- 更新日 : 2023年8月29日
配偶者控除は廃止される?されない?現在の議論を整理しよう
平成29年税制改正大綱にて、配偶者控除及び配偶者特別控除の改正が盛り込まれました。現在、配偶者控除は専業主婦、もしくはパート主婦世帯にとって大きな節税手段となっています(主婦の基礎控除と配偶者としての配偶者控除の二重控除)。
しかしこの配偶者控除について与党税制調査会等で見直しが議論され、平成29年税制改正大綱において、配偶者控除及び配偶者特別控除について一部見直される内容が出されました。
今後も配偶者控除のみならず所得控除の総合的な見直しは検討事項にあがっており、場合によって配偶者控除及び配偶者特別控除は廃止され、別の控除制度に切り替えられる可能性もあります。
ここでは現行法における配偶者控除及び配偶者特別控除とその問題、そして現在検討されている5つの案と配偶者控除及び配偶者特別控除についての平成29年税制改正大綱の概要について解説します。
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目次
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現行法における「配偶者控除」
「配偶者控除」「配偶者特別控除」
現行法における配偶者控除は、対象となる配偶者を持つ納税者に対して所得税から一定の税額控除を適用する制度です。この制度が受けられる配偶者の条件は以下の4点全てを満たしている人を指します。
(2) 納税者と生計を一にしていること。
(3) 年間の合計所得金額が38万円以下であること。
(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
(4) 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。
(参考:配偶者控除|国税庁HP)
第一に婚姻届を提出して、法的に夫婦になっている必要があります。第二に納税義務者と同じ生計のもとで生活していなくてはなりません。逆に言えば同じ生計のもとで生活していれば、同居の必要はありません。
第三に配偶者自身の合計所得金額が38万円以下である必要があります。給与収入のみの場合は給与所得控除が65万円あるため、38万円+65万円=103万円以下となります。
第四に別途所得税から控除が受けられる青色申告者または白色申告者の事業専従者である場合は、配偶者控除を受けることはできません。
なお、年間の合計所得金額が38万円を超えた場合にも、合計所得金額に応じて控除が受けられるのが「配偶者特別控除」です。
なぜ見直しが検討されているのか?
配偶者控除の控除額は38万円となっており、専業主婦(夫)世帯やパート主婦(夫)世帯にとっては大きな節税効果が期待できます。しかしこの制度には大きく3つの問題点が指摘されています。
第一に配偶者控除は増加傾向にある共働き世帯ではなく、夫婦どちらかが主な収入源となっている「片働き世帯」を優遇する制度です。
これは本来働きに出ようとしていた人に「働かない方が得」という考え方を持たせるものであり、個人の労働の選択に歪みを生じさせている点に問題があります。
第二にパート主婦(夫)世帯は配偶者が基礎控除が受けられるにもかかわらず、納税者本人も配偶者控除を受けることが可能です。これは「二重の控除」と呼ばれ、共働き世帯や片働き世帯とのアンバランスが問題となっています。
第三に配偶者が「年間の合計所得金額が38万円以下」の条件に抵触しないように労働を抑制してしまうという問題です。税制上は配偶者特別控除により、38万円を超えても差が出ないように調整されているのですが、依然「38万円を超えると損をする」という心理的な壁は残っています。
これらの問題を解決するために、政府税制調査会では廃止も視野に入れた見直し議論を重ねているのです。
政府税制調査会で検討されている5つの案と平成29年税制改正大綱の概要
現在政府税制調査会で検討されている見直し案は以下の5つです。
2.所得制限+子育て支援拡充
3.「移転的基礎控除」+子育て支援拡充
4.「移転的基礎控除」+「税額控除化」+子育て支援拡充
5.新控除制度+子育て支援拡充
ひとつずつどのような案なのかを解説していきます。
配偶者控除の廃止+子育て支援拡充
第一の案は配偶者控除を廃止し、その一方で子育て世帯のための支援策を充実させるというものです。
この案の問題は「家族で助け合って子育てをする」という観点や「結婚して法的な配偶者になるメリット」という観点が抜け落ちていることと、片働き世帯やパート主婦(夫)世帯、子供のいない低所得世帯に対する負担増につながることです。
