- 作成日 : 2025年5月7日
民法566条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)とは?
民法566条は、民法改正により新設された契約不適合責任について定めた規定です。目的物が契約とは異なる種類や品質だった場合、買主はその事実を認識したときから原則として1年以内に売主へ通知しなければ、責任を追及できません。
この記事では、566条の要点や改正前との違い、消滅時効との関係などについて解説します。
目次
民法566条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)とは
民法566条は、引き渡された目的物が「種類」または「品質」に関して契約の内容に適合しない場合の契約不適合責任を定めたもので、2020年の民法改正により新たに設けられた規定です。
この契約不適合責任は、旧民法の瑕疵担保責任から改められたもので、改正により瑕疵担保責任の概念は廃止されています。
ここでは、改正後・改正前の民法566条について解説します。
改正後の民法566条
改正後の民法566条は、売買目的物の種類または品質について契約不適合があった場合、買主は不適合の事実を知ったときから1年以内に、売主に対してその事実を通知する義務を負うものとした規定です。買主がこの通知義務を怠った場合、契約不適合を理由とする権利を行使できません。
期間制限を設けた理由は、一般的に売主には目的物の引渡し後は履行が終了したという期待があり、このような売主の期待を保護する必要があるためです。また、契約不適合の内容は目的物の使用や時間経過による劣化などで比較的短期間で判断が困難となるため、期間制限を設けて法律関係を早期に安定させる必要があることも理由とされています。
ただし、売買目的物の引渡し時に売主が契約不適合について知っていたか、重過失で知らなかったときは、1年以内に通知をしなくても契約不適合を理由とする権利を行使できます。
このような場合の売主には、期間制限の恩恵を与える必要性は低いと判断されるためです。
改正前の民法566条
旧民法566条は、目的物に地上権などの第三者の権利が設定されていた場合に関する売主の責任についての規定です。第1項では「買主がその権利の存在を知らず、かつ、そのために契約の目的を達成できないときには、買主が契約の解除や損害賠償を求めることができる」という規定が定められていました。
さらに第3項では、上記の解除や損害賠償の請求について、買主が事情を知ってから1年以内に行う必要があるという期限が設けられており、この制限は、権利行使の機会を不当に狭めるものではないかという指摘がありました。
このような背景から、買主の利益をより適切に保護しつつ、売主の責任範囲との均衡を図るため、566条は現在の契約不適合責任に関する条文として再構成されたという経緯があります。
期間制限は目的物の種類・品質のみ
民法566条においては、売買の目的物が契約で定められた種類や品質と異なる場合、買主はそれを知ったときから1年以内に売主へ通知しなければ、契約不適合責任を追及できないとされています。
一方、目的物の「数量の不足」や「権利の欠缺(たとえば抵当権などの担保権が付着している場合)」については、通知期間の制限は設けられていません。
これは、数量の不足や権利に関する不具合は、外見や登記などにより比較的容易に判別でき、売主側にも予測可能性が高いと考えられているためです。そのため、改正後の民法では、これらの期間制限が廃止されています。
参考:e-Gov法令検索 民法
民法566条と民法166条の違い
民法566条では、売主が引き渡した目的物に契約不適合があった場合、買主はその不適合を知ったときから1年以内に売主に通知しなければ、その権利(追完請求・損害賠償請求等)を行使できなくなることが規定されています。
一方、民法166条では、一定の期間権利を行使しなかった場合に、債権や財産権が時効によって消滅することが定められています。
この2つの条文が規定する「消滅」はどのように異なるのか、詳しくみていきましょう。
民法566条は契約不適合責任の通知期間に関する規定
民法566条は、契約内容に適合しない目的物について、買主の通知期間を制限する規定です。買主が売主に対して契約不適合責任を追及するためには、定められた期間内に通知しなければならないというルールを規定しています。
