- 作成日 : 2024年11月26日
工事請負契約書はどちらが作成する?記載事項や注意点も解説
建設工事の契約時には、工事請負契約書の作成が必要です。工事請負契約書を作成することで、発注者と受注者の権利や義務が明確となり当事者間のトラブルを防止できます。
本記事では、工事請負契約書の作成者や記載事項、作成時の注意点を解説します。契約書作成にかかる印紙税や契約書の電子化についても紹介しますので参考にしてください。
目次
工事請負契約書とは
工事請負契約書とは、住宅やビルなどの建物工事の発注者と受注者が工事を始める前に交わす契約書のことです。工事の内容や工事代金、発注者と受注者の権利や義務などを記載します。工事請負契約書の概要について解説します。
工事請負契約書が必要な場合
工事請負契約書が必要になるのは、受注者が発注者の建設工事を請け負うときです。住宅やビルの新築工事だけでなく、増改築工事や改装工事のときにも作成します。工事請負契約のときには、契約書とともに約款や見積書を作成して詳細を確認するのが一般的です。
一般的な商品の売買と異なり、建設工事は費用が高額になるとともに長期間の工事が終わるまで完成品を確認できない、建築内容について発注者と受注者の認識の違いが発生しやすい、などの特徴があります。
工事請負契約書を作成することにより、発注者は安心して工事を任せられ、受注者も工事費用が確実に支払われることを前提に契約書に従って工事に専念できます。
建設業法により工事請負契約書の作成は義務
工事請負契約書は発注者や受注者が安心して契約するのに役立つとともに、法律上も作成が必要です。建設業法第19条では、次の通り契約内容を書面(=工事請負契約書)に記載することを義務づけています。
建設工事の請負契約の当事者(発注者と受注者)は、前条(第18条)の趣旨に従って、契約の締結に際して次に掲げる事項(後述します)を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付しなければならない。
工事請負契約書を作成しないと、建設業法違反で行政処分の対象になることもあります。
工事請負契約書を作成する重要性
工事請負契約書の作成は、建設工事に伴う発注者と受注者のトラブル防止に不可欠です。建設工事に伴う主なトラブルは次の通りです。
- 工事内容(資材や設備、仕様など)が依頼と異なる
- 工事が完成しない、建物に欠陥がある
- 工期が大幅に遅れた
- 想定外の追加費用を請求された
- 工事費用が支払われない
工事請負契約書を作成することで、工事内容や工事代金の支払について発注者と受注者の認識のズレを少なくし、トラブルの発生を抑えます。また、当事者間でトラブルが発生したときや第三者に損害を与えたときの対応方法も記載するため、トラブル解決にも必要です。
さらに、当事者間でトラブル解決できずに訴訟になった場合、工事請負契約書は契約内容を証明する証拠として活用できます。
工事請負契約書は発注者と受注者のどちらが作成する?
法律上、工事請負契約書の作成は発注者と受注者のどちらがしても問題ありません。「発注者と受注者が工事請負契約書を作成して相互に交付」すれば、前述の建設業法第19条の規定を満たすことになるからです。
ただし、実際に工事請負契約書を作成するのは、建設工事の専門知識を持つ建設会社であるのが一般的です。たとえば、マイホームを新築する個人には契約書の作成は難しいため、工事を担う建築会社などが作成します。
一方、公共事業を行う国や地方自治体、不動産会社などの企業が発注者となる場合、発注者に専門家がいて工事請負契約書を作成することもあります。
工事請負契約書の記載事項
工事請負契約書に記載すべき事項は、建設業法第19条に定められています。16の記載項目についてそれぞれ解説します。
工事内容
工事名や工事内容(建設場所や建物の種類など)の概要を記載します。
請負代金の額
建設工事の請負代金を記載します。代金の詳細については、見積書などを別途準備しましょう。建設業法では、受注者保護のため「通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする」ことを禁止しています。
工事着手の時期と工事完成の時期
工事の着工と完成の予定時期を記載します。建設業法では、無理な工事や負担大きい工事を避けるため「通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする」ことを禁止しています。
工事を施工しない日または時間帯
長時間労働を是正するために「工事を施工しない日または時間帯」を設ける場合は、記載しなければなりません。設けない場合は記載不要です。
請負代金の前金払などの支払時期・方法
請負代金を前払いする場合や、建設工事の仕上がり状況に応じて工事代金を支払う「出来形払い」を行う場合は、支払時期や支払方法を記載します。前払いや出来形払いをしない場合は記載不要です。
設計変更や工事の延期・中止の場合の損害負担額などの算定方法
発注者または受注者の都合により、工事内容や工期が変更になったり工事自体が中止になったりすることもあります。工期や請負代金の見直し、損害賠償が必要になる可能性もあるため、その算定方法を事前に定め記載します。
天災などによる損害負担額の算定方法
天災など発注者や受注者に責任のない不可抗力の状況により、工期が伸びたり建設物に被害が発生したりすることもあります。工期変更や建設物の被害による損害負担額の算定方法を記載します。
価格等変動などによる請負代金や工事内容の変更
