• 作成日 : 2025年8月19日

約款・利用規約もリーガルチェックが必要!費用相場から作り方までわかりやすく解説

新しいサービスやビジネスを始める際、避けては通れないのが約款や利用規約の作成です。しかし、その内容に法的な不備があると、利用者との思わぬトラブルや高額な損害賠償請求に繋がりかねません。

この記事では、なぜ約款のリーガルチェックが不可欠なのか、その必要性から具体的な進め方、弁護士に依頼する場合の費用相場までわかりやすく解説します。

そもそも約款・利用規約とは

約款・利用規約とは、不特定多数の利用者に対して、同じ内容のサービスを効率的に提供するために、あらかじめ定められた取引条件のことです。

例えば、オンラインショッピングサイトの利用規約には、商品の購入方法、支払い条件、返品ルールなどが記載されています。これにより、事業者は利用者一人ひとりと個別に交渉することなく、スムーズに取引を進めることができます。

民法上では、このような定型的な取引条件を「定型約款」と呼び、一定の要件を満たすことで、利用者との契約内容になることが定められています。

契約と利用規約(定型約款)の違い

一般的な「契約」と「利用規約(定型約款)」の最も大きな違いは、その成立過程にあります。

  • 一般的な契約
    当事者同士が個別の内容について交渉し、合意することで成立します。
  • 利用規約(定型約款)
    事業者が一方的に作成した条項を提示し、利用者がそれに同意することで契約内容となります。利用者が個別の条項について交渉する機会はほとんどありません。

このように、利用者は事業者に対して交渉力が弱い立場にあるため、法律は事業者が一方的に不当な条項を定めることを制限しています。

法律と利用規約はどちらが優先されるのか

法律の規定と利用規約の内容が異なる場合、どちらが優先されるかは法律の性質によって異なります。たとえば、消費者契約法や民法などの「強行法規」(当事者の合意があっても変更できないルール)に違反する利用規約の条項は、たとえ利用者が同意していたとしても無効になります。

例えば、以下のような条項は、消費者契約法に違反し無効と判断される可能性が極めて高いです。

  • 「いかなる理由があっても返金には応じません」
  • 「事業者の故意または重過失による損害でも一切責任を負いません」

「同意したものとみなします」の有効性

Webサイトなどでよく見かける「本サービスを利用した時点で、本規約に同意したものとみなします」という表示には、2020年4月に施行された改正民法が大きく関係しています。

この改正により、「定型約款」が契約内容になるためのルールが明確化されました。以下の2つの要件を満たした場合に、個別の条項を知らなくても、利用者は規約全体に同意したとみなされます。

  1. 定型約款を契約内容とする旨の合意があること
    例:「利用規約に同意する」のチェックボックスを設ける
  2. 事業者が定型約款の内容をあらかじめ利用者に表示していること
    例:利用者がいつでも規約を確認できる場所にリンクを設置する

つまり裁判所は、利用規約が明確かつ適切にユーザーに提示され、合理的な認識と同意が得られていれば、みなし同意を認める傾向があります。

約款・利用規約のリーガルチェックが必要な理由

事業運営において、約款や利用規約のリーガルチェックは、自社と顧客の双方を守るための重要なプロセスです。法的な観点からその内容を精査することで、将来起こりうる様々なリスクを未然に防ぐことができます。

1. 利用者とのトラブルを防ぐため

約款・利用規約は、サービス提供者と利用者との間のルールブックです。内容が曖昧だったり、法的に不適切な表現が含まれていたりすると、解釈をめぐって紛争に発展しかねません。

特に、サービスの停止条件、料金、返金ポリシーといった項目が不明確だと、クレームや訴訟のリスクが高まります。事前に弁護士がチェックすることで、こうした曖昧さを排除し、紛争の火種を摘むことができます。

2. 法改正に対応するため

約款に関連する法律(民法、個人情報保護法など)は、社会情勢に合わせて頻繁に改正されます。

  • 民法改正(2020年)
    定型約款に関するルールが新設され、不当条項の無効化や規約変更時の手続きが厳格化されました。
  • 個人情報保護法改正(2022年)
    個人データの利用や第三者提供に関する事業者の責務が強化されました。具体的には、漏えいの報告義務、本人への通知義務、不適正利用の禁止、仮名加工・個人関連情報制度の導入などが新たに定められました。

古いテンプレートを使い続けたり、一度作成したきり見直しを怠ったりすると、気づかぬうちに法令違反を犯してしまうリスクがあります。定期的なリーガルチェックは、こうした法改正にキャッチアップし、事業の適法性を維持するために不可欠です。

約款・利用規約のリーガルチェックを怠った場合のリスク

専門家によるリーガルチェックを省略することは、短期的なコスト削減に見えるかもしれません。しかし、長期的にはそれをはるかに上回る深刻なリスクを抱え込むことになります。

1. 予期せぬ高額な損害賠償請求

利用規約の免責条項が不適切であったり、サービスの重要なリスクについて説明が不足していたりすると、裁判において免責条項が無効と判断され、損害賠償が命じられるリスクがあります。

