- 更新日 : 2026年1月27日
質権設定契約書とは?ひな形をもとに文例や作成時の注意点を解説
質権設定契約書とは、債務の履行を担保するために設定する質権についてのルールをまとめた文書のことです。
どのような契約なのか、何をルールとして定める必要があるのかを説明し、当記事では契約書の文例も用いて具体的な記載事項、作成のポイントなどを紹介していきます。
目次
質権設定契約書とは
質権設定契約書は、質権設定をするときに取り交わす契約書のことです。特定の債務が履行される実効性を高めるために、質権設定は行われます。
質権設定が行われた財産については利用が制限され、約束通り債務が履行されなかったときは当該財産を換価処分することで弁済を確保する仕組みになっています。
(質権の内容)
第三百四十二条 質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
質権が設定される目的物に応じて質権の種類は次のように分類されます。
| 質権の種類 | |
|---|---|
| 動産質 | 貴金属やブランド品など、不動産以外の物を設定するときの質権。 動産質の設定によってその目的物は所有者の手元を離れ、使用ができなくなる。 |
| 不動産質 | 土地や建物などの不動産に対して設定する質権。 不動産質の設定によって所有者は当該物件の使用収益ができなくなる。不動産には抵当権が設定されることも多いが、抵当権とは所有者が引き続き使用収益できる点で大きく異なる。 |
| 権利質 | 債権などの財産権に対して設定する質権。 権利質の設定後、債務不履行が発生すると、質権者は当該債権を行使して代わりに取り立てを行い、自らの債権回収を図ることができる。 |
※譲り渡すことができない物に関しては質権を設定できない。
質権設定を行う目的物の種類に応じて質権設定契約の内容を検討する必要があります。
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質権設定契約を結ぶケース
質権設定契約を締結するのは債権回収を確実にしたい場合です。取引金額が大きな場合や、債務者が支払いをできなくなる可能性が高い場面に有効といえます。質権設定やその担保権の実行をするのに手間がかかるため完全に不利益がなくなるわけではありませんが、債権全額の回収ができる目的物を設定しておけば取引のリスクを大きく下げることが可能です。
例えば、住宅ローンを組むときの担保として質権設定契約を結ぶことがあります。土地や家を債務者が使えるように抵当権が設定されることも多いですが、それだと火災などによって家がなくなってしまったときに債権回収が難しくなってしまいます。こういった問題に対処するため、火災保険における保険金請求権を対象に質権設定するケースもあるのです。
質権設定契約書のひな形・テンプレート
契約書を作成するときはテンプレートを活用すると効率的です。表題から前文、各条文を白紙から書き始めるのは手間が大きいですし、基本的な記載事項に漏れが生じるリスクもあります。
質権設定契約書はこちらのページからダウンロードできますので、ぜひご活用ください。
質権設定契約書に記載すべき内容
質権設定契約書を作成するとき、次の事項については記載しておきましょう。
- 被担保債権や質権設定の目的物の特定
- 担保する範囲
- 質権の実行のルール
- 目的物の取り扱い方法
各設定事項の意味、記載方法について以下で紹介していきます。
被担保債権や質権設定の目的物の特定
質権設定の基本的な情報として、被担保債権(質権設定によって担保される債権)と、質権を設定する目的物を明記する必要があります。
被担保債権については次のように表示する例が考えられます。
「第〇条 乙は、甲に対し、甲を売主、乙を買主とする〇年〇月〇日付売買契約書に基づく契約において、乙が、甲に対して、当該売買契約に基づく残売買代金債務として金○万円の支払い義務を負っていることを確認した。」
誰が当事者なのか、いつ締結したのか、どのような契約なのかを明示しておきましょう。
質権設定の目的物については次のように表示する例が考えられます。
「第〇条 乙は、乙の甲に対する本件債務の履行を担保するため、乙が所有する下記動産の上に質権を設定し、甲は本件動産の引渡しを受ける。
・・・・(本件動産を特定する記載)」
目的物についての情報が多く条文内に納めるのが難しいときは、この例のように目的物を特定する記載を付記するとよいでしょう。ここで動産を設定すれば「動産質」に、不動産を設定すれば「不動産質」に、債権を設定すれば「債権質」になります。
