- 更新日 : 2025年3月6日
覚書は電子契約にできる?締結の流れやメリットを解説
契約締結段階で相手方と交わす覚書は、電子契約で行うことができます。紙の書面でやり取りするのと比べて、印刷や郵送などの工程が必要なく、作業時間やコストの削減につながる点がメリットです。
本記事では、覚書の基礎知識を紹介するとともに、覚書を電子契約で交わす時の流れや、電子契約化することで削減できる作業について解説します。
目次
覚書は電子契約にできる?
覚書は従来のように紙の書類で作成・保管するだけでなく、作成から署名、保管まで電子化し、電子契約として行うことができます。また、契約書を紙の書面で作成した場合でも、覚書だけ電子契約で締結することも可能です。
取引における電子契約は、2022年5月に不動産業の契約書を中心に原本の電子化が可能になったことも後押しとなり、裾野が広がっています。電子契約が可能になったことで、書面作成や郵送など、書類のやり取りで発生する煩雑な作業が軽減し、スピーディーな取引につながっています。
スムーズかつ低コストで取引を進めるためにも、電子契約の基本的な流れについて把握しておきましょう。
なお、電子契約については以下の記事でくわしく解説しています。
そもそも覚書とは?
覚書とは、ビジネスにおいては双方で取り決めた事柄を記録として残すこと、およびその記録そのものを指す用語です。例えば、打ち合わせで取り決めた内容を記録しておき、その覚書をもとに正式な契約を締結する場合などに使われます。
また、契約締結後、契約内容に変更が生じた場合に、当該変更部分について覚書を残すこともあります。
契約書、念書との違い
覚書と似た言葉に「契約書」と「念書」があります。ここでは、覚書と契約書、念書との違いについて解説します。
契約書は、双方が契約を締結する際に交わす書類です。例えば「売買契約書」「賃貸契約書」「雇用契約書」などがあります。覚書も契約書の一種であり、2つに明確な違いはありません。イメージとしては、契約書は契約内容全体について記したもの、覚書は契約の前段階で取り決めたことのメモ、あるいは後から変更や追加された事項を記したものであることが多いです。
一方、念書は、相手に約束を果たすことを伝える場合に作成する一方通行の書類です。例えば、債務者が債権者に「◯◯月◯◯日に金◯◯円を支払うことを約束します」という念書を作成するケースなどが挙げられます。
覚書や契約書が当事者双方の取り決めを記したものであるのに対し、念書は一方向の決めごとを記したものといえます。
覚書を作成するケース
覚書を作成するケースには、以下が挙げられます。
- 契約書の内容に変更、修正を行う場合
- 契約締結後に別途契約条件を定める場合
契約書の内容に変更、修正を行う場合とは、契約当事者を取り巻く状況の変化により、契約内容を変えた方がよいケースなどが該当します。覚書を取り交わせば、追加・変更部分について双方の合意があったことの証拠とすることができます。
契約締結後に別途契約条件を定める場合とは、先に契約締結だけ完了しておき、後で金額や納期などの細かい部分について決めるケースです。
覚書の意味や書き方に関して、詳しくは以下のページをご参考ください。
覚書を電子契約で締結する流れ
覚書を電子契約で締結する基本的な流れは、以下の通りです。
- 合意内容をPDFでアップロード
- 電子署名
- メールなどで通知
- 取引先の確認・電子署名
- サーバーに保存、保管
取引相手と契約内容について合意し、覚書を作成したら、PDFにしてクラウド上にアップロードします。署名も電子署名でオンライン上で可能です。PDFの内容を確認し、電子署名を終えたら、相手方にメールなど電子的な方法で通知します。
相手方にも同様に、PDFの内容を確認後、電子署名をしてもらい、双方の署名がそろったらサーバーに登録・保管します。必要に応じて紙に印刷したりファイリングしたりすることも可能です。
後になって契約内容に変更や追加が生じたら、その都度同様の流れで覚書を作成し、署名、保管しましょう。
紙での契約と比較して削減できる作業
電子契約では、紙での契約と比較して削減できる作業が複数あります。例えば、印刷、製本、印紙貼付、封入、宛名書き、送付などが挙げられます。
また、電子契約であれば署名後はサーバーに保管すればよいので、ファイリングの手間もいりません。ファイルをいくつも用意したり、保管スペースを設置したりする必要もなくなります。
このように、紙での契約を電子化することで削減できる作業は多くあります。また、その分時間や費用の削減にもつながるのです。
覚書を電子契約で締結するメリット
覚書を電子契約で交わすことには複数のメリットがあります。代表的なメリットについて以下で解説します。