特に、免責条項が包括的すぎたり、事業者側の故意・重過失を免除しようとする条項は、消費者契約法により無効と判断されることがあります。

2. サービス停止や行政処分

利用規約の内容が消費者契約法や特定商取引法などに違反している場合、監督官庁から措置命令、是正勧告、公表命令などの行政処分が発動されることがあります。

悪質なケースでは、サービスの一時停止や事業許可の取り消しにまで発展することもあり、企業の社会的信用を大きく損ないます。

3. 利用規約違反で捕まる可能性

「利用規約違反で捕まることはあるのか?」と疑問に思う方もいるかもしれません。通常、利用規約への違反は民事上の契約不履行であり、通常は逮捕には至りません。ただし、風営法や迷惑防止条例違反のように、刑事罰が定められた特定分野では例外的に逮捕される可能性があります。

例えば、以下のようなケースが考えられます。

  • 著作権法違反
    規約で禁止されているにもかかわらず、他人の著作物を無断でアップロードする行為。
  • 詐欺罪
    規約に反して、他人になりすましてアカウントを作成し、詐欺行為を働くこと。

このように、規約違反が刑法などに触れる場合は、当然ながら逮捕・処罰の対象となり得ます。

約款・利用規約の作り方

では、実際に利用規約はどのように作成すればよいのでしょうか。個人で進める場合の基本的なステップと注意点を解説します。

ステップ1. 自社のサービス内容を正確に把握する

提供するサービス、料金体系、禁止事項、想定されるリスクなどをすべて洗い出します。

ステップ2. 盛り込むべき条項の骨子を作成する

洗い出した要素を元に、規約の骨子を作ります。最低限、以下の項目は設けるようにしましょう。

  • サービスの定義
  • 利用料金、支払方法
  • 禁止事項
  • 免責事項
  • 個人情報の取り扱い
  • 知的財産権の帰属
  • 規約の変更手続き
  • 準拠法、管轄裁判所

ステップ3. 同業他社の規約を参考にする

同業他社の規約は、どのような項目が必要かを知る上で参考になります。ただし、ビジネスモデルが異なれば必要な条項も変わるため、あくまで参考程度に留めましょう。

ステップ4. テンプレートのリスクを理解する

Web上には無料で利用できるテンプレートが多数存在しますが、古いテンプレートを使い続けたり、一度作成したきり見直しを怠ったりすると、法改正やガイドライン更新に未対応のテンプレートが最新基準に照らして違反となる可能性があります。

テンプレートはあくまで雛形として利用し、自社の実態に合わせてカスタマイズすることが重要です。

ステップ5. 弁護士のリーガルチェックを受ける

自社でドラフト(草案)を作成した場合でも、最終的には弁護士による専門的なチェックを受けましょう。これにより、法的なリスクを最小限に抑えることができます。

約款・利用規約のリーガルチェックの弁護士費用・期間

弁護士にリーガルチェックを依頼する場合の費用は、規約のボリュームや内容の複雑さ、依頼する弁護士事務所によって異なります。

一般的な相場として、数万円から数十万円程度が目安とされますが、内容・規模・専門性によって大きく変動します。期間についても、通常は数日〜2週間が目安ですが、内容や繁忙期により前後することがあります。

費用を抑えたい場合は、事前に自社でドラフト(草案)を作成してから依頼すると、弁護士の作業量が減り、費用が安くなる傾向があります。

約款・利用規約のリーガルチェックで弁護士が確認するポイント

弁護士は、単なる誤字脱字のチェックではなく、事業リスクを多角的に分析し、規約全体を精査します。

  1. 消費者契約法に違反していないか
    事業者の責任を不当に免除したり、消費者の権利を一方的に制限したりする「不当条項」が含まれていないかを厳しくチェックします。これらは無効になる可能性が高いため、最も注意が必要なポイントです。
  2. 個人情報保護法に関する記載は適切か
    個人情報の取得目的、利用範囲、安全管理措置などが、個人情報保護法に準拠して適切に定められているか、プライバシーポリシーとの整合性が取れているかを確認します。
  3. 免責条項や損害賠償額の定めは有効か
    「いかなる損害も一切責任を負わない」といった包括的すぎる免責条項は、事業者に故意・重過失があった場合に無効と判断されるリスクがあります。法的に有効な範囲で、事業リスクを適切にコントロールできるような、バランスの取れた条項を検討します。
  4. 知的財産権(著作権など)の扱いは明確か
    ユーザーがコンテンツを投稿するサービス(CGM)などでは、投稿されたコンテンツの著作権の帰属や、事業者の利用許諾範囲を明確に規定する必要があります。権利関係のトラブルを避けるための重要な項目です。

約款・利用規約は、ビジネスの土台を支える法的文書

約款・利用規約は、単なる手続き上の書類ではなく、あなたのビジネスの土台を支える重要な法的文書です。テンプレートの安易な流用や自己判断による作成は、消費者契約法違反による条項の無効、予期せぬ損害賠償、行政処分など、様々なリスクを内包しています。自社のサービスと顧客を守るためにも、専門家のリーガルチェックを実施してください。


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