• 更新日 : 2025年4月30日

遅延損害金とは?計算方法や上限利率、民法改正による変更点などをわかりやすく解説

契約を締結した後、相手が期限までに債務を履行してくれれば問題はありませんが、期限を過ぎても履行してもらえない場合は、相手に対して損害賠償を請求することができます。ここでは遅延損害金の概要や計算方法、延滞金との違い、法定利率の役割などについて解説します。

遅延損害金とは

遅延損害金(遅延利息)とは、期限までに債務が履行されなかった場合の損害賠償金のことです。遅延損害金の読み方は、「ちえんそんがいきん」です。元本に対して一定の利率で計算されるため、「遅延利息」と呼ばれることもあります。しかし債務の性質は利息ではなく、あくまで損害賠償金です。

債務不履行には「履行不能」「履行遅滞」「不完全履行」がありますが、金銭債務の債務不履行は履行遅滞に限られます。そのため「遅延損害金」は、金銭債務の債務不履行でよく使われる言葉です。しかし、遅延損害金は金銭債務の債務不履行に限られるものではありません。

遅延損害金と延滞金の違い

「遅延損害金」と似た言葉に「延滞金」がありますが、どのような違いがあるのでしょうか。どちらも、期限に遅れた場合のペナルティとして課されるものである点は同じです。遅延損害金は民事一般の債権ですが、延滞金の対象は公的な債権である点が異なります。

公的な債権(公債権)とは、税金や下水道料金などです。ちなみに上水道料金は私法上の債権(私債権)なので、期限に遅れた場合は「延滞金」ではなく「遅延損害金」が発生します。公債権は公法上の原因によって発生し、債務者はこれに不服がある場合は不服申し立てをすることができます。一方、私債権は契約などの私法上の原因によって発生し、不服があっても不服申し立てをすることはできません。

公債権には税金のように強制徴収ができる強制徴収公債権と、強制徴収ができない非強制徴収公債権があります。強制徴収公債権は、裁判所の債務名義がなくても自力執行が可能です。非強制徴収公債権は私債権と同様に、支払督促や民事訴訟を提起して債権を回収することになります。

遅延損害金と利息の違い

利息は、お金を貸し借りする際に「借りていること自体」に対して支払うものです。いわば、元本を使用するための「使用料」のような性質があります。これに対して遅延損害金は、支払期限を過ぎたことで相手に迷惑や損害をかけたことに対する「賠償」の意味合いを持つものです。

例えば、100万円を年利5%で借りた場合、期限内に返済していれば利息は5万円です。しかし、もし返済が遅れた場合、契約で定めた遅延損害金(例えば年15%)が発生し、追加で支払いが必要になることもあります。これは、約束の期限を守らなかったことによって生じた損害を補うためです。

このように、利息は「借りた対価」、遅延損害金は「遅れたことへの責任」と覚えておくとわかりやすいでしょう。両者は似ているようでまったく違うため、契約書の内容や条項を確認する際は、しっかり区別して理解しておくことが大切です。

遅延損害金が発生するタイミング

遅延損害金は、支払期限の翌日から発生するのが原則です。
これは、期限を過ぎた時点で債務者が「遅れた責任」を負うことになり、その遅れによって債権者に損害が生じると考えられるためです。支払いが1日でも遅れれば、その日から損害金の計算が始まることになります。

例えば、契約書に「支払期限:4月1日」と記載されている場合、4月2日から遅延損害金が発生します。中には「支払期限の翌日から○日間は猶予する」といった特約を設けている契約もありますが、特に記載がなければ、翌日からのカウントが基本です。

このように、遅延損害金は支払いの「遅れた日」から発生するという考え方が基本になります。契約書の条文に沿って、起算日を正確に押さえておくことが大切です。

遅延損害金の上限利率

遅延損害金の利率を設定する場合、上限はあるのでしょうか。

利息制限法4条1項は、

「金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第1条に規定する率の1.46倍を超えるときは、その超過部分について、無効とする」

