- 更新日 : 2025年10月21日
ペーパーカンパニーは節税に使える?個人事業主が注意すべきリスクと対策を解説
ペーパーカンパニーは、節税や信用力向上などの目的で活用されることがありますが、運用には明確な事業実態が求められ、法的なリスクも伴います。特に、税負担を軽減するためだけの形式的な設立は、税務調査で否認されるおそれがあり、慎重な対応が必要です。
本記事では、そうした制度を正しく理解し、適切に活用していくための方法を解説します。
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目次
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ペーパーカンパニーとは?違法になるケースもある?
ペーパーカンパニーとは、法人として登記されているものの実際には事業実態のない会社のことを指します。すべてのペーパーカンパニーが違法というわけではありませんが、その設立や運用の目的によっては法令に違反する場合があるため、注意が必要です。
形式上の会社だが実態が伴わない存在
ペーパーカンパニーとは、登記上は法人として存在するものの、実際の営業活動や収益がほとんど伴っていない会社のことです。別名「幽霊会社」「ダミー会社」とも呼ばれる事が多く、書類上のみの存在として扱われます。法人登記だけ済ませ、多くのケースで事業所や社員、取引実績がない状態が一般的です。
すべてが違法とは限らない
ペーパーカンパニー自体は必ずしも違法ではなく、合法的な目的で利用される場合もあります。資産管理会社として不動産を保有する目的や、M&Aにおける一時的な受け皿となる特別目的会社(SPC)として設立される法人は、明確な設立目的や事業実態があるため、実務上も認められており、ペーパーカンパニーとは区別されるべき適切な法人形態です。
節税目的が行き過ぎると脱税と判断される
ただし、例えば、税金を不当に回避することだけを目的にペーパーカンパニーを設立・運用する場合は、節税ではなく脱税と見なされるリスクがあります。売上・所得の名義上の分散のみで税負担を軽減しようとすると、所得税法12条(実質所得者課税:収益の法律上の名義人と実質的帰属者が異なる場合は後者を収益帰属者とする)や法人税法132条(同族会社の行為計算否認:同族会社特有の租税回避行為を防止する)により、税務調査で税務処理が否認され追徴課税や罰則の対象となるおそれがあります。
合法的な活用と違法な脱税の線引きは「事業実態の有無」にあります。ペーパーカンパニーの設立を検討する際は、形式だけでなく、帳簿・業務内容・取引先などの実体も整えておくことが重要です。
個人事業主がペーパーカンパニーで節税できる仕組みは?
個人事業主がペーパーカンパニーを活用することで、一定の範囲内では税負担の軽減が可能になります。以下でその仕組みを解説します。
所得を法人に分散し、全体の税率を抑える
法人税の方が個人の所得税よりも税率が低くなるケースがあるため、ペーパーカンパニーを活用することで節税が可能です。個人事業主の所得税は超過累進課税で、所得が上がるほど税率も高くなり、最大で45%にも達します。一方、法人税は普通法人の場合は原則として23.2%、中小企業の場合は所得800万円までの部分に15%の軽減税率が適用されます。
たとえば、年収1,000万円の個人事業主が、自ら設立したペーパーカンパニーに500万円の売上を移し、法人として申告することで、個人と法人に所得を分けて計上できます。これにより、個人側の課税所得を減らし、法人側は軽減税率を利用することで、合計の税額を抑えることが可能です。
ただし、税務署は不自然な所得移転や事業の実態の乏しい法人に対して否認を行う場合があるため、法人における事業実態や契約関係の整備が不可欠です。
消費税の免税制度を複数法人に分散して活用
日本では、年間の課税売上高が1,000万円以下であれば、消費税の納税義務が免除されます。この制度を活用し、1つの事業を2つ以上の法人に分散させて、それぞれの売上を1,000万円以下に抑える手法も一部で使われています。
