- 更新日 : 2025年8月14日
契約書レビューの導入ガイド|AI・弁護士・外注の比較や選び方を解説
契約書のレビュー体制は、企業のリスク管理やコンプライアンス体制の根幹を支える重要な業務です。しかし、専門知識や人的リソースが求められるため、効率化と精度向上を両立させる体制の整備が課題となっています。近年はAI契約書レビューやリーガルテックの普及、外部弁護士や契約レビュー代行サービスの活用など、複数の選択肢が登場しており、自社の実情に応じた導入が可能です。本記事では、各手法の特徴や注意点、導入のポイントを解説します。
目次
契約書レビュー体制導入の重要性
まず、なぜ契約書レビュー体制の導入・強化が重要視されているのか、その背景を確認します。契約内容の不備や見落としは、締結後に法的トラブルを招きかねません。契約書の条項に抜け漏れや不明瞭な点があると紛争の火種となり、問題発生時には多大な時間・費用がかかる上に企業の信用低下にもつながります。事前に適切なリーガルチェックを行い、契約内容を万全にしておくことで予期せぬトラブルを未然に防ぐことができるのです。
しかし一方で、多くの企業では契約書レビューを担当する人材や時間が不足しています。社内の法務担当者だけでは捌ききれず、営業部門が契約書を十分にチェックせずに締結してしまうリスクも指摘されています。法規制の増加や取引の多様化に伴い、一社が扱う契約書の種類や件数は年々増加する傾向にあります。そのため、効率的かつ確実に契約書をチェックできる体制を整えることが重要になっています。
契約書レビュー体制の導入方法
契約書レビュー体制を強化・効率化するための方法として、一般的に以下のような選択肢があります。
- AI契約書レビューツールの導入(リーガルテックの活用)
- 外部弁護士への契約レビュー依頼(法律事務所や顧問弁護士の活用)
- 契約レビュー業務の外注(専門サービス・アウトソーシングの活用)
自社の状況により、これらの方法を単独で選ぶ場合もあれば、複数を併用してハイブリッド型の体制を構築する場合もあります。
それぞれの方法について、内容やメリット・デメリットを紹介していきます。
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AI契約書レビュー・リーガルテックツールの導入
AI契約書レビューの導入は、契約審査の質とスピードを高めつつ、担当者の負担軽減にもつながります。ただし、導入には運用面やコスト面の検討も欠かせません。
導入のメリットと代表的なサービス
AI契約書レビューツールは、契約書をアップロードするだけで内容を自動解析し、リスクとなり得る条項の指摘や修正案の提示まで行えるツールです。LegalForce、LeCHECK、GVA assistなどが代表例で、非法務担当者でも一定のチェックが可能です。審査の所要時間が数分に短縮されるほか、支払い条件や損害賠償などの見落とし防止にも効果があります。最新法改正への対応や条項ごとの解説・修正例表示といった機能も備え、契約書の品質向上に寄与します。
導入における注意点とコスト
一方、AIは契約の背景や文脈を十分に理解できず、誤検出や見落としの可能性もあるため、最終判断は人間が行う必要があります。また、ツールは月額課金制が一般的で、基本プランで1〜2万円、企業向けで数十万円の費用が発生します。費用対効果を事前に見極めることが重要です。
社内運用とセキュリティへの配慮が必要
導入後に効果を最大化するには、操作研修や運用フローの整備も必要です。契約書という機密情報をクラウド上で扱うため、情報管理体制やサービス提供企業の信頼性も確認しましょう。まずはトライアル導入から始め、社内体制に応じた段階的な運用を検討することが推奨されます。
外部弁護士への契約レビュー依頼の導入
契約書レビュー体制を強化する手段として、外部弁護士の活用は最も確実かつ安心できる方法です。
法的専門性により安心できる
弁護士に契約書のリーガルチェックを依頼すれば、条項の適法性や曖昧な表現を丁寧に見直し、必要に応じた修正提案を受けることができます。例えば損害賠償条項など、重要な条文についてリスク軽減の観点から改善案を提示してもらえるため、契約の完成度が高まります。加えて、法務リソースが限られる企業でも、弁護士を介することで見落としのリスクを防ぎ、社内コンプライアンス意識の向上にもつながります。新規ビジネスや複雑な契約でも、弁護士の助言によりトラブルの芽を事前に摘むことができ、紛争予防につながります。
