- 作成日 : 2023年10月20日
電気事業法とは?基本事項や改正の流れ、違反した場合を解説
大手電力会社をはじめ、小売電力事業者、電気工事事業者、発電事業を営む企業や個人などは「電気事業法」という法律に従って事業を行わなければなりません。違反した場合はペナルティを科せられるリスクがあります。
この記事では、電気事業法の概要や規制内容、違反した際の罰則についてわかりやすく説明します。特に、電気関連の事業を行っている方や、これから始める方は、しっかりと理解しておきましょう。
目次
電気事業法とは?
電気は、私たちにとって非常に重要なライフラインです。その一方で、特定の事業者が非常に多くの利用者に影響を与える点や、電気が原因で発生する災害や環境被害のリスクなどが懸念されます。
そこで、電気事業の運営の適正化・合理化による電気利用者の利益の保護と電気事業の健全な発達、および電気工作物の規制による公共の安全確保・環境保全を目的として、1964年に電気事業法が施行されました。電気事業法で電気事業者に一定の規制をかけ、電気工作物の技術的な基準を設けて守らせることで、私たちは安心・安全に電気を使うことができるのです。
電気事業法で規制されていること
電気事業法では、主に「電気事業」と「電気工作物」の2点に関する規制が定められています。それぞれの内容について、詳しく見ていきましょう。
電気事業に関する許認可制・業務規制
発電や工事などの電気事業を営むためには、国に届出や登録の申請をしたり、許可を取得したりする必要があります。
小売電気事業を行う場合は「登録」を申請しなければなりません。資源エネルギー庁の審査を受け、要件を満たした事業者が登録を受けられます。
一般送配電事業、送電事業、配電事業、特定供給を行う事業者は、事業を行うにあたって「許可」が必要です。同様に、資源エネルギー庁が審査を行って許可を与えます。登録は要件を満たせば認められますが、許可については資源エネルギー庁が裁量的に審査を行うため、審査基準に適合しているようでも許可を受けられないことがあります。
特定送配電事業、発電事業、特定卸供給事業、特定自家用電気工作物の設置、小規模事業用電気工作物の設置に関しては「届出」が必要です。登録や許可とは異なり資源エネルギー庁の審査は行われず、書類を提出すれば事業を行うことができます。
電気工作物に関する規制
電気工作物とは、発電や蓄電、変電、送電、配電、その他電気の供給に必要な工作物のことです。これらを行うための機械や器具、電線、さらにはダムや貯水池など、幅広い装置や設備が対象です。ただし、鉄道車両や船舶、航空機などに設置される工作物や電圧30ボルト未満の電気的設備(電圧30ボルト以上の電気的設備と電気的に接続されているものを除く)は対象外です。
電気工作物は、一般家庭や小規模の商店、工場などに電気を供給するために設置される「一般用電気工作物」と、発電所や変電所、蓄電所などにある機械や設備を指す「事業用電気工作物」の2種類に分けられます。
いずれの電気工作物も、電気事業法に定められる技術基準を満たす必要があります。また、一般用電気工作物よりも事業用電気工作物の方が、事故やトラブルが発生した際の影響が大きいため、より厳しい基準が定められています。
電気事業法に違反したらどうなる?
電気事業法に違反した場合は、「技術基準適合命令」「登録・許可取り消し」「刑事罰」というペナルティが科せられます。それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
技術基準適合命令
一般用電気工作物、事業用電気工作物が技術基準を満たしていない場合、その所有者や占有者に対して経済産業大臣が修理や改造、移転、使用の一時停止を命令するか、使用の制限を加えることができます。
技術基準適合命令が出されたのにも関わらず、それに従わない場合は、後述する刑事罰が科せられるおそれがあります。
登録・許可の取り消し
電気事業者が電気事業法違反を犯し、それによって公共の利益が侵害されていると判断された場合、登録や許可が取り消されるおそれがあります。
小売電気事業者が違反した場合は登録の取り消し処分、一般送配電事業や送電事業、配電事業、特定供給を行っている事業者は許可の取り消し処分が行われる可能性があります。
刑事罰
登録や許可申請、届出を怠った、技術基準適合命令に従わなかったなど、悪質な電気事業法違反を行った場合、以下の刑事罰が科せられるおそれがあります。
- 届出義務違反(特定自家用電気工作物の設置):10万円以下の過料
- 無届出営業(特定供給):技術基準適合命令違反(原子力発電工作物を除く):300万円以下の罰金(両罰規定あり)
- 小売電気事業の無登録営業、特定送配電事業・特定卸供給事業の無届出営業:1年以下の懲役または100万円以下の罰金(併科あり、両罰規定あり)
