- 更新日 : 2023年8月29日
災害による損害が発生した時の確定申告
被災して、住宅や家財の一部またはすべてに損害があると、税金を払うことも難しくなります。そこで設けられているのが災害に関わる減免措置。ここでは主に、所得税の減免措置と利用方法について解説していきます。
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目次
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災害による損害を考慮した2つの選択肢
災害で損害を受けたとき、確定申告によって所得税の減免を図る方法には、「雑損控除」と「災害減免法による所得税の軽減免除」の2つの選択肢があります。
雑損控除
雑損控除は、災害などで資産に損害を受けたとき利用できる方法です。所得控除の一種で、定められた計算によって算出された額を所得から差し引くことができます。“所得”(一般的に、事業などの収入から必要経費を差し引いた利益)から控除するのがポイントです。
雑損控除の適用を受けたい場合、確定申告書の所得から差し引かれる金額のうち、「雑損控除」の欄に控除額を記入するほか、被災の根拠として以下の書類を添付し、確定申告を行います。
- 雑損失の金額の計算書
- 被災した住宅、家財等の損失額の計算書(個々に損失額を出すのが難しい場合のみ)
- 被害を受けた資産の取得価格や取得年月日が分かる書類
- 災害関連支出の領収書
- り災(被災)証明書写し
- 保険金等の補填額が分かる書類(保険金が支給された場合のみ)
確定申告書に添付する「雑損失の金額の計算書」と「被災した住宅、家財等の損失額の計算書」はこちら
災害減免法による所得税の軽減免除
災害減免法は、災害によって住宅や家財に損害を受けたとき、損害程度や所得の条件を満たすことで利用できます。申告者の年間所得金額合計に合わせて、“所得税”が免除、あるいは減額されるのがポイントです。
災害減免法による所得税の軽減免除を受ける場合、確定申告書の「災害減免額」に減額分を記入するほか、以下の書類を添付して確定申告を行います。
- 住宅や家財の損害状況が分かる書類
- 被害を受けた資産の取得価格や取得年月日が分かる書類
- 災害関連支出の領収書
- り災(被災)証明書写し
- 保険金等の補填額が分かる書類(保険金が支給された場合のみ)
国税庁|災害減免法による所得税の軽減免除
「雑損控除」と「災害減免法による所得税の軽減免除」はどっちを使うべき?
災害を受けて所得税の負担を軽減したい場合、雑損控除と災害減免法による軽減免除のいずれかを選択しなければなりません。どちらを選ぶべきかについては、申告者の被害状況、所得状況などで異なります。
適用できる要件の違い
雑損控除の対象になる損害は、震災や落雷などの自然災害のほか、火災などの人為的異常災害、害虫など生物による異常災害、盗難、横領です(詐欺や恐喝による被害は対象外)。一方、災害減免法による軽減免除は災害に限られます。
適用が受けられる資産の範囲も異なり、雑損控除が住宅や家財含む通常必要とされる資産であるのに対し、災害減免法による軽減免除は一部です。保険金等の補填額を差し引いた損失額が2分の1以上(時価)の住宅や家財に限られます。
雑損控除の方が適用範囲は広く、一部損壊など軽度な被害にも対応できるのが特徴です。損失額が半分を超えない場合は雑損控除の選択になるでしょう。
所得制限の違い
雑損控除は納税者の所得に制限がありませんが、災害減免法の軽減免除は、災害を受けた年の所得額の合計が1,000万円以下の者に限られます。1,000万円を超える所得がある場合は、必然的に災害減免法の軽減免除の選択肢は消えてしまうため、雑損控除を利用することになるでしょう。
計算方法と控除方法の違い
雑損控除、災害減免法の所得税の軽減免除ともに、“差引損失額”を基準に計算します。ここでの損失額とは、以下の計算によって求められる額です。差引損失額を元に、それぞれ控除額を計算していきます。
※災害等関連のやむを得ない支出とは、原状回復のための修繕費、土砂や減失した住宅の除去費用などのこと。
【雑損控除の計算】
1.差引損失額 – 所得金額の10分の1
2.差引損失額のうち災害関連支出の額 – 5万円
※1と2のいずれか多い方の額を適用
【災害減免法の軽減免除計算】
所得金額の合計 所得税と復興特別所得税の軽減額
500万円以下: 全額
500万円超 750万円以下: 2分の1
750万円超 1,000万円以下: 4分の1
