- 更新日 : 2024年11月14日
サラリーマン・会社員の青色申告の条件 メリットや副業時の注意点も
サラリーマンとして給与所得を得ている場合であっても、確定申告が必要なケースがあります。
その中でも、事業所得や不動産所得などを得ているサラリーマンの場合には、青色申告をすることによって税務上の特典が受けられます。
ここでは、サラリーマンの青色申告について見ていきましょう。
目次
サラリーマンと青色申告
給与所得のあるサラリーマンが青色申告をする場合、どのようなことに留意する必要があるのでしょうか。当然、何らかの事業により所得を得ていることが大前提です。
サラリーマンで確定申告が必要な場合
サラリーマンが副業として事業所得や不動産所得などを得ている場合、その副業の状態により確定申告のしかたが異なってきます。ケースに分けて見ていきましょう。
損失がある場合
事業所得や不動産所得に損失がある場合は、給与所得を含む同一年の他の所得と「損益通算」できます。損失額が大きく、それでもなお損失を控除しきれない金額がある場合には「青色申告」を利用することにより翌年以降に繰越し又は前年に繰戻しができます。
前者を純損失の「繰越控除」、後者を「繰戻し還付」と呼びます。
損益通算
損益通算とは、事業所得や不動産所得などで生じた損失のうち、不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得についてのみ、総所得金額の計算において一定の順序で他の黒字所得の金額から控除することです。
損益通算は、青色申告・白色申告いずれの申告方法でも適用されます。
青色申告
「不動産所得」「事業所得」「山林所得」について、所定の帳簿書類を備え付け、適正な所得計算を行う者に対して優遇措置が与えられる制度です。青色申告を利用することにより、同一年で損益通算しきれない損失の額について下記のいずれかの制度を受けられます。
- 純損失の繰越控除:翌年以降3年間にわたり控除できる
- 純損失の繰戻し還付:前年分の所得に対する税金から還付が受けられる
損益通算は「その年の所得の相殺」という単年の制度ですが、青色申告は事業継続を前提とした制度であり、厳正な手続きが必要です。
なお、繰戻し還付には、前年分(還付の対象となる所得分)も青色申告書を提出していなければなりません。
青色申告事業の主な要件
「青色申告を利用するための手続きとは何か?」以下、要件を中心にメリット・注意点など含めて解説します。
1.所得区分が「不動産所得」「事業所得」「山林所得」である
不動産所得は、不動産の貸付けが事業として行われているか否かによって、取扱いが異なる場合があるため要注意です。
不動産貸付けが事業として行われている場合には、複式簿記で記帳をするなど一定の要件を満たせば、最高65万円までの控除が受けられますが、事業的規模に満たない場合には、最高10万円までの控除しか適用されません。
一般に、独立した家屋の貸家数がおおむね5棟以上又はアパート等の独立した室数がおおむね10室以上であれば、事業的規模として取り扱われます。
2.「青色申告の承認申請書」を提出している
青色申告の承認申請書は通常の場合、承認を受けようとする年の3月15日まで(1月16日以降に事業を始めた場合は開業日から2カ月以内)の申請が必要となります。
詳細については、以下の記事をご覧ください。
3.帳簿作成義務
青色申告をする場合には、適正な帳簿の作成が必要です。そもそも青色申告には納税者の申告を正しいものにするだけでなく、記帳をする習慣をつける、という趣旨があります。
「記帳の習慣をつけることに意味があるのか?」と思う方もいるかもしれませんが、事業が大きくなった場合、会計帳簿からなる決算書は経営に不可欠な存在となります。
事業を行う者なら、実施した取引を立証する会計帳簿をきちんとつけておきたいものです。
帳簿の作成についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
会社員が青色申告する適切なタイミング
サラリーマンとして給与所得を得ながら、青色申告をするには2つのタイミングを考えましょう。
まずは、大局的に副業によって得られる所得を申告するタイミング、次に申告が必要となった場合の準備から申告までのタイミングを掴みましょう。
確定申告が必要となるタイミングとは
例えば、事業所得の場合などで、当初は一過性の所得に過ぎない場合もあります。
このような場合には、事業所得ではなく雑所得などで申告することとなり、青色申告はできません。
しかしながら、その取引が継続する年度には事業所得として確定申告するタイミングであると言えます。
ここで「事業」とはなにかということについて、最高裁判決で示された定義を示しておきますので参考にしてください。
「事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」をいう。
出典:最高裁判所判例集
確定申告書類の作成タイミングとは
事業所得として青色での確定申告をする場合には、事前に「青色申告の承認申請書」を提出し、その年の1月1日から12月31日までの取引について会計帳簿を付けます。
確定申告は、通常は翌年の2月16日~3月15日までなので、この間にその会計帳簿に基づき、所定の損益計算書・貸借対照表と確定申告書を作成して、税務署に提出します。
なお、サラリーマンの場合は給与所得における年末調整によって、翌年1月には勤務先から源泉徴収票の交付を受けるので、確定申告書はこの源泉徴収票も参照して作成します。
サラリーマンが青色申告する方法
同じ青色申告でも現金主義、簡易帳簿、正規の簿記(複式簿記)などに分かれます。
これらはすべて青色申告の承認申請が必要となりますが、次のように選択により提出書類にも違いがあります。
要件 | 事前届 | 青色申告特別控除額 | 確定申告書類 (すべてについて 添付書類必須) | |
現金主義 | 前々年の所得が 300万円以下 | 必要 | 最高10万円 | ①青色申告決算書 (現金主義用) ②確定申告書 |
簡易帳簿 | ー | ー | 最高10万円 | ①青色申告決算書 (一般用)※ ②確定申告書 |
複式簿記 | ー | ー | 最高65万円 | ①青色申告決算書 (一般用) ②確定申告書 |
※簡易帳簿の場合には会計帳簿から貸借対照表を作成できないので、損益計算書のみの提出となります。
なお、青色申告についての詳細は以下の記事をご参照ください。
副業収入はいくらから申告が必要?
