- 作成日 : 2025年3月3日
瑕疵とは? 意味や読み方、瑕疵担保責任と契約不適合責任などをわかりやすく解説
瑕疵とは、物や権利における欠陥や不備を意味する言葉です。売買取引や不動産契約などで頻繁に用いられる用語であり、企業の法務担当者にとっては、理解が欠かせません。
本記事では、瑕疵の概要や種類を説明した上で、民法改正に伴う瑕疵担保責任の変更と瑕疵に関する注意点をわかりやすく解説します。今回の記事の内容を知ることで、企業の法的リスクを減らすことができるでしょう。
目次
瑕疵とは
瑕疵とは、キズや欠陥を意味する言葉であり、法律用語としては、契約対象の物や権利、サービスなどに、本来あるべき品質や状態が備わっていない状態を指す際に使われます。
従来の民法では、契約履行における瑕疵の有無に基づき、契約当事者双方の義務の範囲や、トラブル発生時の責任の所在を「瑕疵担保責任」という考え方で規定してきました。
この瑕疵担保責任という民法上の責任は、2020年に「契約不適合責任」という表現に変更されています。
瑕疵の意味
瑕疵という言葉の意味は、次の通りです。
- キズ・欠点・過失
- 法律上、なんらかの欠点や欠陥のあること
日常会話ではあまり使用されない言葉ですが、物事の欠点や不備を簡潔に表現する際に有用です。不動産契約や売買契約など、主に法的手続きの場面で使用されます。
瑕疵の読み方
瑕疵の読み方は「かし」です。
使用されている漢字がどちらも日常的に使用されていないため、耳馴染みがない人も多いかもしれません。瑕は「か」疵は「し」という読み方をする漢字で、どちらも「きず」という意味をもっています。法律や不動産の契約において出てくることもあるため、覚えておくと良いでしょう。
瑕疵の例文瑕疵という言葉を用いた例文をいくつかご紹介します。
例えば、購入した新築住宅の壁にひびが入っていた場合「この住宅には瑕疵があります」「建物に瑕疵があるため、損害賠償請求をします」といった形で使用されます。
また、土地の用途が法律によって制限されていることを知らずに購入した場合「購入した土地には法律的瑕疵がある」と表現することもあります。
このように、契約の目的物に欠陥があった場合に使用する言葉であり、瑕疵が判明した場合には、売主が買主に対して責任を負うことが一般的です。
瑕疵の種類
瑕疵には、その性質や対象によってさまざまな種類があります。法律や実務で取り扱われる主な瑕疵は以下の通りです。
物理的瑕疵
物理的瑕疵とは、対象物そのものに物理的な欠陥や破損があることを指します。
例えば、不動産における建物の壁が割れていたり、柱が曲がっていたりという基礎構造の欠陥や、水が出ない、電気が点かないなどという設備の不具合がこれに該当します。
物理的瑕疵があると、通常の使用が困難になり、売買契約であれば、原則として売主が修補責任を負うことになり、瑕疵の状況によっては契約解除や損害賠償請求が行われます。
法律的瑕疵
法律的瑕疵は、取引対象が法的に制限を受けており、契約上で期待される状態を満たさない場合を指します。
例えば、購入した土地が法令に違反していたり、担保権が設定されていたりすることにより、買主がその土地を自由に使用できない場合などが該当します。
売買契約において法律的瑕疵が判明した場合、一般的には物理的瑕疵と同様に、売り手に修補責任が発生し、瑕疵が解消されない場合には、契約不適合により契約解除や損害賠償請求が行われる可能性があります。
心理的瑕疵
心理的瑕疵とは、契約の目的物自体には物理的や法律的な欠陥はないものの、購入者に対して心理的に不快感を与える要因がある場合を指します。
不動産売買であれば、過去に事件や事故が発生した「事故物件」と呼ばれる不動産を、そうと知らずに購入した場合などが該当します。国土交通省のガイドラインでは、不動産を販売する業者に対して、一定の条件を満たした事故物件については、その内容を購入者に事前に告知する義務が記載されています。
心理的瑕疵が売買契約後に発覚した場合、契約の解除や損害賠償を求められる可能性が高いため、売主側のリスクを回避するためにも、事前に告知しておくことが望ましいです。
環境的瑕疵
環境的瑕疵とは、契約の目的物がその周辺環境によって使用に支障をきたす場合を指します。
例えば、周辺に工場があり騒音や悪臭が発生している場合、高い建物があり日照が不足している場合、地盤が不安定である場合などです。
宅地建物取引法上、売主側は、相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるものについて、事実を告知しなければなりません。物件の価値や利用可能性に影響があり、買主が知っていたなら購入しない可能性がある事項については、告知をする義務があります。
瑕疵担保責任とは
瑕疵担保責任とは、主に売買契約において、引き渡された物や権利に瑕疵があった場合に売主が負う責任のことです。しかし、2020年の民法改正により、条文では瑕疵担保責任から「契約不適合責任」へと変更となりました。
