- 更新日 : 2025年8月28日
個人事業主とNPO法人の違いは?業務委託・設立・支援の注意点を解説
個人事業主として活動していると、社会貢献を目的としたNPO法人と関わる機会は少なくありません。NPO法人は、特定非営利活動促進法に基づき、公益性の高い活動を行うことを目的に設立される法人で、個人事業主は所得税法に基づき、営利活動を通じて所得を得る形態であるため、設立目的や運営形態、税務処理において明確な違いがあり、それぞれの立場に応じた関わり方が求められます。
本記事では、NPO法人と個人事業主の目的や制度上の違いを整理しつつ、業務委託を受ける場合、NPO法人を設立する場合、あるいは支援・寄付などを行う場合など、さまざまな関係性に応じた注意点や税務上のポイントを解説します。
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目次
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NPO法人とNPOの違い
「NPO」と「NPO法人」は似た言葉ですが、法的には意味が異なります。どちらも非営利活動を行う団体ですが、法人格の有無や社会的信用、ガバナンス、法的責任の範囲にに違いがあります。ここでは両者の違いを分かりやすく整理します。
NPOは広い意味の非営利団体
NPOとは「Non-Profit Organization」の略称で、営利を目的としない社会的課題の解決や公益的活動を行う市民団体や任意団体を広く指します。法人格を持たないことが多く、法的主体ではないため、代表者名義で活動や契約を行います。設立に制限はなく自由度が高い反面、社会的信用や契約の安全性では制約があるのが現状です。
NPO法人は法的に認められた組織
NPO法人は、特定非営利活動促進法に基づき、都道府県知事または政令指定都市の長といった所轄庁の認証を受けて設立される法人格のある団体です。法人格を取得することで、団体名義で契約や財産の管理が可能となり、債務や損害賠償責任も原則として法人が負います。
また、法的に認められた存在として、公的助成や寄付の受けやすさ、社会的信用の高さにつながります。
NPO法人と個人事業主の違い
NPO法人と個人事業主は、法律上の位置付け、設立要件、運営体制、税制上の扱いなどに明確な違いがあります。社会貢献や公益性の高い活動を目的とするか、営利活動を通じて所得を得ることを追求するかといった目的の違いも大きく、これらの違いを理解しておくことで、自分の活動や事業方針に適した形態を選ぶ助けになります。
設立要件や運営体制の違い
個人事業主は、税務署への開業届を提出することで事業を開始できます。資本金や社員は不要で、基本的に一人で事業を始められます。法人格は持たないため、契約や財産、債務など事業の責任や事業所得はすべて個人に帰属します。設立までの手続きが簡易で、柔軟かつスピーディに事業を開始できる点が特徴です。
NPO法人は、所轄庁の認証を経て法人格を取得する団体です。設立には10人以上の社員(正会員)や3人以上の理事、1人以上の監事の設置が必要となります。これらの役員で構成される組織体制を整え、定款や設立趣意書などを作成し、所轄庁へ申請・認証を得てから登記を行います。設立には通常約4か月を要し、組織的・公益的な基盤が前提となります。
利益の扱いと税制の違い
個人事業主は営利を目的としており、事業で得た利益はすべて事業主本人の所得として扱われます。所得税および住民税の課税対象となり、収入から必要経費を差し引いた所得に対して課税されます。青色申告を選択すれば、最大65万円の特別控除や欠損金の3年間繰越などのメリットも得られますが、所得が大きくなると法人化したほうが税率面で有利になることもあります。
これに対してNPO法人は、構成員に利益を分配しない「非営利性」を基本とします。事業で黒字(剰余金)が出ても、株式会社の配当のように役員や会員へ分配することはできません。剰余金は、翌年度以降の法人の目的を達成するための活動資金として法人の目的達成に充てられます。ただし、労働の対価として役員や職員に対して報酬を支払うことは可能です。
税制面では、定款に記載された特定非営利活動に直接関係する事業からの収入については法人税が非課税となる優遇措置があります。ただし、収益事業(物品販売、人材派遣など)を行った場合には法人税の課税対象となります。また、法人住民税の均等割も課されますが、非営利活動のみの団体については自治体によって減免制度を設けている自治体もあります。
