• 更新日 : 2025年3月3日

従業員の引き抜きを防止する誓約書とは?書き方・例文を紹介(テンプレート付)

退職者による従業員の引き抜きを防止するためには、誓約書の作成が有効です。なぜこれが有効なのか、どのようなケースで作成するとよいのかをここで解説しています。また、書き方のポイントに関しても具体例とともに紹介していますので、引き抜き防止策を講じる必要のある企業の方はぜひ参考にしてください。

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従業員の引き抜きを防止する誓約書とは?

退職者などによる在職従業員の引き抜きは、「労働者は使用者と競合する業務を行わない」という競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)に違反する可能性がある行為です。会社の利益に関わる内容であるため、会社と従業員の間で、従業員の引き抜きを行わないことを約束する誓約書を交わすことがあります。

引き抜き行為の制限は、会社が重要な人材を失うリスクを下げ、組織の安定性を確保するうえで重要な役割を果たします。特に、専門的な技術・知識を持つ従業員が退職する際の引き抜きはリスクが大きいため、このような場面は従業員の引き抜きを防止する誓約書の作成も検討するとよいでしょう。

従業員の引き抜きに関する誓約書の法的効力

従業員の引き抜きを防止する誓約書にも、法的な制約があることに留意してください。とはいえ、日本国憲法で職業選択の自由が保障されていることとの関係で、誓約書による制限は合理的な範囲内でなければ有効に機能しません。過度に広範な制限を設けることは、法的に無効となる可能性があります。

しかし言い換えると、制限される行為が明確で合理的な期間設定がなされているなど、総合的に見て社会通念上相当と認められる範囲であれば、引き抜き防止の措置も法的に有効であるのです。

従業員の引き抜きに関する誓約書を交わすケース

従業員の引き抜きに関する誓約書は、人材流出のリスクが高いと考えられる場面で活用します。以下のようなケースに該当するなら、誓約書を交わすことも検討してみましょう。

重要な役職に就いていた者が退職する場合

管理職や役員などの重要な役職に就いていた方は、以下のような特徴を持つ傾向にあります。

  • 社内の人材情報へのアクセス権限を持っている
  • 従業員に対する影響力が大きい
  • 部下の能力や適性、給与水準などの情報を把握している
  • 組織全体の人事戦略や経営方針を理解している

退職後に在職従業員の引き抜き行為があった場合の影響が、一般従業員に比べて大きくなる可能性が高いため、誓約書によるリスクの軽減が必要なケースといえるでしょう。

同業他社への転職が予想される場合

退職予定者が同業他社へ転職することが予想される場合、企業間の競争力の観点から誓約書を交わすことが重要となります。在職中の人脈を活用した従業員の引き抜きが行われないよう、退職予定者が以下のケースに該当する場合は特に注意しましょう。

  • 競合他社からの転職オファーを受けている
  • 専門性の高いスキルを持つ従業員である
  • 自社が抱える顧客との関係が深い役職に就いている

起業目的で退職する場合

従業員が独立・起業を目的として退職する場合も、誓約書を交わすことを検討しましょう。起業に際して、以下のような懸念があるためです。

  • 既存の人間関係を活用した組織的な引き抜きのリスクがある
  • 在職中に信頼関係を築いた関係者への勧誘を行う可能性がある

特に起業直後は人材確保が課題となることが多いため、元同僚への働きかけが行われやすい状況といえます。

入社時

入社時に従業員の引き抜きに関する誓約書を交わすケースもあります。これは、次のような職種・職位で採用する場合に効果的です。

  • 高度な専門性や技術力が求められる
  • 機密情報へのアクセス権限が付与される

入社時に誓約書を交わすことは、従業員の意識付けにもつながります。

ただし、いずれのケースにおいても過度な制限は避けなくてはなりませんし、そうでなくても誓約書の内容について十分な説明を行うことが必要です。

あらかじめ「引き抜きが起こりやすい環境・職種」「引き抜きによるリスクが非常に大きい」とわかっているのであれば、入社時に誓約書を交わすことも検討すべきでしょう。

従業員の引き抜きを防止する誓約書のひな形・テンプレート

以下のリンクから、引き抜きを防止するための誓約書のテンプレートがダウンロードいただけます。

このテンプレートは一般的な状況を想定して作成していますので、実際に使うときは自社の状況に合わせた調整が必要です。とはいえ、必要最低限の基本事項は盛り込まれているため、作成作業の手助けになるでしょう。ぜひご活用ください。

従業員の引き抜きを防止する誓約書の書き方や例文

誓約書の記載内容は、その後のトラブル防止や法的有効性の観点から、明確かつ具体的な表現を用いること、制限は合理的な範囲に限定することが必要です。

以下では、上記URLからダウンロードできるテンプレートの例文も参照しながら、主要な記載項目やその書き方について解説します。

引き抜き行為の定義

単に「引き抜きをしない。」などと表現するのではなく、具体的にどのような行為を制限するのかをはっきりさせましょう。

たとえば誓約書にて「・・・以下の事項を遵守することを誓約いたします。」などと記載し、続けて次のように行為を示します。

“貴社の従業員又は役員に対して転職を勧誘し、又は貴社からの退職を促すなどの働きかけをすること”

