- 更新日 : 2023年3月23日
契約における「解除」と「解約」の違いを解説
契約関係を解消することを表現する際に、「解除」を用いる時もあれば、「解約」を用いる時もありますが、一般的に解約と解除は法的な用語として意味に違いがあります。この記事では、解除と解約の違いについて解説します。
解約と解除の違い
解除と解約は、いずれも契約関係を解消するという点では共通する法令用語です。しかし、その法的効力については意味が異なります。
「解除」は一般に契約締結時にまで遡って契約関係が解消されることを指し、これに対して将来に向かってのみ契約関係が解消されることを解約といいます。両者の違いは、たとえば契約関係を解消した場合に解消するまでの間でやり取りしたものを返還する必要があるか否かという形で表れます。
以下で、解除と解約について個別に整理していきましょう。
契約の解除とは
契約の解除とは、契約が有効に成立した後、契約の当事者の一方が解除権を有する場合に相手方に対する意思表示によって契約関係を解消することをいいます(民法540条)。この場合の法的効力のポイントは、原則として、はじめから契約がなかったことになるため、契約関係を解消する時点までにやり取りしたものを返還しなければならない(原状回復が必要)という点です(民法620条、民法545条)。
原状回復をする場合において、金銭の返還をする場合には利息を付さなければなりません(民法545条2項)。また、金銭以外の契約の目的物から経済的な利益が生じていた場合も返還しなければならないので、注意が必要です(民法545条3項)。
賃貸借契約における解除
上記では、契約の解除における法的効力のポイントは、原則として、はじめから契約がなかったことになることであるといいました。もっとも、賃貸借契約における契約の解除については、はじめから契約がなかったことになるのではなく、将来に向かってのみ効力を生じます(民法620条)。賃貸借契約のような継続的な契約の場合には、契約に基づく相互の債務の履行が長期間にわたるため、過去に遡って返還・清算を行うことは現実的ではないからです。
賃貸借契約が解除される例として、賃料が滞納された場合や貸主に無断で借主が第三者に賃借物を貸した(転貸借)場合が考えられます。
なお、賃貸借契約の詳細については、以下の記事を参照ください。
契約解除の方式とは
契約の解除は、相手方に対する意思表示によってします(民法540条1項)。この意思表示は、口頭で相手方に伝えることでも可能です。しかし、後になって相手方が「契約は解除されていない」などと主張するなどトラブルとなる可能性があります。そのため、証拠として残すために書面で行うこと少なくありません。
書面で行う場合に最低限記載すべき事項は、以下のとおりです。
- 契約当事者の特定
- 契約内容の特定
- 契約締結日
- 解除理由
- 催告が必要であれば催告期間を明示し、期間終了後ただちに契約解除をする旨
なお、契約解除通知書の詳細については、以下の記事を参照ください。
契約の解約とは
一方、契約の解約とは、一般的に契約の効果を将来に向かって消滅させることをいいます。
民法上の契約で解約される典型例として、賃貸借契約、委任契約、組合契約などが挙げられます。以下では賃貸借契約における解約を整理します。
賃貸借契約における解約
契約期間の定めのない賃貸借契約の場合はいつでも解約でき、一定期間が経過すると契約関係が解消されます(民法617条)。申入れから契約関係の解消までの期間は、土地の場合には1年、建物の場合には3ヶ月、動産及び貸席の場合には1日とされています。
契約期間の定めのある場合は、原則契約期間中の解約はできません。ただし、解約権留保特約が付されていれば、民法617条に準ずる形で、申入れから一定期間経過すると契約関係を解約することができます(民法618条)。
建物所有を目的とする土地の賃貸借と建物の賃貸借
賃貸借契約における解約は、①建物所有を目的とする土地の賃貸借と②建物の賃貸借の場合に大きく修正されます。
①の場合、契約期間は通常30年となります(借地借家法3条)。したがって、契約期間の定めのない賃貸借契約がありません。②の場合、貸主による解約の申入れから契約関係の解消までの期間は、6ヶ月とされています(借地借家法27条)。
借主が解約の申入れをする場合、解約通知書には、最低限、以下の項目を記載します。
- 物件情報
- 契約者情報
- 提出日
- 解約日
- 退去理由
- 転居先
- 返金分の振込口座
なお、不動産賃貸借契約における解約通知書(退去届)については、以下の記事を参照ください。
契約の解消では解除と解約の違いに注意
解除と解約の大きな違いは、その法的効力が、はじめからなかったものとして契約関係を解消するものなのか、将来に向かって契約関係を解消するものなのかという点にあります。
また、建物所有を目的とする土地の賃貸借と建物の賃貸借の場合には民法だけでなく借地借家法も関係しますので、状況を整理した上で法令の理解に努めましょう。
よくある質問
解約と解除の違いは?
一般的に解約が将来的な契約関係の解消であるのに対し、解除は初めから契約関係がなかったものとして解消されます。詳しくはこちらをご覧ください。
契約解除の方式は?
契約の解除は、相手方に対する意思表示によってします。法律上、意思表示は口頭で行うことも可能ですが、トラブル回避のために書面で行うことが少なくありません。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
専用実施権とは?通常実施権との違いや申請方法を解説!
他人の特許発明を使って製品の製造等(実施)をするためには、特許権者から実施権の設定を受ける必要があります。実施権には第三者の権利侵害を排他できる「専用実施権」と、排他的効力を有さない「通常実施権」があり、それぞれ定義が異なります。この記事で…
詳しくみる営業秘密とは?不正競争防止法における定義や対策を紹介
営業秘密とは法的保護の対象となり得る情報のことで、不正競争防止法(不競法)で定義されている法律用語です。本記事では営業秘密について詳しく解説します。同法の保護を受けるための3要件や企業秘密・知的財産との違い、漏洩事例とその対策・秘密保持誓約…
詳しくみる非弁行為とは?弁護士72条違反行為をわかりやすく解説
非弁行為(非弁活動)とは、弁護士法に抵触する違法行為のことです。弁護士法72条違反行為が代表的で、ほかにもいくつかの関連規定がありますが、条文を見ただけでは何が違反行為なのかがよくわかりません。 そこで、ここでは「具体的にどのような行為が非…
詳しくみる根保証契約とは?民法改正の影響などもわかりやすく解説
物件や金銭を借り入れる場合に、そのリスクヘッジとして用いられるのが保証契約(民法446条1項参照)です。保証にはいくつかの種類がありますが、そのうちの1つに根保証があります。 この記事では、根保証契約の基本事項や民法改正による変更点について…
詳しくみる権利の主体とは?権利能力の範囲や事業者が知っておきたい点を解説
権利の主体とは、法的に権利能力を有する者のことです。権利能力があるのは人(自然人)と法人であり、契約の当事者となって権利を取得することや、義務を負うことができます。 本記事では権利の主体について概要を説明するとともに、権利能力がある者と認め…
詳しくみる手形保証とは?保証人は誰を選べばよい?
お金を借りる際に保証人を求められることがありますが、手形にも手形債務を保証する手形保証という制度があります。この手形保証をする人を手形保証人と呼ぶことがあります。手形保証は、民事保証とは意味合いが異なります。ここでは、手形保証の基礎知識や民…
詳しくみる