- 更新日 : 2025年9月5日
EPC契約書とは?ひな形をもとに書き方や民法改正に伴う変更点を解説
建物や工場、発電所などを建設する際には、工事請負契約ではなくEPC契約というものを結ぶ場合があります。この記事ではEPC契約の意味や契約書の書き方についてご紹介します。すぐに使えるテンプレートもダウンロードできますので、ぜひご活用ください。
目次
そもそもEPC契約とは
EPC契約とは一括したプロジェクトとして設備建設を請け負う契約のことです。通常、建設工事を発注する際には工事請負契約を締結します。EPC契約では工事だけでなく設計、調達も含めて受注業者が請け負う点が大きな違いです。
Engineering(設計)、Procurement(調達)、Construction(建設)の頭文字を取ってEPC契約と名付けられました。
太陽光発電などにおける建設工事請負契約のこと
EPC契約は大規模な建物や工場、設備などの建設の際に締結されるケースが多いのですが、特に近年では太陽光発電所の建設で用いられるケースが増えてきました。発電事業者と建設請負業者がEPC契約を結び、請負業者が発電システムの設計や資材などの選定・調達、現場での施工・管理までを行います。
EPC契約を締結することで発注者にとっては1つの契約先に全ての工程を任せられリスクが軽減できる、管理がしやすいなどのメリットが、受注者には幅広い業務を請け負うことができるため収益が得やすくなるといった利点があります。
EPC契約とランプサム契約の違い
EPC契約では契約段階である程度プロジェクトの費用を定めますが、確定まではしません。一方、ランプサム契約の場合は契約時点で費用が確定します。仮に人件費や資材費が高騰するなどして費用が高くなってしまった場合でも、後から値上げすることはできません。発注者側にとってはリスクが低くなり、その分受注者側がリスクを負うということになります。
EPC契約とフルターンキー契約の違い
EPC契約は前述の通り設計から調達、工事までを請け負う契約のことであり、建設物の完成までが責任範囲となります。試運転や運用の準備は発注者が行わなければなりません。
一方、フルターンキー契約では設備の試運転をさせ、稼働可能な状態にして引き渡すまでが責任範囲となります。受注者にとっては引き渡し後すぐに建物や設備の運用が可能である点がメリットであり、「鍵を回せばすぐに稼働する」という意味で、フルターンキー契約と呼ばれています。
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民法改正に伴うEPC契約の変更点
2020年4月に民法が改正されました。これに伴い、EPC契約に関しても以下のような変更点がありますので、注意が必要です。
瑕疵(かし)担保責任が契約不適合責任に
これまで、受注者には瑕疵担保責任という責任が発生し、契約の目的物に隠れた欠陥や瑕疵が見つかった場合は発注者が契約の解除や損害賠償請求ができるというルールがありました。これは旧民法第566条に定められていました。
今回の民法改正ではこれが削除され、契約不適合責任に置き換わったのです。契約不適合責任とは引き渡された目的物が契約に定められた内容や品質、数量などを満たしていない場合に受注者が負うべき責任のことで、民法第562~564条に定められています。
民法改正後は欠陥や瑕疵が隠れていようといまいと、目的物に何らかの欠陥や瑕疵があって契約に合致していなかった場合は受注者が直ちに責任を負わなければならなくなりました。また、発注者は契約の解除や損害賠償請求に加え、目的物の追完請求や代金減額請求もできるようになりました。受注者にはより重い責任が課せられることになったのです。
工期遅延に対する発注者の権利強化
工期の遅延は民法上では債務の不履行ということになってしまいます。この場合、債権者(発注者)は債務者(受注者)に対して損害賠償請求ができる旨が民法第415条に定められています。
第415条(旧) 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも同様とする。
これまでは、債務者が債務を履行しなかったか、債務者の責に帰すべき事由、つまりミスなどの落ち度があって債務履行が不能となった場合にのみ、債権者は損害賠償を請求できるようなルールとなっていました。
第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
出典:民法|e-GOV法令検索
改正後は、債務不能状態はもちろん、債務遅滞や不完全履行であっても債権者は損害賠償請求できるようになったのです。例えば、工事を中止した場合だけでなく、工期が遅れてしまった場合、受注者は発注者から損害賠償を請求される可能性が出てくるのです。責に帰すことができない事由がなければ損害賠償責任が免責となりますが、受注者側は自身に落ち度やミスがないことを証明しなければなりません。
