• 更新日 : 2025年3月4日

個人事業主は確定申告で生活費を経費にできる?生活費を事業用口座から引き出した場合の記帳方法も解説!

個人事業主には、経営者としての側面と私人としての側面があります。事業所得等の確定申告においては、家事関連費であれば生活費が含まれた支払いであっても必要経費として計上することが可能です。

この記事では、家事関連費についての考え方と、事業用の経費と生活用の費用を分ける家事按分の仕訳について解説します。

個人事業主は確定申告で生活費を経費にできる?

結論から言うと、個人事業主の純然たる「生活費」は必要経費にすることができません。所得税では家事上の経費を「家事費」と呼んでおり、事業には関係のない個人的な費用である生活費は必要経費になりません。

しかし、個人事業主には、一つの支出が「家事」にも「業務」にもかかわりがある費用となる「家事関連費」があります。たとえば、交際接待費や居宅兼事務所における家賃、水道光熱費通信費などです。

所得税法45条では、「家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの」は、必要経費に算入しないとしています。

引用:所得税法 第45条第1項(家事関連費等の必要経費不算入等)

この「政令で定めるもの」とは、所得税法施行令第96条に次のように規定されています。

  • 経費とは、次に掲げる経費以外の経費とする。
    家事上の経費に関連する経費の主な部分が業務に必要であり、かつ、その必要部分を明らかに区分できる場合のその部分の経費
  • 青色申告者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、業務に直接必要だったことが明らかにされる部分の経費

参考:所得税法施行令 第96条(家事関連費)

つまりこれらをまとめて考えると、次のことが言えます。

家事関連費について
  • 青色申告者は、記録等に基づいて、業務に直接必要なことが明らかな経費は必要経費にできる。
  • 白色申告者は、主たる部分が業務に必要で、かつ必要部分を明確に区分できる場合に必要経費にできる。

家事関連費を按分して生活費を経費にする方法については、以下をご参照ください。

個人事業主が事業用口座から生活費を引き出した場合の記帳方法

個人事業主が事業用の預金口座から必要経費とならない生活費を支払った場合、その支出については「事業主貸(じぎょうぬしかし)」の勘定項目を使用します。事業主貸とは、個人事業主が事業用資金を生活費として使うときの勘定項目です。

また、家事関連費を支払った場合には、その費用を按分して事業分についてを必要経費として計上します。たとえば、家賃の按分については次のような考え方があります。

(例)
50㎡の部屋を月20万円で賃借している場合、業務でその内のどの程度使用しているかを見取図などで計測します。仮に業務で20㎡利用していることが分かれば、次のように計算します。

必要経費となる賃借料 = 20万円 × 20㎡/50㎡ =8万円

なお、計測の根拠となった見取り図や計算の根拠については会計帳簿などと一緒に保管しておきます。

個人事業主の生活費は事業主貸で仕訳する

個人事業主の会計帳簿において、事業主貸だけが発生する場合の仕訳例を見ていきましょう。生活費として200,000円の支払いをした場合の仕訳は次のとおりです。
借方貸方摘要

事業主貸

200,000円現預金など200,000円

〇月度生活費引き出し

ただし、このような仕訳が必要となるのは、貸方である現金や預金等が「会計に計上されている」ものである場合のみです。このように事業に利用し、会計に計上している現預金を個人事業主のプライベートに使用する場合には「事業主勘定」を利用します。

また、事業主自身の所得税・住民税などの税金や社会保険料などの支払いについても同様です。

借方貸方摘要
事業主貸30,000円現預金など30,000円国民健康保険料支払

国民健康保険料などは口座引落しが多いため、事業に使用している口座等からの引落しの場合には仕訳が必要です。この場合、家事費は全額事業主貸となるため、摘要欄には明細を記載して、後で分かるようにしておきます。

