• 作成日 : 2025年7月18日

AIによる契約審査の活用法とは?機能・精度・活用法を解説

契約書の審査業務は、法務部門にとって時間と労力を要する業務のひとつです。AI契約審査ツールは、条文のリスクや不備を自動で検出し、レビュー作業のスピードと網羅性を高める手段として注目されています。ツールごとに特徴や対応契約書の範囲、料金体系が異なり、導入にあたっては自社の契約実務に合った選定と運用が不可欠です。

本記事では、AI契約審査ツールの活用場面や精度、おすすめのツールについて解説します。

AIによる契約審査とは

AIによる契約審査とは、AI技術を活用して契約書のリスクや不備を自動的に検出・可視化する仕組みを指します。従来人手で行っていた契約レビュー業務を効率化し、チェックの網羅性とスピードを向上させる手段として、多くの企業法務部門で導入が進んでいます。

AI契約審査ツールの主な機能

AI契約審査ツールには、契約書を自動で解析し、条項の過不足やリスク箇所を指摘する機能があります。あらかじめ学習済みの契約チェックリストに基づき、秘密保持、損害賠償、解除条項などの有無や文言の妥当性を自動評価します。ツールによっては、不足条項の自動抽出、推奨条文の提示、コメント付きレポートの出力といった機能も搭載されており、法務担当者がレビュー結果をもとに修正作業を行いやすい設計です。

また、ナレッジ共有やレビュー履歴の保存、進捗管理など契約業務全体の支援機能を備えたものも多く、契約実務の品質と再現性の向上にもつながります。導入によって、作業時間の削減だけでなく、人的ミスの低減や属人化の解消にも効果が期待されます。

AIによる契約審査は合法?

AIによる契約審査は合法なのでしょうか。

AIによる契約審査の合法性は弁護士法第72条の問題

AIによる契約審査が合法かどうかについて問題となるのは弁護士法第72条です。弁護士法第72条は、法律の例外を除いて、弁護士以外の者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うこと(非弁行為)を禁止しており、違反した場合には2年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処せられます(弁護士法第72条)。AIによる契約審査は弁護士法72条に違反する非弁行為かどうかが問われます。

参考:「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第 72 条との関係について」| 法務省大臣官房司法法制部

報酬を得る目的があるか

まず、弁護士法第72条は報酬を得る目的で行う法律事務が禁じられています。そのため、報酬を得る目的でなければ、弁護士法第72条は問題となりません。AIによる契約審査サービスも無料であるならば、弁護士法第72条に違反して無効とはなりません。

もっとも、

  • 当該事業者が提供する他の有償サービスを契約するよう誘導するとき
  • 第三者が提供する有償サービスを利用するよう誘導するとともに、本件サービスの利用者が当該第三者の提供する有償サービスを利用した際に当該第三者から当該事業者に対して金銭等が支払われるとき
  • 顧問料・サブスクリプション利用料・会費等の名目を問わず金銭等を支払って利用資格を得たものに対してのみ本件サービスを提供するとき

など、金銭支払等の利益供与と本件サービスの提供との間に実質的に対価関係が認められるときには、「報酬を得る目的」に該当し得るため、弁護士法第72条が問題となります。

契約審査サービスに「事件性」があるか

弁護士法第 72 条については「訴訟事件…その他一般の法律事件」に関し、一般に、「法律事件」とは、法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、又は新たな権利義務関係の発生する案件をいうとされます。そこで、同条の「その他一般の法律事件」に該当するというためには、同条本文に列挙されている「訴訟事件、非訟事件及び…行政庁に対する不服申立事件」に準ずる程度に法律上の権利義務に関し争いがあり、あるいは疑義を有するものであるという、いわゆる「事件性」が必要とされます。

「事件性」の有無については、個別の事案ごとに、契約の目的、契約当事者の関係、契約に至る経緯やその背景事情等諸般の事情を考慮して判断されます。契約審査については、以下とされています。