資金調達と社会的信用の違い
個人事業主は自己資金や銀行からの融資を主な資金源とし、原則として自分の裁量で事業の資金運用ができます。ただし、法人格を持たないため、信用力の面で制約があり、大規模な資金調達や長期の契約では不利になることがあります。
NPO法人は、寄付金や会費、助成金・補助金など、法人格を持つ非営利団体としての信用を活かした多様な資金調達が可能です。さらに、一定の基準を満たして「認定NPO法人」となれば、寄付者に所得控除または税額控除の税制上の優遇措置が受けられるため、継続的な寄付を集めやすくなります。行政との連携や委託事業の受託も行いやすく、公共性の高い活動に向いていますが、その分、資金の使途や会計処理に対して高い透明性と情報公開が求められます。
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NPO法人が個人事業主に業務委託するケース
NPO法人が一部の業務を外部の専門家に委託するケースは多く、個人事業主(フリーランス)が受託することも一般的です。広報やイベント運営、講師業務などで委託契約を結ぶ場合は、契約形態の明確化に加え、税務・労務の観点で確認事項があります。
契約の基本は「雇用」ではなく「業務委託」
NPO法人が個人事業主に仕事を依頼する場合は、雇用契約ではなく民法上の請負契約または委任契約となります。このため、労働基準法は適用されず、労働時間や最低賃金、社会保険の対象にもなりません。契約は対等な立場で締結され、業務範囲や報酬、納期、支払条件などを明確に文書で取り決めることが重要となります。
2024年11月に施行された「フリーランス保護新法」により、発注側であるNPO法人にも契約内容の書面明示義務などが課されています。フリーランス保護新法では、従業員(労働基準法上の労働者)を1人以上雇用しているNPO法人は「特定業務委託事業者」に該当します。特定業務委託事業者は、フリーランスへの報酬支払いを業務完了から60日以内に支払う義務や、口頭契約は認められず、契約条件の書面または電磁記録での明示義務が課されます。
所得税や消費税の扱い
業務委託で得た報酬は、原則として事業所得として確定申告の対象になります。業務内容によっては、NPO法人が源泉所得税(10.21%)を控除して支払うケースがあり、講演料や原稿料、デザイン料などが該当します。源泉徴収された場合は、交付された支払調書をもとに確定申告で精算されます。源泉徴収のない場合でも、請求書や契約書などの証憑を保存し、漏れなく申告することが大切です。
また、インボイス制度への対応として、課税対象となる取引では、適格請求書発行事業者であれば消費税を上乗せして請求できます。NPO法人は非営利団体であっても、対価を支払う取引自体が課税取引に該当するため、消費税の取り扱いも事前に確認しておきましょう。
労務・守秘義務・知財の明確化が必要
業務委託契約では、成果物の納品や業務の遂行に対して報酬が支払う民法上の請負または委任契約であり、働き方や時間配分は原則として受託者の裁量に委ねられます。ただし、NPOの理念に共感するがあまり、契約範囲を超える作業に応じてしまうと、労働者的な従属性が生じ、雇用契約とみなされるリスクやトラブルの原因となります。契約書に定めた範囲を守る姿勢が大切です。
さらに、業務上知り得た情報の守秘義務や、成果物の知的財産の帰属についても、契約書で事前に明確化しておくと安心です。トラブル防止のためにも、文書による契約を交わし、双方の責任や範囲を明確にすることをおすすめします。
個人事業主がNPO法人を設立・兼業運営するケース
個人事業を営みながら、社会的な目的でNPO法人を設立するという選択肢も存在します。両立は制度上認められていますが、設立・運営にはハードルがあり、税務や管理面でも注意が必要です。ここでは、個人事業主がNPO法人を立ち上げて並行運営する際の基本事項を解説します。
NPO法人を設立・兼業運営する場合の注意点
個人事業主がNPO法人を設立することは、特定非営利活動促進法上、可能です。ただし、NPO法人の設立には最低10人の社員(正会員)と、理事3名以上・監事1名以上の設置、定款の作成、所轄庁の認証および登記などが必要で、設立までに数か月かかるのが一般的です。設立後は毎年、事業報告書や財務諸表を所轄庁へ提出する義務があり、法人としての透明性と公益性を継続的に確保する責任が伴います。