なお、事業主貸についての詳細は、以下をご参照ください。

費用を事業用とプライベート用に分けている場合の仕訳例

家事関連費の按分ができている場合の仕訳も見てみましょう。

たとえば、仕入のために使用する自家用車のガソリン代なども、走行距離や使用日数を記録しておけば、按分して仕訳するのは難しくありません。

事業にも家事にも利用する車両のガソリン代が18,000円であったとします。この費用については30日のうち20日間業務で利用したことが分かった場合は、車両費としての必要経費は「18,000円×20日/30日」で求められるので次のような仕訳になります。

借方貸方
車両費12,000円現預金など18,000円
事業主貸6,000円

費用を事業用とプライベート用に分けていない場合の仕訳例

家事関連費の按分ができていない場合の仕訳は、どうなるでしょうか?

青色申告者でも、按分割合が不明な場合には必要経費となる額が求まらず、経費としての仕訳をすることができません。つまり、すべて生活費として扱われてしまいます。

借方貸方
事業主貸18,000円現預金など18,000円

節税のためには、必要経費の根拠をしっかり把握して、決算までに按分割合を求め、必要経費として計上しましょう。

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個人事業主が個人の口座から事業用資金を引き出した場合の記帳方法

個人事業主が、プライベートで利用している個人口座から事業用の支払いをすることもよくあります。このような場合の仕訳では、「事業主借(じぎょうぬしかり)」の勘定項目を使用します。事業主借とは、個人事業主が個人の資金を事業用資金として使うときの勘定項目です。

個人の口座から事業用口座に入金する場合の仕訳例

多くの場合、個人事業主は事業用の預金口座とプライベートで利用する預金口座を分けて管理しています。

たとえば、プライベートの口座であるA口座から、事業用資金の補填として事業口座であるB口座に100,000円入金した場合の仕訳は次のようになります。

借方貸方
普通預金(B口座)100,000円事業主借100,000円

仕訳には、プライベートのA口座は表示されないため「事業主借」となります。

個人のクレジットカードで事業に関連する費用を支払った場合の仕訳例

プライベートで利用するクレジットカードで、事業の必要経費を支払うこともよくあります。このような場合も基本的に「事業主借」を利用します。

プライベートではクレジット払いのため実際の支払いは翌月以降となりますが、事業用のクレジットカードではないため「未払金」等に計上する必要はありません。

たとえば、プライベートで利用しているクレジットカードで、事業用の消耗品11,000円を購入した場合の仕訳は次のようになります。

借方貸方
消耗品費11,000円事業主借11,000円

これは経費のケースですが、固定資産の購入も同様です。

事業主貸が多すぎる・少なすぎると問題になる?

事業主借や事業主貸の仕組みを理解するには、元入金の仕組みをよく理解しておきましょう。

株式会社等の場合、損益計算書で計算した最終的な「利益」は、貸借対照表の純資産の部にある「利益剰余金」に加算されます。赤字の場合なら、「利益剰余金」から減算されます。

会社における資本金は基本的に毎年変動せず、利益剰余金が毎年変動します。

【株式会社等の財務諸表イメージ】

個人事業主においても、同様の仕組みを持っています。個人事業主は資本金を持たないため、すべて「元入金」という勘定で管理します。したがって個人事業主の元入金とは、会社の貸借対照表上の純資産の科目を合わせ持ったものと言えます。

この「元入金」は決算のタイミングで計算されます。その計算に利用されるのが「事業主貸」と「事業主借」です。「事業主貸」は貸方科目であり、「事業主借」は貸方科目です。

翌期の元入金=「期末元入金」+「所得金額」+「事業主借残高」-「事業主貸残高」となるため、決算において、事業主借の残高>事業主貸の残高となる場合には、「元入金」を増やす作用があります。

【事業主借が多い時のイメージ】

逆に、決算において、事業主借の残高<事業主貸の残高となる場合には、「元入金」を減らす作用があります。

【事業主貸が多い時のイメージ】

ここで、事業主貸が多いとは「事業用の資金で生活費を支払う」ことが多かったり、「現金売上で生活費を補填する」ことが多かったりすることを指します。したがってそのこと自体で、税務調査の対象になることはありません。

問題視されるのは、事業用とプライベートの区別が明確かどうかです。また、継続的に事業をしている場合、ある年だけ極端に事業主貸や事業主借の増減大きいときなどには税務調査の対象になる可能性も考えられます。

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確定申告時の事業主貸・事業主借の会計処理方法は?