担保する範囲
この質権設定契約によってどれだけの範囲が担保されるのかを明記しておきます。例えば次のように定めます。
「第〇条 本質権は、本件債務や質権実行にかかる費用、本件動産の保存にかかる費用、債務不履行もしくは本件動産の隠れた瑕疵によって生じた損害賠償を担保する。」
なお、民法でも次のように規定が置かれていますので、少なくともその範囲で担保権の効力を得ることはできます。
(質権の被担保債権の範囲)
第三百四十六条 質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保する。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
これらに該当する範囲を確認的に記載してもよいですし、異なる範囲を特約として定めることもできます。
質権の実行のルール
質権がどのような場合に実行できるのか、そしてどのように実行ができるのか、そのルールを定めておきます。
「第〇条 乙が第〇条に基づき期限の利益を喪失したとき、甲は乙に対して通知をすることなく、本件動産を売却し、その代金を本件債務の弁済にあてることができる。
2 乙は前項にかかる一切の手続きに対し、甲に異議を述べない。」
この例では期限の利益が喪失したときに実行ができるとしています。そこでこのときは別途条文を設けて期限の利益が喪失するケースを列挙しておきます。支払い期限までに支払わなかった場合や倒産手続を始めた場合、差し押さえを受けた場合などを期限の利益喪失事由とすることが多いです。
また、質権の実行をするときに債務者に対して通知を必要とするのかどうか、目的物の売却による弁済を持ってしても不足分があるときの対応なども必要に応じて記載しておくとよいでしょう。
目的物の取り扱い方法
質権が設定された目的物の管理方法・保管方法についても必要に応じて定めておきます。
「第〇条 甲は、善良な管理者の責任を持って本件動産を管理、保管する。
2 甲は、本件動産を、乙の承諾なく使用、賃貸、又は担保に供してはならない。」
抵当権とは異なり目的物の占有が質権者に移転するため、質権設定者への配慮として、占有者の義務を定めておくケースがあります。
質権設定契約書の作成ポイント
質権設定契約書を作成するとき、質権についての細かなルールを記載していくことも大事ですが、まずは「被担保債権の内容」や「質権を設定する物」について確実に特定されていることを確認しましょう。
また次の点にも留意し、具体的なルールを置く必要性を判断していきましょう。
- 担保する範囲
違約金や質物を管理するのにかかる費用、質権実行にかかる費用を担保する範囲として含めるのかどうか。 - 質権の実行のルール
質権が実行できるタイミングやその際の通知の必要性など。 - 目的物の取り扱い方法
目的物の管理や保管の方法、使用収益を可能とするのかどうか(ただし不動産質においては原則質権者による使用収益が認められる)など。
厳格にルールを定めていくべきかどうか、これは被担保債権が回収できないリスクをもとに考えていきます。また、質権設定をする目的物の選定も非常に重要です。苦労して質権実行をしたにもかかわらず大した金銭が回収できないとなれば質権設定契約を交わした意味がなくなってしまいます。経済的な価値をよく評価しておくことが債権者としては欠かせません。
債務者としては質権を設定した物がその後使えなくなることも意識し、相手方が一方的に有利な内容になっていないかどうかチェックすべきです。目的物と被担保債権の価値の比較も大事です。安易に質権実行を認めてしまうと、少額な債権のために高額な質物のすべてが処分されてしまうことになります。
様々なリスクを考慮しながら質権設定契約書を作成しよう
質権設定契約が機能するのはある特定の債務が履行されなかった場面であって、トラブルが起こる直前、あるいはすでにトラブルが発生しているシーンにおいて質権が実行されます。
当事者間で揉めた後に実行されることもありますし、その質権についてルールを定める契約書作成には慎重に取り組む必要があります。債務者としても質権設定されることや実行されることのリスクを考慮して、契約書の作成・レビューに取り組みましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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