- 一般送配電業事業・送電事業・配電事業の無許可営業、原子力発電工作物における技術基準適合命令違反:3年以下の懲役または300万円以下の罰金(併科あり、両罰規定あり)
電気事業法の改正
これまで、電気事業法は時代に合わせてたびたび改正されてきました。2000年の改正時には、「特別高圧」区分の大規模工場やデパート、オフィスビルなどを対象とした電力小売の自由化がスタートしました。さらに、2003年の改正では「高圧」区分の中小規模工場や中小ビルも小売自由化の対象になりました。同時に、振替料金制度の廃止や送配電等業務支援機関、および卸電力取引市場の創設等もスタートしました。
2011年には東日本大震災と福島第一原発の被災事故が発生し、計画停電や電気料金の値上げが行われました。それを受け、電気の安定的な供給、電気料金の抑制、需要者の選択肢や事業者の事業機会拡大を目的として、2013年4月に「電力システムに関する改革方針」が閣議決定され、2013年11月には広域的運営推進機関の設置、2014年6月には電力小売全面自由化、2015年6月には送配電部門の法的分離の実施、小売電気料金の規制の撤廃等が成立しました。
特に重要なのが、2014年の電力小売全面自由化です。2016年4月1日から「低圧」に区分される一般家庭や小規模の工場、商店においても自由に電力会社を選べるようになり、さまざまな企業が電力小売事業に参入しました。
2020年には自然災害に備え、災害時の連携強化や送配電網の強靭化、分散型電力システムの導入に関する法改正が行われました。さらに、2023年には小規模事業用電気工作物の届出制度の変更や技術基準適合維持の義務化、設備情報などの届出、使用前自己確認義務の対象の変更などが盛り込まれました。
今後も社会情勢の変化や需要者のニーズなどに応じて、電気事業法がこまめに改正されていくことが予想されます。
電気事業法を遵守して適正な電気事業を営むことが大切
各々の電気事業者が電気事業法を守りながら電気を供給することで、誰もが安全に、安心して電気を使えるようになり、それが業界全体の健全な発展につながります。
電気事業法に違反すると、厳しいペナルティが科せられるおそれがあります。小売電力事業、電気工事事業、発電事業などを営まれている方、あるいはこれから事業をスタートされる方は、必ず電気事業法の規制内容について理解を深め、正しい理解に基づいて適正に電気事業を営みましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
優越的地位の濫用とは?規制内容や事業者の注意点をわかりやすく解説
優越的地位の濫用とは、地位を利用して取引相手に不当に不利益を与える行為のことです。独占禁止法では、優越的な地位を利用した不公正な取引として禁止されています。具体的にはどのような行為が該当するのか、例を挙げてまとめました。 また、事業者が注意…
詳しくみる手形保証とは?保証人は誰を選べばよい?
お金を借りる際に保証人を求められることがありますが、手形にも手形債務を保証する手形保証という制度があります。この手形保証をする人を手形保証人と呼ぶことがあります。手形保証は、民事保証とは意味合いが異なります。ここでは、手形保証の基礎知識や民…
詳しくみる民法とは?基本原則や改正内容などを簡単にわかりやすく解説
民法とは、個人や法人といった人間の行動に対して適用される法律です。民法により私人の権利が保護され、経済活動を円滑に進めることが可能となります。 本記事では、民法の基本的な事項を見ていきます。事業者が押さえておくべき民法の概要や、2020年に…
詳しくみる下請法の対象かどうか判断するには?資本金や対象取引の条件をわかりやすく解説
下請法の対象となるのは、下請法所定の4つの取引において、一定の資本金額の関係にある場合に限られます。下請法の対象となる場合、親事業者にはさまざまな義務が課せられます。そのため、その取引が下請法の対象となるのかを正確に把握しておくことが必要で…
詳しくみる破産手続開始原因である「支払不能」が認められるケースとは?
会社や個人が、債務超過や支払不能に陥ったとき、破産をすれば、債務の負担から解放されます。破産手続は、裁判所に申立てて行いますが、破産開始決定されるには、一定の要件を満たしていなければなりません。 本稿では、要件となる破産手続開始原因の1つで…
詳しくみる下請法は資本金1億円の企業に適用される?2026年改正内容と対応策を解説
2026年1月に施行される改正下請法(略称:中小受託取引適正化法)は、資本金や従業員数に応じて適用範囲が大きく拡大され、中堅企業にも影響が及びます。中でも資本金1億円の企業は、発注者・受注者いずれの立場でも新たに下請法の規制対象や保護対象と…
詳しくみる