• 作成日 : 2025年7月9日

リーガルオペレーションズとは?メリットや導入のポイント・事例を解説

リーガルオペレーションズは、企業の法務部門における業務効率化や機能高度化を支える枠組みとして注目されています。契約管理、ナレッジ共有、テクノロジー活用、人材育成など、従来の法的判断以外の業務領域を体系的に整備し、法務組織を戦略的に運営することを目的としています。近年は国内企業でも導入が進み、大企業からスタートアップまで幅広く実践されています。

本記事では、リーガルオペレーションズの基本から導入メリット、最新事例までわかりやすく解説します。

リーガルオペレーションズとは

リーガルオペレーションズ(Legal Operations、略称:Legal Ops)とは、企業の法務部門が社内の依頼部門に対して、より効率的かつ効果的に法務サービスを提供するための仕組み・活動、専門人材を指す概念です。言い換えれば、法務担当者による法的判断や助言といった中核業務以外のあらゆるサポート業務を包括する取り組みといえます。

リーガルオペレーションズの具体的な取り組み範囲は多岐にわたります。米国の業界団体CLOC(Corporate Legal Operations Consortium)は、Legal Operationsの主要領域として12の主要分野を示しています。また、日本でも2021年に有志の企業法務担当者が集い、法務機能を8つの要素に整理した「Legal Operations CORE 8(コアエイト)」を提唱しました。

日本版「Legal Operations CORE8(コアエイト)」

2021年に日本の法務実務家らによって提唱された「CORE8」は、国内の企業法務に即した形で以下の8領域に整理されています。

  1. 戦略
    企業戦略に沿った法務部門ミッションの明確化、目標・活動計画の策定と遂行。
  2. 予算
    法務関連コストの策定・配分・統制。グローバル拠点まで含む予算マネジメント。
  3. マネジメント
    法務組織設計、レポートライン最適化、国内外拠点との連携強化。
  4. 人材
    採用・育成・評価を通じ多様な法務人材を確保し、キャリアパスを設計。
  5. 業務フロー
    契約・相談等の受付から処理までの標準業務プロセス整備と継続的改善。
  6. ナレッジマネジメント
    契約雛形・案件データ・法令解釈等の蓄積、体系化、共有・活用。
  7. 外部リソースの活用
    外部弁護士・リーガルテックベンダー等の選定、評価、最適活用。
  8. テクノロジー活用
    課題ドリブンでリーガルテックを導入し、データ活用や自動化を推進。

出典:日本版Legal Operations CORE 8 EVENT Report

リーガルオペレーションズ導入のメリット

リーガルオペレーションズの導入は、法務部門に多くの利点をもたらします。まず、契約期限や承認プロセスを可視化することで法的リスクやコンプライアンス対応を強化でき、リスクの早期発見と対処が可能になります。また、業務効率化による時間短縮やコスト削減も期待され、契約作成・承認の電子化が作業負担を大きく軽減します。さらに、定型業務を削減することで法務担当者は戦略的判断や経営への提案に集中でき、法務部門がビジネスに貢献する存在へと進化する契機となります。

リーガルオペレーションズが業務効率化に与える影響

リーガルオペレーションズの導入は、法務部門における業務の無駄を減らし、限られた人員でも高い処理能力を維持できる仕組みづくりに役立ちます。特に契約業務を中心に、業務全体の最適化が図られます。

契約関連業務の最適化

契約書の作成やレビューは、法務担当者が日常的に多くの時間を費やす業務の一つです。リーガルオペレーションズでは、まず現状の業務プロセスを洗い出し、手続きの重複や非効率な手順を明確化します。テンプレートの整備や契約書の標準化、電子契約の導入により、契約締結までの所要時間を大幅に短縮できます。また、文書管理も一元化され、契約の進捗や期限の把握が容易になります。

ナレッジ共有と自動化の推進

過去の相談内容や契約審査時の判断基準をデータベース化することで、ナレッジ共有が可能となり、類似案件への対応スピードが向上します。属人的な処理を排除し、業務の標準化も進みます。さらに、依頼受付から承認までのプロセスをシステム上で自動化することで、手続きの漏れや対応遅延を防止でき、少人数でも多くの業務を効率的に処理することが可能になります。こうした改革により、法務部門全体のパフォーマンスが底上げされます。

リーガルオペレーションズにおけるテクノロジー活用

リーガルオペレーションズを語る上で、テクノロジーの活用は欠かせません。近年、多くのリーガルテック(法務分野向けITソリューション)が登場しており、これらを駆使することで法務業務の効率化と高度化が飛躍的に進みます。

契約管理システム活用

契約書の雛形や条項ライブラリを登録しておけば、新規契約作成時に過去のドラフトを再利用でき、審査にかかる時間を短縮できます。また、契約書や関連情報を一箇所に集約することで、最新状況の共有や過去契約の検索が容易となり、契約期限のアラート機能により更新漏れも防止できます。

