- 作成日 : 2025年7月9日
履行の請求とは?履行の意味、請求方法や対応方法を解説
現代社会は無数の契約によって成り立っており、その円滑な機能のためには、当事者が約束した内容(債務)を実行する「履行」が不可欠です。契約における約束が守られることは信頼関係の基礎であり、経済活動の安定性を支えます。
しかし、相手方が約束通りに義務を果たさない事態も起こり得ます。この記事では、「履行」とは何か、約束が果たされない場合にどのように「履行の請求」ができるのか、そして「債務不履行」とは何かについて、知っておくべき法律知識を解説します。
目次
「履行」とは?
「履行(りこう)」とは、法律上の義務(債務)に基づいて、課された行動を実行することです 。簡単に言えば、契約で約束した内容を実際に行うことです。例えば、お金を借りた人が返済をすること、オンラインストアで商品を購入した際に代金を支払い商品が発送されることなどが「履行」にあたります 。
どのような場面で履行が求められる?
履行は、日常生活から企業間の取引まで、さまざまな契約場面で求められます。
- 金銭消費貸借契約:ローンの返済や個人間の貸し借りでの返済行為。
- 売買契約:商品代金の支払いと商品の引渡し。
- 請負・サービス契約:ウェブサイト制作の納品と報酬の支払いなど。
履行の効果:債務の消滅
債務が契約内容に従って適切に履行されると、その債務は法的に消滅します 。つまり、約束が完全に果たされたことにより、それ以上の義務は基本的には発生しなくなります。
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履行の請求とは?
「履行の請求」とは、契約の相手方(債務者)が正当な理由なく約束した義務(債務)を果たさない場合に、権利を持つ側(債権者)がその義務を具体的に果たすよう法的に要求することです 。例えば、注文した商品が届かない場合に販売業者に発送を要求することです。
この権利は法的な裏付けを持ち、民法では債権者が履行を請求する権利を有すると定められています 。相手方が任意に履行しない場合、最終的には裁判所の力で強制的に履行を実現させる「強制履行」の制度もあります(民法第414条)。
履行の請求ができるケース
- 金銭債務:貸金の返済請求、商品代金の支払請求など。
- 非金銭債務(特定物の引渡しなど):特定の絵画や中古車の引渡し請求。
- 作為義務:建物の建築、ソフトウェア開発など、特定の行為の実行請求。
- 不作為義務:競業避止義務違反時の行為差し止め請求など。
履行の請求と他の救済手段
債務者が義務を履行しない場合、債権者には「履行の請求」以外に「損害賠償の請求」と「契約の解除」という救済手段があります。
- 損害賠償の請求:相手方の債務不履行で損害を被った場合に金銭で填補を求めること(民法第415条)。
- 契約の解除:契約の目的を達成できなくなった場合などに契約を解消すること 。
これらの手段は状況に応じて単独または組み合わせて用いることができます。
履行を請求する方法
相手方が義務を果たさない場合、段階に応じた請求方法があります。
| 請求方法 | 概要 | 主な特徴・メリット | デメリット・注意点 | 関連費用目安 |
|---|---|---|---|---|
| 交渉 | 当事者間で直接話し合い、履行を促す。 | 最も簡易迅速。費用も少ない。柔軟な解決が可能。 | 相手が応じない場合は効果なし。合意内容は書面化が必要。 | ほぼなし |
| 内容証明郵便による催告 | 郵便局が内容と送付日を証明する書面で正式に請求。 | 心理的圧力。消滅時効完成を6ヶ月猶予。法的措置の証拠。 | 強制力なし。作成にルールあり。 | 数千円程度 |
| 支払督促 | 金銭請求に限り、簡易裁判所を通じて支払いを命じてもらう。 | 書類審査のみで迅速。費用が安い。異議がなければ強制執行可能。 | 異議が出ると通常訴訟へ。金銭以外不可。相手の住所地が管轄。 | 訴訟の半額程度の印紙代等 |
| 少額訴訟 | 60万円以下の金銭請求に限り、原則1回期日で判決。 | 手続きが簡単で費用も安い。早期解決期待。 | 金額制限あり。複雑な事案に不向き。通常訴訟への移行も。 | 数千円~1万円程度の印紙代等 |
| 通常訴訟 | 上記以外や複雑な事案の正式な裁判。 | 最終的な司法的判断。強制執行可能。 | 時間と費用がかかる。専門知識が必要。 | 請求額に応じた印紙代、弁護士費用等 |
交渉による請求
まず直接交渉し、相手の事情を把握し、こちらの要求を明確に伝えます。合意内容は必ず書面(合意書等)で残しましょう。
内容証明郵便による催告
正式な請求と証拠化のため、内容証明郵便が有効です。請求内容、期限、法的措置の可能性を明記します。消滅時効の完成を6ヶ月猶予する効果もありますが、その間に法的手段が必要です。
法的手続きによる請求