コストと納期に関して課題が生まれやすい
デメリットの一つはコストです。弁護士への依頼は1件あたり3〜10万円が相場で、新規作成ではそれ以上になることもあります。顧問契約を結ぶ場合は月額5〜20万円程度で一定件数のレビューが含まれますが、取引量の多い企業では負担が大きくなる可能性があります。また、弁護士は他案件との兼ね合いもあるため、回答に数日〜数週間かかる場合があり、契約締結の遅れを招くリスクもあります。納期を確認のうえ、スケジュールに余裕を持った依頼が必要です。
ノウハウの社内蓄積が難しいため、ハイブリッド活用を工夫する
すべてを外部に任せると、社内に法務知識が蓄積されにくく、依存状態が長期化する恐れがあります。実務上は、社内法務が一次レビューを行い、弁護士のフィードバックをナレッジとして記録・共有する運用が有効です。AIレビューと弁護士確認を組み合わせた運用を通じて、契約対応力とナレッジの蓄積を両立させている企業もあるため、弁護士の活用は、内製体制の補完と教育の一環として位置づけるのが理想です。
契約レビュー業務の外注の導入
契約レビュー体制の構築において、専門サービスへの外注は実務的で柔軟性のある選択肢です。
リソースが最適化されコスト効率が高い
近年では、リーガルテック企業やBPO事業者が契約チェック代行サービスを提供しています。人手とAIを組み合わせた体制が多く、パラリーガルによる一次審査の後に弁護士が最終確認を行うケースもあります。必要なときに必要な分だけ依頼できるため、契約数の増減に応じた柔軟な運用が可能です。例えば「クラウドリーガル」では月額1万円台のプランも用意されており、外部弁護士よりも安価に対応できる場合もあります。ツールを自社導入する手間なく最新技術の恩恵を受けられる点も魅力です。
法的リスクとサービス品質へ注意する
一方、すべてのサービスに弁護士が関与しているわけではなく、レビュー精度や法的保証の面で不安が残る場合があります。非弁行為に該当しないためには、サービス内に弁護士が関与し最終判断を行っている必要があります。法務省のガイドラインでも、弁護士資格のない者が報酬を得て法律事務を行うことは違法とされており、利用時には提供体制の確認が不可欠です。
情報管理と社内対応が必須
外注では契約書という機密文書を社外に預けることになるため、情報漏えい防止策も求められます。また、完全に任せきるのは難しく、自社の事情に合わせた最終判断や修正は社内で行う必要があります。特殊な契約や紛争性の高い案件は弁護士への依頼が必要なため、外注の限界を見極め、他の手段と併用する体制づくりが重要です。
契約書レビューと非弁行為
契約書レビュー体制を外部に頼る場合、弁護士法に違反する「非弁行為」とならないかを事前に確認する必要があります。2023年に発表された法務省のガイドラインにより、判断基準が整理されています。
弁護士法第72条と非弁行為の定義
弁護士法第72条では、弁護士または弁護士法人以外の者が報酬目的で法律事務を行うことを禁止しています。契約書レビューは法律事務に該当するため、弁護士資格のない個人や企業が有償で他社の契約をチェックすると、非弁行為に該当する可能性があります。一方で、自社内の契約を自社の社員が確認することは「自己の法律事務」にあたるため、AIや社内チェックの活用は問題ありません。
AIレビュー・外注サービスと非弁リスクの回避
法務省は、AI契約書レビューが非弁行為に該当する条件を3つ挙げています:(1)報酬目的、(2)事件性のある契約、(3)AIが法的評価を行うこと。
このすべてに該当すると違法となる恐れがあります。逆に言えば、通常の企業間契約で事件性がなく、弁護士が最終確認を行う体制であれば、原則として合法です。
安全に導入するための実務上の対策
企業がAIツールや外注サービスを導入する際は、係争中やトラブル性のある契約はAIにかけず弁護士に依頼しましょう。また、レビュー結果を弁護士が確認・修正する運用体制を整えます。さらに、サービス提供企業に弁護士が関与しているか、公表ガイドラインに沿って運営されているかを必ず確認してください。ガイドラインにより合法的な活用が明確になったとはいえ、判断が分かれる場面では専門家の助言を得て慎重に対応することが推奨されます。
契約書レビュー体制の導入における注意点
最後に、契約書レビュー体制を導入・変更する際の社内運用への影響や注意点について整理します。
社内フロー・権限を見直す
