• 作成日 : 2025年5月7日

特定商取引法違反となる事例・罰則は?時効や通報先もわかりやすく解説

特定商取引法は悪質勧誘を排し、消費者を守る法律です。違反があれば契約取消しやクーリング・オフ、業務停止命令、懲役刑など重い責任が及びます。

本記事では、特定商取引法違反の事例や罰則、時効・通報窓口まで詳しく詳説します。

特定商取引法とは

特定商取引法とは、消費者と事業者との間における不公正な取引行為を防止し、公正な取引を確保するために定められた法律です。正式名称は「特定商取引に関する法律」であり、1976年に制定されて以来、社会状況や取引形態の変化に応じて何度も改正が行われてきました。

特定商取引法は、主に訪問販売や通信販売、電話勧誘販売など、勧誘の場が消費者の通常の生活空間や意思決定の自由を侵害しやすい取引形態を対象としています。これらの取引における不当な勧誘や情報の非開示、誤解を与える表示などに対し、契約取消権の付与やクーリング・オフ制度、さらには行政処分や刑事罰を通じて規制を行っています。

また、特定商取引法は単に消費者保護を目的とするだけではなく、健全な事業活動の維持も目的としている法律です。そのため特定商取引法は信頼性ある市場形成に欠かせない法制度といえます。

特定商取引法の対象となる取引類型

特定商取引法が規制する取引類型は、以下の7つに分類されます。

  • 訪問販売(キャッチセールス、アポイントメントセールスなど)
  • 通信販売(インターネット通販、カタログ通販など)
  • 電話勧誘販売(電話による商品勧誘)
  • 連鎖販売取引(いわゆるマルチ商法)
  • 特定継続的役務提供(エステティックサロン、語学教室、家庭教師など)
  • 業務提供誘引販売取引(内職商法など)
  • 訪問購入(自宅訪問による貴金属等の買い取りなど)

これらの取引類型において、特有のトラブルが多発しており、それぞれに対応する規制が設けられています。次節では、各取引類型における典型的な違反事例を詳しく見ていきます。

参考:特定商取引法ガイド 特定商取引法とは
参考:e-Gov法令検索 特定商取引に関する法律

特定商取引法違反となる事例

特定商取引法では、取引類型ごとに特有の勧誘方法や契約手続きに関して規制を設けています。以下では、各取引類型において実際に問題となった違反事例を取り上げ、それぞれの特徴や典型的な手口を解説します。

訪問販売の事例

キャッチセールスやアポイントメントセールスなどの訪問販売は、事業者が消費者の自宅や職場を訪問し、対面で契約を勧める方法です。この取引形態では、消費者が冷静な判断をしにくい状況に置かれることが多く、不実告知や威迫的な勧誘などの違反行為が頻発しています。

突然の訪問で「点検に来た」と偽って家に上がり込み、必要のない住宅リフォームを高額で契約させる事例や、「今日契約しないと割引が適用されない」と急かして判断を迫る手法などが報告されています。

通信販売の事例

通信販売においては、広告表示やサイトの記載内容が問題となることが多くあります。よく見られる違反例としては「返品不可」と記載しながら実際には消費者が返品を申し出ても応じないケースや、「初回無料」としながら実際には定期購入が前提となっていたケースです。

こうした誤認を与える表示は「不当表示」として景品表示法違反にも該当する可能性があり、特定商取引法では「広告に必要な情報の明示」が義務付けられています。

電話勧誘販売の事例

電話勧誘販売では、事前に同意を得ずに連絡を行うこと自体が違反となるケースがあります。高齢者宅に繰り返し電話をかけ続け、言葉巧みに不必要な健康食品や投資商材を契約させる事例などが挙げられます。

また、勧誘の際に「すでにお申し込み済みです」と虚偽の事実を告げたり、「断ると罰金が発生する」と誤解を与えるような説明をしたりするのも典型的な違反行為です。

連鎖販売取引の事例

いわゆるマルチ商法に該当する連鎖販売取引は、「あなたも他の人に紹介すれば儲かる」といった誘引が特徴です。連鎖販売取引では、事業者が過大な収益を約束しながら実際には仕入れた商品が売れず、負債だけが残るという被害が多発しています。