サラリーマンの副業収入の場合、給与所得及び退職所得以外の所得金額の合計額が20万円を超える人については、確定申告が必要となります。
すなわち副業において、次の所得金額が20万円を超えると確定申告が必要です。
しかしながら、所得税についての申告が不要でも、市区町村に支払う住民税については別途市区町村に住民税の申告をする必要があります。
青色申告のメリットと注意点
サラリーマンであっても、副業における確定申告について、青色申告をおすすめする理由は多くの特典、すなわち節税策を適用できるためです。
以下、青色申告のメリットとその注意点を見ていきましょう。
青色申告のメリット
青色申告の主なメリットは以下のようになります。
- 青色申告特別控除最大65万円(又は10万円)
- 青色事業専従者給与の必要経費算入
- 貸倒引当金の繰り入れ
- 少額減価償却資産の特例(取得価額30万円未満の減価償却資産を全額必要経費に算入)
- 純損失の繰越控除
- 純損失の繰戻し還付
上記4.については、租税特別措置法に規定されるものであり、この他にも数多くの青色申告者への特典があります。
青色申告の注意点(青色申告特別控除と純損失の繰越控除)
青色申告の注意点について説明します。前部分でメリットとして挙げた「1.青色申告特別控除」と「5.純損失の繰越控除」の関係には注意が必要です。
「青色申告特別控除」として所得から最大65万円(又は10万円)を差し引くことができますが、この控除は所得が65万円(又は10万円)未満の場合には、その所得を限度として差し引くこととなります。したがって、この場合は赤字とならないため、「純損失の繰越控除」の適用はありません。
一方、控除する前の所得が赤字になっている状態であれば、その赤字を「純損失の繰越控除」として翌年以降に繰り越すことができます。
青色申告特別控除額が最高65万円という意味は、下記の3要件で控除額55万円となり、これに加えて、e-Taxによる電子申告あるいは電子帳簿保存のいずれかを行うことで控除額10万円が追加され、合計で控除額65万円が受けられるということです。
- 不動産所得又は事業所得
- 正規の簿記の原則(複式簿記)により記帳
- 貸借対照表及び損益計算書を確定申告書に添付し、法定申告期限内に提出
サラリーマンの副業、将来性を見据えて青色申告へ!
「サラリーマンが青色申告するときの注意点」というテーマで書いてきましたが、青色申告の本旨は帳簿書類の備え付けと適正な申告です。
「還付ありき」の申告にならないよう注意しましょう。いくら赤字を出しても、元々の納税額を超える還付金を受けることはできません。
元々の納税額が少ないならば青色申告は割が合わない作業と映るかもしれません。
「もっと事業を大きくしたいのか」「今年限りの副業なのか」など、将来のビジョンも考えつつ青色申告するかどうかを決めましょう。
よくある質問
サラリーマンが確定申告を行うメリットは?
事業所得や不動産所得に損失がある場合は、確定申告をすることで給与所得と損益通算され、給与から差し引かれていた源泉所得税の還付を受けられます。詳しくはこちらをご覧ください。
サラリーマンが青色申告を行う場合に留意すべきことは?
所得の種類が「不動産所得」「事業所得」「山林所得」であること、青色申告承認申請書を提出していること、適正な帳簿の作成することなどがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
青色申告特別控除と純損失の繰越控除で気をつけるべきことは?
青色申告特別控除は、所得が65万円(又は10万円)未満の場合、その所得を限度として差し引くため赤字とならず、純損失の繰越控除の適用を受けることができません。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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