配偶者控除の廃止により、納税者本人の控除額が配偶者の収入で左右されることはなくなるものの、すべての問題がクリアできるわけではありません。
所得制限+子育て支援拡充
第二の案は配偶者控除の適用に、納税者本人の所得に応じた制限を設けたうえで、子育て支援策を充実させるというものです。この案では制限の対象となる高所得者層以外の、中低所得者層においては納税者本人の控除額が配偶者の収入で左右されるという問題が残ります。
また高所得者層に制限を設けるとすると、配偶者控除だけでなく扶養控除など他の制度についても同じような制限の検討が必要となってしまいます。
「移転的基礎控除」+子育て支援拡充
第三の案は「二重の控除」の問題を解消するためにいわゆる「移転的基礎控除」を導入したうえで、子育て支援策を充実させるというものです。
移転的基礎控除とは配偶者控除を廃止し、配偶者の所得計算で控除できなかった基礎控除分を、納税者本人の控除額に移転する仕組みを指します。
この方法ならば世帯単位での合計控除額はこれまで通り一定になりますし、配偶者が働けば働くほど移転的基礎控除額は減るものの、その分配偶者本人が基礎控除を受けられるようになるため、「二重の控除」問題は解消されます。
しかしこの案が採用された場合、これまで「二重の控除」の恩恵を受けてきた世帯のうち、子供いる世帯は子育て支援策の充実によりカバーできるとしても、子供のいない低所得世帯の負担増につながってしまいます。
「移転的基礎控除」+「税額控除化」+子育て支援拡充
第四の案は移転的基礎控除を導入するとともに、基礎控除を従来の税額計算のもととなる合計所得金額からの控除ではなく、税額そのものから控除する「税額控除」に切り替えたうえで、子育て支援策を充実させるというものです。
この方法ならば現行法の「二重の控除」問題や、配偶者の労働を抑制してしまうという問題を解消が可能です。しかし同時に扶養控除などの他の制度についても同様の検討が必要となってしまいます。
新控除制度+子育て支援拡充
第五の案は配偶者控除を廃止し、「夫婦世帯」に対する新たな控除制度を創設したうえで、子育て支援策を充実させるというものです。
この新たな控除制度は配偶者の収入とは無関係に適用されるものとし、世帯単位の税負担能力を考慮した調整を行います。また単身者世帯との税負担のバランスについても、所得税や個人住民税における他の控除制度と調整を行う必要があります。
ただしこの案が採用されると「結婚している人たちを優遇する税制」になってしまうため、税制の中立性が失われてしまうという問題が生じます。
平成29年税制改正大綱の概要
納税者の合計所得金額が1000万円を超える場合には、配偶者控除及び配偶者特別控除の適用できないこととされます。
また、配偶者特別控除の対象となる配偶者については、従来合計所得金額が38万円超76万円未満とされていましたが、38万円超123万円以下とされます。なお、適用は平成30年分以降の予定です(税制改正大綱のため実際に施行される法律とは異なる可能性があります)。
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まとめ
現時点では「配偶者控除が廃止されるか否か」については、明確な答えを出すことができません。検討されている5つの案のうち、どの案に決定されるかも定かではなく、平成29年税制改正大綱でも配偶者控除・配偶者特別控除の一部改正にとどまっています。
とはいえすでに結婚している人や、これからしようとする人にとって重要な控除制度であることには変わりありません。今後の政府の動向を注意深く見守る必要があるでしょう。
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ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様
もっと読むよくある質問
配偶者控除とは?
現行法における配偶者控除は、対象となる配偶者を持つ納税者に対して所得税から一定の税額控除を適用する制度です。詳しくはこちらをご覧ください。
「二重の控除」とは?
パート主婦(夫)世帯は配偶者が基礎控除が受けられるにもかかわらず、納税者本人も配偶者控除を受けることが可能なことです。詳しくはこちらをご覧ください。
平成29年税制改正大綱の概要は?
納税者の合計所得金額が1000万円を超える場合には、配偶者控除及び配偶者特別控除の適用できないこととされます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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