  • 例えば、取引当事者間で紛争が生じた後に、当該紛争当事者間において、裁判外で紛争を解決して和解契約等を締結する場合には、法律上の権利義務に争いがあり、あるいは疑義を有するものとして「事件性」が認められ、そのような場合の契約書等の作成についてAI契約審査を提供する場合「その他一般の法律事件」に該当し得ると言えます。
  • 他方で、例えば、親子会社やグループ会社間において従前から慣行として行われている物品や資金等のフローを明確にする場合や、継続的取引の基本となる契約を締結している会社間において特段の紛争なく当該基本契約に基づき従前同様の物品を調達する契約を締結する場合には、いわゆる「事件性」を認め難く、その契約関係を明らかにするために契約書等を作成する場合にAI契約審査サービスを提供する場合通常、「その他一般の法律事件」に該当せず、同条に違反しないと考えられています。
  • いわゆる企業法務において取り扱われる契約関係事務のうち、通常の業務に伴う契約の締結に向けての通常の話合いや法的問題点の検討については、多くの場合「事件性」がないとしながらも、契約の目的、契約当事者の関係、契約に至る経緯やその背景事情等諸般の事情を考慮して、「事件性」が判断されるべき

 

AIによる契約書等の審査業務を支援するサービスが弁護士法第72条の「鑑定…その他の法律事務」にあたるか

AIによる契約書等の審査業務を支援するサービスを提供することが「鑑定…その他の法律事務」に該当するかが問題となります。

この点について、例えば、AIによる契約審査サービスを提供するために構築されたシステムにおいて、以下の機能・表示が認められる場合には、同サービスの提供は、「鑑定…その他の法律事務」に該当し得えるとされています。

  • 審査対象となる契約書等の記載内容について、個別の事案に応じた法的リスクの有無やその程度が表示される場合
  • 当該契約書等の記載内容について、個別の事案における契約に至る経緯やその背景事情、契約しようとする内容等を法的に処理して、当該処理に応じた具体的な修正案が表示される場合

他方で、例えば、AIによる契約審査サービスのシステムにおいて、以下の機能・表示にとどまる場合、同サービスの提供は、通常、「鑑定…その他の法律事務」に該当せず、同条に違反しないと考えられます。

  • 審査対象となる契約書等の記載内容と、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ同システムに登録した契約書等のひな形の記載内容との間で相違する部分がある場合に、当該相違部分が、その字句の意味内容と無関係に表示されるにとどまるとき
  • 審査対象となる契約書等の記載内容と、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ同システムに登録した契約書等のひな形の記載内容との間で、法的効果の類似性と無関係に、両者の言語的な意味内容の類似性のみに着目し、両者の記載内容に当該類似性が認められる場合に、当該類似部分が表示されるにとどまるとき
  • 審査対象となる契約書等にある記載内容について、同サービスの提供者又は利用者があらかじめ同システムに登録した契約書等のひな形の記載内容又はチェックリストの文言と一致する場合や、ひな形の記載内容又はチェックリストの文言との言語的な意味内容の類似性が認められる場合において、
    • 当該契約書等のひな形又はチェックリストにおいて一致又は類似する条項・文言が個別の修正を行わずに表示されるにとどまるとき
    • 同システム上で当該ひな形又はチェックリストと紐付けられた一般的な契約書等の条項例又は一般的な解説や裁判例等が、審査対象となる契約書等の記載内容に応じた個別の修正を行わずに表示されるにとどまるとき
    • 同システム上で当該ひな形又はチェックリストと紐付けられた一般的な契約書等の条項例又は一般的な解説が、審査対象となる契約書等の記載内容の言語的な意味内容のみに着目して修正されて表示されるにとどまるとき

3つの要件を満たしても弁護士法第72条に違反しない場合

AI契約審査サービスが、上記の「報酬を得る目的」であり「事件性」があり、「鑑定…その他の法律事務」の要件に該当する場合でも、以下の場合には弁護士法第72条には違反しません。

  • AI契約審査サービスを弁護士又は弁護士法人に提供する場合であって、当該弁護士又は弁護士法人がその業務として法律事務を行うに当たり、当該弁護士又は当該弁護士法人の社員若しくは使用人である弁護士が、本件サービスを利用した結果も踏まえて審査対象となる契約書等を自ら精査し、必要に応じて自ら修正を行う方法で本件サービスを利用する場合
  • AI契約審査サービスを弁護士又は弁護士法人以外のものに提供する場合であって、当該提供先が当事者となっている契約について本件サービスを利用するに当たり、当該提供先において職員若しくは使用人となり、又は取締役、理事その他の役員となっている弁護士が同等の方法で本件サービスを利用するとき