期間内に通知しないと、追完請求・代金減額・損害賠償といった契約不適合責任に対する買主の権利を行使できなくなります。権利そのものが「消滅」するわけではなく、行使の要件を満たさない状態になるということです。
消滅時効のような「援用」などの手続きは不要で、期限の経過により当然に行使ができなくなります。
民法166条は契約不適合責任の消滅時効に関する規定
民法第166条は、債権や財産権が一定期間の不行使によって消滅する「消滅時効」について定めた条文です。これは、権利を長期間使用しないことにより、その権利が法的に消滅する制度です。契約不適合責任も、原則としてこの時効制度の対象になります。
具体的には、債権者が権利を行使できる状態になってから10年、もしくはその行使可能性を認識してから5年が経過したときに、時効によって債権が消滅する仕組みです。
なお、消滅時効が成立するには、相手方が「時効を援用する」という意思表示を行う必要があります。これにより、権利が最終的に効力を失うことになります。
参考:e-Gov法令検索 民法
民法566条と商法526条の違い
商法526条では、民法566条と同じく契約不適合責任の権利行使について規定しています。いずれも契約不適合責任の通知期限に関する条文ですが、適用される契約の種類や通知期限、趣旨が異なります。
ここでは、これらの条文の違いについて詳しく解説します。
民法566条は一般的な売買契約に関する規定
民法566条は、 一般の売買契約に関する規定です。欠陥、品質違いなどの契約不適合を知ったときから1年以内に通知しなければならず、 通知しないと追完請求・減額・解除・損害賠償などの契約不適合責任を行使できません。
民法566条が設けられた趣旨は、契約の安定を図り、トラブルの早期発見を促すことにあります。
商法526条は商人間の売買契約に関する規定
商法第526条は、商人間の売買契約に関する規定です。引渡し後は直ちに検査し、遅滞なく通知しなければ責任追及ができません。また、検査で直ちに発見できない契約不適合については、引渡し後6ヶ月以内に発見して通知が必要です
遅滞なく通知しなければ、 契約不適合に基づく損害賠償などを請求できなくなります。
商取引に特有の迅速性と効率性を確保するという趣旨で設けられた規定です。
参考:e-Gov法令検索 商法
民法566条の通知期間を過ぎた場合の影響
民法566条の契約不適合責任は、通知期間が設けられています。通知期間が過ぎた場合の影響について、2つのケースをみていきましょう。
買主が契約不適合を知っていたが1年以内に通知しなかった場合
買主は、原則として、目的物の種類または品質に契約不適合があることを知ったときから1年以内に、その事実を売主に通知する必要があります。
この通知を行わなかった場合には、履行の追完請求、代金の減額請求、損害賠償請求、契約の解除など、契約不適合責任を売主に対して追及することができません。
なお、この通知には、具体的な損害額やその根拠まで記載する必要はありませんが、不適合の内容を売主が認識できる程度に、種類や範囲などの情報を明示することが求められます。
売主が契約不適合を知っていた場合
民法566条の但書では、売主が目的物の契約不適合を引渡しときに知っていた場合、または重大な過失によって知らなかった場合には、買主による通知期間(契約不適合を知ってから1年以内)の制限が適用されず、買主はその後であっても売主に対して契約不適合責任を追及できるとされています。
これは、契約不適合の存在を知りながら買主に告げなかったような売主まで保護する必要はないためです。
民法566条に関する判例と実務上の解釈
民法566条については、改正前の566条3項に設けられていた期間制限について、その法的性質や裁判上の権利行使が争われた事案があります。
旧民法566条3項の期間は除斥期間
判例では、旧民法566条3項にいう1年の期間の法的性質について、「除斥期間」であると判断しています。
除斥期間とは、一定期間を経過すると当然に権利が消滅する期間であり、一般的な「時効」と異なり、催告や訴訟提起などで進行を中断させることはできません。そのため、期間内に何らかの手続きをとらなければ、権利自体が消滅することになります。
裁判上の権利行使は不要
