- 作成日 : 2024年12月2日
約款と契約書の違いとは?優先関係や法的効力をわかりやすく解説
約款(やっかん)とは定型的な取引条項のことであり、一定要件を満たせば契約内容として成立するため、契約書の一部ともいえる存在です。ただし用意した約款が常に契約書として機能するわけではないため注意が必要です。
当記事ではこの約款に言及し、法的効力などを解説していますので、一般消費者向けにサービスを提供している事業者の方はぜひチェックしてください。
目次
約款と契約書の違い
約款(やっかん)とは、対多数との同種取引を想定し、迅速・効率的に取引を交わすために作成される定型的内容の取引条項をいいます。この約款は契約書とどのように違うのか、また、法改正により「定型約款」の規律も新設されましたので約款と定型約款の違いについても以下で説明していきます。
約款とは
ネット上でショッピングをしたりサービスの申込みをしたりする際、会員規約や利用規約への同意を求められたこともあるかと思います。イメージとしては、こういったものが約款に該当すると考えてよいでしょう。
ただし、契約の一部として機能するかどうかを判断するうえでは、一般的な約款と「定型約款」を区別する必要があります。これは民法により定義された概念で、これに該当する約款であれば、相手方が約款の全内容を認識していなくても個別の条項について合意したものとして扱うことが認められます。
契約書とは
契約書は、法的拘束力を持つ約束について、その内容や合意形成について客観的に示せるよう文書にまとめたものをいいます。約款とは異なりますが、共通点も持っています。
両者の違いを簡単に下表にまとめてみました。
比較内容 | 契約書 | 約款 |
---|---|---|
法的効力 | 相手方との合意があれば有効 | 個別の条項について認識していなくても有効になるケースがある |
契約相手 | 基本的には1対1を想定 | 対多数との契約を想定 |
契約内容 | 相手方の個性を考慮して個別具体的に決めていく | 相手方の個性に関係なく画一的な内容とする |
個別交渉 | 相手方と交渉を経て作成が進められていく | 相手方との交渉は想定されない |
内容の変更 | 契約締結時同様に相手方との合意を要する | 個別同意がなくても変更ができるケースがある |
約款と契約書の関係
約款も契約書も、最終的には相手方との取引におけるルールを策定するためのツールであることに変わりはありません。そのため約款を作成しなくても契約書に全てのルールを盛り込んでおけば問題なく契約は締結させられます。
ただ、大衆向けにサービスを提供しておりその相手が数千人~数万人以上にのぼるなど、一つ一つの契約管理をしていられない状況においては約款を使った方が効率的です。
また、同じサービスを利用する場合だと契約書に記載すべきルールの大半が共通していることも珍しくありません。この場面においてはほとんど同じ内容の契約書を都度作成するより、約款として作成しておいた方が効率的ですし、管理もしやすくなります。
このように、約款は契約書をサポートする存在であり、互いに契約内容を補完する関係にあるといえるでしょう。
2020年4月の民法改正による約款の変更点
約款に関しては2020年4月施行の改正民法の影響を受けています。
それ以前から約款を使った取引は一般に行われていたのですが、「多くの顧客は約款の詳細までチェックしていないため、個別の条項の認識がないのでは合意内容にあたらないのではないか」「事業者が一方的に約款の内容を変更してもいいのか」といった問題が指摘されていました。
そこで法改正を行い、①約款の個別の条項が契約内容となるための要件、②個別同意なく内容を変更するための要件が明確化されるに至っています。
1.約款の個別の条項が契約内容となるための要件 について |
---|
要件1:対象となる契約が「定型取引」に該当すること 定型取引とは、不特定多数を相手方に行う取引(相手方の個性を重視するかどうかで判断)であって、その内容が画一的であることが両者にとって合理的(多数の相手方に対し同一内容で契約をするのが通常で、かつ、相手方がそのまま受け入れるのが取引通念上合理的かどうかで判断)、である取引を指す。 要件2:約款が「定型約款」に該当すること 「定型取引の契約内容とすることを目的に準備された条項の総体」といえる場合に該当する。 要件3:定型約款を契約内容とする旨の表示 「定型約款を契約の内容とする旨の合意」があれば当然有効であるが、この合意がなくても、「あらかじめ定型約款を契約内容とすることを相手方に“表示”した」ときにも要件を満たす。 ※“表示”に該当するには、相手方に対し定型約款を契約内容とする旨が個別に示されている必要がある。ネット上の取引であれば、契約が締結される前に、画面上で定型約款を認識できる状態に置くなどの措置が必要。 …以上、要件1~3を満たすことで、個別の条項についても同意したものと見なされ、定型約款がまるごと契約内容となる。 |