勧誘目的を隠して誘引しその結果契約を締結させられた場合や、勧誘に際して不実のこと告げる、または故意に事実を告げないなどの場合は法令違反とされ、行政処分の対象です。

特定継続的役務提供の事例

エステや語学教室など長期間にわたり役務を提供する契約では、途中解約時の返金に関する不備や、強引な勧誘による不本意な契約締結などが問題になります。

語学教室の契約時には中途解約の際の違約金説明がなかったにもかかわらず解約を申し出ると高額な違約金を請求された、エステティックサロンの契約そのもののクーリング・オフはできたものの、化粧品は応じないとされた、などのケースが該当します。

業務提供誘引販売取引の事例

「在宅で稼げる」などと謳い、業務用ソフトや材料を高額で買わせる手口が業務提供誘引販売取引における典型例です。収益の見込みを過大に表現したり、確約できないにもかかわらず「必ず仕事を紹介する」と断定的な表現で消費者を勧誘したりすることは違法です。

実際には仕事の斡旋がなかった、あるいは報酬が極端に低額であった場合、虚偽・誇大広告や不実告知として法的措置の対象となります。

訪問購入の事例

訪問購入における違反については、貴金属や美術品などを買い取る目的で自宅を訪問し、相場よりも安値で強引に契約を結ばせるケースが代表的です。訪問購入では、事前に書面での同意がなければ訪問してはならないとされています。

「無料査定」として訪問し、いったん品物を預かってそのまま返還に応じない、あるいはその場で即座に契約書に署名を求めて判断を迫るなど、違反性の高い事例が多数存在します。

参考:e-Gov法令検索 特定商取引に関する法律
参考:特定商取引法ガイド 事例紹介

特定商取引法違反による民事上のルール

特定商取引法では、消費者の意思決定を妨げるような不当な勧誘行為があった場合、一定の民事的保護措置が認められています。ここでは主な民事上のルールについて解説します。

契約の取消し

不実告知や重要事項の不告知などにより、消費者が事実誤認をした状態で契約を締結した場合、消費者はその契約の解除が可能です。

対象となるのは特定商取引法の7つの類型のうち通信販売と訪問購入を除く5類型で、原則として誤認を確認した日から1年以内、または契約締結から5年以内であれば取消権を行使できます。

クーリング・オフ

クーリング・オフ制度は、一定期間内であれば消費者が理由を問わず契約を無条件で解除できる制度です。多くの取引類型において、契約書面を受け取った日から8日間(連鎖販売取引、業務提供誘引販売取引は20日間)以内であれば適用されます。ただし、通信販売は対象外です。

事業者がクーリング・オフに関する説明や書面交付を怠った場合、解除期間は進行しないとされており、制度の趣旨に反する回避行為も無効とされます。

損害賠償額の制限

消費者保護の見地から、クーリング・オフ期間経過後の債務不履行による契約解除や、中途解約が行われた場合、事業者が請求できる損害賠償額には上限が設けられています。契約書に損害賠償予定額や違約金の定めがあっても、事業者は上限額までしか請求できません。

上限額は、取引類型によって異なります。

参考:e-Gov法令検索 特定商取引に関する法律

特定商取引法違反による行政上の罰則

特定商取引法に違反した場合、監督官庁である消費者庁または都道府県が事業者に対してさまざまな行政処分を下すことになります。

これらの処分は違反行為を是正し、将来的な再発を防止することを目的としています。以下で詳しく見ていきましょう。

業務改善指示

特定商取引違反の最も基本的な行政処分が指示処分です。これは違反行為を是正するために、違反事業者に対して必要な措置を命じるもので、「虚偽の説明をやめること」「必要な書面を交付すること」などの具体的な内容が指示されます。