と規定しています。

第1条に規定する率」は以下のとおりです。

  • 元本の額が10万円未満の場合:年利20%
  • 元本の額が10万円以上100万円未満の場合:年利18%
  • 元本の額が100万円以上の場合:年利15%

したがって、遅延損害金の上限は以下のようになります。

  • 元本の額が10万円未満の場合:年利20%×1.46倍=29.2%
  • 元本の額が10万円以上100万円未満の場合:年利18%×1.46倍=26.28%
  • 元本の額が100万円以上の場合:年利15%×1.46倍=21.9%

ただし利息制限法7条に特則があり、

「第4条第1項の規定にかかわらず、営業的金銭消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が年2割を超えるときは、その超過部分について、無効とする。」

と規定されています。

つまり、消費者金融などの業者の遅延損害金の上限は20%ということです。

なお、遅延損害金の上限を超えて支払った部分は無効になります。したがって上限を超えて支払ってしまった場合は、元本に充当されます。元本に充当した結果、完済になっている場合は、超過分は過払い金として貸主に返還を請求することができます。

遅延損害金の法定利率は民法改正により引き下げ

遅延損害金の法定利率とは、利息について当事者が利率を定めていない場合に適用される利率のことです。

かつての民法では、法定利率は年5分(年率5%)とされていましたが、民法改正により、当初利率は年率3%とし、3年を1期とし、1期ごとに変動するものとなりました。日本では低金利が長く続いており、年5分というのはあまりにも実態とかけ離れていたため、民法改正で変動制が採用されることになったのです。

変動制では過去5年分の短期貸付の平均利率の平均値を「基準割合」とし、直近の利率との差が1%を超える場合は1%未満を切り捨てた上で、法定利率に反映させることになります。なお、法定利率が適用される基準時は「利息が生じた最初の時点」です(民法404条1項)。

債務不履行により遅延損害金が発生する場合についても、当事者間で利率を決めていなかった場合は法定利率による遅延損害金が発生します。この場合の「利息が生じた最初の時点」は、「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点」になります(民法419条1項)。

引用:民法|e-GOV法令検索

遅延損害金の計算方法・シミュレーション

遅延損害金は、債務額に遅延損害金利率を乗じて計算します。計算式は以下のとおりです。

遅延損害金 = 債務額 × 遅延損害金利率 × 延滞日数 ÷ 365(閏年の場合は366)

債務額とは、返済期限が到来した債務額のことです。遅延損害金利率は、当事者間で「遅延損害金利率は10%とする」などと取り決めをしている場合は、その利率になります(約定利率)。当事者間で遅延損害金利率について取り決めをしていない場合は、法定利率である3%が適用されます。具体例でシミュレーションしてみましょう。

一括返済する場合

ケース1:借入金100万円、年利10%、返済期限1年後一括返済、遅延損害金利率年利15%、返済期限より1年間債務不履行の場合

遅延損害金=(100万円+100万円×10%)×15%=16万5,000円

ケース1は借入金を1年後の期限に一括返済する場合で、1年間返済が行われなかったときの計算方法です。最も単純な計算方法といえます。

分割返済する場合

しかし、実際は分割で弁済する場合が多く、計算は少し複雑になります。分割する場合の計算方法を見てみましょう。

ケース2:借入金100万円、遅延損害金利率年利15%、2022年1月より毎月3万円を返済、2022年3月末まで債務不履行の場合

遅延損害金=(3万円×15%×31日÷365日)+(6万円×15%×28日÷365)+(9万円×15%×31日÷365日)=2,219円

月払いのため、ケース2では1ヵ月ごとに返済額が加算されていきます。

遅延損害金を請求する方法

遅延損害金を請求するには、まず「支払いが遅れている」という事実を相手に明確に伝えることが大切です。

なぜなら、相手が支払いを忘れていたり、そもそも遅延損害金が発生していることに気づいていない場合もあるからです。こちらから何も言わなければ、支払われる見込みは低くなってしまいます。

具体的には、請求書に遅延損害金を加えた金額と支払期日を明記し、再送するのが基本です。これに加えて、「〇月〇日までにご入金がない場合は、法的措置を検討いたします」と一文添えることで、支払いの意思を促す効果が期待できます。文面に正式な形を取りたい場合は、内容証明郵便を使うのもひとつの方法です。

契約書に遅延損害金の利率が明記されていない場合は、民法に定められた法定利率(現在は年3%)で計算します。
算出方法は「債務額 × 年利率 × 延滞日数 ÷ 365日」です。利率や日数に誤りがないよう注意してください。

