- 作成日 : 2025年8月19日
NDA(秘密保持契約)のリーガルチェックのポイントは?確認事項や注意点を解説
NDA(秘密保持契約)は、企業間で機密情報をやり取りする際に不可欠な契約です。しかし、形式だけ整っていても内容に不備があると、自社に不利益をもたらすリスクがあります。
本記事では、NDAの基本から、リーガルチェックが必要な理由、確認すべき条項、契約内容に応じた注意点を解説します。
目次
NDA(秘密保持契約)とは
秘密保持契約(NDA)は、取引や共同プロジェクトの初期段階で締結されることが多く、情報の保護に欠かせない契約です。自社の大切な機密が外部に流出しないよう、契約によってその取扱いに明確なルールを定める役割を果たします。
NDA(秘密保持契約)の基本
NDAは、企業間で共有する機密情報を第三者に漏らさないよう義務付ける契約です。基本的な構成要素として、秘密情報の定義、取扱い方法、除外情報、有効期間、違反時の対応などが盛り込まれています。これらの条項は、契約に法的拘束力を与え、情報漏洩のリスクを抑える役割を担います。
NDA(秘密保持契約)を結ぶ目的
NDAの目的は、自社の技術や営業情報が不正利用や漏洩によって損害を受けないよう予防することにあります。情報が外部に公開されてしまうと、原則として特許を取得できなくなる可能性があります。ただし、特許法には新規性喪失の例外規定(産業技術力強化法等)があり、特定の条件を満たせば、公開後でも特許出願が可能です。
そのため、事前に契約で秘密としての扱いを明確にしておくことで、情報流出による特許取得上のリスクを低減し、また営業秘密としての保護も受けやすくなります。
NDA(秘密保持契約)のリーガルチェックの重要性
NDA(秘密保持契約)は、情報漏洩や不正利用を防ぐために締結される契約ですが、内容によっては自社に不利な条件が含まれていることもあります。そうしたリスクを回避するために行われるのが「リーガルチェック」です。ここでは、リーガルチェックの目的と、怠った場合のリスクについて解説します。
リーガルチェックが必要とされる理由
NDAのリーガルチェックは、契約内容による法的リスクを未然に防ぐことを目的としています。取引ごとに契約内容は微妙に異なるため、テンプレートを鵜呑みにせず、個別の契約書を丁寧に確認する必要があります。相手方が提示するNDAに過剰な義務や不均衡な条項が含まれていれば、自社に不当な負担が生じる可能性があります。
また、秘密情報の範囲、利用目的、除外条項などは文言によって法的効果が大きく異なるため、表現の曖昧さや解釈の違いが紛争につながることもあります。企業法務に強い弁護士の目を通すことで、見落としや解釈のズレを防ぎ、NDAの機能を適切に果たせる内容に整えることが可能となります。
リーガルチェックしない場合のリスク
NDAを十分に確認せず締結した場合、自社が想定外の責任を負うことになりかねません。例えば秘密情報の定義があいまいな契約では、知らぬ間に守秘義務違反を問われる事態が発生することがあります。そうしたトラブルが起これば、解決に時間とコストがかかり、業務に悪影響を及ぼします。
また、契約に重要な条項が抜けていた場合には、情報の悪用があっても相手に責任を問えない可能性があります。さらに契約締結後に不利益な条項に気付いても、相手の合意なしには内容変更ができません。情報をすでに開示していれば、交渉の余地はさらに狭まります。したがって、契約前の段階でリーガルチェックを行い、リスクを適切に評価・修正しておくことが欠かせません。
NDA(秘密保持契約)のリーガルチェックはいつ、誰が行う?
秘密保持契約(NDA)は、適切なタイミングでリーガルチェックを実施し、適任者が確認にあたることが大切です。ここでは判断基準を解説します。
リーガルチェックを行うタイミング
リーガルチェックは、NDAを締結する前、相手からドラフト(案)を受け取った段階で実施するのが原則です。契約締結後に条項の不備や不利益に気付いても、修正には相手の合意が必要となるため、現実的に交渉が難しくなります。情報の開示前に確認を終えておくことで、リスクを最小限に抑えることができます。
リーガルチェックを行う担当者
チェックを行うのは、社内に法務部門があればその担当者が適任です。契約の目的や情報の性質を理解している担当部署と連携しながら、実務と法的観点の両面から確認を進めることが望まれます。社内に専門知識が不足している場合は、外部の弁護士など、契約法務に詳しい専門家へ依頼することも有効です。
NDA(秘密保持契約)のリーガルチェックで確認すべき条項
NDA(秘密保持契約)は形式が似ていても、条文の細かな違いが将来的なリスクを大きく左右します。ここでは、リーガルチェックを行う際に確認すべき代表的な条項を取り上げ、検討ポイントを解説します。
秘密情報の定義と除外範囲
秘密情報の定義は、NDAの中核にあたります。「包括型」は開示されたすべての情報を秘密扱いとする方式であり、開示側にとって有利です。一方、「特定型」は秘密であることを明示した情報に限るため、受領側の負担を軽減できます。どちらの定義が採用されているかを確認し、自社の立場に適した内容になっているか見極める必要があります。
加えて、除外事項の有無も重要です。一般的には、既に知っていた情報や公知の情報などは秘密情報に該当しないとされますが、これが契約上に明記されていなければ過剰な秘密保持義務を負う可能性があります。特に人事データなどの個人情報を扱う場合は、除外規定との整合に注意し、個人情報保護法に基づく適切な取扱いを確認することが求められます。
