- 更新日 : 2024年11月14日
青色申告の現金主義の特例条件やメリット・デメリットを解説
2025年(令和7年)提出 確定申告まとめ
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初心者から経験者まで、毎年多く読まれている記事です。確定申告の必要性、やり方、簡単に済ます方法についてまるっと解説しています。
青色申告者である小規模事業者は、届出により現金主義による特例が適用され、現金主義による記帳を行えるようになります。現金主義は、現金の出入りを基準に簡単に記録ができるのがポイント。この記事では、現金主義とは何か、特例適用の条件、届出時の提出書類など、詳しく解説していきます。
目次
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青色申告の現金主義とは
現金主義とは、入金、出金といった現金の出入りを基準に、収益(その人が他から得た稼ぎ)や費用(その人が払った稼ぎを得るための負担)を認識することをいいます。帳簿の記録は、原則として収益は実現主義により、費用は発生主義により認識することとされていますが、青色申告者で一定の要件を満たす場合に限り、現金主義を選択することが可能です。
現金主義と「発生主義」や「実現主義」との違い
会計処理における収益・費用の認識方法には、現金の出入りによって取引を認識する「現金主義」のほかに、「発生主義」や「実現主義」といわれる考え方があります。
「発生主義」は費用の認識で用いられる考え方です。たとえば消耗品の購入、電気利用による電気料金など、発生主義では取引の発生によって費用を認識します。現金主義は現金が出入りした時点で判断しますが、発生主義は費用の原因となる負担が発生した時点で判断する点が異なります。
例として、前年12月電気料金を1月に支払った場合、現金主義なら代金を支払った1月の費用として、発生主義なら電気料金が発生した前年12月の費用として扱います。
「実現主義」は収益の認識で用いられる考え方です。現金で判断する現金主義、取引の発生で判断する発生主義とは異なり、取引の実現を基準に認識します。取引の実現とは、契約にともない、現金入金や売掛金の計上、手形の受け取りなど、商品の引き渡しやサービスの提供をした上で、対価を受け取るか、その受け取りがほぼ確実になった場合を指しています。
発生主義と現金主義の違いについては、以下の記事もご覧ください。
また、発生主義と現金主義が活きる会計については、以下の記事でも取り上げています。
現金主義による所得計算の特例
現金主義による所得計算は、特例により一定の要件を満たす場合に限り認められます。
特例を利用するための条件
以下、現金主義による所得計算の特例を適用するための条件です。
- 青色申告者である
- 小規模事業者である
- 特例を受けるための届出を行っている
3つの条件を詳しく解説していきます。
青色申告者である
現金主義の特例を受けるには、青色申告者でなければなりません。
青色申告者とは、所得税の青色申告の承認を受けた事業者を指します。青色申告とは、所得額と所得税額を納税者自らが正しく申告するために設けられている確定申告制度の一種です。
青色申告者は、一定水準による記帳(複式簿記による記帳)と記帳に基づいた正しい申告を行うことを条件に、青色申告特別控除(事業所得などの所得額を計算上最大65万円減額できる制度)など、さまざまな特典の適用が認められています。
青色申告者になるには、原則として青色申告を適用したい年の3月15日まで(1月16日以後に新たに事業をはじめた人は事業開始から2ヶ月以内)に、「所得税の青色申告承認申請書」を所轄の税務署長に提出しなければなりません。
小規模事業者である
現金主義の特例を適用するには、青色申告者であると同時に、小規模事業者に該当しなくてはなりません。
小規模事業者とは、不動産所得と事業所得の合計額が300万円以下の事業者のことです。不動産所得と事業所得は、事業専従者給与を経費に算入せずに計算した額を基準にします。
また、現金主義の特例を適用する基準は、適用を受ける前々年(2年前)の所得で判断します。
期限までに「現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書」を提出する
現金主義の特例を受けるには、青色申告者であること、小規模事業者であることの条件をクリアした上で、原則として以下の「現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書」を、適用を受けたい年の3月15日まで(1月16日以後に新たに事業をはじめた人は事業開始から2ヶ月以内)に提出しなければなりません。
出典:現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書|国税庁
届出書に記載する事項は、氏名や住所などの納税者の情報のほか、特例を適用する年の前々年分の青色事業専従者給与額を含めた不動産所得と事業所得の額、特例を適用する前年の債権などの額です。
出典:現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書|国税庁
特例を受ける前年の債権(売掛金や受取手形)、棚卸資産、前払費用、債務(買掛金、支払手形)、前受金、未払費用などの額は、現金主義の切り替え時に調整が必要な科目ですので、別紙に正確に記載します。
ただし、以前に現金主義の特例の適用を受けたことがある人は、上記の届出書ではなく、「再び現金主義による所得計算の特例の適用を受けることの承認申請書」を、適用を受けたい年の1月31日までに提出する必要があります
現金主義の特例を受けるときの注意点
次に、現金主義の特例を受けるとき、受けたときの注意点を取り上げます。
青色申告特別控除が最大10万円になる
青色申告者は、確定申告の際に青色申告特別控除が受けられます。青色申告特別控除は最大65万円で、以下の条件すべてに該当する場合は最大55万円の控除、さらに、以下の条件に加え、電子申告または電子帳簿保存を行うときは最大65万円の控除を受けられます。