旧民法566条3項の除斥期間について、裁判では、買主がその期間内に売主に対して瑕疵担保責任の存在を知らせ、責任を問う意思を明確に示せば足りるとしています。裁判を起こす必要はなく、内容証明郵便などで通知することによって、請求権の保存は可能ということです。
民法改正では、瑕疵担保責任の規定は「契約不適合責任」へと整理され、566条第3項の規定は削除されました。また、数量や権利に関して契約内容に適合しない場合における買主の権利については、期間制限は適用されないことになっています。
民法566条の通知期間を守るためのポイント
民法566条における契約不適合責任に基づく買主の権利行使は、契約内容の不適合を知った時点から1年以内に売主へ通知しなければなりません。
裏を返せば、売主は買主が不適合に気づくまでは責任を負い続け、さらに認識後も1年間は責任を免れないことになります。このように、売主にとっては長期間にわたり責任を負う可能性があるため、実務上では通知期限を明確に定める特約が設けられることが一般的です。
契約不適合責任は任意規定であるため、当事者間の合意によって通知期間を短縮することも可能です。たとえば、多くの売買契約では通知期間を3ヶ月程度とする条項が盛り込まれています。そのため、買主は契約書の内容を十分に確認し、不適合を発見した際には速やかに通知を行えるよう備えておくことが大切です。
民法566条の趣旨を正しく把握しよう
改正民法における第566条では、契約不適合責任に関する新たな枠組みが導入されています。売買契約の目的物が、契約上予定されていた内容と異なる場合(種類・品質の不適合)、買主は売主に対して追完の請求や損害賠償などの対応を求めることができます。
ただし、これらの請求権を行使するには、買主が不適合に気づいてから1年以内に、その旨を売主に通知しなければなりません。
実務においては、契約不適合責任に関する通知期限を短縮する特約が売買契約に盛り込まれていることが一般的です。そのため、買主は契約書の条項を十分に確認し、不適合を発見した際には速やかに対応できるよう備えておくことが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
派遣先均等・均衡方式とは?労使協定方式との違いも解説
派遣先の正社員と派遣労働者との間の不合理な待遇格差の解消を目的とし、2020年4月に改正労働者派遣法が施行されています。 この法律では、派遣社員の賃金の決定方法について派遣会社は、派遣先均等・均衡方式と労使協定方式のいずれかを選択して、派遣…
詳しくみる2021年4月施行の高年齢者雇用安定法改正とは?概要や事業者の対応を解説
高年齢者雇用安定法とは、高齢者が活躍できる環境整備を図る法律です。少子高齢化の進行と高齢人材ニーズの高まりに伴い、2021年4月に改正されました。改正により、70歳までの就業機会の確保が努力義務となりました。 この記事では、高年齢者雇用安定…
詳しくみるリスクマネジメントとは?考慮すべきリスクやフローも解説
企業などの法人は日々さまざまなリスクを背負っています。これまで経営が順調であったとしても、トラブルが発生して形勢が逆転し、窮地に立たされる企業も少なくありません。 そこで「リスクマネジメント」をしっかりと行って、問題が発生しないよう事前に対…
詳しくみる特定商取引法違反となる事例・罰則は?時効や通報先もわかりやすく解説
特定商取引法は悪質勧誘を排し、消費者を守る法律です。違反があれば契約取消しやクーリング・オフ、業務停止命令、懲役刑など重い責任が及びます。 本記事では、特定商取引法違反の事例や罰則、時効・通報窓口まで詳しく詳説します。 特定商取引法とは 特…
詳しくみる宅建業法改正における電子契約の推進とは?不動産取引での重要ポイント
2022年5月、宅建業法改正により不動産取引(賃貸・売買)での電子契約が可能になる見込みです。改正法の施行直前で慌てないために、電子契約に向けた社内環境を早めに整えておくことをおすすめします。今回は、直前に迫った宅建業法改正のポイントと不動…
詳しくみる2021年3月1日施行の会社法改正について
2021年3月1日、株主総会参考書類等の電子提供制度等を除いて改正会社法が施行されました。改正された会社法は、どのような内容なのでしょうか。この記事では、会社法改正の概要やポイント(株主総会参考書類等の電子提供制度、株主提案権の濫用制限、取…
詳しくみる