- 更新日 : 2025年4月3日
過失とは?故意との違いや民法・刑法上の扱い、法律上問題となる事例を簡単に解説
過失を一言でいうとすれば、注意義務違反です。この記事では、民法や刑法における過失の定義や分類などについて解説します。
目次
過失とは
過失とは、常識的な注意をしていれば防げていたにもかかわらず、不注意によって事故や損害を引き起こしてしまうことをいいます。
例えば、車を運転していて横断歩道の歩行者に気づかずにひいてしまった場合、それは過失による事故になります。注意していれば事故という結果が起こる可能性に気づけていたはずが、必要な注意を怠ったために発生させてしまうことが過失による交通事故です。
過失は刑事責任だけでなく、民事責任として損害賠償の対象になることもあります。そのため、日常生活や業務においては、注意を怠らないことが大変重要です。
故意とは
故意とは、結果が発生することを認識しながら、あえてその行為を行うことをいいます。
例えば、横断歩道を渡る歩行者に、意図的に車を接近させて接触し、けがを負わせた場合、それは故意による行為とされます。この場合、刑事上は傷害罪(刑法204条)に問われ、民事上は故意の不法行為(民法709条)に該当し、加害者には損害賠償義務が生じます。
つまり、故意は「意図的に行う」ことです。結果を明確に理解した上で、あえて行動することを故意といいます。
過失と故意の違い
過失と故意の違いは、「意図的に行ったか」「不注意で行ってしまったか」です。
故意は、良くない結果が起こるとわかっていながら、あえて行動することをいいます。例えば、営業担当者が、過去にトラブルのあった取引先に対し、個人的な恨みから意図的に発注データを改ざんし、会社に不利益を与えてしまうことです。この場合、故意による業務妨害や契約違反となり、企業は法的責任を問われる可能性があります。
一方、過失は、注意をすれば防げたのに、不注意によって事故や損害を引き起こしてしまうことです。例えば、出荷担当者が、確認を怠ったために納品先の注文とは異なる仕様の商品を誤って出荷し、納品先の業務が滞り、損害賠償請求を受ける可能性があることです。この場合、不注意による過失と判断され、企業として責任を取る必要が生じます。
法律上の責任も異なります。刑法上、故意の犯罪行為は原則処罰対象になりますが、過失の犯罪行為の処罰は過失運転致死傷罪など限定的になります。なお、民法では、どちらの場合でも損害賠償責任が発生することがあります。
故意は「意図的に」、過失は「不注意で」という違いがありますが、どちらの場合も法的な責任が発生することを理解しておきましょう。
民法における過失
民法におけるとは、損害の発生が予見可能であることを前提に、それを回避すべきであったにも関わらず、回避しなかったことをいいます。
損害の発生を認識したうえであえて行う故意とは異なります。民法における過失は、程度によって「重過失」と「過失(軽過失)」に分けられます。
重過失
重過失とは、わずかな注意をしさえすれば簡単に結果を予測できたにも関わらず、怠慢により注意を怠った過失です。
例えば、荷物室の扉が完全に閉まらない状態で運送したことで荷物室から高価な絵画を落下させ紛失したという例で、裁判所は、わずかな注意をしさえすれば容易に避けられたとして、運送会社の重過失を認めています(東京地裁平成2年3月28日判決)。
重過失によって損害が発生した場合、故意とほぼ同程度の責任を負うことがあります。
過失(軽過失)
重過失が認められなかった場合でも、「過失」が認められれば損害賠償責任を負う場合があります。重過失との対比によって「軽過失」と表現されることもありますが、法律上用いられる用語ではありません。
過失(軽過失)があったと判断されるのは、普通人として通常なすべき注意を欠いたためにその損害を発生させてしまった場合です。
ただし、普通人という言葉が指し示す意味は、職業や立場などによって基準が変わります。例えば、医療事故の場合、医師には「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」が求められるでしょう。そのため、それに満たない処置をしたために損害が発生したと判断されれば、過失があったとみなされます。
刑法における過失
刑法における過失とは、結果が予見できたにもかかわらず予見せず、さらに、結果の発生を回避できたにもかかわらず回避しないことをいいます。結果を認識したうえでそれを認容する故意とは異なります。刑法における過失には、以下のような分類があります。
- 一般の過失
- 業務上の過失(刑法第211条前段)
- 重過失(刑法第211条後段)
業務上の過失
医療行為のように、危険性のある活動を継続的に行っている医師などが、その業務を行う上での注意を怠った場合に問われるのが、「業務上過失」です。
判例によると、「業務上」の判断基準は、「社会生活上の地位に基づき、反復・継続する行為であって、その行為が他人の生命・身体などに危害を加えるおそれがあるもの」とされており、必ずしも仕事中の過失に限定されるわけではありません。
業務上の過失には一般の過失よりも高度な注意義務が課せられ、刑罰も重くなります 。
重過失
重過失とは、わずかな注意で結果が予見できたにもかかわらず予見せず、さらに、容易に結果の発生を回避できたにもかかわらず回避しないことをいいます。