以下のように記載する例も挙げられます。

“直接または第三者を通じて、貴社従業員に対し退職を勧めること”

“自己が経営または従事する企業への転職を持ちかけること”

また、退職をするのが営業担当など重要な顧客との接点を持つ場合には、引き抜きに関連して次のような行為も挙げておくことを検討しましょう。

“在職時に担当したことのある貴社の顧客に対し、貴社の商品・サービスと競合する商品・サービスを提供すること”

誓約書に反した行為があった場合の措置

誓約書の実効性を確保するため、違反行為に対する措置も定めておきましょう。たとえば、次のように定める例が挙げられます。

“競業行為、引き抜き行為をした場合は、当該行為に起因して貴社が被った一切の損害(弁護士費用を含みます。)を賠償することを誓約します。”

加えて、以下のような補足的な規定を含めることも効果効です。

“この誓約書で定める内容に関し、第三者に口外しないことを誓約します。”

“私は、貴社に対し一切の請求を行わず、この誓約書の内容に関し、貴社に対し一切の異議を申し立てないことを誓約します。”

ただし、行為の内容に対してペナルティの程度が重すぎると、やはり誓約書が無効になる危険性があります。損害の範囲を具体的に示す、あるいは賠償額の算定方法を定めておくなどして、客観的に見ても合理性のある措置といえるよう気を付けてください。

従業員の引き抜きを防止する誓約書を用意するときの注意点

誓約書を作成する際は、実効性を高め、また不必要なトラブルを避けるためにも、「退職者に対する丁寧な説明」に努めましょう。

誓約書に記載した内容について一つひとつ十分に説明を行い、その意義や目的について理解を得ることが重要です。特に、制限の範囲や期間については、退職者と認識の齟齬が生じないよう丁寧な説明を心がけましょう。

合理的な範囲での制限に留めること

誓約書による引き抜きや競合行為に対する制限を設けるときは、以下のポイントを考慮し、合理的な範囲内に設定しましょう。

誓約書による制限を設けるポイント
  • 期間の設定
    禁止期間を無制限にすべきではない。類似する過去の裁判例を参考に、有効と判断された期間内で設定するのが無難。概して1年以内であれば有効となる可能性は高いが、業界の特性や職種、企業が受ける損失などを考慮して期間を考える必要がある。
  • 地理的範囲
    事業所の所在地や営業エリアなどを中心に、企業の商圏がおよぶ範囲内で有効となる制限が望ましい。競合行為・引き抜きなどによる自社への影響がほとんどないのであれば、不必要に広範な制限を設けるべきではない。
  • 退職者の地位・職務内容
    同じ企業内でも、画一的な基準で制限を設けるより、退職者個人の地位や職務内容に合わせた内容としたほうが合理性は認められやすい。

判断に悩む場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

従業員の引き抜きを防止する誓約書の保管期間・保管方法

従業員の引き抜きなどに関する誓約書について、保管期間や保管方法を定めた直接的な法令はありません。ただ誓約書の役割を考えると、退職者に対する制限の期間を定めているなら、少なくともその期間中は保管しておくべきでしょう。

引き抜きなどが実際に発生してしまった場合でも、誓約書を示せないと、約束をしたという事実が証明できなくなってしまうためです。

保管場所については、紛失・滅失のおそれがない場所にしましょう。頻繁に参照するものでもありませんので、すぐに取り出せる場所に原本を置いておく必要性もありません。なくすことさえなければ、万が一揉め事が起こってしまったとしても対処は可能です。

従業員の引き抜きを防止する誓約書の電子化は可能?

引き抜き防止についての誓約書は、一般的な契約書と同様に電子化が可能です。書面(紙)で作成した誓約書をスキャンなどで電子データ化しても、はじめから電子的に作成しても問題はありません。

ただし、電子化したものには押印ができませんので、改ざんなどができないよう技術的な工夫を施しておくべきです。この点に関しては、電子署名に対応した電子契約システムや、文書管理システムなどを活用すると効率的ですし、安全性を担保することができるでしょう。

人材の流出を防ぐために誓約書を活用しよう

引き抜き防止のための誓約書は、企業の重要な人材を守るための有効なツールです。退職時などに従業員とこの誓約書を交わし、在職従業員が引き抜かれてしまうリスクを回避しましょう。

ただし、誓約書を使っても際限なく行動を規制できるわけではなく、行き過ぎた規制だと無効になるおそれがあります。そのため、弁護士にも内容をチェックしてもらいながら、合理的な範囲で引き抜き防止のルールを設けましょう。


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