たとえば、年間売上2,000万円の事業を2社に分け、各社の売上を1,000万円に抑えれば、両社とも消費税の納税義務が免除されます。これにより、年間数十万円〜百万円以上の納税回避が可能となります。なお形式的な2社化による免税点回避は通達上の合算や特定要件で否認される可能性があります。例え、2社化しても売上や人員・機能の実態が一体なら、合算判定や特定新規設立法人の規定により課税となることもあり得ます。また、消費税法では100%出資により子会社を設立した場合、子会社の消費税判定は親会社の課税売上高を勘案することになります。
しかし2023年10月から施行されたインボイス制度により、免税事業者は「適格請求書(インボイス)」を発行できず、取引先が仕入税額控除を受けられないという問題が生じています。そのため、課税事業者との取引において不利になり、実質的に免税事業者の選択肢は狭まりつつあります。今後は、この制度の影響も考慮に入れる必要があります。
法人だからこそ可能な経費処理で課税所得を圧縮
法人を設立すれば、経費として認められる支出の範囲が個人よりも広がる点も大きな節税効果につながります。法人名義で賃貸契約を結んだオフィスや、業務利用の車両・通信費、さらには業務上の交際費などを法人経費として計上することで、利益を圧縮できます。
また、個人事業主では事業所得の一部として課税される収入も、法人では役員報酬として支払うことで給与所得に区分され、所得税の申告においては給与所得控除が適用されます。給与所得控除後の所得については税率が低くなるため、さらに税金を抑える結果になります。
加えて、資本金1億円以下の中小法人では、年間800万円までの交際費(または飲食に関わる費用のうち50%)を損金として計上できます。複数の法人を持つ場合、この交際費枠を法人ごとに利用することも可能になります。ただし、「接待交際」の事実は必須です。
こうした節税策を最大限に活かすには、帳簿の正確な記帳や適正な契約関係の整備、そして実態の伴う事業運営が不可欠です。税務署は「実質課税主義」に基づいて、形式ではなく実質的な活動の有無を見ています。法人設立の節税効果を得たい場合は、形だけでなく事業の裏付けがあることが前提となります。
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ペーパーカンパニーの設立を検討すべき個人事業主の特徴は?
ペーパーカンパニーは節税や信用力の向上といった利点がある反面、設立・運用には一定の手間とリスクも伴います。そのため、すべての個人事業主に向いているわけではなく、一定の条件や状況を満たす方に限定される傾向があります。ここでは、設立を前向きに検討できる個人事業主のタイプを解説します。
年間所得が高く、累進課税の負担が重い
ペーパーカンパニーの設立が最も効果を発揮するのは、課税所得が多く、個人の税率が高くなっている人です。日本の所得税は超過累進課税制度を採用しており、年間の課税所得が900万円を超えると税率は33%、1,800万円を超えると40%台にまで上昇します。こうした高所得者層は、法人を設立して所得を分散させることで、個人・法人の税率差を活用した節税効果が見込めます。
複数の事業を分けて運用したい
本業とは別に副業や新規事業を持ち、それぞれを独立した体制で運用したいと考える人も、ペーパーカンパニー設立を検討する価値があります。事業ごとに法人を分けることで、リスク管理や資金の流れを整理しやすくなるうえ、損益管理も明確になります。
将来的に法人化を検討している
現在は個人事業主であっても、将来的に法人化を見据えている場合には、ペーパーカンパニーの設立を通じて法人運営の基盤を整えておくのも一つの手段です。会社名義での口座開設や契約、社会保険の加入準備など、法人としての活動経験を積むことで、本格的な法人化への移行もスムーズに進められるようになります。
個人事業主がペーパーカンパニーを設立するメリット・デメリットは?