【雑損控除と災害減免法適用の税額控除比較】
(例)年間所得金額合計500万円の者が災害を受けた場合。差引損失額100万円で、全額が雑損控除、災害減免法の軽減免除対象の資産とする。災害関連支出は50万円。雑損控除以外の所得控除は、基礎控除以外なかったものとする。
・雑損控除
100万円 – (500万円 × 10%) = 50万円
50万円 – 5万円 = 45万円
雑損控除の額は50万円
500万円(所得) – 48万円(基礎控除) – 50万円(雑損控除) = 402万円(課税所得)
402万円 × 20%(所得税率) – 427,500円(控除額) = 376,500円(所得税額)
・災害減免法の軽減免除
500万円(所得) – 48万円(基礎控除) = 452万円
452万円 × 20%(所得税率) – 427,500円(控除額) = 476,500円(所得税額)
所得額合計500万円以下なので、所得税は全額免除で0円。
※所得額合計500万円超750万円以下なら所得税額238,250円、750万円超1,000万円以下なら所得税額119,125円
※上記の計算は、2つの方法を説明するための簡易的なものです。実際の計算は損害を受けた資産ごとに個別に細かく行うほか、最終的な所得税額は復興特別所得税含め100円未満を切り捨てた額になります。また、基礎控除や所得税率の計算は、平成31年4月1日時点での法令等をもとにしています。
翌年以降への繰り越しの有無
雑損控除の場合、災害を受けて雑損控除を計上した年にすべて所得から控除できなかったとき、翌年以後3年間は繰り越し控除ができます(東日本大震災は5年間)。一方、災害減免法の軽減免除は被害のあった年に限り最大で所得税の免除が受けられるだけで、翌年以後の繰り越しはできません。保険金等でも補填できないほど損害額や災害等支出が多くなった場合は、雑損控除が有利です。
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災害等の理由があれば申告や納付猶予が受けられる
災害によって損害を受けた場合、所得税の控除や減額以外にも、所得税の納税猶予が受けられることがあります。
猶予の対象者
災害によって財産(全財産のうち、現金や住宅などプラスの財産)に相当の損失を受けた人のうち、所轄の税務署長に申請し承認を受けた人が対象です。ここでの相当な損失とは、全プラスの財産価格のうち20%以上の損失がある場合を指します。
猶予が受けられる期間
猶予期間は原則1年です。予定納税がある場合は、確定申告の提出期限まで延長されます。
特例が適用できるケースもある
このほかにも、住宅ローンの控除を利用していた場合は「住宅借入金等特別控除の適用期間の特例」(災害後に住めなくなっても引き続き控除が適用される)と「住宅借入金等特別控除の重複適用の特例」(新住居との重複適用が可能)を受けられる可能性があります。このほか、財形住宅(年金)貯蓄、ジュニアNISAにおける所得税の課税特例などもあるので、利用されている方は確認されることをおすすめします。
国税庁|「災害等にあったとき」
災害による損失の程度次第では所得税以外の減免も受けられる
ここまで所得税の災害にかかわる減免を挙げてきましたが、所得税以外にも災害による減免が受けられる可能性があります。代表的なものをいくつか見てきましょう。
個人住民税
個人住民税も所得税と同じように、雑損控除のほか、条例による減免措置が設けられています。所得税と異なるのは、所得税が雑損控除と軽減免除の選択式であったのに対し、個人住民税では両方を適用できること。減免の対象者や運用は、各自治体によって異なります。
国民健康保険税
国民健康保険税についても、損失の程度によって減免が可能です。自治体によって細かな基準は異なりますが、国の算定基準が住宅や家財価格の10分の3以上の損害になりますから、基本的にこの損害割合がベースとなって減額あるいは免除が行われます。
国民年金
震災などの災害で、住宅や家財等の財産についておおむね2分の1以上の損害を受けたときは、申請によって国民年金保険料の免除が可能です。
まとめ
住宅や家財など被災した場合、確定申告によって所得税の負担を軽減することが可能です。ただし、所得税では雑損控除と災害減免法の軽減免除のいずれかを選択しなければならないので、これまで解説したように被害状況や適用条件をよく確認した上で適用されることをおすすめします。
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