業務停止命令

指示処分に従わず悪質性が高いと判断された場合には、業務の全部または一部の停止を命じる業務停止命令が下されます。

業務停止命令を受けるとその間の営業活動ができなくなるため、企業活動に深刻な影響が生じます。

業務改善命令

業務停止よりも軽度な処分として、業務改善命令があります。これは、再発防止策の実施や内部管理体制の見直しなどを事業者に求めるものです。

違反内容に応じ、「再発防止のための社員教育の実施」「広告表示内容の精査と統一」といった、具体的な改善措置が命じられます。定められた期限内での改善が見られない場合は、より厳しい措置に移行するケースもあります。

公表

行政処分が行われた場合、消費者庁や都道府県はその内容を公表することがあります。公表は公式ウェブサイトや報道機関を通じて行われ、企業名・違反内容・処分の詳細などが明記されます。

この措置は、社会的制裁としての意味合いも強く、企業の信用失墜につながるため、重大な影響を及ぼします。

特定商取引法違反による刑事上の罰則

特定商取引法では、特に悪質な違反行為に対しては刑事罰が科される場合があります。刑罰は行為の内容や程度に応じて段階的に定められており、個人・法人のいずれに対しても適用されます。

以下では代表的な違反行為とそれに対応する刑罰を見ていきましょう。

不実告知・重要事項の不告知

事実に反する説明をすることや、契約の重要事項(価格・契約期間・解約条件など)を故意に伝えなかった場合、以下の刑罰が科されます。

  • 6ヶ以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(併科を含む、法人の場合は1億円以下の罰金)

クーリング・オフ妨害

実際はクーリング・オフができる取引であるのに「クーリング・オフはできない」と虚偽の説明をする、または解約を受け付けないなどのクーリング・オフを妨害するような対応を取った場合には、以下の罰則が定められています。

  • 2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金、もしくはそれらの併科

書面交付義務違反

契約書面や法定書類の不交付、または不備のある書面を交付した場合も、以下のような罰則が適用されます。

  • 6ヶ月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、もしくはそれらの併科

書面の交付義務は、消費者が契約内容を後から確認できるようにするための制度であり、その軽視は刑事責任につながります。

行政処分違反

行政による業務停止命令に従わなかった場合には、以下のように重い刑事罰が科されます。

  • 業務停止命令違反:3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(併科を含む、法人は3億円以下の罰金)

行政指導を無視することは、制度全体を軽視する重大な違反とされます。

特定商取引法違反の時効

特定商取引法違反にかかわる「時効」は、大きく以下の4つに分けて考える必要があります。

  • 消費者保護の核心であるクーリング・オフ期間
  • 損害賠償など民事上の請求権に適用される消滅時効
  • 刑事罰における公訴時効
  • 行政処分(業務停止命令や業務禁止命令)における時効

クーリング・オフ期間については「特定商取引法違反による民事上のルール」の項で紹介しているため、ここではそのほかの3つについて解説します。

損害賠償など民事上の請求権に適用される消滅時効

損害賠償など民事上の請求権に適用される消滅時効については、改正民法下では被害と加害者を知った日から3年(生命・身体に関する損害なら5年)、または行為時から20年で権利が消滅します。時効完成を防ぐには、内容証明郵便の発送や訴訟提起によって時効の完成猶予や更新(旧:中断)することが不可欠です。​

刑事罰における公訴時効

刑事罰については、公訴時効が設けられています。特定商取引法の最も重い罰則(3年以下の拘禁刑・300万円以下の罰金)の場合、公訴時効は5年、罰金のみの違反は3年です。違反行為の最終日から起算するため、悪質事案を刑事処理したいときは5年以内に証拠を整え告発する必要があります。​

行政処分(業務停止命令や業務禁止命令)における時効

行政処分(業務停止命令や業務禁止命令)については時効の概念がなく、違反発覚から年数が経過していても命令が出されることがあります。したがって、事業者は「もう時効だから安全」という発想でコンプライアンス対策を後回しにするべきではありません。​