【最大55万円控除の要件(※最大65万円控除も同様)】
- 不動産所得または事業所得に該当する事業を営んでいること
- 正規の簿記の原則(複式簿記)により記帳していること
- 複式簿記により作成した貸借対照表と損益計算書(青色決算申告書)を、青色申告特別控除の額を記載した確定申告書に添付し、確定申告期限までに提出すること
現金主義による会計処理は、複式簿記に該当しないため、最大65万円の控除を適用できません。現金主義の特例を受ける場合は、青色申告特別控除の額が最大で10万までになります。
青色申告特別控除については、以下の記事で詳細を解説していますので、こちらもご覧ください。
現金主義でも減価償却が必要
現金主義は、現金の入金や出金を基準に取引を認識することと説明しましたが、所得税の確定申告にあたっては、1つ例外があります。減価償却です。
現金主義を適用している場合であっても、一部の固定資産を購入したときは一時に費用とするのではなく、耐用年数にわたって減価償却(耐用年数にわたって少しずつ費用に計上することと)を行わなければなりません。
現金主義用の青色決算申告書にも減価償却費の計算の欄がありますので、減価償却資産や減価償却額、未償却残高などの把握も必要です。
青色申告決算書は現金主義用のものを使用する
青色申告者は、確定申告書に添付する青色申告決算書の作成が必要です。現金主義の特例を受けている場合は、通常と勘定科目が変わってくるため、一般用などではなく、「所得税青色申告決算書(現金主義用)」の様式を使用して確定申告を行います。
所得税青色申告決算書(現金主義用)は、以下の国税庁のリンクから確認できます。
青色申告の現金主義メリット
現金主義だとどのようなメリットがあるのか、2つのメリットを取り上げます。
経理初心者でもわかりやすい
現金主義は、現金の出入りを基準に記帳を行うのが特徴です。一方、発生主義は取引の発生、実現主義は取引の実現を基準に記帳を行います。
「どの時点が取引の発生なのか?」「どの時点で取引が実現したといえるのか?」といった会計特有の収益・費用認識のタイミングは、経理初心者にとっては、判断するのが難しい部分ではないかと思います。
一方、現金主義は、現金が入金・出金された時点で判断すれば良いため、判断基準がシンプルです。現金主義は、経理初心者でも計上のタイミングを間違いにくく、記帳をスムーズに行いやすい点にメリットがあります。
お金の流れと連動しているため管理しやすい
現金主義の場合、現金の出入りと連動して記帳を行います。そのため記帳に誤りがあったとしても、手元の現金の残高と比較すれば良いだけなので、誤りを認識しやすいといえます。
また、減価償却を除き、現金の出入りで管理するため、銀行の通帳と領収書(レシート)があれば記帳できます。記帳するためにいくつも資料を確認する必要がなく、管理がしやすいのも現金主義のメリットです。
青色申告の現金主義のデメリット
記帳が必要な時点がわかりやすく、シンプルに仕訳ができる現金主義ですが、デメリットもあります。
掛取引や未払、未入金が確認できない
複式簿記では、収益は実現主義、費用は発生主義により取引を認識するために、現金の出入りとは関係なく記帳を行うことになります。
たとえば、商品販売の契約をし、すでに商品を相手に引き渡した場合は、取引が実現したと考えますので、複式簿記では売上を計上し、対価の未収分は「売掛金」として計上します。売掛金とは、取引は行われたものの、まだ支払いを受けていない売上債権のことです。
しかし、現金主義では現金の入金で判断するため、取引は完了していても記帳はせず、入金のあったタイミングで記帳することになります。そのため、売掛金や未入金の未収入金、取引はあったものの支払いを実行していない買掛金や未払金は、帳簿上、表示されません。
未払や未入金の額をすぐに確認したくても、帳簿上では把握できないデメリットがあります。
経営状況を正確に把握できない
取引は必ずしも現金で行われるとは限りません。たとえば、商品販売時には、後日入金してもらうことを約束するケースもあるかと思います。仕入時も、一括での支払いが難しい場合は、分割で支払いをお願いするケースもあるでしょう。
いずれのケースにおいても、取引そのものはすでに完了しています。複式簿記のように、取引が発生した、または取引が実現した時点で記帳を行わないと、実際に取引のあった時期と収益や費用の計上時期がずれてしまいます。
現金主義では、取引の実態に関わらず、現金の出入金で記帳を行うため、経営状況(実際はどのくらいの取引があったのかなど)を正確に把握できないデメリットがあります。
特例を利用すれば青色申告の現金主義でも帳簿づけができる!
青色申告者で小規模事業者に該当する場合は、管轄の税務署に届出書を提出することで現金主義の特例を適用できます。現金主義のメリットは、記帳がシンプルで、経理初心者にもわかりやすいところです。しかし、現金主義は経営状況を正確に把握できないなどのデメリットもあります。メリットとデメリット、両方を比較しつつ、自分に合った申告方法を選択しましょう。
なお、青色申告については以下の記事でくわしく解説しています。

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よくある質問
現金主義とは?
現金主義は、現金の出入りを基準に収益や費用を認識し、帳簿に記帳することです。詳しくはこちらをご覧ください。
現金主義の特例を受けるための条件は?
青色申告者であること、小規模事業者であること、適用を受けたい年の提出期限までに「現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書」を管轄の税務署に提出すること、すべての条件を満たす必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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