- 作成日 : 2023年9月1日
担保権とは?物的担保と人的担保それぞれを解説
担保権とは、物などの売却代金から不払いが生じた債権を回収できる権利です。担保権には抵当権や質権などがあり、これらは「物的担保」と呼ばれることもあります。また、担保の機能を果たすものとしては「人的担保」も挙げられます。連帯保証が人的担保の典型例です。
本記事では、担保の種類について詳しく解説します。
担保権とは?
担保権とは、物などの売却代金から不払いが生じた債権を回収できる権利です。債権回収の確実性を高めるために設定されます。
担保権は、債務者または第三者が所有する財産に設定します。債務者が債務の履行をしなかった場合、債権者が裁判所に申立てを行って担保物を競売し、その代金を債権の弁済を充てることになります。
担保権によって債権が保護されることにより、債権者が安心して取引を行えるようになるのみならず、債務者にとっても信用力が補完されるメリットがあります。
例えば債務者が借入を望むとき、金融機関に対して担保を差し入れれば、より多くの金銭を借り入れることができます。債権者としても、担保権によって債権回収が担保されていれば、債務者に対して安心してお金を貸すことができます。
担保権は「物的担保」と呼ばれることもあります。物的担保は、法定担保権(=民法で定められた担保権)である抵当権・質権・先取特権・留置権と、譲渡担保などそれ以外の担保権(=非定型担保)に分類されます。
また物的担保と同様に、「保証」も債権の担保機能を果たします。保証は「人的担保」と呼ばれることがあり、単純保証・連帯保証・根保証などの種類があります。
物的担保と人的担保をまとめると、下記の表のようになります。
大分類 | 小分類 | 特徴 |
---|---|---|
物的担保 | 抵当権 | 主に不動産を担保として提供する。抵当権の設定後も債務者等がそのまま使い続けることができる。 |
質権 | 弁済を受けるまで物を預かり続け、弁済が受けられないときはその物を売却して弁済を受ける権利。 | |
先取特権 | 特定の債権について法律上認められた優先回収権。 | |
留置権 | 受け取った物について生じた債権があるとき、弁済を受けるまで債権者が返却を断ることができる権利。 | |
譲渡担保 | 物の所有権を形式的に譲渡し、債務の弁済がなされないときに担保として売却できる権利。 | |
人的担保 | (単純)保証 | 主たる債務者が債務を弁済しないときに、債権者の請求に応じて代わりに弁済する約束。 |
連帯保証 | 主たる債務者が債務を弁済しないときに、主たる債務者と同一の責任を負って弁済する約束。単純保証よりも責任が重い。 | |
根保証 | 一定範囲内の不特定の債務について、まとめて保証すること。 |
各物的担保および人的担保について、次項以下で詳しく説明していきます。
物的担保とは
「物的担保」とは、物に設定される担保権です。債務不履行が発生した際には、担保物を売却した代金から弁済を受けることができます。
民法上の物的担保は①抵当権、②質権、③先取特権、④留置権の4種類で、①と②については「約定担保物権」、③と④については「法定担保物権」とも呼ばれます。
約定担保物権とは、当事者間が契約を交わすことで発生する担保権のことです。借入をする際、その当事者間の間で抵当権を設定することがよくあります。
法定担保物権とは、当事者間が契約を交わすことなく発生する担保権のことです。特定の債権を持つ債権者を法的に守るために定められています。
さらに、民法に定めがない担保権として、⑤譲渡担保などが実務上認められています。
抵当権
「抵当権」は、主に不動産に設定される約定担保物権です。被担保債権について債務不履行が発生すれば、担保不動産競売によって得た代金から弁済を受けられます。
抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
抵当権は、担保物債務者(または物上保証人)が引き続き利用できるという特徴を持ちます。
抵当権は、不動産の購入を目的とするローン(住宅ローン・不動産担保ローンなど)について広く利用されています。金融機関(または保証会社)は、債務者が購入する不動産に抵当権の設定を受け、債務不履行時にはその不動産を売却して債権回収を図ります。
質権
「質権」は、動産や権利に設定されることが多い約定担保物権です。被担保債権について債務不履行が発生すれば、担保物を売却して得た代金から弁済を受けられます。
質権を設定した場合、債務者(または物上保証人)が担保として提供した物を、債権者は債務の弁済がされるまで留置することができます。その間、債務者(または物上保証人)は質物を利用することができません。
抵当権の場合は動産を目的物とすることができませんが、質権の場合は不動産に加え、動産や債権も広く目的物とすることができます。
質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
例えば質屋では、顧客から預かる物について「動産質」を設定する代わりに、顧客に対して金銭を交付します。また、火災保険の保険金請求権には、住宅ローンを担保するための「権利質」が設定されることがあります。
