- 作成日 : 2025年7月9日
優良誤認表示とは?具体例を紹介
不当景品類及び不当表示防止法(以下:景品表示法)は、消費者が商品やサービスを自主的かつ合理的に選択できる環境を守ることを目的としています。この法律が規制する不当表示の一つが「優良誤認表示」です。
優良誤認表示とは、事業者が自社の商品やサービスの品質等について、実際よりも著しく優良であると消費者に誤認させる表示を指し、刑事罰が適用されます。この記事では、優良誤認表示の定義、判断基準、具体例、法的措置について解説します。
参考:不当景品類及び不当表示防止法|e-Gov法令検索
目次
優良誤認表示とは?
優良誤認表示とは、商品やサービスの品質などについて誤った情報を示す表示であり、その規定は景品表示法で定められています。
景品表示法における優良誤認表示の定義
景品表示法第5条第1号は、優良誤認表示を、事業者が自己の商品・サービスの品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示したり、事実に相違して競争事業者のものよりも著しく優良であると示したりするものであって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示と定義しています。
「品質、規格その他の内容」とは、商品の原材料、性能、原産地、製造方法など広範な事項を指します。
「著しく優良」の判断基準
「著しく優良」とは、表示内容と実際の内容との乖離が、社会一般に許容される誇張の範囲を超え、消費者の商品選択に影響を与える程度であることを意味します。抽象的なキャッチコピーが直ちに問題となるわけではなく、客観的事実と異なり、その違いが消費者の判断要素となる場合です。判断は、広告全体の構成や文脈などを総合的に考慮し、一般消費者の視点から行われます。
誤認表示と判断されるポイント
優良誤認表示と判断されるには、以下の要素を総合的に考慮します。
- 事業者による表示であること。
- 自己の供給する商品・サービスに関する表示であること。
- 表示内容と実際の内容との間に乖離があること。
- その乖離が「著しい」ものであること。
事業者の故意・過失は原則として問われません。表示内容が客観的に消費者を誤認させるものであれば規制対象となり得ます。ただし、課徴金納付命令に関しては、事業者が不当表示を知らず、かつ相当の注意を怠らなかった場合は賦課されないことがあります。
優良誤認表示の具体例
ではどのようなものが優良誤認表示になるのか、具体的な例を紹介します。
商品に関する事例
分野 | 問題となった表示例 | 実際の内容 | 優良誤認と判断される理由 |
---|---|---|---|
食品 | 「国産有名ブランド牛使用」 | ブランド牛ではない国産牛肉を使用 | 消費者はブランド牛特有の高品質を期待するが、実際は異なり品質について誤認させるおそれ。 |
「無添加」 | 具体的に何が無添加なのか不明確、または一部添加物使用 | 消費者は一切の添加物が使用されていないと誤認する可能性。 | |
「メロン果汁たっぷり」とイラスト付きで表示 | メロン果汁は数% | 表示とイラストから、メロン果汁が主原料であるかのような誤認を与える。 | |
自動車 | 中古車の走行距離「3万km」 | 実際は10万km以上走行(メーター改ざん) | 走行距離は中古車の品質・価値の重要要素であり、著しく事実に反する表示は消費者の合理的な選択を妨げる。 |
家電・電子機器 | LED電球「白熱電球60ワット相当の明るさ」 | 実際はJIS規格の60ワット形より著しく暗い | 消費者は同等の明るさを期待するが、実際は劣る性能について誤認させる。 |
衣料品・宝飾品 | ネックレス「天然ダイヤモンド使用」 | 全て人造ダイヤモンドを使用 | 天然と人造では価値が大きく異なり、消費者の商品選択に重大な影響を与える誤認表示。 |
健康食品・化粧品・美容機器 | 美容機器「なでるだけで脂肪分解効果」 | 合理的な根拠なし | 消費者は科学的根拠に基づいた効果を期待するが、実際には裏付けがなく効果について誤認させる。 |
健康や美容に関する表示は、科学的かつ客観的なデータに基づく合理的な根拠が不可欠です。
サービスに関する事例
分野 | 問題となった表示例 | 実際の内容 | 優良誤認と判断される理由 |
---|---|---|---|
不動産広告 | 物件広告「駅徒歩5分」 | 実際は徒歩10分(道路距離80mを1分とせず、直線距離等で表示) | 通勤・通学の利便性に関わる重要情報であり、実際よりも有利であるかのような誤認を与える。 |
新築マンション「全室南向き、日当たり良好」 | 隣接地に高層ビル建設計画があり、完成後は日照が著しく悪化 | 将来の日照悪化を告知せず、恒久的に良好であるかのように誤認させる。 | |
「おとり広告」(契約済み物件等を掲載) | 実際には取引できない物件 | 魅力的な物件で顧客を誘引し、別の物件を勧める悪質な手法。 | |