AI契約審査ツールが対応可能な契約書の種類

AI契約審査ツールは多くの契約書に対応していますが、すべての契約類型に万能というわけではありません。得意とする契約類型と対応が難しい契約の違いを理解し、自社での活用範囲を見極めることが大切です。

対応しやすい契約書の特徴

AI契約審査ツールは、パターンが定まっている定型的な契約書を得意とします。代表的なのが秘密保持契約(NDA)で、秘密情報の定義や例外事由、存続期間など明確なチェック項目に対して高い精度で対応可能です。他にも業務委託契約、売買契約、ライセンス契約など多くの企業で利用される契約書にも強みがあります。また、労働契約や雇用契約のように法定記載事項が明確な契約も、AIによるチェック精度が高く、条項の抜け漏れや不適切な文言の検知がしやすい分野です。

苦手とする契約の傾向

一方で、契約内容が複雑または個別交渉に基づく契約は、AIが対応しづらい分野です。M&Aに関連する株式譲渡契約や事業譲渡契約、金融取引契約や不動産契約などは、定型化されていない条項が多く、案件ごとに契約の設計が異なるため、AIの定型レビューには限界があります。また、国際契約も難しい領域です。最近は英文契約への対応を進めるツールもありますが、米国法前提の一部契約に限られ、日本語以外や多言語の契約には対応しきれないケースが多くあります。

新領域やシンプルすぎる契約は要注意

さらに、ブロックチェーン関連やAI開発契約といった新しい分野では、AIツールが参考とする過去データが不足しており、リスク判断が難しくなります。また、包括的合意書や短文の契約書など、構造が曖昧な契約も、AIが適切に読み解くには情報が足りず、評価にバラつきが出る可能性があります。

ツールの特性を見極めた運用を

AI契約審査ツールは「平均的な契約」に強く、「例外的な契約」には慎重な扱いが必要です。導入にあたっては、自社が取り扱う契約書の類型を整理し、使用するツールの対応範囲と合致しているかを確認しましょう。対応外の契約は人間のレビューに任せ、AIを無理に使わない判断も適切な運用の一部です。

AI契約審査と人間による契約レビューの違いと役割

AIと人間の法務担当者では契約審査の得意領域が異なります。ここでは、両者の強みを活かした役割分担と協働のあり方について説明します。

AIの強みはスピードと網羅性

AI契約審査ツールは、大量の契約書を短時間でチェックし、定型的なリスクや条文の不足を迅速に指摘します。処理の速さや見落としの少なさという点で、初期スクリーニングには非常に有効です。AIによる一次チェックにより、レビュー時間の短縮と効率化が実現できます。

人間は判断と交渉を担う

一方、人間の法務担当者は契約の背景や取引先との関係性を踏まえた総合判断を行い、AIの指摘に優先度をつけて対応を判断します。AIには交渉や文脈を読む力がなく、契約調整や戦略的判断は人間の役割です。定型外の条項や例外対応も人間が最終判断する必要があります。

両者の協働が最適な運用

AIを一次審査に用い、人間が深い分析や判断を行うことで、チェックの網羅性と判断の柔軟性を両立できます。人間の判断をAIにフィードバックすることで、AIの精度向上にもつながります。AIと人間が補完しあう関係を築くことが、現代の法務体制において重要です。

AI契約審査ツールの判断の特徴

AI契約審査ツールは、契約書レビューの効率化に役立つ一方で、精度や判断の特徴を正しく理解して使うことが欠かせません。ここでは、チェックの正確性、誤検知の傾向、判断の限界について解説します。

AIのチェック精度と対応領域

AI契約審査ツールは、過去の契約データや弁護士監修のチェックリストに基づいて条文を解析し、定型的なリスクや不備を高精度で検出します。秘密保持や損害賠償、解除条項など、どの契約にも共通する論点については、抜け漏れや不利な文言を正確に洗い出せる能力を備えています。誤字脱字、条番号の誤り、表記ゆれなど形式的なミスについても、AIは人間より高い精度で検知可能です。このように、定型契約における網羅的かつ高速な一次チェックにおいて、AIは十分に実用的な水準に達しています。

誤検知リスクと限界

一方、AIは文脈の読み取りや交渉の背景といった非言語情報の理解を苦手としています。そのため、契約書内の表現が一般的基準と異なるだけで「リスクあり」と誤判定する場合があります。例えば、あえて緩い条文にしている業務委託契約や、特定の事情に基づく条項変更があるケースでは、AIが不必要な警告を出す可能性があります。これにより、不要な修正作業や対応工数が発生し、かえって効率が下がることもあります。