ナレッジ共有

過去の契約交渉で得た知見や法律相談Q&A、チェックリスト・テンプレート類をデータベース化して共有すれば、類似案件に直面しても一から検討し直す手間が省けます。特定の担当者だけが知るノウハウに依存しなくなるため、人事異動や退職があっても知識の断絶を防ぎ、常に一定水準のサービスを提供できます。ナレッジを組織で蓄積・共有することで、業務の標準化と効率化、高品質化にも寄与します。

ワークフロー自動化

業務プロセスの自動化も重要です。各部門からの契約審査依頼をWebフォームで受け付けて自動的に担当者へ通知する仕組みを導入すれば、メールや紙での煩雑なやり取りを減らせます。契約書の承認フローもシステム化することで、手続の漏れや遅延を防ぎ、進捗を一目で把握できます。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による定型作業の自動化で、人的ミスの削減と時間短縮が可能です。こうした仕組みにより、法務担当者はより付加価値の高い業務に注力でき、依頼部門へのサービスも迅速になります。

リーガルオペレーションズに求められるスキル

リーガルオペレーションズを担う人材には、法律知識に加えて業務改善やITリテラシー、データ分析、コミュニケーション力など幅広いスキルが求められます。法務業務の流れやコンプライアンス実務の勘所を把握していなければ、適切な業務改善は図れません。複数の施策を計画立案し、関係者を巻き込んで推進できるプロジェクト管理能力、契約件数などの業務データを分析しエビデンスに基づき意思決定できるデータ分析力も欠かせません。

ITツールへの高い適応力も必要です。契約管理システムやワークフロー管理ツール、AIによる契約審査支援などのソリューションを積極的に活用できる素養が求められます。さらに、法務部内外の関係者と調整し改革を推進できるコミュニケーション力やリーダーシップも重要です。これらハード・ソフト両面のスキルを備えた人材がいることで、リーガルオペレーションズの効果を最大限に引き出すことができます。

リーガルオペレーションズの事例紹介

近年、日本国内でもリーガルオペレーションズに本格的に取り組む企業が増えています。法務機能の高度化や業務効率化を目指し、それぞれの組織に応じた独自のアプローチで成果を上げている事例を紹介します。

JR西日本:CORE8を活用した法務機能の再定義

JR西日本では、Legal Operations CORE8の枠組みに基づき、従来の属人的な業務の可視化と標準化に着手しました。契約業務の流れを再設計し、業務プロセスにおけるボトルネックを整理。ナレッジ共有のための内部DBの整備や、契約書の分類・保管ルールの見直しにも取り組んでいます。これにより、法務部門のリードタイム短縮と対応品質の平準化が進んでいます。

三菱UFJ信託銀行:ナレッジ管理と業務フローの再構築

三菱UFJ信託銀行では、法務部門の持続的な価値提供を目指し、ナレッジ共有とワークフロー最適化を軸とした取り組みを推進しています。契約審査や相談対応に関するQ&Aデータベースを構築し、属人化の回避と育成支援を実現しました。さらに、依頼受付から回答までのプロセスをデジタル化し、処理速度と可視性の向上を図っています。

日本軽金属:人材育成と予算管理までを含む包括的な改革

日本軽金属では、CORE8の全領域に対して体系的な改善活動を行っており、人材育成・教育計画の策定、法務予算の可視化と管理、法務依頼対応の効率化に至るまで包括的なオペレーション改革を展開中です。特に若手法務人材の早期育成を目的としたOJT支援ツールの整備が進められており、実務力の早期向上に寄与しています。

古河電工:法務業務の構造化とツールの統合活用

古河電工は、法務業務の全体像を業務フロー単位で整理し、それに対応するツールを適切に組み合わせて運用しています。電子契約や契約管理ツールを導入するだけでなく、ナレッジ共有、法令対応記録、内部相談ログなどを統合的に扱える仕組みを構築しました。これにより、社内外からの問い合わせ対応のスピードが飛躍的に向上しました。

マクアケ:スタートアップでも実現可能な少人数法務の仕組み化

クラウドファンディング事業を展開するマクアケでは、少人数の法務体制ながら、リーガルオペレーションズを柔軟に導入しています。契約ひな型の整備、ワークフローの電子化、依頼管理システムの導入などにより、非法務部門との連携をスムーズにし、スピード感のある法務対応を実現しました。スケーラブルな仕組みによって、成長フェーズの事業にも対応可能な法務体制を構築しています。

リーガルオペレーションズで法務機能を進化させよう

リーガルオペレーションズは、法務部門の業務効率化や戦略的機能強化を実現する実践的なアプローチです。契約管理やナレッジ共有、テクノロジー活用、人材育成まで多岐にわたる領域を体系化し、企業の規模や課題に応じて導入が進んでいます。国内でも多様な企業が実践を始めており、法務の在り方を見直す動きが加速しています。

法務部門の役割が拡大しつつある現代において、リーガルオペレーションズへの挑戦は企業の競争力強化に直結するでしょう。


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