遅延損害金は、請求しなければ支払われません。まずは相手にしっかり伝えること、そして必要があれば弁護士に相談することも視野に入れましょう。

遅延損害金を払ってくれない場合の対処方法

遅延損害金を請求しても、相手が支払わないケースは少なくありません。そのまま放置すれば時効で請求できなくなる可能性もあるため、状況に応じて早めに対応を取ることが大切です。以下では、具体的な対処方法を4つご紹介します。

遅延損害金の減額を検討する

すぐに支払ってもらえない場合は、遅延損害金を一部減額して和解を図るという選択肢もあります。

理由は、相手が債務整理を検討している場合、無理に全額を請求すると結局1円も回収できなくなる恐れがあるからです。自己破産となれば、遅延損害金どころか元金すら戻ってこないケースも考えられます。

例えば「遅延損害金の一部免除と引き換えに一括で支払ってもらう」など、現実的な着地点を見つけた方が結果的に得になることもあります。
必ずしも満額を受け取ることだけが正解ではありません。相手の状況を見ながら、柔軟に対応することがポイントです。

裁判所を通して支払督促をする

相手が話し合いに応じない場合は、簡易裁判所を通じて「支払督促」を申し立てる方法があります。

これは、裁判所から相手に「○○円を支払ってください」と通知してもらう手続きで、通常の裁判よりも費用が安く、手間も少ないのが特徴です。

具体的には、支払督促が届いても相手が2週間以内に異議を出さなければ、裁判をしなくてもそのまま強制執行に進むことができます。書類を整えれば弁護士に依頼せず自分で進めることも可能です。

穏便に、かつ法的な効力を持って催促したい場合には、有力な選択肢となります。

強制執行による差押えをしてもらう

支払督促や裁判で勝訴したにもかかわらず、相手が無視を続ける場合は「強制執行」によって回収を図ることができます。

これは、裁判所の判断をもとに、相手の給料や銀行口座、不動産などの財産を差し押さえる手続きです。

例えば、相手の勤務先がわかっていれば給料の一部を毎月差し押さえることも可能です。ただし、強制執行には「債務名義(=判決や支払命令など)」が必要なので、手続きには一定の準備が必要です。

時間も費用もかかりますが、確実に回収したい場合には、現実的な手段のひとつです。

弁護士や専門家に相談する

請求や法的手続きに不安があるなら、早い段階で弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。

遅延損害金の請求は、金額や時効、契約書の内容など法律知識が関係するため、自己判断で進めると不利になりやすいです。

専門家に依頼すれば、内容証明の作成から交渉、必要に応じて訴訟や強制執行まで一貫してサポートしてもらえます。初回相談が無料の事務所も多いため、まずは気軽に話を聞いてみるのも1つの方法です。
無理に一人で抱え込まず、専門家の力を借りることで、より良い解決につながります。

契約書に遅延損害金の記載がない場合はどうなる?

契約書に遅延損害金の記載がなくても、法定利率に基づいて請求することができます。
なぜなら、民法には、当事者が利率を決めていない場合は法定利率を適用するというルールがあるからです。このため、契約書に遅延損害金の条項がなかったとしても、請求できないということにはなりません。

具体的には、貸金契約に遅延損害金の定めがない場合でも、返済期限を過ぎれば、法定利率(原則として年3%)に従って遅延損害金を計算できます。仮に100万円の返済が60日遅れたとすると、約4,931円の遅延損害金が発生する計算になります。

このように、契約書に書いていないからといって、損害が放置されるわけではありません。法律の仕組みでカバーされているため、まずは法定利率に基づいて計算し、相手に請求することが大切です。

債権者も債務者も遅延損害金について正しく理解しましょう

今回は、遅延損害金の概要や延滞金との違い、法定利率の役割、遅延損害金の計算方法などについて解説しました。遅延損害金は基本的に当事者間で自由に決めることができますが、利息制限法により一定の制限があります。

当事者間で取り決めをしなかった場合は、法定利率による遅延損害金を求めることができます。遅延損害金の知識は債権者の立場はもちろん、債務者の立場になっても重要なので、本記事を参考にして知識を深めてください。


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