判断の特徴と活用のポイント

AIは契約書のテキスト情報からパターンを分析するため、定型的で明確な条項のチェックには適していますが、取引先との力関係や業界特有の慣行、契約交渉の戦略的判断には対応できません。したがって、AIの判断は「標準契約に照らした機械的な評価」であると位置づけ、人間の法務担当者が背景を踏まえて取捨選択する運用が求められます。

AI契約審査ツール利用における責任の所在

AI契約審査ツールを使って契約書をチェックした結果、万一見落としが発生し損害が生じたとしても、ツール提供会社が法的責任を負うケースは一般的に想定されていません。多くのサービスでは利用規約において、結果の正確性を保証しない旨が明記されており、免責が前提となっています。つまり、契約書の承認・締結を行う法務担当者が最終的な責任を負う立場にあるということです。したがって、AIによるレビュー結果はあくまで補助的な参考情報として扱い、企業内でのダブルチェック体制を整えることが不可欠です。AIに全面的に依存せず、人間の判断を加えて意思決定する仕組みが、安全な運用につながります。

AI契約審査ツールのおすすめ3選

AI契約審査ツールは、契約書レビューの効率化や精度向上を目的に法務部門で広く活用されています。ここでは、主要ツールであるLegalForce、GVA assist(OLGA)、Hubbleの機能と料金プランの概要を比較し、導入検討時の参考となる情報を整理します。

LegalForce(リーガルフォース)

LegalForceは、国内トップシェアを誇るAI契約審査ツールで、契約書をアップロードするだけで自動で条文の抜けやリスクを検出します。秘密保持契約や業務委託契約など、日英あわせて80種類以上の契約類型に対応し、編集・管理機能も豊富です。企業や法律事務所を中心に3,500社以上(※2023年12月時点)の導入実績があります。

料金プラン

ユーザー数・機能範囲に応じた年額制で、公式サイトには非公開ですが、一般的に年額100万円前後からスタートすると言われています。契約件数やカスタマイズの要否によって費用が変動し、個別見積もりが必要です。

GVA assist(OLGA)

GVA assist(2024年よりOLGAに改名)は、契約書の条文を自社テンプレートや推奨ひな型とAIが比較し、条文の不足や表現の違いを自動検出する点が特徴です。修正文案の提示、検索機能、条文のカスタマイズも可能で、1,500種を超える契約類型に対応しています。継続率は99.4%で、600社以上が導入しています。

料金プラン

スタンダード・プロフェッショナルなど複数あり、月額換算で数万円〜数十万円の範囲です。契約類型数やユーザー数に応じて変動し、詳細は個別見積もりとなります。中小企業向けに比較的低価格なプランも用意されています。

Hubble(ハブル)

Hubbleは、契約書のレビュー進捗管理やナレッジ共有に強みを持つツールです。2024年1月時点で300社・累計3万人以上のユーザーが利用しており、99%の継続率を誇ります。契約文書のバージョン管理、レビュー履歴の可視化、Slackやメールとの連携など、契約業務全体の流れを整える機能が特徴です。編集はWord形式で行い、直感的な操作感が評価されています。

料金プラン

月額5万円前後からとされ、ユーザー数や契約件数、機能範囲に応じてカスタマイズされます。中堅企業から上場企業まで幅広く導入されており、無料トライアルやデモも用意されており、導入前に検証しやすい点も魅力です。

AI契約審査を正しく使いこなし、法務業務を進化させよう

AI契約審査は、契約書レビューを自動化し、業務のスピードと正確性を高める実用的な手段です。主要ツールは、定型契約のリスク検出や条文修正支援、進捗管理など多機能を備え、法務部門の生産性向上に役立ちます。

NDAや業務委託契約などでは高精度のチェックが期待できますが、M&A契約や国際契約など複雑で非定型な内容には慎重な扱いが必要です。AIはスピードと網羅性に優れますが、交渉戦略や文脈判断は人間の役割であり、レビュー結果の最終責任も企業側にあります。AI契約審査ツールを導入する際は、自社の契約類型や業務体制に合うサービスを見極め、AIと人の強みを組み合わせた運用を行うことが成功の鍵です。法務の質と効率を高める一歩として、AI契約審査の活用を前向きに検討してみましょう。


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