EPC契約書のひな形・無料テンプレート
当サイトではEPC契約書のテンプレートをご用意しました。契約書を作成される際には、ぜひこちらを参考にしていただければ幸いです。次の章ではEPC契約書に盛り込むべき内容についてご紹介していますが、このテンプレートを見ていただくことで、より理解が深まるはずです。
EPC契約書の書き方・記載すべき条項
ここからはEPC契約書に盛り込むべき内容や書き方について条項別に見ていきましょう。
契約者
まずは誰と誰がEPC契約に締結するのかを明らかにしましょう。発注者を「甲」、受注者を「乙」というように置き換えるのが一般的です。
業務の内容
発注者が受注者に委託する業務の内容や範囲を記載します。設計、調達、建設別に簡潔に明記しましょう。
工事の内容・時期
発注者が委託する工事の内容や工期、請負代金、引き渡し時期などを具体的かつ簡潔に記載します。
請負代金の支払方法
請負代金の金額と支払期限、支払方法、振込手数料の負担者について明示します。
工事の中止、変更の場合の措置
発注者側が業務や工事の内容を変更したり中止したりすることができる旨と、万が一それによって受注者が損害を被った際に発注者が賠償する旨を記載します。
原材料、機械の調達
基本的にEPC契約では必要な資機材の調達は受注者が行います。その旨を明らかにしておきましょう。
検査等
工事が完了した後に発注者が検査を行う旨とその後の所有権の移転について定めます。
契約不適合責任
目的物が契約の内容と異なっていた場合に発注者が取れる措置について規定します。
危険負担
工事がどちらか一方のやむを得ない事情によってできなくなってしまった場合に、そのリスクをどちらが取るのかについて取り決めます。
履行遅滞の責任を負わない場合
受注者が業務や工事の遅滞について、責任を取らなくてもいいケースを記載します。一般的には自然災害やテロなどの不可抗力を想定します。
第三者への損害賠償
工事の施工で第三者に損害を与えた場合に、誰が責任を負うかを規定します。一般的には施工を担当する受注者が責任を負いますが、発注者の指示によって施工した場合は発注者が責任を負います。
契約の解除
締結したEPC契約を解除できる条件を定めます。相手方が倒産した時、銀行取引が停止された時、契約違反行為があった時などが挙げられます。
合意管轄
当事者同士が紛争になった際に訴えを起こす裁判所を指定します。どちらか一方の本店所在地を所管する地方裁判所を指定するケースが多いようです。
協議
契約書で定められている内容以外で解決できない事項が発生した際に、お互いが話し合って解決を目指すことを規定します。
署名・押印欄
末尾に両当事者が署名押印済みの契約書を1通ずつ保有する旨を記載します。また、契約日と両当事者の住所・氏名記入欄と押印欄を設けます。
EPC契約書を作成するときの注意点
最後にEPC契約を締結する際に注意すべき点について見ていきましょう。
業務・工事の内容をすり合わせておく
EPC契約では受注者が設計から調達、工事までプロジェクトを一括して請け負い、その範囲は非常に広くなっています。業務や工事の内容や範囲をあらかじめ両当事者ですり合わせをしておき、契約書に明記しましょう。特に工事については内容や場所、工期などを明確にしておくことが大切です。「工事の目的物は、別紙の設計仕様の通り」として仕様書に詳細を記載する方法でも問題ありません。
履行遅滞の責任について明確にしておく
前述の通り、民法の改正によって工期が延滞した場合、発注者は工期が延期した際に受注者に損害賠償責任を問いやすくなりました。発注者側にとっては権利が強化されたことになりますが、逆に受注者側からするとリスクが高くなったといえます。特に受注者は履行遅延の責任を負わない場合をしっかりと想定しておき、契約書に盛り込まれているかどうかを確認しましょう。
ポイントを押さえてEPC契約を締結しよう
大規模な建物、工場、発電所などの施設を建設する際には、EPC契約を締結することで発注者は管理を効率化できてリスク軽減にもつながる、受注者は設計から工事まで幅広い業務を一括して請け負えるなど、双方がメリットを得られます。
今回ご紹介した契約書の書き方や注意点、法的なポイント、契約書のテンプレートも参考にしていただき、抜け漏れがないEPC契約書を作成して契約を締結しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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