- 作成日 : 2025年11月11日
工事請負契約書の約款とは?契約書との違いや構成、読み方のポイントを徹底解説
工事請負契約書を交わす際、分厚い書類の後半に添付されている「約款」を、つい読み飛ばしてはいないでしょうか。実はこの工事請負契約書の約款には、万が一のトラブル発生時に自社を守るための重要なルールが詳細に定められています。
この記事では、工事契約における約款の基本的な役割から、契約書本体との違い、具体的な構成内容、そして契約前に必ず確認すべき読み方のポイントまで、網羅的に解説します。
目次
工事請負契約書における約款とは何か?
工事請負契約書における約款とは、契約内容に関する細かな取り決めや、当事者間の権利義務、トラブル発生時の解決手順などをあらかじめ定型的にまとめた条項集のことです。
国土交通省の中央建設業審議会が「公共工事標準請負契約約款」や「民間建設工事標準請負契約約款」を定めていることからも、約款が契約の公平性と明確性を担保するための重要な要素であることがわかります。これらの標準約款は、多くの契約の雛形として利用されています。
工事請負契約では、工事の内容、請負代金、工期といった基本的な合意事項を「契約書」本体に記載します。しかし、それだけでは、予期せぬ事態(例:天災による工期の遅れ、仕様変更の必要性、代金未払いなど)が起きた際の対応方法が不明確です。そこで、あらゆる状況を想定し、その際の具体的なルールを定めたものが「約款」です。
約款は、個別の契約ごとにゼロから作成するのではなく、定型的な条文を適用することで、契約手続きの効率化と、当事者間の公平なリスク分担を図る役割を担っています。
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そもそも工事請負契約書とは?
工事請負契約書とは、発注者(施主)が受注者(建設業者)に対して特定の工事の完成を依頼し、受注者がその完成を約束した上で、発注者が成果物に対して報酬(請負代金)を支払うことを証明する法的な文書です。
この契約は民法第632条で定められている「請負契約」の一種であり、建設業法第19条では、契約内容を明確にし、後の紛争を防ぐために、当事者が署名または記名押印した書面(契約書)を交付することが義務付けられています。工事請負契約書には、主に以下の事項が記載されます。
- 工事名と工事場所
- 工期(着工日と完成日)
- 請負代金の額と支払方法
- 設計図書(図面や仕様書)
- 契約不適合責任(瑕疵担保責任)に関する事項
- その他、当事者間の特約
これらの基本事項を文書化することで、口約束による「言った・言わない」のトラブルを未然に防ぎ、双方の権利と義務を明確にします。
約款と契約書にはどのような違いがある?
約款と契約書の違いは、契約書が「当事者間の個別の合意事項」を記した本体部分であるのに対し、約款はその合意事項を補足し、契約履行に関する「包括的かつ詳細なルール」を定めたものであるという役割の違いにあります。
契約実務において、契約書は注文書・注文請書といった形式で簡潔に交わされることもありますが、その場合でも「別途定める約款の条項に従う」といった一文が記載されるのが一般的です。これは、契約書本体と約款が一体となって初めて契約全体が成立することを示しています。両者の関係性と役割の違いを、以下の表にまとめました。
| 項目 | 契約書(本体) | 約款 |
|---|---|---|
| 役割 | 個別具体的な合意事項の明記 | 契約全体に適用される定型的・詳細なルールの規定 |
| 記載内容 | 工事名、工期、請負金額、当事者名など、その契約に固有の情報 | 権利義務、危険負担、遅延損害金、契約解除、紛争解決など、あらゆる契約に共通しうるルール |
| 位置づけ | 契約の「顔」となる本体部分 | 契約の細目を補う「取扱説明書」や「ルールブック」 |
| 具体例 | 「A工事を、B社がC社に対し、請負代金〇〇円で、令和〇年〇月〇日までに完成させる」 | 「天災地変その他不可抗力により工事の続行が不能となった場合、発注者と受注者は協議の上、工期の延長または契約の解除を決定する」 |
このように、契約書と約款は相互に補完し合う関係にあり、どちらか一方だけでは契約内容が不十分となります。両方を合わせて一つの「工事請負契約」と捉えることが重要です。
工事請負契約書の約款はどのような内容で構成されている?
