- 作成日 : 2023年10月27日
意匠権とは?意匠登録のメリットや流れを解説
意匠権とは、物の形状や模様、色彩などのデザインを保護する権利です。キャラクターやイラストなどは主に著作権で保護されますが、それを模様などとして組み込んだ工業製品などは、意匠権で保護される場合があります。
本記事では意匠権の概要と保護の範囲、存続期間、意匠登録のメリット、要件、手続き、意匠権侵害への対応などを解説します。
目次
意匠権とは?
「意匠権」とは、物の形状や模様、色彩などのデザインを保護する権利で、知的財産権の一種です。
意匠権によって保護される「意匠」とは
「意匠(=デザイン)」として保護されるのは、以下のいずれかに該当し、視覚を通じて美感を起こさせるものです(意匠法2条1項)。
- 物品の形状・模様・色彩、またはこれらの結合(=形状等)(例)工業製品のデザイン
- 建築物の形状等(例)建物の外観デザイン
- デジタル端末上に表示される画像(例)ウェブサイトのデザイン
意匠権による保護の内容
意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有します(意匠法23条)。したがって、意匠権者以外の者は、意匠権者の許諾を受けない限り、登録意匠またはそれに似たデザインを業として実施することができません。
「実施」とは、以下のいずれかに該当する行為をいいます(意匠法2条2項)。
- 意匠に係る物品の製造、使用・譲渡・貸渡し・輸出・輸入、または譲渡もしくは貸渡しの申出(譲渡もしくは貸渡しのための展示を含む)
- 意匠に係る建築物の建築・使用・譲渡・貸渡し、または譲渡もしくは貸渡しの申出(譲渡もしくは貸渡しのための展示を含む)
- 意匠に係るデジタル端末上に表示される画像の作成・使用、または電気通信回線を通じた提供もしくはその申出(提供のための展示を含む)
- ③の画像を記録した記録媒体または内蔵機器の譲渡・貸渡し・輸出・輸入または譲渡もしくは貸渡しの申出(譲渡もしくは貸渡しのための展示を含む)
意匠権の存続期間
意匠権の存続期間は、意匠登録出願の日から25年です(意匠法21条1項)。ただし、関連意匠の意匠権の存続期間は、その基礎意匠の意匠登録出願の日から25年で終了します(同条2項)
意匠権と著作権・商標権の違い
意匠権がデザインを保護する権利であるのに対して、著作権は創作物を保護する権利、商標権は商品名称やロゴなどを保護する権利です。いずれも知的財産権の一種ですが、保護の対象が異なります。
なお、キャラクターやイラストなどは主に著作権で保護されます。ただし、それを模様などとして組み込んだ工業製品などは、意匠権で保護される場合があります。
意匠登録をするメリット
デザインについて意匠権の保護を受けるためには、特許庁の意匠登録を受ける必要があります。
意匠登録を受けることには、主に以下のメリットがあります。
模倣品を排除できる
他社によるデザインの模倣を防ぎ、自社商品の差別化を図ることができます。
ライセンス収入を得られる
登録意匠の実施を他社に許諾すれば、ライセンス料収入を得られます。
意匠登録をする際の要件
デザインについて意匠登録を受けるためには、以下の要件をすべて満たさなければなりません。
- 工業上の利用可能性デザインが工業上利用できること(例:量産できるなど)が必要です。
- 新規性今までにない新しいデザインであることが必要です。
- 創作非容易性当業者(=その意匠の属する分野における通常の知識を有する者)が、容易に創作できるデザインでないことが必要です。
- 非類似性先に出願された意匠の一部と同一であり、または類似したデザインでないことが必要です。
- 不登録事由に該当しないこと意匠登録を受けることができない場合(例:公序良俗違反など)に当たらないことが必要です。
- 一意匠一出願複数のデザインをまとめて出願することは原則として認められず、個々のデザインについて出願する必要があります。
※組物の意匠(意匠法8条)、内装の意匠(意匠法8条の2)は例外
- 先願同一または類似のデザインについては、最初に出願した者だけが意匠登録を受けられます。
意匠登録の流れ
デザインが意匠登録されるまでの手続きの流れは、以下の通りです。
①先行意匠調査
すでに同じような意匠が公開されていないかを調査します。特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)や、Google検索などを活用します。
