- 作成日 : 2025年3月24日
地役権設定契約書(引水)とは?ひな形や例文、書き方を解説
地役権設定契約書(引水)は、土地所有者間で引水目的の地役権を設定する際の合意内容を明文化した書類です。
本記事ではひな形をもとに、書き方のポイントや各条項に記載すべき内容について解説します。さらに、地役権の意味や、地役権設定契約を締結するメリット・デメリットについてもご紹介します。
目次
地役権設定契約とは?
地役権設定契約(ちえきけんせっていけいやく)は、特定の土地(要役地)の利益を確保するために、他の土地(承役地)を利用させてもらう契約です。引水に関する地役権は、農業、工業などで必要な水を、承役地を通じて要役地に導くために利用されます。
地役権設定契約書には、地役権の範囲や対価の支払い条件、登記方法、時効などを記載しましょう。地役権には排水や通行など、さまざまな種類があるため、仕組みを理解しご自身のニーズに合わせてどのような契約を締結するのかを決めることが重要です。
地役権とは?特徴や種類
地役権とは、ある土地(要役地)の所有者が、隣接する土地(承役地)を一定の目的で利用できる権利です。地役権を設定して不動産登記をすることで、第三者にも対抗でき、利用目的が法的に保護されるようになります。
種類としては、引水、排水、通行、眺望などがあり、それぞれ設定対象や目的が異なるため、契約書作成時には用途に合った条項・項目を盛り込みましょう。
参考:民法|e-Gov法令検索
地役権の効力と消滅
地役権は、登記が完了した時点で法的効力が発生し、第三者に対しても主張が可能となります。ただし、一定期間使用されなかった場合や、当事者間の合意、契約期間の終了などにより消滅するケースもあります。
また、必要な対価が支払われなかった場合や、契約内容に反した利用が続いた場合には、地役権の効力が失われることがあります。
参考:民法|e-Gov法令検索
地役権設定契約(引水)を締結するケース
地役権設定契約(引水)は、例えば要役地が畑や田んぼ、工場で大量の水を必要とする場合に、隣接する土地(承役地)から水を確保する際に締結します。また、山間部や離島など、水道インフラが十分でない地域での引水にも利用されます。
さらに、個人あるいは民間企業同士だけでなく、自治体が関与する公共事業においても、水源確保を目的に締結されることがあります。一方で、水道や他のインフラが整備されている場合は、そもそも他人の土地を利用して引水する必要がないため、契約を結ぶ必要はありません。
地役権のある土地(引水)を購入するメリット・デメリット
地役権付きの土地(引水)を購入する場合、水源や灌漑設備の確保が容易になる反面、契約による制約も発生します。メリット・デメリットを把握しましょう。
地役権のある土地(引水)を購入するメリット
要役地側にとっては、水源が確保できるという大きなメリットがあります。例えば、農地の場合、必要な水量が安定することで作物の品質や収量が向上する可能性があります。
また、新たに水路を引く必要がなく、契約書に定められた範囲内で既存設備を活用できるため、初期投資費用を大幅に削減できる場合があります。
さらに、すでに承役地の所有者と地役権設定契約を締結している場合、契約書により利用範囲や費用負担が明示されているため、後にトラブルが発生しにくい点もメリットです。
地役権のある土地(引水)を購入するデメリット
地役権は、承役地が存在して初めて成立します。承役地の所有者が変更された場合や、土地活用方針が変更された場合、契約更新がスムーズに進まないリスクがあります。
また、要役地側は契約で定められた範囲内でしか水を利用できず、増水や設備拡張を自由に行えないため、場合によっては承役地側と追加交渉が必要となります。
さらに、対価の支払い義務や、水路・設備の維持管理費が要役地の負担となる場合もあり、長期的な費用負担を十分に見込んだ計画が求められます。
地役権設定契約書(引水)のひな形・テンプレート
地役権設定契約書(引水)をスムーズに作成するためには、ひな形(テンプレート)を利用するのが効果的です。契約書を1から作る必要がなくなり、契約手続きをスムーズに進められるでしょう。
ひな形は、そのまま使うのではなく、内容を確認して案件ごとにカスタマイズしましょう。内容を簡単に変更できる、ワード形式のひな形を選ぶのがおすすめです。
マネーフォワード クラウドでは、地役権設定契約書(引水)のひな形・テンプレートを無料でダウンロードいただけます。適宜加筆修正して活用してください。
地役権設定契約書(引水)の見方や主な条項
地役権設定契約書(引水)を作成する際は、ひな形を参考にしつつ各条項に必要な内容をしっかり盛り込むことが大切です。以下に主な項目と具体例、注意点をまとめます。
契約の対象と目的
まず、承役地と要役地を特定し、何のために地役権を設定するのかを明確にします。例えば「本地役権は、乙(地役権者)の土地における○○に関する引水を目的とする」と記載し、利用する水の種類(井戸水、川の水など)やその範囲を示しておくと、認識のずれを防げます。