工事請負契約書の約款は、一般的に「総則」「当事者の権利義務」「工事の施工」「契約金額と支払い」「契約の変更・解除」「紛争解決」といった章立てで構成されています。
これは、中央建設業審議会が作成・勧告している「民間建設工事標準請負契約約款」の構成に準拠しているケースが多いためです。この標準約款は、建設工事における典型的なリスクや論点を網羅しており、公平な契約内容の指針とされています。約款に含まれる主な条項と、その概要は以下の通りです。
- 総則
- 契約の基本原則、設計図書との関係、一括下請負の禁止など、契約全体に関わる基本的なルールを定めます。
- 当事者の権利義務
- 発注者側の義務(土地の確保、代金支払いなど)と、受注者側の義務(工事の完成、安全管理など)を具体的に規定します。現場代理人や監督職員の権限についてもここで定められます。
- 工事の施工に関する条項
- 工期、工程表の提出、工事の検査・引渡し、第三者への損害、不可抗力による損害の負担など、工事を進める上での具体的なルールを定めます。
- 契約金額と支払いに関する条項
- 請負代金内訳書の提出、前払金や部分払いの条件、支払いが遅れた場合の遅延損害金など、金銭に関する重要な事項を規定します。
- 契約の変更・解除に関する条項
- 発注者・受注者双方からの申し出による契約内容の変更(追加工事など)や、契約解除ができる条件、その際の手続きや清算方法について定めます。
- 紛争解決に関する条項
- 契約に関して当事者間で争いが生じた場合の解決方法(協議、調停、仲裁など)や、管轄裁判所について定めます。
これらの条項を事前に確認することで、どのような場合に、誰が、どのような責任を負うのかを明確にすることができます。
約款にはどのような種類がある?
工事請負契約で用いられる約款には、公的機関が作成した「標準約款」と、企業が独自に作成した「個別約款(独自約款)」の大きく2種類が存在します。
国土交通省・中央建設業審議会は、契約当事者間の紛争を未然に防止し、公正な契約関係を築くことを目的に、「公共工事標準請負契約約款」や「民間建設工事標準請負契約約款(甲・乙)」などを策定し、その使用を推奨しています。
標準約款の重要性
標準約款は、専門家による議論を経て作成されており、発注者と受注者双方の権利義務やリスク分担が公平になるよう配慮されています。そのため、契約交渉のベースとして標準約款を用いることは、契約内容の妥当性を確保し、トラブルを予防する上で非常に有効です。特に建設業に詳しくない担当者にとっては、信頼できる指針となります。
(※)最新の新旧対照表で改正点(契約不適合・盛土対策等)を確認のうえ、自社の個別約款を差分整合させると、紛争予防に有効です。
個別約款と標準約款の使い分け
大手ゼネコンやハウスメーカーなどは、自社の業務内容に合わせてカスタマイズした個別約款を使用することがあります。個別約款を提示された場合は、その内容が標準約款と比べて自社に不利な内容に変更されていないかを、前述した「読み方のポイント」に沿って慎重に比較・検討する必要があります。もし不利な条項があれば、修正を求める交渉を行うことが重要です。
工事請負契約書の約款を読む際に注意すべきポイント
工事請負契約書の約款を読む際は、特に「契約不適合責任」「工期延長・追加費用」「不可抗力」「遅延損害金」「契約解除」の5つの条項に注意して確認することが極めて重要です。
これらの条項は、予期せぬトラブルが発生した際の金銭的な負担や責任の所在に直接関わるため、内容の理解が不十分だと大きな損害につながるリスクがあります。特に、標準約款から不利な内容に変更されていないかを確認する視点が求められます。契約を締結する前に、最低限チェックすべき5つのポイントを具体的に解説します。
ポイント1. 契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)の範囲と期間
引き渡された建物や工作物に欠陥が見つかった場合、受注者がいつまで、どのような責任を負うのかが定められています。責任を負う期間(通知期間)が、標準約款(例:引渡しから2年)よりも不当に短縮されていないかを確認しましょう。
2020年の民法改正により、従来の「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」へと変わりました。これは、完成した目的物が契約内容に適合しない場合に、発注者が受注者に対して「追完請求(修理や代替物の請求)」「代金減額請求」「損害賠償請求」「契約解除」を求めることができる権利です。約款でこの権利が不当に制限されていないか、注意深く確認する必要があります。
ポイント2. 工期延長や追加費用の条件