まとめると、特定商取引法違反ではクーリング・オフ期間、民事上の消滅時効、刑事公訴時効、行政処分という4つの時間的リスクが並立しています。

事業者は書面交付や勧誘方法の適法性を継続的に点検し、証拠保全と社内対応フローを整えることで、時効に頼らないリスク管理を図るべきといえるでしょう。

参考:e-Gov法令検索 特定商取引に関する法律
参考:e-Gov法令検索 民法
参考:e-Gov法令検索 刑法

特定商取引法違反を防止するための規制

特定商取引法では、違反を未然に防止するために事業者へ多くの義務を課し、消費者の判断機会を確保することを重視しています。

以下では主な規制内容について解説します。

広告規制

通信販売や連鎖販売取引などでは誇大広告や虚偽の表示が問題となりやすいため、事業者は広告において以下の事項を明示しなければなりません。

  • 商品や役務の内容、価格、送料
  • 契約条件(支払時期、引渡し時期など)
  • 返品・解約の可否とその条件

また、「初回無料」といった表示であっても定期購入であることをわかりやすく記載しなければならず、消費者に誤解を与えかねない表現は禁止されています。

書面交付義務

訪問販売や電話勧誘販売などの対面取引では、勧誘時および契約時に特定の事項を記載した書面を交付する義務があります。この書面には、クーリング・オフ制度の説明、契約内容、代金、支払方法、事業者情報などが記載されていなければなりません。

適切な書面が交付されない場合、契約の効力が発生しない、あるいはクーリング・オフ期間が進行しないとされるため、厳格な対応が求められます。

不当な勧誘行為の禁止

事業者は、以下のような不当な勧誘行為を行ってはなりません。

  • 威迫的な言動による契約の強要
  • 「すぐに契約しなければ損をする」といった過度な煽り
  • 消費者が契約を断った後の再勧誘
  • 虚偽の説明や、重要事項の不告知

これらの行為は、特定商取引法違反として民事・行政・刑事の各側面で処分対象になります。

参考:特定商取引法ガイド 特定商取引法とは

特定商取引法違反を防止するための企業側の対策

事業者にとって、特定商取引法への違反は信頼の失墜や事業継続リスクに直結します。リスク回避の観点から、企業として積極的な法令遵守の取り組みが不可欠です。

特定商取引法違反を犯さないために、以下の点に注意しましょう。

特定商取引法の仕組みを理解する

まず、特定商取引法の適用範囲や自社が該当する取引類型を正確に理解することが前提です。社員や現場担当者が、以下のような知識を持つよう研修を行うことが推奨されます。

  • クーリング・オフ制度の適用対象と内容
  • 契約書面の記載事項と交付義務
  • 不当な表示・勧誘に該当する行為

事業者自身が制度を正しく理解しないまま業務を行ってしまうことが、最も典型的な違反要因といえます。

社内体制を整備する

法令遵守のためには、内部管理体制の整備が不可欠です。たとえば以下のような仕組みが有効です。

  • 法務・コンプライアンス部門の設置
  • 勧誘マニュアル・広告表示ガイドラインの策定
  • 消費者からの苦情受付体制とフィードバックの仕組み

また、外部専門家による監査や、定期的な社内研修も、実効性ある運用の一助となるでしょう。単なる形式的整備ではなく、実務に即した教育・運用が重要です。

特定商取引法違反の通報先

違反行為を発見した場合、消費者は以下の公的機関に通報することができます。迅速な通報が、被害の拡大防止や適正な行政対応につながります。

通報の際には、契約書やパンフレット、勧誘の録音など、できるだけ証拠となる資料を準備しておくと、迅速かつ適切な対応を受けやすくなります。

特定商取引法の理解と対策を徹底しよう

特定商取引法は、消費者を不当な取引から保護すると同時に、健全な市場を維持するための重要な法律です。事業者がこの法律を軽視すれば、民事責任だけでなく行政処分や刑事罰にまで発展するおそれがあり、企業経営にも深刻な影響を及ぼします。

一方で、誤って違反してしまうケースも少なくありません。その多くは、法制度への理解不足や内部体制の不備が原因です。したがって、まずは特定商取引法の仕組みを正しく理解し、自社の事業形態に即した体制整備と社員教育を徹底することが、トラブルを未然に防ぐ第一歩となります。

特に消費者との接点が多い業態ほど、透明性の高い取引慣行が求められます。常に適切な対応と継続的な見直しを行い、信頼される事業運営を実現しましょう。


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