先取特権
「先取特権」は、抵当権や質権とは異なり、契約行為により生じる担保権ではありません。民法の規定に従い、特定の債権を持つ債権者に対して、法律上当然に優先弁済権が与えられます(=法定担保物権)。
先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
先取特権にもさまざまな種類があります。例えば雇用関係から生じる給料等の請求権は、労働者の生活に関わる重要な権利であり、先取特権の1つとして法定されています。
他にも、「共益費用」「葬式費用」「日用品の供給」についての先取特権、「不動産の賃貸借」「動産の売買」「不動産の保存・工事・売買」が原因で生じる債権などにも先取特権が認められています。
先取特権が認められる場合、目的物が売却されてしまったり賃貸に出されてしまったりしたとしても、そこから債務者が受ける金銭等に対して優先弁済の主張をすることができます(=物上代位)。
留置権
「留置権」も先取特権同様、法定担保物権の一種であり、特定の条件下で法律上当然に発生する担保権です。
他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
他人の物が手元にあり、その物について債権が生じた場合に留置権が発生します。
例えばある職人が時計の修理の依頼を受けたとしましょう。依頼主から時計を実際に受け取ってこれを修理したとき、職人は修理代金の支払いを受けるまでの間、留置権を主張して時計の引き渡しを拒むことができます。
譲渡担保
「譲渡担保」は民法に規定がありませんが、実務上認められた約定担保物権です。
譲渡担保を設定する場合、債務者(または物上保証人)は債権者に対して、担保物の所有権を形式上譲渡します。その後に債務不履行が発生すれば、債権者は譲渡担保物を売却して、その代金から弁済を受けることができます。
なお、売却代金が債権額を超える場合は、差額を債務者(または物上保証人)に返還して清算します。譲渡担保は質権と異なり、債権者に対して物を引き渡さなくてもよいのが大きな特徴です。債務者(または物上保証人)が担保物を使い続けたい場合に、譲渡担保がよく利用されています。
人的担保とは
人的担保とは、民法上の「保証」を意味します。保証とは、主たる債務者が債務を弁済しない場合に、代わって債務を弁済する旨の約束です。
担保物の価値によって債権を担保する物的担保とは異なり、人的担保は保証人の信用によって債権を担保します。
人的担保には、①(単純)保証、②連帯保証、③根保証などの種類があります。
(単純)保証
保証の中でも、連帯保証・根保証のいずれでもないものは「単純保証」と呼ばれます。単純保証だけを指して、単に「保証」と呼称することもあります。
保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
単純保証の保証人は、主たる債務者が債務を弁済しない場合に、代わって債務を弁済する義務を負います。
ただし、債権者が保証債務の履行を求めたときでも「まずは主たる債務者に催告をしてください」と請求すること、ができます(=催告の抗弁権)。
また、「主たる債務者には弁済するだけの資力があるから、主たる債務者の財産についてまずは執行してください」と主張することもできます(=検索の抗弁権)。
さらに、複数の保証人がいる場合は、人数割りした自らの負担分のみ弁済すれば足ります(=分別の利益)。
※主たる債務者:保証対象のとなる大元の債務に関する債務者のこと。保証債務を負う者(保証人)との区別のため「主たる債務者」と呼ばれる。
連帯保証
「連帯保証」は、債務不履行時に保証人が主たる債務者と同一の責任を負う保証です。
単純保証とは異なり、連帯保証人には催告の抗弁権・検索の抗弁権・分別の利益がいずれも認められません。従って、債務不履行が発生した場合、連帯保証人は債権者の請求に応じて、不履行となった債務全額を直ちに支払う必要があります。
根保証
「根保証」は、不特定の債権に対して包括的に行われる保証です。
保証や連帯保証は特定の債務を保証するものですが、根保証は被担保債務を特定せずに設定できます。継続的契約(不動産賃貸借契約など)を締結する当事者間では、将来にわたる契約上の債務を担保するため、根保証が活用されるケースがよくあります。
ただし際限なく根保証を認めてしまうと多大なリスクを負うことになりかねません。そこで個人が保証人となる根保証については極度額を定めなければならないと法定されています。
担保の適切な使い分けが重要
担保には物的担保と人的担保があり、さらに細かく分類することもできます。それぞれ異なる特徴を有しており、利用できる場面や適した場面にも違いがあります。
各担保の特徴について理解を深め、状況に応じて適切に担保を使い分けましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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