• 作成日 : 2025年3月25日

民法703条とは?不当利得返還請求の要件や返還義務についてわかりやすく解説

民法703条は「不当利得の返還請求」に関する条文です。法的に正当性のない利益について、相手方に返還を求めることですが、どのようなケースで適用されるのでしょうか。

本記事では民法703条の概要、返還請求権が成立するための要件、関連する判例を解説します。不当利得の返還請求について詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

民法703条とは

民法703条の概要は何か、703条が定められた目的は何かを解説します。

民法703条の概要

民法703条は、法律上の原因がないのに、不当に他人の財産などで利益を受けている者(受益者)は、返還をする義務があると定めています。

【民法703条(不当利得の返還義務)】

法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

出典:e-Gov 法令検索「民法」

わかりやすい例では、たとえば贈与もされていないのに、勝手に他人の金品を売り払ってしまうような行為は、不当利得に該当します。また、お店の買い物で本来のお釣りより多く受け取ってしまった分も、不当利得になります。

不当利得の返還義務を規定する

民法703条によって規定されている不当利得とは、法律による原因がないのに、勝手に他人の財産や労務によって獲得した利益のことです。同条によると、不当利得を得た者は、利益が現存している範囲で返還しなければなりません。

「法律による原因がない」とは、利益を保有していられるような法律関係がないことを意味します。たとえば財産移転の契約があって利益を得た場合で、後になって契約が消滅あるいは最初からなかったことが判明すると、受益者が利益を保持する法律関係はなくなります。

民法703条が適用されるケース

民法703条が適用され、不当利得の返還請求が行われる具体例を解説します。

相続人が遺産を勝手に使う「使い込み」

相続において、被相続人の遺産を管理していた相続人が、勝手に遺産を使い込むようなケースにおいて民法703条が適用されます。遺産の使い込みとは、具体的に以下のような例があります。

  • 被相続人の株式や債券などの有価証券を勝手に売却する
  • 被相続人の自宅にある金庫から現金を勝手に引き出す
  • 被相続人の生命保険を勝手に解約する
  • 被相続人の所有物件から発生した家賃収入を勝手に使う

遺産を勝手に使い込んだことが疑われる相続人に対し、民法703条に基づく不当利得の返還請求が行われます。

消費者金融が不当に高い金利で利益を得た

消費者金融の「過払い金」も不当利得の1つです。過払い金とは、借金の返済時に法律の上限利率を超えて払ってしまった利息を意味します。

借金の利息は利息制限法により上限が規制されていますが、一部の貸金業者は上限金利を超える利息を設定していた次期がありました。その当時は上限金利を超えても出資法の上限金利を超えるまで罰則がなかったためです。

2006年の最高裁判決で、利息制限法を超える金利が無効と判断され、過払い金は不当利得であるとされました。

民法703条に基づいて不当利得返還請求をする場合の要件

不当利得返還請求をするには、以下4つの要件をすべてクリアする必要があります。

請求される側が利益を得ていること

不当利得に関する1つ目の要件は、請求を受ける側が、他人の財産あるいは労務により利益を得ていること(受益)です。大きく分けて2種類あり、「給付利得」と「侵害利得」です。

給付利得とは、外形上で有効な契約によって財産的利益が移転した利得です。相手からお金を支払ってもらったこと、売買の目的物の引き渡しを受けたことなどが具体例です。

侵害利得とは、権限なく他人の物を処分したり消費したりすることです。たとえば、相手のお金を勝手に使って買い物をする(消費)、相手の所有物を勝手に売却する(処分)などが侵害利得の例です。

請求する側に損失が出たこと

2つ目の要件は、請求者に損失が出ていることです。給付利得の場合、財貨の給付が損失に該当します。侵害利得は、自分の許可なしに財産が勝手に使われたことによる損害が損失に該当します。

ちなみに、自分で財産を使う可能性がない場合、現実的に損失は生じてない状態です。ただし、このケースでも損失が存在しているとみなされることが多いです。

利益と損失には因果関係があること

不当利得の3つめの要件は、請求される側の受益と請求する側の損失に因果関係があることです。給付利得の場合は、非請求者の受益と請求者の損失が表裏一体であるため、因果関係について争われることはほとんどありません。

因果関係が問われるのは侵害利得のケースであることが多く、受益と損失の間に関係性が認められるか、社会観念に従って判断されます。

請求される側が利益を保持する法律上の理由がないこと

最後4つ目の要件は、請求される側が利益を保持する法律上の理由がないことです。給付利得の場合は契約などの法律関係が無効となったり、取り消し・解除によって消滅したりしたときに、利益を保有していられる理由はなくなります。