対価・支払い方法
引水地役権を設定する場合、承役地の所有者に対して支払う対価が発生することがあります。例えば「月額金〇円を支払う」と具体的な金額を明記しましょう。支払いのタイミング(毎月末日、半年前払いなど)や振込先、日割計算、改定方法も記載し、金銭トラブルのリスクを下げる工夫を盛り込みます。
引水用水路の設置と管理
水漏れや老朽化、災害時の補修費用や責任範囲を明確にしておくことが重要です。要役地に水を引くための水路やパイプラインの設置費用、管理責任について、「本水路の管理は乙が行い、本水路に起因する損害賠償責任も乙が負う」と定める例が挙げられます。
登記手続き
設定登記の期限や費用負担を定めます。地役権は登記することで第三者に対抗できるため、登記方法や時効の取り扱いを契約書に明示し、契約後速やかに登記手続きを進める必要があります。
契約期間、終了時の措置
地役権は明確な期間を定める場合と、当事者合意により更新できる場合があります。契約終了時に水路などの撤去義務やその費用負担をどちらが負うのかを明記し、契約終了後の処理についても取り決めるとよいでしょう。
譲渡、紛争解決など
承役地の所有権が譲渡された場合、要役地側に対して優先交渉権を与える条項など、将来の所有権移転についても定めます。また、紛争が発生した際の管轄裁判所、協議事項を明示しておくことで、契約書としての実効性が高まります。
地役権設定契約書(引水)を作成する際の注意点
地役権設定契約書(引水)を作成する際は、以下の3点に注意しましょう。
対価・金額設定の根拠を明確にする
対価に関しては引水に関する設備投資や維持管理コストを踏まえ、適正な金額を設定しましょう。契約書には、改定のタイミングや改定方法(例:1年ごとに見直し)を盛り込むと、後のトラブルを回避しやすくなります。
トラブル事例を把握し具体例を参考にする
地役権に関するよくあるトラブルとして、水路の管理不備による漏水や損壊、引水量の増加に伴う契約違反が挙げられます。事前にこれらのトラブル事例を参考にし、契約書の条項に反映させることで、紛争リスクを減らすことができます。弁護士や司法書士によるレビューを受けるのも有効です。
形式要件と法的手続きを怠らない
契約書には、押印(法人実印・代表者印)や署名など必要な要件を確認しましょう。登記申請の期限や必要書類についても明記し、手続きを確実に進めることが大切です。不明点があれば、法務局や専門家に相談しましょう。
地役権設定契約(引水)を締結する流れ
地役権設定契約(引水)の締結までには、以下の流れがあります。
事前調査と協議
承役地と要役地の利用目的、水路の状況を確認し、当事者間で合意内容を擦り合わせます。
契約書の作成・レビュー
ひな形を元に、合意事項を盛り込んだ契約書案を作成し、各条項に不備がないか入念にチェックしましょう。
署名・押印と登記手続き
双方が署名押印(または電子署名)を行い、収入印紙の要否を確認のうえ、必要に応じて速やかに登記手続きを実施します。
地役権設定契約書(引水)の保管年数や保管方法
地役権設定契約書の保管期間について法的なルールはありませんが、一般的には10年間以上保管するのが望ましいとされています。特に、地役権契約は長期にわたる場合が多いため、契約終了後も一定期間保管することでトラブル回避に寄与します。
紙媒体の場合は、専用ファイルにとじたうえ、防火・防湿対策を講じたキャビネットで管理しましょう。電子データの場合は、改ざん防止措置(電子契約システムやタイムスタンプ)を施し、信頼性の高いクラウドストレージなどでバックアップを取っておくことが重要です。
地役権設定契約書(引水)の電子化、電子契約は可能?
近年では電子署名や電子契約サービスが普及しており、地役権設定契約書(引水)も電子契約での締結が可能です。電子署名法に基づき、電子署名やタイムスタンプを付与すれば、紙の書類と同等の法的効力が認められます。
参考:電子署名及び認証業務に関する法律|e-Gov法令検索
参考:電子署名とは?仕組みや具体的なやり方までわかりやすく解説|Money Forwardクラウド契約
電子契約を利用することで、同意形成のスピード向上、書類作成・郵送・管理の手間削減、コスト削減などのメリットが得られます。ただし、登記手続きに際しては紙の書面が求められる場合もあるため、法務局や専門家に事前確認を行い、相手方の電子契約対応状況も把握しましょう。
トラブルを想定して地役権設定契約書(引水)を作成しよう
地役権設定契約書(引水)は、水資源の確保や土地活用に欠かせない重要な書類です。承役地と要役地の権利義務を明確にし、登記方法や時効などの法的要素を十分に考慮して作成することで、長期にわたりトラブルを回避できます。
法務局や国土交通省のサイトなどを参照しつつ、適正な手続きを進め、締結後も契約書を定期的に見直すことが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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