建築資材などの価格が変動した場合の請負代金や工事内容の変更に関する取り扱いを記載します。
第三者が損害を受けた場合の賠償金負担
工事の施工により第三者に損害を与えることもあります。損害賠償が必要になった場合に備えて、発注者と受注者の負担割合などを事前に定めて記載します。
注文者が資材提供または建設機械を貸与するときの取り扱い
注文者が建設工事に使う資材を提供したり、建設機械などを貸与したりするケースもあります。提供・貸与する資材や機械の内容や、提供・貸与する方法を記載します。
工事の検査の時期や方法、引き渡し時期
注文者が工事の完成を確認するための検査の時期や方法、建築物を引渡す時期を記載します。工事の途中に状況を確認するために検査する場合は、その時期や方法も記載が必要です。
工事完成後の請負代金支払の時期や方法
工事が完成した後の請負代金の支払時期や支払方法を記載します。前払いなどがある場合、前述の通り別途記載が必要です。
契約不適合責任と責任履行に関する措置
建築物に欠陥があるなど契約内容に適合しない場合、建築物引き渡し後の一定期間、発注者は受注者に補修などを請求できます。受注者の責任の範囲を明記するとともに、責任を履行するための保証保険契約などがあればその内容も記載します。
遅滞や債務不履行に対する違約金など
工事が遅滞したり契約した工事内容を完遂できなかったりする場合、受注者が発注者に支払うべき遅延利息や違約金、損害金などを事前に定め記載します。
契約に関する紛争の解決方法
契約に関して発注者と受注者に紛争が発生した場合の解決方法を記載します。解決方法には、民事訴訟や建設工事紛争審査会によるあっせん・調停・仲裁、当事者間協議などがあります。建設工事紛争審査会は、建設業法第25条に基づく紛争解決のための機関です。
その他国土交通省令で定める事項
その他国土交通省令とは、「建設業法施行規則」のことです。詳細は下記で確認できます。
工事請負契約書を作成する際の注意点
工事請負契約書を作成するときの主な注意点は、以下の3つです。
- 法律に従って記載する
- 発注者と受注者にとって公平な内容にする
- トラブルや発注者と受注者の認識のズレをなくすために具体的に記載する
建設業法第19条の1に定める記載項目をもれなく記載するとともに、同条に定める次の規定になどに従って工事請負契約書を作成しましょう。
- 不当に低い請負代金の禁止
- 著しく短い工期の禁止
- 不当な使用資材等の購入強制の禁止 など
また、発注者と受注者の一方だけが不利にならないように契約内容を決めなければなりません。発注者が個人、受注者が建設会社の場合、発注者は公平な内容の工事請負契約書を作成するとともに、建設工事に関する知識に乏しい発注者に詳しく説明して理解を得ましょう。
最後に、想定されるトラブルや発注者と受注者の認識のズレを防止するために、契約書は具体的にわかりやすく記載しましょう。発注者と受注者の権利や義務、トラブル発生時の対応方法などを明確にすることで、建設工事が円滑に進むことが期待できます。
工事請負契約書のひな形・テンプレート
工事請負契約書の記載内容は多岐にわたるため、新たに作成するときは契約書のテンプレートを活用すると効率的に作成でき、記載事項の漏れも防止できます。
マネーフォワード クラウド契約では、弁護士が監修した無料のテンプレートが用意されているので、お気軽にご利用ください。
工事請負契約書を作成しないと罰則はある?
工事請負契約書を作成しなくても発注者と受注者の契約は有効ですが、作成を義務づける建設業法違反で行政処分を受けることもあります。
建設業者の許可をした国土交通大臣または都道府県知事から勧告を受けたり、勧告に従わないときは公表されたりすることもあります。また、建設会社などは営業停止処分を受けることもあるため、契約書の作成は必須です。
工事請負契約書にかかる印紙税
工事請負契約書にかかる印紙税は、次の通りです。軽減措置により2027年3月まで契約金額100万円超の印紙税額は、一般的な請負契約より安くなります。
契約金額 | 印紙税額 |
---|---|
1万円超200万円以下 | 200円 |
200万円超300万円以下 | 500円 |
300万円超500万円以下 | 1,000円 |
500万円超1,000万円以下 | 5,000円 |
1,000万円超5,000万円以下 | 1万円 |
5,000万円超1億円以下 | 3万円 |
1億円超5億円以下 | 6万円 |
5億円超10億円以下 | 16万円 |
10億円超50億円以下 | 32万円 |
50億円超 | 48万円 |
工事請負契約書の電子化は可能?
工事請負契約書の電子化は可能です。従来は書面での作成が義務化されていましたが、2001年4月の法改正により、契約書の電子化が認められました。ただし、電子化するには、発注者と受注者の両方の承諾が必要です。
適正な工事請負契約書を作成してトラブルを防止しよう
工事請負契約書は、建物工事の発注者と受注者が工事を始める前に交わす契約書です。建設業法第19条に定める記載事項を網羅して、発注者と受注者の権利と義務やトラブル発生時の対処法などを記載します。
発注者と受注者にとって公平な契約内容にすること、両者の認識のズレをなくすことを意識して適正な契約書を作成し、工事に関するトラブルを未然に防ぎましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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