侵害利得の場合は、そもそも契約などが存在しないため、利益を保持する法律上の理由も存在しません。

民法703条における不当利得の返還義務の限度

不当利得の返還義務が成立した場合、どの範囲を返還する必要があるかを解説します。

原則は現存している利益の範囲のみ

民法703条によると、受益者は原則として、現存利益のみ返還する義務があります。現存利益とは、受益者にまだ残っている利益のことです。

たとえばお金の不当利得の場合、預貯金や現金で残っている場合は現存利益があります。生活費など必要な支出に使った場合も、受益者の負担を免れた分があるため、現存利益があると判断されます。

アパート・マンションなど不動産の不当利得は、当然物件が現存していれば返還することが必要です。ただし、災害などが原因で消滅した場合、現存利益がないため原則として返還義務はありません。

例外として悪意の場合は利益に加えて利息も範囲となる

民法704条は、悪意のある受益者の場合の例外について定めています。

【民法704条(悪意の受益者の返還義務等)】

悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

出典:e-Gov 法令検索「民法」

悪意とは、自分に利得を得る理由がなく、他者に損害を与えていることを認識していることです。悪意がある場合、返還請求義務を追う範囲は現存利益だけでなく、利息も付けなくてはなりません。

遺産の勝手な使い込みの場合、使い込んだ側が悪意のケースも多いと考えられます。この場合、遺産全額に利息を付けて返還しなくてはなりません。

不当利得に関する利息は、法律により定められる「法定利率」であり、令和5年4月1日から令和8年3月31日までは年率3%です。法定利率は変動制で、3年に1回見直されることになっています。

不当利得返還請求権に時効はある?

不当利得の返還請求権には時効があり、一定の期間が経過すると請求できなくなるため、注意が必要です。

不当利得返還請求権の時効

不当利得返還請求権は債権の1つです。民法166条1項には、債権の時効に関する規定があり、具体的には以下のいずれかの場合に債権は時効を迎えます。

  • 権利を行使できると知ったときから5年
  • 権利を行使できるときから10年

期間が経過して時効が成立すると、不当利得返還ができなくなるため、早めに準備をする必要があります。

なお、不当利得返還請求とは別に、不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償請求も選択できます。不法行為に基づく損害賠償請求権の時効は、損害と加害者を知ったときから3年、あるいは不法行為が行われたときから20年のうちいずれか早いほうです(民法第724条)。

場合によっては、不当利得返還請求よりも不法行為に基づく損害賠償請求のほうが有利なケースもあるため、弁護士に相談しましょう。

時効完成を阻止する方法

不当利得返還請求の時効完成を阻止するには、以下のような方法があります。

  • 内容証明郵便などを送付し、催告を行う
  • 民事調停を申し立てる
  • 訴訟を提起する

内容証明郵便などの送付は、1回に限り時効が6ヶ月間延長されます。次に、民事調停を申し立てる方法も有効です。調停が成立すると時効が更新され、不成立の場合でも調停終了後6か月間は時効の完成が猶予されます。

訴訟の提起も有効で、確定判決、請求の認諾、和解などにより時効が更新されます。

民法703条に関連する判例

民法703条に関連する判例を、2つ紹介します。

学納金返還訴訟

大学入学試験の合格者が、大学との間で在学契約などを締結し、入学金を納付しました。その後で契約などが解除された場合において、大学に納めた入学金が不当利得であり、返還する義務があるかが争われた事例です。

平成18年11月27日の最高裁判決では、大学側は入学金を返還する義務はないとされました。入学金は「大学に入学しうる地位を取得するための対価としての性質を有する」ため、在学契約が解除あるいは執行しても返還義務はないという理由です。

ただし、入学後の授業料については、大学側が取得する根拠がないため、返還すべきとしました。

金員返還請求

債務者Aが、第三者のBからだまし取ったあるいは横領した金銭で、債権者Cへの弁済にあてたケースです。第三者のBと債権者Cの間で不当利得が成立するかが争われました。

昭和49年9月26日の最高裁判決では、社会通念上、第三者Bの金銭で債権者Cの利益をはかったと認められる場合、Bの損失とCの利得の間には、因果関係が存在し、不当利得が成立すると認められました。

不当利得の成立要件や返還の範囲を把握しよう

民法703条の概要、適用されるケース、返還請求をするための要件などについて解説しました。不当利得は相続で発生することが多く、相続人が遺産を勝手に使い込むケースが多いです。

不当利得には時効もあることから、請求をする場合は早めに準備をしたり、時効完成を阻止したりすることも重要です。

不当利得の返還請求を検討している方は、弁護士など専門家に相談しましょう。


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