- 支払督促:金銭請求に限り、簡易裁判所が書類審査で支払いを命じます。異議がないまま2週間が経過すると仮執行宣言が付与され、強制執行可能です。異議が出ると通常訴訟に移行します。
- 少額訴訟:60万円以下の金銭請求で、原則1回期日で判決が出ます。
- 通常訴訟:上記以外や複雑な事案の場合の正式な裁判です。
履行請求をする際の注意点
履行請求を行う場合に気をつけておきたい注意点について解説します。
証拠の確保の重要性
請求の根拠となる事実を証明できる証拠(契約書、メール、写真、録音等)を確保することが最も重要です。民事訴訟になった際には主張する事実を裏付ける証拠がなければ事実を認定してもらえないためです。
消滅時効の確認
債権には消滅時効があり、一定期間権利を行使しないと権利が消滅します。改正民法では原則、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年のいずれか早い方です。時効の完成猶予・更新のためには、催告(内容証明郵便で6カ月猶予)や裁判上の請求などの措置が必要です。
費用対効果の検討
請求にかかる費用(専門家費用、裁判費用等)と回収見込み額とのバランスを検討する必要があります。
専門家への相談
法的な知識や手続きが複雑なため、専門家(弁護士、司法書士、行政書士など)への相談を推奨します。
履行請求をされた場合の対応
では、履行請求をされた場合はどうしたら良いでしょうか?ここでは請求された場合の対応について解説します。
請求内容の確認と反論の検討
請求内容を詳細に確認し、正当な反論事由(同時履行の抗弁権、消滅時効の援用、契約不成立・無効・取消、債務不存在・履行済みなど)がないか検討します。証拠準備も重要です。
交渉による解決の道
相手方の請求に理がある場合や紛争の長期化を避けたい場合は、交渉による解決を目指します。支払いが困難な場合は、減額や分割払いを申し入れ、合意内容は書面(示談書等)に残します。
誠実な対応の重要性
請求を無視したり不誠実な対応をとったりすることは避け、真摯に対応する姿勢が円満な解決への第一歩です。
契約不適合責任と履行の請求
「契約不適合責任」とは、売買契約等で引き渡された目的物が、契約で合意した「種類、品質、数量」に適合しない場合に、売主等が負う責任です。
追完請求権(修補、代替物引渡し、不足分引渡し)
契約不適合の場合、買主等はまず「追完請求権」を行使できます。
- 目的物の修補請求:欠陥部分の修理を求める(例:雨漏りの修理、システムのバグ修正)。
- 代替物の引渡請求:契約通りの代替品との交換を求める(例:品番違いの家電製品の交換)。
- 不足分の引渡請求:不足している数量分の引渡しを求める(例:注文数より少ない商品の納品)。
債務不履行とは?
「債務不履行(さいむふりこう)」とは、契約上の義務を正当な理由なく約束通りに実行しないことです。これは法的な責任を伴う行為です。例えば、代金を支払わない、仕事を期日までに完成させない、商品に欠陥があった場合などです。
債務不履行の主な種類
債務不履行は主に以下の種類に分類されます。
| 債務不履行の種類 | 内容 | 主な法的効果例 |
|---|---|---|
| 履行遅滞 | 履行が可能だが、正当な理由なく期限を過ぎても履行しないこと。 | 損害賠償請求、契約の解除、強制履行 |
| 履行不能 | 債務者の責任で履行が不可能になること。 | 損害賠償請求、契約の解除 |
| 不完全履行 | 履行はあったが、内容が契約に適合せず不完全であること。 | 追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約の解除 |
| 履行拒絶 | 債務者が履行を明確に拒絶する意思を表示すること。 | 損害賠償請求、契約の解除 |
債務不履行の法的効果
債務不履行が生じた場合、債権者は以下の保護手段を与えられています。
- 損害賠償請求:債務不履行で損害を被った場合、賠償を請求できます(民法第415条)。ただし、債務者の責めに帰することができない事由による場合は請求できません。
- 契約の解除:契約の目的達成が著しく困難になった場合などに契約を解除できます。
- 強制履行(履行の強制):裁判所に訴えて強制的に債務内容を実現させることができます(民法第414条)。
履行の請求についての知識で契約トラブルに備えましょう
「履行」、「履行の請求」、「債務不履行」の知識は、契約トラブルから自身を守り、適切に対応するために重要です。問題発生時には証拠を確保し、交渉による解決を試み、必要に応じて法的手続きや専門家への相談を検討しましょう。契約不適合責任についても理解しておくことが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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