②意匠登録願の作成・提出
意匠登録願を作成し、特許印紙を指定の箇所に貼り付けた上で特許庁に提出します。意匠登録願の様式は、独立行政法人工業所有権情報・研修館のウェブサイトでダウンロードできます。
参考:各種申請書類一覧(紙手続の様式)|独立行政法人工業所有権情報・研修館
なお、インターネットを利用した出願も認められています。
参考:電子出願サポートサイト
③特許庁による審査
意匠登録の要件を満たしているかどうかについて、特許庁の審査官が審査を行います。拒絶理由があると思われる場合は、出願者に対してその理由が通知され、意見書・補正書の提出機会が与えられます。
④登録査定または拒絶査定
意匠登録の要件が満たされている場合は、登録査定が行われます。1つでも登録要件を欠いていれば、拒絶査定が行われます。
⑤登録料の納付・設定登録
登録査定を受けた場合は、所定の期限までに登録料を納付します。登録料の納付後に設定登録が行われ、意匠権が発生します。
意匠権を侵害された場合の対応
意匠権を侵害された場合は、侵害者に対して差止請求(意匠法37条)や損害賠償請求(民法709条)を行うことができます。
また、意匠権侵害によって業務上の信用が害された場合は、謝罪広告などの信用回復措置も請求可能です(意匠法41条、特許法106条)。
直近の意匠法改正のポイント
最近では、2020年と2021年に意匠法の改正法が施行されました。
<2020年4月1日施行>
- 意匠権の存続期間変更
- 関連意匠制度を拡充
- 間接侵害規定を拡充
- 保護対象を拡充
- 創作非容易性の水準を明確化
- 組物の部分意匠の導入
- 損害賠償の算定方法を見直し
<2021年4月1日施行>
- 手続救済規定を拡充
- 複数意匠一括出願手続の導入
- 物品区分の扱いを見直し
2020年改正・2021年改正の詳細については、以下の記事をご参照ください。
デザインを考案した際は意匠登録出願の検討を
意匠登録を受けると、自社のデザインを他社から差別化することにより、競争力の強化につながります。ユニークなデザインを考案した際には、意匠登録出願を検討するとよいでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
製造物責任法(PL法)とは?対象の製造物や欠陥の定義、事例などを簡単に解説
製造物責任法(PL法)とは、製造物に関する損害賠償の責任を規定した法律です。製造物の欠陥等が原因で事故が起こったとき、製造業者は賠償責任を負う可能性があるため、企業は同法についての理解を持つことが重要です。 どのような製造物が対象なのか、ど…
詳しくみる要配慮個人情報とは?定義や具体例、事業者目線の注意点を紹介
要配慮個人情報とは、個人情報のなかでも特に本人に対する不当な差別や偏見、その他不利益が生じやすい情報のことを指します。個人情報保護法の規制対象となる個人情報取扱事業者は、この要配慮個人情報の要件についても把握し、取得した情報は適切に取り扱わ…
詳しくみるフリーランス新法とインボイス制度の関係は?影響や禁止行為を解説
フリーランス新法は、組織に所属しないで働くフリーランスを保護することを目的とした法律です。法律ではフリーランスに対する禁止行為が規定されており、インボイス制度に関連する行為も適用されると考えられています。 本記事では、フリーランス新法とイン…
詳しくみる商法における契約不適合責任とは?民法との違いや期間などをわかりやすく解説
商法における契約不適合責任とは、商人同士の売買において、引き渡された目的物に不具合や品質不良などがあった場合に売主が負う責任のことです。本記事では、商法と民法による取り扱いの違いや、通知期間が6ヶ月とされる商法526条のポイント、契約書への…
詳しくみる契約上の地位の移転(民法第539条の2)を分かりやすく解説!
「契約上の地位の移転」は、民法で「契約」について学ぶ際に出てくる概念ですが、実務においては長い間、判例による解釈と理論に委ねられている行為でした。しかし、2020年の民法改正によって、晴れて条文規定となったのです。 この機会に、事業譲渡や賃…
詳しくみる具体例を示しながら強行規定と任意規定を比較!判別方法も紹介
法律には強い拘束力を持った規定もあれば、訓示的な規定もあります。特に民法などでは「強行規定」と「任意規定」の区別が重要です。そこで今回は、「強行規定」と「任意規定」の概要やそれらの違い、強行規定に違反した場合の処分などについて解説します。 …
詳しくみる