過失や故意により法律上問題が発生する事例
事業を運営していると、過失や故意が原因により法律の問題に発展することがあります。もし誰かに損害を与えてしまった場合、その責任を取らなければならないこともあるかもしれません。ここでは、「債務不履行」「交通事故」「業務上の事故」「不法行為」といったよくある4つの事例でわかりやすく説明します。
債務不履行
債務不履行とは、契約により生じた義務(債務)を約束通り履行しないことです(民法415条)。債務者が債務を履行しなかった場合、債権者は債務者に対して、以下について請求できます。
- 契約通りの債務の履行
- 損害賠償請求
- 契約の解除
ただし、債務不履行による責任を追及するためには、債務者に帰責事由のあることが条件となります。帰責事由とは、責めに帰すべき理由や落ち度があることです。債務者の故意または過失により債務不履行があった場合に、債務不履行責任を追及できます。
例えば、企業が取引先から納品を受けたにもかかわらず、「資金が不足している」という理由で支払いを行わない場合は、故意による債務不履行といえます。
また、同様のケースで、単純な確認ミスにより支払期限をうっかり過ぎてしまった場合は、過失による債務不履行となります。
いずれのケースでも、取引先は企業に対して代金の支払いを求めることができます。
交通事故
交通事故の原因が過失か故意かによって、加害者が負う法的な責任の重さは変わります。ただし、いずれの場合も被害者からの損害賠償が発生する可能性があります。
例えば、社用車を運転中に、前を走る車が遅いことに苛立ち、意図的に車間距離を詰めて接触事故を起こした場合、この行為は「故意」によるものとみなされます。そのため、加害者には刑事責任および民事上の損害賠償責任が発生します。
一方、仕事の疲れで眠くなり、赤信号に気づかずに交差点へ進入し、歩行者をひいてしまった場合、これは「重過失」による事故となります。重過失は「過失」ではあるものの、裁判では故意に近い扱いを受けることが多く、過失運転致死傷罪が適用される可能性があります。
また、過失(軽過失)は重過失と比べて責任の重さは軽いですが、損害賠償が発生しないわけではありません。つまり、交通事故においては、過失か故意かによって法的責任の重さが変わるものの、いずれの場合も加害者には何らかの責任が発生し、被害者への補償が求められるという点を理解しておきましょう。
業務上の事故
業務上の事故とは、勤務中に発生したミスやトラブルによって、会社や第三者に損害を与えてしまうことをいいます。
会社は労働者の働きによって利益を得ています。しかし、労働者が故意または過失によって会社に損害を与えた場合、会社が労働者に対して損害賠償を求めることがあります。
例えば、物損事故で車が廃車になったり、営業で外回り中に人をひいてしまったりすることは「業務上の事故」になります。
業務上の事故における責任の所在は、事故の内容や状況によって異なります。基本的に、労働者が業務を行っている最中に発生した事故については、会社が責任を負うことが多いです。
しかし、もし労働者が故意や重大な過失によって事故を引き起こした場合、会社は労働者に対して損害賠償を求めることができます。
業務上の軽微なミスについては、労働者が負担する責任を問うことは不適切とされることが多く、会社側が責任を負うケースが一般的です。したがって、事故の重大さや状況に応じて、責任の所在は慎重に判断されます。
不法行為(契約書締結上の過失など)
民法では契約締結上の過失が問題となる場合もあります。契約締結上の過失とは、契約の交渉段階において信義則上の義務違反がある場合などに問題となります。例えば、契約交渉を一方的に不当に破棄した場合などです。契約締結上の過失が問題となり、損害賠償責任を負う場合もあるので、注意しましょう。
無過失責任とは
無過失責任とは、損害が発生した際に、加害者に故意や過失がなくても損害賠償責任を負うことをいいます。通常、民法では過失責任主義が採用され、損害賠償責任を負うのは加害者に故意や過失がある場合に限られます。しかし、特定のケースでは、加害者に過失がなくても責任を負うことがあります。
例えば、工作物の設置・保存の瑕疵に対する所有者責任、製造物の欠陥等が原因で事故が起こることに対する製造物責任、環境汚染に対する事業者責任などが該当します。加害者に過失がなくても責任を負う理由には、「危険を生み出す者が責任を負うべき」という危険責任や、「利益を得る者は損害も負担すべき」という報償責任の考え方があるからです。
過失の内容を理解して法的リスクを最小限に抑えましょう
民法と刑法では過失の分類などに違いがあります。民法については、代表例として不法行為により損害賠償責任が発生する要件としての「過失」があり、分類として重過失と軽過失がありました。他方、刑法上の過失については、分類として、一般の過失、業務上の過失、重過失がありました。
過失がもたらす法的リスクを最小限に抑えるために、過失の定義や民法における過失と刑法における過失の違いなどを理解しておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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