民法改正で契約不適合責任に変更
2020年4月に施行された民法改正により、民法に記載されていた瑕疵担保責任は契約不適合責任に改められました。
この変更の背景には、売主と買主の契約上の責任をより明確にし、公平な取引を促進する意図があります。
契約不適合責任とは、提供された物やサービスが、契約で約束された仕様や品質に適合していない場合に、売主が買主に対して負う責任です。
従来の瑕疵担保責任の対象が、一見すると気付けないような隠れた瑕疵(欠陥)に限定されていたのに対して、契約不適合責任では、契約内容そのものとの適合性にもとづいて不備を判断することとなりました。
これにより、買主は契約内容に保証された品質を受け取る権利が強化されました。さらに、欠陥が見つかった場合の買主に対する救済措置も拡大されています。
瑕疵担保責任と契約不適合責任の違い
瑕疵担保責任が契約不適合責任となったことにより、売主の責任の範囲や、買主が売主に対して請求できる権利の範囲も変更されました。
下記に瑕疵担保責任と契約不適合責任で異なる点を3点紹介します。
瑕疵担保責任(改正前) | 契約不適合責任(改正後) | |
---|---|---|
(1)責任の範囲 | 隠れた瑕疵のみが対象 | 契約内容との不適合が対象 ※買主が不注意で気付いていない場合でも責任は発生する |
(2)買主の救済手段 (売主に対して発生する権利) | 契約解除、損害賠償のみ | 追完請求、代金減額請求 損害賠償請求、契約解除請求 |
(3)取引対象 | 特定物の瑕疵が中心 ※特定物:それ自体に個性があって代えの効かないもの | 特定物・不特定物問わず対象 ※不特定物:数量・品質・種類によって取引されるもので代替可能なもの |
瑕疵担保責任は使ってはいけない?
民法上の瑕疵担保責任は、上記で説明をした通り契約不適合責任に変更となりましたが、瑕疵担保責任が法律上でなくなったわけではありません。
不動産売買に関係してくる「住宅の品質確保の促進等に関する法律」では、瑕疵担保責任という表現が現在でも残されています。そのため、主に不動産関係の契約においては、従来通り瑕疵担保責任という表現が使用されており、使ってはいけないわけではありません。
ただし、あくまでも民法上は契約不適合責任が正式名称であるため、その点は注意が必要です。
瑕疵担保責任と契約不適合責任の違いに関する詳細は、以下の記事をご参照ください。
瑕疵に関して企業が注意すべきポイント
企業が瑕疵に関するトラブルを回避し、顧客との信頼関係を維持するために、以下のポイントに注意しましょう。
瑕疵担保責任(契約不適合責任)の適用範囲を契約書に明記する
契約において、書面に瑕疵担保責任や契約不適合責任の適用範囲を明記することが重要です。これにより、買主と売主の権利や義務が明確になり、契約上のトラブルを予防できます。
具体的には、品質基準、不具合が発見された場合の対応、責任の制限や免責条項などを取り決めて記載しておくことが望ましいです。
契約不適合責任については民法上に明記されていますが、書面でお互いにわかりやすくすることにより、責任の所在を明らかにして、不要なトラブルを避けられます。
瑕疵が発覚した場合の対応を検討する
瑕疵が発見された場合に備えて、迅速かつ適切な対応を取るためのプロセスを事前に作成しておくことも重要です。
例えば、顧客対応マニュアルの作成や、製品の修理・返品に関する方針を策定しておくと良いでしょう。対応をあらかじめ統一しておくことで、瑕疵の発見などの連絡があった際に、相手と適切なコミュニケーションをとることが可能となり、信頼を損なわずに対処できます。
瑕疵担保責任保険への加入を検討する
例えば不動産売買契約には、売主の瑕疵担保責任を補填するための住宅瑕疵担保責任保険が用意されています。この保険は、不動産売買において瑕疵が発生して、売主が補修工事などを行った場合に保険金が支払われるものです。
瑕疵に対する保険に加入することにより、売主は瑕疵が原因で契約が解除されたり、損害賠償請求をされたりした際の損害を軽減できます。
瑕疵によるトラブルを防止するための第一歩
瑕疵は物や権利の欠陥を示す重要な法的概念であり、その対応を誤ると企業に大きな損失をもたらす可能性があります。
契約におけるトラブル防止のためには、瑕疵の意味や法的な責任をよく理解することが重要です。また、2020年の民法改正で、瑕疵担保責任は契約不適合責任という表現に変わり、責任の範囲や買主の救済手段も変更されました。
瑕疵担保責任(契約不適合責任)が自社の事業にどう影響するかを考えた上で、対象物の説明や契約書への具体的な記載、対応プロセスの確立、必要に応じた保険加入を検討して、リスクマネジメントを適切に実施しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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