ペーパーカンパニーには節税効果以外にも、資産保全や信用力向上といったビジネス上のメリットがある一方で、運営に関わるコストや違法性のリスクなどのデメリットも存在します。ここでは、個人事業主がペーパーカンパニー設立を検討する際に理解しておくべきメリット・デメリットを解説します。
【メリット】資産保護と信用面での強化につながる
ペーパーカンパニーを設立することには、節税以外にも複数の経営上のメリットがあります。まず、法人名義で資産を所有すれば、個人の財産と事業資産を切り離せます。これにより、万が一の債務不履行や損害賠償といったトラブルが生じた際でも、個人の資産が巻き込まれるリスクを抑えられます。
法人には「有限責任」が認められており、仮に会社が債務超過に陥っても、出資した資本金の範囲でのみ責任を負えばよいという仕組みです。この点は、無限責任を負う個人事業主と大きく異なります。
また、会社という法人格を持つことで、取引先や金融機関からの信用度も高まります。特に株式会社や合同会社は登記情報が公的に管理されているため、資金調達やビジネス上の提携の際に信頼を得やすいという効果もあります。融資やリース契約、法人名義での契約締結など、事業を拡大するうえでの足がかりになる点も法人化の魅力です。
【デメリット】費用負担と法的リスクの可能性
一方で、ペーパーカンパニーには実質的な事業がなくても法人としての法的義務が発生するため、想像以上の手間やコストがかかることがあります。たとえば、決算処理や法人税の確定申告、たとえ売上がゼロであっても毎年行う必要があります。消費税についても、インボイス発行事業者となれば毎年の申告が必要です。これらを税理士などに依頼する場合は、顧問料や申告手数料などが別途発生します。
何年にもわたって活動実績がない場合には税務署からの問い合わせの可能性があります。
また、利益が出ていない場合でも、法人住民税の「均等割」として最低でも年間7万円前後の税金を納める必要があります。これは赤字法人でも必ず課される固定費用と言えます。さらに、役員報酬を設定した場合は、たとえ名目だけの経営者であっても社会保険(健康保険・厚生年金)の加入義務が生じるため、その分の保険料負担も追加されます。
法的なリスクについても無視できません。税務署は形式だけの法人、つまり「実態のない会社」について厳しくチェックしており、事業実態を欠く節税スキームは「租税回避」として否認・追徴課税される可能性があります。さらに仮装や隠蔽を伴う場合には「脱税」と見なされ、重加算税や刑事罰の対象となる点に留意が必要です。
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ペーパーカンパニー以外におすすめできる節税策とは?
令和7年の税制改正では、基礎控除や扶養控除が拡充されるなど、個人事業主にとって活用しやすい節税制度が整備されました。ペーパーカンパニーを設立する前に、まず以下の現実的かつ合法的な節税策を検討するのが有効です。
青色申告と基礎控除特例の活用
青色申告を行えば最大65万円の青色申告特別控除が得られ、事業所得を圧縮できます。さらに、令和7年から基礎控除が最大95万円(合計所得が132万円以下の場合)に引き上げられ、所得に応じて段階的に加算されます。赤字は3年間繰越可能で、将来の黒字と相殺することで節税効果が持続します。
共済・年金制度の利用による所得控除
小規模企業共済やiDeCo(個人型確定拠出年金)も控除対象となり、掛金全額が所得控除に反映されます。これにより毎年の所得税・住民税を確実に抑えつつ、老後資金も同時に形成できます。
経費計上と家事按分の最適化
業務と私生活が混在する支出(家賃・光熱費など)については、家事按分を用いて合理的に経費として処理できます。インボイス制度対応に合わせた帳簿整備と領収書管理の徹底も、否認リスクを避けるためには不可欠です。
「節税かリスクか」判断の軸は実態と継続性
ペーパーカンパニーは、正しく活用すれば節税や資産保護、信用力の強化に役立つ一方、運用にはコストと法的リスクが伴います。令和7年の税制改正では基礎控除の拡大や扶養控除の新設など、ペーパーカンパニーを設立せずとも利用できる制度が整備されており、個人事業主にとってはより選択肢が広がっています。節税目的だけで法人を形づくるのではなく、事業の実態や長期的なビジョンに基づいて、その必要性を慎重に見極めることが重要です。適切な節税策と併せて、専門家の助言を受けながら最適な選択を行いましょう。

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ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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