まず、契約書レビューの社内フローや担当範囲を見直す必要があります。例えばAIツールを導入した場合、契約書をシステムにアップロードして一次チェックするのは営業部門なのか法務部門なのか、AIが出力した指摘事項を最終判断するのは誰か、といった役割分担を明確に決める必要があります。外部弁護士や外注サービスを利用する場合も、どの段階で外部に出すのか、誰が依頼・連絡窓口となるのかを決めておきましょう。
あわせて、契約リスクの大小に応じてレビュー体制を使い分けるルールも定めると効果的です。一般的には「定型的かつリスクの低い契約⇒社内(AI活用)、重要かつリスクの高い契約⇒弁護士チェック、繁忙で社内対応困難なとき⇒外注活用」といった基準を設け、契約の種類ごとに処理フローを決めておくとスムーズです。
テンプレート・チェックリストを整備する
社内レビュー体制を強化するにあたり、契約書のひな型(テンプレート)やチェックリストの整備も重要です。AIツールを導入する際は、自社で頻出する契約書の雛形や許容できる条項集をシステムに登録できる場合があります。その機能を活用して、自社基準をAIに学習させることで、より自社実情に沿ったレビューが可能になります。同時に、人間がチェックする際のポイントをまとめたチェックリストや過去のレビュー蓄積もアップデートしましょう。
AIや外部から指摘された事項を社内チェックリストにフィードバックすることで、社内ナレッジが蓄積し属人化を防止できます。新体制導入を機に、古い契約書テンプレートの見直しや社内規程との整合性チェックも行っておくとよいでしょう。
社員への教育・トレーニングを行う
新しいツール導入や運用フロー変更に際しては、関係者への教育が欠かせません。AI契約書レビューの使い方や結果の読み解き方、外注先とのやり取りの手順などをマニュアル化し、関係部署に周知徹底しましょう。特にAIのレビュー結果については、前述の通りそのまま鵜呑みにせず人間が判断する必要があります。過信や誤解を避けるため、AIの利点と限界を社員が正しく理解するよう研修することが大切です。
また、AI導入によって業務内容が一部変わる法務担当者に対しては、データ分析や契約リスク評価といった新たなスキル習得をサポートするのも良いでしょう。外部弁護士に依頼する場合も、社内で最低限チェックすべきポイントや外部から戻ってきた助言の活用方法について、担当者に教育しておくと効果が上がります。
関係部署との連携を強化する
契約書レビュー体制を整えることは、社内の他部門との連携にも影響を与えます。例えば営業や調達部門など契約書の起案部門が、法務チェックに対して協力的になるよう働きかけましょう。AIツールを導入すれば「法務に出す前に営業担当自らAIでひととおりチェックし、修正候補まで用意する」といった運用も可能です。そうすることで法務部門の負荷が減り、営業側も契約内容への理解が深まります。
新しい体制の目的を社内で共有し、全社的な協働体制を築くことが成功のカギです。また、IT部門とも連携しツールの技術面サポートやセキュリティ対応を依頼する必要があるでしょう。
段階的な導入と検証
大きな運用変更は一度に行わず、段階的に導入して検証することを推奨します。まずは一部の契約種類や特定部署でパイロット的にAIツールや外注を使ってみて、実際の効果や問題点を洗い出します。例えば「NDA(秘密保持契約)のレビューに限って3ヶ月間AIツールを運用してみる」「ある事業部の契約だけ外注サービスに委託してみる」などです。その結果を踏まえて社内ルールを調整し、本格展開することで失敗リスクを下げられます。
導入後も定期的にKPI(レビュー件数、時間短縮率、指摘漏れの有無など)をモニタリングし、必要に応じて体制を見直すPDCAサイクルを回しましょう。
自社に適した契約書レビュー体制を選択し、法務リスクを抑制しよう
契約書レビューの導入には、AIツール、外部弁護士、外注サービスなど複数の選択肢があります。それぞれにメリットと留意点があり、目的や社内体制に応じた組み合わせが効果的です。非弁行為への配慮も欠かせません。コスト、精度、法的安全性のバランスを取りながら、自社に最適な体制を構築することが、契約リスクを回避し、業務の質と効率を高める鍵となるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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