• 作成日 : 2025年7月17日

仮名加工情報取扱事業者とは?定義・個人情報取扱事業者との違い・対応のポイントを解説

2022年の個人情報保護法改正により新たに導入された仮名加工情報取扱事業者の制度は、社内でのデータ活用を可能にしつつ、プライバシー保護とのバランスを図ることを目的としています。通常の個人情報とは異なるルールが適用されるため、企業の法務担当者は定義や義務の違いを理解したうえで、適切な体制整備と管理運用が求められます。

本記事では仮名加工情報の基本から実務上のポイントまでを解説します。

仮名加工情報取扱事業者とは

仮名加工情報取扱事業者とは、個人情報を一定の方法で加工して、他の情報と照合しなければ特定の個人を識別できないようにした「仮名加工情報」を業務に利用する事業者を指します。これは2022年の個人情報保護法改正により導入された新しい事業者区分です。

仮名加工情報には、氏名や個人識別符号などの特定性を除いた情報が含まれ、他の情報と照合しない限り元の情報から復元が容易でないよう加工されます。この情報を扱う事業者には、本人の同意や本人からの開示等の請求への対応が不要になるなど一部の義務が緩和される一方で、他の情報と照合して再特定することや、第三者提供などは禁止される特有のルールが設けられています。社内活用に限定して柔軟に情報分析ができる点が大きな特徴です。

仮名加工情報取扱事業者と個人情報取扱事業者との違い

ここでは仮名加工情報取扱事業者と個人情報取扱事業者の定義と義務の違いを解説します。

定義の違い

「個人情報取扱事業者」は、個人情報を業務に利用する一般的な事業者を指し、ほとんどの企業が該当します。個人を直接識別可能なデータを含む点で、厳格な管理義務が課せられます。

一方、仮名加工情報取扱事業者は、個人識別性を減じた情報を扱う事業者で、制度上は個人情報取扱事業者に含まれつつも、仮名加工情報特有の管理ルールが適用されます。

義務の違い

個人情報取扱事業者は、利用目的の通知、本人同意の取得、開示請求への対応など広範な義務を負います。対して仮名加工情報取扱事業者は、利用目的の変更や開示請求への対応が不要とされる一方で、照合の禁止や第三者提供の制限といった独自の規制があります。

仮名加工情報の定義と利用可能な範囲

仮名加工情報とは、個人情報保護法で新たに定義された情報類型で、氏名など本人特定に繋がる情報を削除・置換し、それ単体では特定の個人を識別できなくしたデータを指します。

仮名加工情報の法的定義

法律上、「仮名加工情報」とは、個人情報を一定の基準に従って加工し、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないようにした情報をいいます。平たく言えば、氏名や個人識別符号などの直接本人を特定しうる情報を削除または別の符号に置き換えて、データ単体では誰の情報か分からないようにしたものです。この概念は2022年4月施行の改正個人情報保護法で導入されました。

利用できる範囲と特徴

仮名加工情報は、主に事業者内部での利活用を前提とした情報です。個人情報と比べてプライバシー保護上の制約が緩和されており、自社内であれば当初の取得目的を超えた分析・活用が可能となります。例えば、元の個人情報では許されない目的外利用であっても、仮名加工情報に加工することで社内研究やマーケティング分析に転用できます。

一方で、仮名加工情報は匿名加工情報ほどの完全な匿名化が施されているわけではないため、利用範囲は社内に限定され、本人を特定するような行為(情報の照合による再識別や、残存する連絡先情報を用いた個別連絡など)は禁止されています。仮名加工情報は「個人情報」と「匿名加工情報」の中間に位置する性質を持ち、企業にとっては個人情報より柔軟にデータを活用できる一方、匿名加工情報のように社外提供することはできないという特徴があります。

仮名加工情報の第三者提供の可否と匿名加工情報との違い

仮名加工情報は、法的に第三者提供が原則禁止されている情報類型です。社内利用に限定される点が特徴であり、匿名加工情報との扱いの違いにも注意が必要です。

仮名加工情報の第三者提供に関する制限

個人情報保護法第41条第6項により、仮名加工情報を第三者に提供することは、本人の同意があっても原則として認められていません。これは、他の情報と照合すれば再び個人を特定できるリスクが残るためです。

ただし、法的に第三者提供に該当しないとされるケースでは提供が可能です。たとえば、外部業者への分析業務の委託、会社の合併や分割、グループ会社との共同利用などは例外的に認められます。

