• 作成日 : 2025年8月19日

英文契約書のリーガルチェックガイド|弁護士に依頼する費用や流れなどを徹底解説

海外企業との取引で不可欠となる英文契約書。安易にサインをしてしまうと、予期せぬトラブルや多大な損失に繋がる危険が潜んでいます。日本の商習慣が通用しない国際取引では、自社を守るために、法的な観点から契約内容を精査するリーガルチェックが極めて重要です。

この記事では、英文契約書のリーガルチェックの必要性から、具体的なチェックポイント、弁護士費用の相場、そして依頼する際の流れまで分かりやすく解説します。

英文契約書のリーガルチェックとは

英文契約書のリーガルチェックとは、単に契約書を日本語に翻訳することではありません。その本質は、契約書に記載された条文が、実際の取引内容やビジネスモデルに照らして、法的にどのようなリスクを内包しているかを分析・評価し、自社に不利益な点を洗い出す作業です。

翻訳ツールはあくまで言語の置き換えしかできませんが、弁護士によるリーガルチェックでは、以下の点まで踏み込みます。

  • リスクの特定
    自社に一方的に不利な義務、権利の放棄、将来の事業展開を縛る条項などを見つけ出します。
  • 問題点の言語化
    なぜその条項がリスクなのか、法的な観点から具体的に説明します。
  • 交渉材料の提供
    リスクを回避・低減するための修正案や、相手方と交渉すべきポイントを提示します。

英文契約書のリーガルチェックを自分で行う方法

専門家への依頼には費用がかかるため、「まずは自分でチェックできないか」と考える方も多いでしょう。近年の技術発展により、個人で対応できる範囲は広がっていますが、そこには明確な限界が存在します。

翻訳ツール・AIで確認できること

AI翻訳や契約書レビューツールの精度は近年大幅に改善し、一般文書で有用性が高まりつつありますが、法的専門文書では依然として誤訳があり、人間によるチェックが不可欠です。

もし専門家に依頼する前に自分で確認する場合は、以下の基本項目をチェックするだけでも、単純なミスを防ぐことに繋がります。

  • 当事者名と住所:正確に記載されているか?
  • 契約の有効期間:いつからいつまでか?自動更新の有無は?
  • 取引の内容:提供するサービスや商品の範囲は明確か?
  • 金額と支払条件:通貨、支払期日、支払方法は具体的か?

専門知識がなければ判断できないこと

AIツールは便利ですが、万能ではありません。ツールが指摘できるのは、あくまで一般的なリスクです。しかし、契約リスクの多くは、その取引の具体的な背景や当事者間の力関係、適用される法律(準拠法)によって大きく変化します。

例えば、ある条項が自社にとって有利か不利かは、事業内容や取引の目的を深く理解していなければ判断できません。法的な解釈や判例に関する専門知識がなければ、本当のリスクを見抜くことは困難です。

英文契約書のリーガルチェックで弁護士が確認するポイント

弁護士は、単に条文を翻訳するのではなく、取引全体を見据えて法的な観点から契約書を精査します。特に以下の9つのポイントは、ビジネスの根幹に関わるため、極めて重要なチェック項目となります。

契約当事者と権限

契約書に記載された会社名、住所が正確であることは基本中の基本です。さらに、契約に署名する人物が、その会社を代表して契約を締結する正当な権限を持っているかを確認します。法人の場合、代表取締役など権限のある役職者による署名が求められます。権限のない人物による署名は、契約そのものが無効となるリスクがあります。

契約の目的・範囲の明確性

「何を」「どこまで」行う契約なのかを、誰が読んでも一義的に理解できるように定義することが重要です。提供する製品の仕様、サービスの具体的な内容、成果物の定義などが曖昧だと、後からトラブルに発展しがちです。特に業務委託契約などでは、委託する業務の範囲を明確に線引きしておく必要があります。

義務と責任の所在

各当事者が負うべき義務と責任を明確に定めます。特に注意すべきは「Indemnity(補償)」条項です。これは、自社が原因で相手方や第三者に損害を与えた場合に、その損害を賠償することを約束する条項です。この範囲が不当に広くなっていないか、自社がコントロールできない事象まで責任を負わされていないかを厳しくチェックします。

契約期間と更新・終了条件

契約がいつから始まり、いつ終わるのかを定めます。不利な条件で自動更新される設定になっていないか、また、相手方に重大な契約違反があった場合などに、自社から契約を解除できる権利(Termination for Cause)が適切に定められているかを確認します。予期せぬ事態に備え、円滑に契約関係を解消できる出口戦略を確保しておくことが大切です。

契約金額、支払条件、通貨

報酬や代金の金額、支払期日、支払方法、そして使用する通貨を明確に定めます。為替変動のリスクをどちらが負うのかも重要な論点です。支払いが遅延した場合の遅延損害金(利息)に関する規定も確認します。特に海外送金では手数料が発生するため、その負担についても事前に合意しておくことが望ましいです。

知的財産権の帰属

業務の過程で生み出された発明や著作物などの知的財産権(IP)が、どちらの当事者に帰属するのかを明確にする条項です。特にソフトウェア開発やコンテンツ制作の委託契約では、この規定が非常に重要になります。自社が開発を依頼した成果物の権利が、当然に自社に帰属するとは限りません。