郵送のタイムラグを削減できる
電子契約の場合、郵送の必要がないためタイムラグを削減できるメリットがあります。電子契約なら覚書のファイルをクラウドにアップし、メールなどで相手に連絡するだけで済むからです。
具体的には、郵送する覚書の印刷、封入、宛名書き、郵便局での手続きなどの作業が不要になります。郵送によるタイムラグを削減することで覚書の内容をすぐに確認できるので、自社と取引先双方にとって大きなメリットといえるでしょう。
印紙代を節約できる
電子契約で覚書を交わせば、印紙代を節約できる点もメリットです。なぜなら、電子ファイルは課税文書に該当せず、印紙税がかからないからです。
印紙代の額は契約金額によって異なりますが、200円~60万円に上ります。契約内容の細かい部分を変更するたびに印紙代をかけて覚書を交わしていては、印紙代だけで膨大なコストがかかることもあるでしょう。
この点、電子契約であれば、印紙代がゼロになるため、コストの節約につながります。
郵送や印刷のコストを削減できる
郵送や印刷にかかるコストを削減できるのも電子契約の大きなメリットです。紙で覚書を交わす場合は紙の印刷代や郵送費がかかりますが、電子契約であればこれらの費用は必要ありません。
覚書のボリュームや内容変更・追加の頻度によっては、すべて郵送で対応すると印刷代や郵送代で多額のコストがかかってしまいます。電子契約にすることで、そうしたコストをカットできるのは大きなメリットといえるでしょう。
覚書を電子契約で締結する注意点
覚書を電子契約で締結する際に、注意しておくべき点があります。注意点を守らなければ、せっかく交わした覚書が無効になりかねません。
特に気を付けたい2つの注意点について、以下で解説します。
関連法律を知っておく必要がある
電子契約で交わした覚書が真正なものであると証明するためには、電子署名法に定められている要件を満たす必要があります。
原則として、契約は当事者の一方が行った申し込みに対して、相手方が承諾の意思を表示することで成立します(民法522条)。契約書や覚書を紙と電子のどちらで交わしているかは、契約の成立には影響ありません。
ただし、契約後にトラブルなどが生じた際に、電子契約で交わした覚書や契約書を証拠として使えるように、電子署名をしておく必要があります。なぜなら、民事訴訟法では、証拠として認められる「真正」性があるとするために、書面に署名または押印を求めているからです(民事訴訟法第228条第4項)。
電子契約における署名について定めているのは、電子署名法です。これらの法律の要件を満たしていないと、トラブル解決の際に証拠として使えない恐れがあります。
また、 電子契約の覚書の保存については電子文書法の規定に従うことが必要です。
このように、覚書を電子契約で交わす場合は、関連法律について基本を押さえておく必要があるのです。
取引相手の電子契約対応も必要
覚書を電子契約で交わす場合、取引相手にも電子で対応してもらう必要があります。上記で述べた電子契約成立の要件にかかわるからです。
ただし、取引先によっては、紙の覚書に署名・捺印をする形で契約を進めたい場合もあります。自社が電子契約で行いたくても、取引先が拒否する場合は、従来通り紙の書類でのやり取りが発生することには留意しましょう。
電子契約システムの導入
自社のシステムだけでは電子契約に対応できない場合は、電子契約システムを導入する必要があります。上記で述べた通り、電子契約を取り入れる場合は法律の要件を満たす必要や、相手先に対応してもらう必要があるからです。
電子契約システムとは、インターネット上でPDFに電子署名をし、契約を締結できるシステムのことです。システムによっては、契約書や覚書の作成、保管などができるものもあります。
覚書のテンプレート
以下のページより、覚書のテンプレート(ひな型)をダウンロードできます。覚書作成の際にご活用ください。
覚書の電子契約で効率的な取引を
契約締結における覚書は、従来通り紙の書面でやり取りをする他に、電子契約で交わすことが可能です。覚書を電子契約化することで、紙でやり取りをする際に発生する作業やコストの大幅な削減につながります。
覚書を電子契約で交わす場合は、電子契約システムの導入や、関連する法律の要件に対する理解などの準備が必要です。また、取引相手にも電子契約に対応してもらう必要があります。
覚書をスムーズに電子契約化したい場合は、電子契約システムの導入を検討してみましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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