旅行サービス | ツアー広告「5つ星ホテル宿泊」 | 実際は格下のホテル、または一部日程のみ5つ星 | ホテルの等級は旅行の品質を左右する重要要素であり、実際と異なる表示は消費者の期待を裏切る。 |
教育サービス | 学習塾広告「〇〇大学合格者数No.1!」 | 他校と異なる集計基準や、特定年度のみの実績を継続的にNo.1であるかのように表示 | 客観的な比較が困難な方法で優位性を主張し、消費者の塾選びを誤らせるおそれ。 |
サービスに関する優良誤認は、「期待した体験との乖離」として現れることが多いのが特徴です。
優良誤認表示と判断された場合の法的措置
優良誤認表示を行った事業者には、行政処分や経済的制裁が科される可能性があります。
措置命令
消費者庁長官等は、優良誤認表示を行った事業者に対し、当該行為の差止め、再発防止策の実施、一般消費者への周知徹底等を命じることができます(景品表示法第7条第1項)。命令に従わない場合、罰則が科される可能性があります。
刑事罰(直罰規定)
優良誤認表示について、従来は措置命令が出されても従わない場合に刑事罰が規定されているのみでした。しかし、表示と実際に乖離があることを認識しつつ、これを認容して違反行為を行うような悪質な事業者が存在しており、措置命令と刑事罰だけでは実効性に欠けました。このような悪質な事業者の行為を抑止するために令和5年に景品表示法が改正されました。優良誤認表示について措置命令がなくても処罰するために、景品表示法第48条が創設され、改正景品表示法は令和6年10月より施行されています。
課徴金納付命令
優良誤認表示等を行った事業者には、措置命令に加え、課徴金の納付が命じられることがあります(景品表示法第8条)。課徴金額は、原則として対象期間の売上額の3%です。自主的に違反事実を報告した場合などは減額されることがあります。課徴金納付命令については令和5年の景品表示法改正で、10年以内に課徴金納付命令を受けている場合は課徴金の額が1.5倍になるなど、課徴金制度の見直しによりペナルティがより重い法改正が行われていることを知っておきましょう。
適格消費者団体による差止請求
適格消費者団体は、事業者が不特定多数の消費者に対して優良誤認表示等を行っている場合に、その行為の差止めを求める訴訟を提起できます。
社会的信用の失墜
景品表示法違反は、法的制裁に加え、報道・SNS拡散を通じて、企業のブランドイメージや社会的信用を著しく損なう可能性があります。
事業者が注意すべきポイント
優良誤認表示に関係する、事業者が注意すべき点について解説します。
不実証広告規制(合理的根拠の提示)
景品表示法第7条第2項は「不実証広告規制」を定めています。消費者庁長官等は、表示が優良誤認表示に該当するか判断するため、事業者に表示の裏付けとなる「合理的根拠」を示す資料の提出を求めることができます。
期間内(原則15日以内:不当景品類及び不当表示防止法施行規則第7条第2項)に資料が提出されない場合、または提出資料が合理的根拠と認められない場合、当該表示は優良誤認表示とみなされます。
「合理的根拠」とは、客観的に実証された内容であり、表示された効果・性能と適切に対応している必要があります。消費者の体験談等を根拠とする場合は、統計的に客観性が十分に確保されている必要があります。
優良誤認表示を避けるための対策
優良誤認表示を避けるための対策として次のものが挙げられます。
- 表示内容の正確な理解と情報共有の徹底:社内で正確な情報を共有し、誤った認識に基づく表示を防ぎます。
- 表示前の法的チェック体制の構築:法務部門や外部専門家によるリーガルチェックを行います。
- 第三者による客観的なチェックの実施:客観性を欠いた表示を防ぐため、表示制作に直接関与しない第三者の視点を取り入れます。
- 表示の根拠となる情報の十分な調査と保管:特に効果や性能をうたう場合は、事前に客観的かつ合理的な根拠資料を準備・保管します。
- 消費者庁や業界団体のガイドラインの遵守:消費者庁のガイドラインや業界団体の公正競争規約を確認し、遵守します。
優良誤認表示の防止は、企業の社会的責任(CSR)を果たし、消費者との信頼関係を構築するための積極的な取り組みと位置づけるべきです。
優良誤認表示は、商品やサービスへの信頼を低下させる
優良誤認表示は、商品やサービスの品質等について消費者を誤認させ、不当に顧客を誘引する行為であり、景品表示法で厳しく規制されています。「著しく優良」かの判断は、表示全体から一般消費者が受ける印象に基づいて行われます。
事業者は、表示内容の裏付けとなる合理的根拠を常に保持し、消費者庁から求められた際には速やかに提示できる体制を整える必要があります。違反した場合、措置命令や課徴金納付命令、社会的信用の失墜といった重大な結果を招く可能性があります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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