2.個別同意なく定型約款を変更するための要件 について |
原則として契約内容の事後変更には相手方の個別同意が必要であるが、定型約款に関しては、「顧客の一般の利益になること」または「契約の目的に抵触せず、かつ、変更の事情に照らして合理的であること」により事業者による変更が認められる。 なお、「将来変更の可能性がある」旨の変更条項を設けていても、当然に変更が許容されるものではない。 |
なお、①の要件を満たすとしても、一方的に相手方の権利を制限したり義務を課したりするような条項で、信義誠実の原則に反すると評価される時は、その条項は契約内容とはなりません。
約款が契約書と同じ意味を持つケース
前項で説明した通り、一定要件を満たせば約款(定型約款)も契約内容として有効になり、契約書に記載した場合と同じ効力を持ちます。
また、本来の用途とは異なりますが、約款それ自体に個別の合意、当事者のサインをしていれば契約書と同じように機能します。そもそも契約書とは契約内容について取りまとめ、各当事者の合意の旨を記したものを指していますので、約款としての体裁を持っていても一般的な契約書同様の過程を経ていれば契約書と同じ意味を持ちます。
例えば、「○○契約書」と記載されておらず、「○○規約」「○○約款」などと記載された文書であってもその効果に変わりはありません。重要なのは表題ではなく実態だからです。
約款と契約書に違いがあるときの優先順位は?
約款の内容が契約内容の一部として認められる場合でも、個別に作成した契約書の内容と矛盾が生じてしまう可能性もあります。この時の優先関係については慎重に考える必要があるでしょう。
基本的には、約款より後に、個別に作成をして個別に合意を得た契約書の内容を優先するものと考えられますが、「契約書と約款の内容に矛盾が生じた時は○○で定めた内容を優先する」といった優先条項が設けられているならその内容に従うことになるでしょう。
しかし優先条項が設けられていないのなら、個別の事情を考慮して適用関係を判断していくことが大事です。
約款と利用規約の違い
約款の例として利用規約を取り上げましたが、約款が定型約款として法的に契約内容の一部となるには上記の要件を満たす必要があります。
そのため「利用規約」として作成されたものが全て「利用規約=約款」の関係を満たすわけではありません。利用規約はあるサービスに関しての利用ルールを記載したものの総称であり、その内容について法的拘束力も生じます。ただ、約款の定義と常に一致するとは限らないのです。
約款の作成・確認時のポイント
約款を作成する時は、契約内容の一部となるよう、定型取引を対象としているのかどうか・民法上の定型約款に該当するのかどうかに留意しましょう。そのうえで、作成する立場としては以下のポイントを押さえておくべきです。
- わかりやすさ・・・専門用語を避けて平易な言葉を使って書く。
- 不当な制限をかけない・・・相手方の権利を不当に制限する内容は無効となるうえトラブルの元にもなるため注意を要する。
- 具体的な表現を使う・・・曖昧な表現を使うと解釈をめぐって揉める恐れがある。
- ひな形を流用しない・・・最新の法令や社会情勢も踏まえ、定期的に内容を見直す。
相手方が作成した契約書・約款に従う時は、約款の条項が契約内容の一部となることを踏まえ、約款についてもよく目を通しておくようにしましょう。
こちらから各種約款のテンプレートがダウンロードできますので、作成にあたっての参考にしてください。
契約書の作成・確認時のポイント
契約書を作成する時も前項で触れたポイントに留意してください。そのうえで、以下のポイントも押さえて作成をするとよいでしょう。
- 契約当事者の特定・・・氏名・名称や住所を記載する。
- 当事者間の合意の旨の記載・・・○○について合意があったことを明記する。また、各当事者の署名・捺印も行う。
- 個別具体的なルールの記載・・・約款に記載されない具体的なルールを明記する。
相手方から契約書が交付される時は、その内容を精査し、自社に不利な制約がかけられていないかどうかをよく調べるようにしてください。
契約書作成の手助けとなるテンプレートがこちらからダウンロードできますので、こちらもご参照ください。
民法上の定型約款の要件に注意して約款を備えよう
約款を作っておけば契約業務も効率的になります。しかし約款を契約の内容として有効に機能させるには民法の規定に従う必要があり、取引内容が同法のいう「定型取引」に該当すること、約款が「定型約款」に該当することが重要です。
契約締結時、約款変更時に個別の合意があれば問題ありませんが、不特定多数と取引を行う時は定型約款の要件に注意しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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