匿名加工情報との違い

匿名加工情報は、個人を一切識別できないように加工されたデータであり、一定の手続を踏めば第三者提供が認められています。提供時には、どのような情報項目が含まれているかを公表する必要があります。一方の仮名加工情報は、社内限定の利用にとどまり、外部共有は基本的にできません。

その分、データの内容をより詳しく残せるため、分析精度を維持したまま社内活用できるという利点があります。利用目的に応じて、両者を適切に使い分けることが求められます。

仮名加工情報取扱事業者に求められる社内体制と安全管理措置

仮名加工情報を扱う企業には、情報漏えいや再識別の防止に向けた体制整備と安全管理措置が求められます。

仮名加工情報の作成と管理の流れ

仮名加工情報を作成するには、氏名や住所、個人識別符号などの識別性の高い情報を削除または変換し、復元ができないように加工します。この加工後、削除した情報(削除情報等)は仮名加工情報とは別に、安全な方法で保管し、混在させないことが求められます。加工と保管の分離は再識別のリスクを避けるための基本です。

安全管理措置と社内運用体制の構築

取り扱いに関しては、担当者の役割・責任を明確化し、社内規程を整備します。担当者や関係者への教育訓練も行い、正しい理解と運用を定着させます。技術面では、アクセス権の制限、ログの監視、パスワード管理などを導入し、削除情報との不要な照合を防止します。目的達成後には速やかなデータ削除も推奨され、安全に運用する体制を整えることが基本とされています。

仮名加工情報の活用例

仮名加工情報は、マーケティング戦略の立案など、さまざまな用途に活用できます。

マーケティングへの活用

マーケティングの分野では、顧客の購買履歴や行動ログなどの個人データを仮名加工情報にすることで、個人を特定せずにデータ分析が可能となります。例えば、ECサイトの顧客データを仮名加工して購買傾向を解析し、顧客セグメントごとのニーズを把握することで、プライバシーに配慮しつつ効果的なプロモーション戦略の立案に役立てられます。

統計分析・AIへの活用

統計的なデータ分析やAI(人工知能)の開発においても、仮名加工情報は有用な手段です。詳細な個人情報を仮名加工すれば、大規模なデータセットをプライバシーリスクを抑えて扱うことができます。例えば、膨大なユーザー行動ログを仮名加工情報として機械学習モデルの訓練に用いれば、ユーザーの利用傾向を学習した高度な予測モデルを構築でき、サービス改善や新たなビジネスインサイトの発見につなげられます。

仮名加工情報取扱事業者に関するガイドラインと動向

仮名加工情報の運用にあたっては、個人情報保護委員会のガイドラインに沿った対応が求められます。2022年の個人情報保護法改正後の企業の対応や実務上の変化についても注視すべき状況が続いています。

個人情報保護委員会のガイドライン

個人情報保護委員会は、仮名加工情報および匿名加工情報の取り扱いに関するガイドラインを公表しています。この中では、加工の方法、管理体制、第三者提供の禁止、削除情報の取扱いなどについて具体的に言及されており、企業にはこれらを踏まえた社内規程の整備と運用が求められます。委員会は、データ活用とプライバシー保護の両立を図る立場をとりつつも、ルール違反には厳正に対処する方針を示しています。

仮名加工情報をめぐる企業動向

改正法の施行後、企業による仮名加工情報の利活用は徐々に広がっています。とりわけ、マーケティング分野やIT企業では、保有データの分析に仮名加工情報を取り入れる例が増えています。さらに、プライバシーマークなど認証制度の基準にも仮名加工情報への対応が加わり、実務対応のアップデートが求められています。法務部門としては、こうした動きに対応するため、継続的にガイドラインや当局の最新情報を確認し、自社のコンプライアンス体制を強化することが必要です。

仮名加工情報取扱事業者として適切に対応しよう

仮名加工情報取扱事業者は、改正個人情報保護法に基づき、仮名加工情報を取り扱う企業に該当します。社内分析やマーケティングのために個人データを活用するとき、この制度を正しく理解して運用することが欠かせません。義務が一部緩和されるとはいえ、照合の禁止や第三者提供の制限といった独自のルールがあります。個人情報保護委員会のガイドラインを確認し、自社の体制を見直すことで、安心してデータ活用を進めることができます。リスクと可能性の両面を意識しながら、仮名加工情報の扱いを見直してみましょう。


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