秘密情報の利用目的と第三者提供
秘密情報をどの目的で利用できるかを定める条項も必ず確認します。目的が漠然としていると、相手に予期しない範囲で利用されるおそれがあります。「○○の検討」など具体的に限定されているか、曖昧な表現がないかチェックしましょう。
また、第三者への提供可否も確認すべきポイントです。情報を社内の誰が見られるのか、グループ会社や外部専門家に提供する際の条件、書面同意が必要かといった手続きが契約上で明確になっているかを確認します。自社が開示側であれば流出を防ぐ措置、受領側であれば業務上必要な範囲で柔軟な運用ができるよう、バランスのとれた規定を整えましょう。
秘密保持義務の期間と終了後の措置
守秘義務の期間は、契約全体の有効期間と、情報開示後の秘密保持が継続される期間とに分けて定められることが多いです。秘密保持義務の期間は、情報の性質によって適切に検討する必要があります。例えば、技術情報など特に重要な情報については比較的長期間、あるいは無期限と定めるケースも見られます。一方で、商談情報など期間が限定される情報については、契約終了後2年程度と設定される例もあります。具体的な期間は、取引の内容や情報の重要性に応じて個別に設定されます。
また、契約終了後の情報の取り扱いについても注目すべきです。多くのNDAには、開示者が請求すれば情報の返却または破棄を求めることができる条項が含まれています。この返却・廃棄義務があるか、方法や期限が明記されているか、電子データの削除について現実的な規定となっているかを確認します。
違反時の対応・救済条項
NDA違反が発生した場合の対応条項も見逃せません。損害賠償の範囲がどう定められているか、責任限度額があるか、違約金が設定されている場合にはその金額と適用条件を確認する必要があります。違約金が高すぎると交渉が難航するため、妥当性を見極めることが大切です。
加えて、情報漏洩が発生した際に差止め請求ができる旨や、契約違反に対する通知・是正のプロセスが定められているかも欠かせません。紛争時にどこの裁判所で争うかという「合意管轄」、どの国の法律に従うかという「準拠法」の指定も含め、万が一の法的手続きを見据えて確認を怠らないようにしましょう。
契約内容や業界に応じたリーガルチェックの注意点
NDA(秘密保持契約)は、基本構成こそ共通していますが、自社の立場や業界、取引の性質によって注意すべきポイントは変わります。ここでは「情報の開示側・受領側の違い」と「取引内容・業界特性」に応じたチェックの観点について説明します。
情報提供側か受領側で視点が変わる
NDAの検討では、まず自社が情報の「開示者」か「受領者」かを明確にした上で条文を見ていく必要があります。開示者側であれば、自社の機密情報を守ることが最大の目的となるため、秘密情報の定義を広く取り、利用目的を限定し、違反時の責任を重く設定する傾向があります。情報の流出や不正利用を未然に防ぐ視点で条項の厳格化が求められるのです。
一方、受領者側の場合は、秘密情報の範囲を絞り込み、除外事項を充実させることで、自社が過度な義務を負わないよう調整することが重要になります。守秘義務の期間も可能な限り短縮し、業務上の負担を最小限に抑える視点が必要です。相互NDA(双方が情報を提供し合う契約)の場合は、双方にとってバランスの取れた内容になっているかを意識して調整を行うことが大切です。
取引の種類・業界特有の留意点
NDAの内容は、取引の性質や業界の事情によっても調整が必要です。たとえば、製造業や技術開発などの分野では、製品仕様や設計データなどの技術情報が漏れると致命的な損失につながります。そのため、守るべき情報を明確に記述し、条文全体を厳格な構成にする傾向があります。製薬業界などでは「〇〇製剤の配合比率に関する情報」など、具体的な例を挙げて秘密情報を定義する方法が有効です。
一方で、IT業界の一般的な業務委託や商談段階のNDAでは、ソースコードやオープン情報を除外対象に含めるなど、過度に厳しい条項は避けるケースが多く見られます。業界の実務慣行に即した柔軟な調整が求められます。
また、M&Aや戦略提携などの大型案件では、契約の存在自体が非公開とされる場合があります。こうした場面では「本契約の協議の事実も秘密とする」条項を入れることがあり、適時開示義務との整合にも注意を払う必要があります。
さらに、個人情報を含む取引では、NDAとは別に個人情報保護法への対応も必須です。受領者に安全管理措置の実施や漏洩時の通知義務を課す条項を盛り込むなど、法令との整合性を確保しなければなりません。
国際取引においては、契約書の言語、準拠法、裁判管轄の指定も慎重に判断するべきです。海外では営業秘密の定義や救済手段が異なるため、契約内容を英日二言語で作成したり、裁判所の場所や準拠法を自社に有利な形で設定する工夫が必要です。
NDA(秘密保持契約)のリーガルチェックで情報漏洩を防ごう
秘密保持契約(NDA)は、企業間で機密情報を共有する際の基本契約です。適切にリーガルチェックを行えば、情報漏洩や契約トラブルを未然に防ぐことができます。自社が情報を開示する側か受領する側かによって注目すべき点は異なり、立場に応じたバランスの取れた内容が求められます。NDAはひな型を使い回すだけでは不十分です。専門家の視点で内容を精査し、自社に合った契約を整備していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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