契約書を作成する際には、双方が解釈に疑義を持たないように、条文を具体的かつ簡潔に記述し、可能であれば数値例や条件分岐を明示すべきです。曖昧な表現を避けることがトラブル予防につながります。

秘密保持義務

取引を通じて相手方に開示する、あるいは相手方から開示される技術情報や顧客情報などの秘密情報を、どのように取り扱うかを定めます。秘密情報の定義、目的外使用の禁止、第三者への開示の制限、契約終了後の秘密保持義務の存続期間などを具体的に規定し、自社の重要な情報資産を保護します。

損害賠償の範囲

万が一、自社が契約違反を犯してしまった場合に、相手方に対して負う損害賠償責任の上限を定める条項です。この上限額が設定されていないと、理論上は青天井で責任を負うリスクが生じます。賠償額の上限を「契約金額の総額」や「過去12ヶ月間の支払額」などに限定することで、事業リスクを適切にコントロールすることが可能になります。

準拠法と紛争解決地

契約内容の解釈や、万が一トラブルが発生した場合に、どの国の法律に基づいて判断するかを定めるのが「準拠法」です。そして、裁判などの法的手続きをどこの国の裁判所で行うかを定めるのが「紛争解決地(裁判管轄)」です。

越境取引を行う場合、紛争時のリスクを下げるためには、日本法および日本の裁判所管轄を指定することが望ましいですが、相手国が拒否する場合もあるため、状況に応じた柔軟な対応が必要です。

英文契約書のリーガルチェックの依頼先の選び方

英文契約書のリーガルチェックは、どの弁護士でも適切に対応できるわけではありません。以下の2つのポイントを重視して選びましょう。

  • 国際取引と英文契約書に関する経験・専門知識
  • 自社のビジネスや業界への理解度

企業のウェブサイトで取扱分野を確認したり、顧問税理士や取引金融機関に紹介を依頼したりする方法があります。複数の候補者と面談し、コミュニケーションの取りやすさやビジネスへの理解度を確認することが、良いパートナーを見つける鍵です。

英文契約書のリーガルチェックの費用の目安

弁護士費用には、作業時間に応じて費用が決まる「タイムチャージ制」と、契約書1通あたりで固定額となる「固定報酬制(フラットフィー)」があります。

契約書の種類費用目安(固定報酬の場合)特徴
秘密保持契約(NDA)など数万円程度定型的でページ数が少ない。
業務委託契約、ライセンス契約など10万円~50万円程度内容が複雑で、検討事項が多い。
M&A関連など100万円単位の個別見積もり専門性が高く、交渉も複雑になるためタイムチャージ制が基本。

上記はあくまで目安です。費用は契約書の複雑さや分量、弁護士の経験によって大きく変動します。見積もりを取る際は、内訳を必ず確認しましょう。

英文契約書のリーガルチェック依頼から契約締結までの流れ

実際に弁護士にリーガルチェックを依頼する場合、以下の流れで進むのが一般的です。

ステップ1. 問い合わせと見積もり依頼

まずは、候補となる法律事務所に連絡を取り、リーガルチェックを依頼したい旨を伝えます。その際、契約書の種類、契約の相手方、契約書のページ数などを伝えると、より正確な見積もりを得やすくなります。複数の事務所から見積もりを取り、比較検討することをお勧めします。

ステップ2. 契約背景や懸念事項の共有

正式に依頼する弁護士が決まったら、契約に至った背景、今回の取引で実現したいこと、特に懸念している点などを詳細に伝えます。どのようなビジネスモデルで、どのようなリスクを避けたいのか、といった具体的な情報を共有することで、弁護士はより実態に即した的確なレビューを行うことができます。この情報共有が、チェックの質を大きく左右します。

ステップ3. 弁護士によるレビューと修正案の提示

弁護士は、共有された情報と法的な専門知識に基づき、契約書を精査します。レビューの結果は、単に問題点を指摘するだけでなく、なぜそれがリスクなのかという解説と共に、具体的な修正案として提示されるのが一般的です。コメントや修正履歴の入ったファイル形式で受け取ることが多いでしょう。

ステップ4. 相手方との交渉と再レビュー

弁護士から提示された修正案をもとに、相手方と交渉を行います。交渉は自社で行うことも、弁護士に依頼することも可能です。相手方から対案が示された場合は、その内容を再度弁護士にレビューしてもらい、法的なリスクがないかを確認します。このプロセスを繰り返し、双方が納得できる形で最終的な契約文案を確定させ、締結に至ります。

英文契約書のリーガルチェックで海外との取引も安心

英文契約書のリーガルチェックは、海外企業との取引を成功させるための単なる手続きではなく、自社の未来を守るための重要な投資です。専門家の知見を活用し、契約書に潜むリスクを事前に把握・管理することで、法的な不安から解放され、ビジネスそのものに集中することができます。不慣れな英文契約書を前にして一人で悩まず、まずは国際取引に精通した専門家へ相談することから始めてみてください。それが、グローバル市場で確かな一歩を踏み出すための賢明な選択です。


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