発注者側の都合による仕様変更や、予期せぬ地中障害物の発見など、受注者の責任ではない理由で工期が延長されたり、追加の費用が発生したりする場合の条件を確認します。どのような場合に工期延長や追加代金が認められるのか、その協議手続きは明確に定められているかを見ましょう。
「発注者の責に帰すべき事由」や「不可抗力」など、工期延長が認められる具体的なケースが列挙されているかを確認します。また、追加費用が発生した場合の金額の算定方法や、協議が不調に終わった場合の対応についても記載があるか見ておくことが重要です。
ポイント3. 不可抗力による損害の負担
地震、台風、洪水といった自然災害など、当事者の誰も責任を負えない「不可抗力」によって、施工中の建物に損害が生じた場合の負担割合を確認します。一般的には、引き渡し前の損害は受注者負担とされることが多いですが、その範囲が妥当かを確認しましょう。
標準約款では、不可抗力によって生じた損害のうち、「施工済みの部分」については発注者が、「未施工の部分の材料」などについては受注者が負担するといった形で、公平なリスク分担が定められていることが多いです。この負担割合が一方的に不利な内容になっていないか、注意が必要です。
ポイント4. 遅延損害金の利率
遅延損害金の利率は当事者の合意で設定されます。合意がなければ民法第404条の法定利率(現行:年3%)が適用されます。消費者が相手方となる消費者契約では、消費者契約法第9条2号により遅延損害金の上限が年14.6%とされますが、事業者間の工事請負には通常直接は適用されません。
一方、下請取引については下請代金支払遅延等防止法により、支払遅延時の遅延利息は年14.6%とされ、当事者の合意より優先して適用されます。実務では、標準約款や個別契約で合理的な利率を明記し、適用関係(民法・下請法・消費者契約法)を踏まえておくことが重要です。
ポイント5. 契約解除の条件と手続き
どのような場合に契約を解除できるのか、その条件(催告が必要か、無催告で解除できるかなど)と、解除後の清算方法が明確に規定されているかを確認します。特に、相手方の債務不履行(工事の放棄、代金不払いなど)があった場合に、自社が不利にならないような解除権が確保されているかを見ることが重要です。
契約解除は最終手段ですが、いざという時のために重要な条項です。一方的な解除権が相手方にのみ与えられていないか、解除に伴う損害賠償の範囲が妥当かなど、慎重に確認する必要があります。
電子契約で工事請負契約書を交わすメリット
近年、工事請負契約書を電子データで作成・締結する「電子契約」の導入が進んでいます。公共工事では電子契約システムGECSが本格運用され、国交省の直轄工事・業務は原則電子契約となるなど、活用の動きが広がっています。
電子契約を活用することで、コスト削減や業務効率化など、多くのメリットが期待できます。建設業法においても、法改正によって相手方の承諾を得れば電子契約を締結することが認められており、活用のための法的環境も整っています。
電子契約を導入する主なメリットは以下の通りです。
印紙税が不要になるコスト削減効果
紙の工事請負契約書は、契約金額に応じて収入印紙を貼付する必要がありますが、電子契約の場合は印紙税が課税されないため、印紙代を大幅に削減できます。
契約締結のスピードアップと業務効率化
契約書の印刷、製本、押印、郵送といった手間と時間が不要になります。クラウド上の電子契約サービスを利用すれば、遠隔地の相手とも即座に契約を締結でき、リードタイムを短縮できます。
書類の保管・管理が容易になり、検索性も向上
紙の契約書のように物理的な保管スペースを必要としません。また、契約内容をデータで管理できるため、過去の契約書を検索する際も、日付や取引先名などで簡単に見つけ出すことができます。
工事請負契約書の約款を正しく理解してトラブルを防ごう
本記事では、工事請負契約書の約款の重要性と、契約書本体との違い、具体的な構成、そして特に注意すべき読み方のポイントについて解説しました。
約款は、契約の細かなルールを定める「取扱説明書」であり、その内容を契約前に正しく理解しておくことが、将来の予期せぬトラブルから自社を守るための鍵となります。特に、「契約不適合責任」や「工期延長」などの条項は、金銭的な負担に直結するため、慎重な確認が不可欠です。建設工事請負契約を締結する際は、ぜひこの記事を参考に、約款の隅々まで目を通す習慣をつけましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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