ここで、事業主勘定(事業主借及び事業主貸)に仕訳した金額は確定申告時にどのようになるか総合的に押さえておきましょう。

なお、複式簿記による青色申告者の場合、事業所得や不動産所得などについて青色決算書を添付することとなっています。

結果的には、必要経費に計上したものは損益計算書に転記されますが、仕訳によって生じた事業主貸、事業主借は、貸借対照表に合計額が記載されます。

<所得税 貸借対照表例>

所得税 貸借対照表例

実際には、事業主借も事業主貸も発生や解消などさまざまな取引があるため、それぞれの勘定は借方にも貸方にも登録されます。そして、決算の段階では事業主貸勘定は資産の部に、事業主借勘定は負債の部にそれぞれ残高を残すことになります。

これらの事業主勘定の残高から元入金を計算して新たな年度へ繰り越すと、翌期首の元入金は次のとおり165万円になります。

 

翌期首元入金165万円=期末元入金150万円+30万円(損益計算書で計算した所得)

+45万円(事業主借の期末残高)

ー60万円(事業主貸の期末残高)

<年次繰越後の貸借対照表>

年次繰越後の貸借対照表

上記の計算式からも分かるように、事業主貸が多いと元入金を食いつぶす原因となってしまいます。しかし、なかには現金勘定を持たずに、現金売上の相手勘定を「事業主貸」としているケースもあります。

借方貸方
事業主貸11,000円売上高11,000円

事業主貸や事業主借の増減が大きいケースには、事業とプライベート間の出入りだけでなく、勘定科目の設定に起因するものもあります。

この場合、売上が上がるほど事業主貸が大きくなり、黒字であっても結果的に元入金がマイナスになる可能性があります。このような場合には、現金勘定を設けて、事業の現金とプライベートの現金を明確に分けることで解消できます。

青色申告なら家族への給与を必要経費にできる

青色申告書の特典はさまざまですが、その中に「青色事業専従者給与」を必要経費とすることができるという特典があります。

生計を一にする配偶者や親族が事業に従事する場合、給与を支払うことがありますが、原則として必要経費にはなりません。しかし、青色申告者の場合には一定の要件を満たせば支払った給与を必要経費とする特例を摘要することができます。

この特例適用のためには事前に届出書の提出が必要であり、専従者が増える場合や給与が増える場合などにも変更届出書の提出が必要です。

参考:No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除|国税庁

なお、青色事業専従者給与についての詳細については次の記事をご参照ください。

個人事業主は確定申告で生活費を経費にできない!

個人事業主の所得計算において、「生活費」は必要経費にできません。しかし「家事関連費」については、確たる根拠のもと必要経費にできる場合がありますので、光熱費や家賃などで見直しをしてはいかがでしょうか?

 

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よくある質問

個人事業主の生活費は必要経費となりますか?

事業には関係のない個人的な費用である生活費は必要経費になりません。詳しくはこちらをご覧ください。

事業の作業場と共用している家賃などは必要経費になりますか?

家事関連費については、青色申告者は記録等に基づき、業務に直接必要なことが明らかな経費は必要経費にできます。白色申告者は主たる部分が業務に必要で、かつ必要部分を明確に区分できる場合に必要経費にできます。詳しくはこちらをご覧ください。

個人事業主の生活費の仕訳にどのような勘定を使いますか?

個人事業主が事業用の預金口座から必要経費とならない生活費を支払った場合には、その際、家事費部分については「事業主貸(じぎょうぬしかし)」勘定を使用します。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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