また、個人事業とNPO法人を並行して運営する場合は、会計や資金の管理を明確に分ける必要があります。NPO法人の口座や帳簿と、個人事業のものを完全に分離し、NPOの資金を私的に使用しないよう厳格に管理しなければなりません。目的外支出は信頼失墜につながるだけではなく、法的な問題にも発展する可能性があります。
税務と報酬の扱い
NPO法人を設立した個人事業主が、その法人から給与を受け取る場合、源泉徴収の対象となり、給与所得として確定申告に含める必要があります。年末調整が行われる場合は法人側で精算しますが、行われない場合は個人で申告します。一方で、役員報酬を受け取らずに無給で運営している場合には、所得税の課税対象にはなりません。
会計上は無報酬であっても、「報酬を受け取っていない役員」として記載が求められます。また、NPO法上、役員のうち報酬を受け取る者の割合は3分の1以下に制限されており、この点にも注意が必要です。
さらに、自らが代表を務めるNPO法人が、自身の個人事業に業務を発注する場合、利益相反取引と見なされます。そのため、透明性を確保するために理事会の承認を得る、契約内容を明示的に公開するなど、客観的なプロセスが必要となります。社会的信用を損なわないよう、公私の区別を徹底することが求められます。
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個人事業主がNPO法人を支援するケース
個人事業主がNPO法人を支援する形には、役員として関与する場合や、ボランティア活動、寄付などさまざまなスタイルがあります。ここではそれぞれの関与方法における税務・労務上の注意点や心構えを整理します。
役員として関与する場合
個人事業主がNPO法人の理事や監事に就任する場合、団体の運営や意思決定に携わる重要な役割を担います。役員はNPO法および定款に従って職務を遂行する義務があり、法令や定款に違反して損害を与えた場合は連帯して損害賠償責任を問われることもあります。ボランティア感覚ではなく、法人の運営者として責任を持つ姿勢が求められます。
また、本業と混同しないように注意が必要です。NPOの資金や事業に個人事業を不当に介入させるような行為は、利益相反取引や信用失墜の原因となります。公私の線引きを明確にし、公益性のある活動に専念する姿勢が重要です。
ボランティア活動や寄付をする場合
NPO法人で無償のボランティア活動を行う場合、報酬がないため所得税の課税対象とはなりません。ただし、自費で負担する交通費や備品費用は原則として経費算入できず、自己負担扱いとなります。NPO側が実費を支給する場合、その額が過大または実費精算の範囲を超えると雑所得の課税対象に該当することもあるため注意が必要です。
また、個人事業主がNPO法人に寄付を行った場合、その寄付金は事業経費としては扱われません。しかし、認定NPO法人への寄付であれば、確定申告において寄附金控除や税額控除が適用され、所得税や住民税の軽減が可能です。支援先が認定NPOでない場合でも、国や自治体が指定した団体であれば控除対象になる場合があります。領収書の保存と寄付先の確認が必要です。
安全配慮と活動の両立
ボランティア活動は労働契約に基づくものではないため、労災保険上の適用対象外となります。ただし、NPO法人や自治体、社会福祉協議会が独自にボランティア活動保険を用意していることもあります。活動前には安全面の説明を受け、保険加入状況も確認し、無理のない範囲で関与しましょう。
また、本業との時間配分を考慮し、負担が一方に偏らないよう注意することも重要です。
NPO法人と個人事業主の関係を理解し、目的に合った関わり方を選ぼう
NPO法人と個人事業主は、設立目的や運営体制、税制の面で大きな違いがあります。業務委託を受ける場合は契約や税務処理に注意し、設立・運営する場合は公私の分離が重要です。また、支援者として関わる場合にも、役割ごとの責任や税制面の理解が求められます。自身の活動スタイルや目的に応じて、適切な関わり方を選ぶことが健全な運営と継続的な支援につながるでしょう。

マネーフォワード クラウド確定申告の導入事例
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ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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