
申立て・請求ができる人 | 誰でも | 利害関係人のみ |
期間 | 特許掲載公報の発行日から6ヶ月以内 | 特許権の設定登録後いつでも |
異議・無効の理由 | 公益的事由のみ |
|
審理の方式 | 書面審理 | 原則として口頭審理(書面審理も可) |
不服申立て | 取消決定に限り、特許庁長官を被告として知財高裁に出訴可能(維持決定・申立て却下の決定については不可) | 請求人・特許権者の双方が、相手方を被告として知財高裁に出訴可能 |
費用 | 1万6,500円+請求項の数×2,400円 | 4万9,500円+請求項の数×5,500円 |
特許異議の申立ては誰でもできるのに対して、特許無効審判請求ができるのは利害関係人のみです。
その一方で、特許異議の申立ては期間が短く限定されているのに対し、特許無効審判請求は設定登録後いつでもできます。また、異議・無効が認められる理由についても、特許無効審判請求の方が特許異議の申立てより幅広いです。
特許の取消しまたは無効を主張したい事業者は、上記の違いを念頭に、どちらの手続きを選択すべきか適切に判断しましょう。
特許無効審判請求の詳細については、以下の記事をご参照ください。
特許異議の申立てを行う際の手続き・必要書類・費用
特許異議の申立てを行う際の手続き・必要書類・費用について解説します。
特許異議の申立ての手続き
特許異議の申立ての手続きの流れは、以下の通りです。
①特許庁長官に対する異議申立て
特許庁長官に対して、特許異議申立書などの必要書類を提出します(特許法115条1項)。
②申立ての方式に関する調査・審理
特許異議申立書の記載事項および明確性、ならびに手数料の納付状況など、申立ての方式に関する調査・審理が行われます。不備があった場合は補正が認められますが、申立書の要旨を変更することは原則としてできません(特許法115条2項)。
③特許権者に対する申立書副本の送付
申立ての方式に関する調査・審理が完了した後、特許異議申立書の副本が特許権者に送付されます(特許法115条3項)。
④本案審理
3人または5人の審判官の合議体が、特許異議の理由の有無について実質的な審理を行います(特許法114条1項)。
本案審理は書面審理によって行われます(特許法118条1項)。ただし、合議体が必要と認めた場合は証人尋問が行われることがあるほか(特許法120条、150条1項)、特許権者または申立人の意見を聴く必要がある場合は審尋が行われます(特許法120条の8、134条4項)。
⑤維持決定または取消理由の通知
特許異議の理由がないと判断した場合、合議体は特許を維持すべき旨の決定を行います(特許法114条4項)。
維持決定については不服申立てができません(同条5項)。維持決定の謄本は、特許権者や申立人などに対して送達されます(特許法120条の6第2項)。
一方、特許異議の理由があると判断した場合には、合議体は特許権者に対して取消理由を通知し、意見書の提出と出願内容の訂正を行う機会を与えます(特許法120条の5第1項)。
⑥特許権者による意見書の提出・出願内容の訂正請求
取消理由の通知を受けた特許権者は、指定された期間内に意見書を提出できます(特許法120条の5第1項)。
また特許権者は、一定の範囲内に限り、特許出願の内容の訂正を請求することも可能です(同条2項)。
⑦申立人による意見書の提出
特許権者が意見書を提出し、または出願内容の訂正を請求した場合には、原則として申立人にも意見書を提出する機会が与えられます(特許法120条の5第5項)。
⑧取消決定
特許権者の意見書および訂正の請求、ならびに申立人の意見書の内容を踏まえて、合議体は改めて本案審理を行います。
特許異議の理由がなくなった場合は維持決定を行いますが、依然として特許異議の理由がある場合は取消決定を行います(特許法114条2項)。取消決定の謄本は、特許権者や申立人などに対して送達されます(特許法120条の6第2項)。
⑨取消決定に対する不服申立て
取消決定に対しては、特許庁長官を被告として知的財産高等裁判所(知財高裁)に訴訟を提起し、不服申立てを行うことができます(特許法178条1項)。出訴期間は、取消決定の謄本が送達された日から30日以内です(特許法178条3項、4項)。
⑩特許権の取消し
不服申立ての出訴期間が経過するか、または訴訟の判決が確定した場合は、特許権が初めから存在しなかったものとみなされます(特許法114条3項)。
特許異議の申立ての必要書類
特許異議の申立てに当たって必要となる主な書類は、以下の通りです。
- 特許異議申立書(正本を1通、副本を特許権者の数+1通)
- 文書の標目、作成者および立証趣旨を明らかにした証拠説明書
- 証拠(文書など)
- 委任状(代理人が手続きを行う場合のみ)など
特許異議の申立てに関する必要書類の作成要領や提出方法などは、特許庁ウェブサイト掲載の各資料をご参照ください。
特許異議の申立ての費用
特許異議の申立てを行う際には、「1万6,500円+請求項の数×2,400円」の手数料を納付する必要があります。また、弁理士や弁護士に特許異議の申立てを依頼する場合は、別途依頼費用が必要です。
特許異議の申立てを行う際の注意点
特許異議の申立てが認められるためには、特許法に基づく異議理由のどれに該当するのかを、客観的な証拠に基づいて説得的に示すことが大切です。そのためには、特許異議申立書の記載内容や、それと証拠の関係性をきちんと整理・検討する必要があります。
弁理士や弁護士のアドバイスを受けながら、周到な準備を整えたうえで特許異議の申立てを行いましょう。
特許異議の申立ては誰でも可能|十分な準備を
特許異議の申立ては、特許無効審判請求とは異なり、誰でも行うことができるのが大きな特徴です。他社の特許権について、登録が不適切ではないかとの疑念を抱いた場合には、特許無効審判請求と併せて特許異議の申立てを検討しましょう。
特許異議が認められるためには、特許法に基づく異議理由に該当することを説得的に示すことが重要です。特許異議の申立ての成功率を高めるため、弁理士や弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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