- 作成日 : 2025年5月7日
民法545条(解除の効果)とは?ただし書の第三者の定義もわかりやすく解説
民法545条は、契約解除の効果を定めた条文です。解除に伴う原状回復義務と第三者保護に関する規定が設けられています。2020年の改正により、原状回復義務の具体的な内容が明文化され、新たに第3項が追加されました。
本記事では、民法545条の内容、ただし書における第三者の保護、関連する判例、注意点などについて解説します。
目次
民法545条(解除の効果)とは
民法545条は解除の効果について定めた規定です。解除により当事者は原状回復義務を負い(本条1項)、2020年の民法改正により、3項において原状回復義務の具体的内容が定められています。
ここでは、民法545条の内容について解説します。
民法545条1項(原状回復義務)
民法545条1項では、当事者の一方が解除権を行使したときは、各当事者は原状回復義務を負うことを規定しています。契約の解除は、有効に成立した契約の効力を当初に遡って消滅させる物であり、契約によって給付が行われている場合、それがなかったときと同一の状態に戻す必要があります。物を給付したときはその物自体を返還し、それができないときは解除当時の価格を返還することが必要です。
ただし、第三者の権利を害することはできないという但書があり、たとえば、対象の物が第三者に転売されているような場合、解除によってその所有権を奪うことはできません。
民法545条2項(利息)
民法545条2項では、第1項に基づく契約解除によって金銭を返還する場合には、その受領時からの利息を付けて返還することが定められています。
そのため、契約解除によって受け取った金銭を返す際には、元の金額に加えて、受領日からの利息も支払う必要があります。これは、相手方が一定期間金銭を利用できなかったことによる損失を補うためのものです。
利息の利率は、特約がない限り、民法404条に基づく法定利率(現在は年3%)が適用されます。
民法545条3項(果実の返還)
民法545条3項では、解除による原状回復として金銭以外の物を返還する場合、その物を受領したとき以後に生じた果実を返還すべきことを規定しています。改正前にはなかった規定で、新たに設けられました。
たとえば、土地の売買で契約が解除された場合、買主は土地自体を返還するとともに、その土地から収穫した作物や、土地を賃貸して得た賃料収入などがある場合、それらの「果実」も返還しなければなりません。
これは、原状回復義務に基づくもので、単に物を返すだけでなく、その物を使って得た利益も含めて返還しなければ、本来の公平な状態に戻すことができないためです。
民法545条4項(損害賠償)
民法545条4項は、解除をしてもなお損害がある場合に、損害賠償の請求もできることを規定しています。契約の相手方の不履行によって損害を被った場合、解除による原状回復だけでは被害の全部を補えない場合もあるため、法は解除と損害賠償請求との併存を認める規定です
たとえば、中古車の売買契約で、買主が代金を払わなかったために売主が契約を解除した場合、売主は車を返してもらうと同時に、支払いがされなかったことで再販の機会逸失や車の価値の下落といった損害がある場合、損害賠償の請求が可能です。
参考:e-Gov法令検索 民法
民法545条1項ただし書における「第三者」とは
民法545条1項では、契約の解除があった場合、その効果が契約の締結時点にさかのぼって生じる(遡及効)ことを定めています。一方で、ただし書においては第三者の保護規定が設けられています。
ここでいう「第三者」とは、契約当事者以外であって、その契約に基づいて目的物に関する権利を取得した者を指します。契約の解除により原則として契約は初めから効力がなかったとみなされますが、第三者がすでに取得した権利については、解除によって影響を及ぼすことはできません。
このような規定は、契約の有効性を信頼して取引に参加した善意の第三者を保護するためのものです。判例上、「第三者」として保護されるのは、契約解除の前に目的物について権利を取得した者に限られるとされています。
民法545条に関する判例と実務上の解釈
民法545条に関する裁判では、解除前に取引に入った第三者と、解除後の第三者について判例があります。
それぞれの内容をみていきましょう。
解除前の第三者
不動産売買契約が合意解除された場合、解除前に不動産を譲り受けた第三者が登記をしていなかったときに、債権者代位により登記請求ができるかが争点となった事案があります。
判例では、契約が当初に遡って解除された場合、特段の事情がない限り、その第三者は買主に代位して登記請求をすることはできないとしています。
これは、登記のない第三者は民法177条での「第三者」として保護されず、所有権の主張が認められないためです。
解除後の第三者
民法545条ただし書が保護する「第三者」とは、契約の解除が行われる以前に、契約の対象となる物に関して権利を得た者を指します。契約解除のあとにその権利を取得した者は、この「第三者」には含まれないとするのが裁判所の見解です。
判例において、解除によって復帰的に所有権が戻る売主と、契約解除後に目的物の権利を取得した者との間の利害関係は「対抗関係」として整理され、民法177条が適用されることになります。この場合、どちらが先に登記などの対抗要件を備えたかによって優劣が決まります。
民法545条に関して注意すべきポイント
民法545条に関して気をつけるポイントについて、条文と実務上の注意点に分けてみていきましょう。
条文で注意すべきポイント
民法545条の規定については、次の点に注意が必要です。
- 原状回復義務の範囲と性質
- 第三者の保護
- 利息・果実の返還義務
契約解除により契約は遡及的に無効になり、当初の契約状態に戻すことが原則です。また、契約当事者間で解除があっても、解除前に権利を得た第三者の権利を害することはできません。不動産であれば、登記の有無が重要です。
金銭の返還時には受け取ったときからの法定利息が付され、物の返還では、その物から得られた果実(たとえば収益物件の家賃など)も返す必要があります。原状回復は物の返還だけでなく、受け取った金銭や果実も対象となります。
実務上で注意すべきポイント
契約書を作成する際には、解除に伴う取り扱いをあらかじめ明確に定めておくことが重要です。たとえば、解除に伴う損害賠償額や利息免除の有無、解除後の権利関係の整理方法などをあらかじめ合意しておくことで、トラブルや誤解の発生を防ぐことができます。
また、契約書には解除後の手続きに関する細かな規定を設けることで、双方がその取り決めに従ってスムーズに対応できるでしょう。
特に不動産取引において契約解除を行う場合、解除後の権利関係が複雑になりがちです。そのため、契約を解除する前に、第三者による登記の有無やその内容を慎重に確認する必要があります。
なお、契約解除の通知は必ず書面で行い、あとから証明できるよう記録を残しておくことも大切です。
民法545条は原状回復義務と第三者の保護に注意
民法545条は、契約解除の効果について定めた条文であり、法改正により原状回復の内容が具体的に明文化されました。条文のただし書には、第三者を保護する規定も含まれており、対抗要件を備えた第三者に対しては解除の効果を主張できない点に注意が必要です。
545条の内容を踏まえ、契約書を作成する際には、解除時の際の取り扱いについて明確に定めておくことが重要です。特に、解除時の原状回復義務や第三者保護の観点を盛り込み、解除に伴う権利関係を整理することで、トラブル防止につながるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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