- 更新日 : 2025年8月28日
個人事業主のための貯金術は?目安・方法・活用できる制度を解説
個人事業主は会社員に比べて公的保障が少なく、収入も不安定になりやすいため、計画的な貯金が重要です。生活費や事業資金、税金・保険料の支払いに備えるためには、日頃から資金を管理し、必要な額を無理なく積み立てていく工夫が求められます。
本記事では、個人事業主が安心して事業を続けるために知っておきたい貯金の基本や目安、貯蓄習慣の整え方、さらに活用できる制度について解説します。
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目次
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個人事業主にとって貯金が重要な理由
個人事業主は、公的保障が限られ、収入も不安定になりやすい立場です。万一の事態に備えた貯金は、事業と生活を守る基盤となります。ここでは、会社員との違いやリスクへの備えとして、なぜ貯金が欠かせないのかを解説します。
会社員との社会保障の違い
会社員には、雇用保険による失業手当、厚生年金、労災補償などの社会保険制度が整っています。また、ボーナスや有給休暇もあるため、収入の安定性が高く、貯金もしやすい環境にあります。一方、個人事業主には退職金も失業手当もなく、公的年金は国民年金のみです。厚生労働省の調査によると、厚生年金加入者の年金月額が約14.7万円であるのに対し、国民年金のみの人は約5.8万円とされています。老後の備えが不足しがちな個人事業主にとって、日頃から自分で貯金や資産形成を行うことが極めて重要です。
参考:令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況|厚生労働省
収入の不安定さとリスクへの備え
個人事業主の収入は景気や取引先の状況に左右されやすく、突然仕事が途切れるリスクを常に抱えています。フリーランスに関する調査でも、契約打ち切りや案件減少などの不安が常につきまとうと報告されています。さらに、病気やケガで働けなくなれば、その間の収入はゼロになってしまいます。支出面でも、税金の支払い時期や事業経費の突発的な発生により、家計が圧迫されることもあります。こうした変動リスクに対しては、一定の貯金があることが安心材料となり、生活と事業の両方を守る力となります。個人事業主にとって貯金は、日常だけでなく非常時を乗り切るための命綱といえる存在です。
個人事業主はいくら貯金すべき?
個人事業主がどれだけ貯金をしておくべきかという問いには、業種や事業規模、家族構成などによって個別の答えがあります。しかし、一定の共通する目安は存在し、不測の事態に備えるためにも、あらかじめ明確な基準を設けておくことが望まれます。ここでは必要な貯金額の考え方を整理します。
生活費の3〜6か月分を目安に備える
まず、生活費に関しては、最低でも3か月から6か月分の金額を緊急用資金として確保しておくことが基本とされています。これは、急に収入が減少した場合や、仕事が全くなくなってしまった場合でも、一定期間生活を維持できるようにするためです。生活費とは、家賃や食費、水道光熱費、通信費、保険料など、日々の生活を送るうえで欠かせない支出を指します。仮に月々の生活費が20万円であれば、60万円から120万円の貯金が必要になります。突然の収入減少に見舞われた場合でも、この緊急予備資金があれば冷静に次の対策を考える時間を確保でき、精神的な安心にもつながります。生活の土台を支えるためにも、まずは数か月分の生活費をしっかり確保しておくことが基本となります。
事業運営に必要な運転資金も確保する
生活費とは別に、事業継続に必要な資金も確保しておく必要があります。個人事業主の中には、オフィスや店舗の家賃を払っていたり、毎月の保険料や広告費などの固定費を抱えていたりする場合があります。事業に関連する支出は、売上高に応じて増減する「変動費」と、売上高にかかわらず発生する「固定費」に分けられます。この固定費は収入が減っても発生し続けるため、一定期間の支払いが可能なように備えが必要です。、たとえば、家賃10万円、水道光熱費5万円、通信費や広告費でさらに数万円というように、毎月の固定費が30万円あるならば、それを3か月分備えるだけで90万円の運転資金が必要になります。これらは生活費とは別に用意しなければならないため、貯金額の目標は自然と高くなります。
一方、フリーランスのエンジニアやデザイナーのように、大きな初期費用や在庫を必要としない業種であっても油断はできません。たとえ月々の経費が少ないとしても、クライアントの都合で仕事がキャンセルになったり、報酬の振込が数か月遅れたりするリスクは常に存在します。そのため、固定費が少ない業種であっても、生活費に加えて一定のバッファを見込んだ貯金を備えておくのが現実的です。
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個人事業主が貯金を増やすための方法
目標とする貯金額が見えてきたら、次に取り組むべきは日常の中で着実に貯めていく仕組みづくりです。収入が安定しにくい個人事業主だからこそ、収支管理や口座の使い分け、支出抑制の工夫を通じて貯金習慣を整えることが求められます。
収支を把握して固定費を見直す
まずは収入と支出の流れを正確に把握しましょう。帳簿や家計簿をつけることで無駄な支出に気づきやすくなります。なかでも通信費やサブスクなどの固定費は見直しによる効果が大きく、使っていないサービスの解約やプラン変更だけでも月々の支出が抑えられます。収入が増えても生活水準を安易に上げず、支出を一定に保つことが貯蓄を継続するうえで大切です。
事業用と生活用の口座を分ける
お金の使い道を明確にするには、事業用と生活用の口座を分けることが効果的です。売上や経費は事業用口座、生活費は生活用口座と役割を分けることで、プライベートの支出を事業経費と混同するリスクを防げます。さらに貯金専用口座を設け、毎月一定額を自動で移す「先取り貯金」の仕組みを作ることで、自然と貯蓄が積み上がっていきます。
好調時の浪費を防ぎ計画的に蓄える
売上が多かった月はつい気が緩みがちですが、こうしたときこそ節度を持ってお金を扱うことが重要です。収入が平常時より多い場合は、その超過分をルールに従って貯蓄に回すなど、あらかじめ決めた方法で管理しましょう。また、節税目的で不要な経費を増やすのは本末転倒です。利益を適切に残し、健全な財務体質を維持することが、将来の貯金と信用につながります。
個人事業主に必要な税金・社会保険への備え
個人事業主は、会社員と異なり自ら税金や保険料を計算・納付する立場にあります。ここでは税や保険に対応するための貯金のポイントを整理します。
確定申告に備えた税金の積み立てを習慣にする
個人事業主は毎年の確定申告で、所得税や住民税をまとめて納める必要があります。事業が順調で利益が出た年ほど、思いのほか高額な税金が発生するため、事業で得た所得(利益)の2〜3割程度を目安に納税用として事前に貯金しておくことが推奨されます。たとえば月に100万円の利益が出たら、20〜30万円を税金用口座に移しておくような仕組みです。
また、前年の納税額が大きいと、当年には予定納税として7月と11月にも税金を前払いする必要が生じるため、それに備えた資金準備も必要です。さらに原則として、前々年の課税売上高が1,000万円を超えると消費税の納税義務が発生します。また、1,000万円以下でもインボイス制度に登録した事業者は消費税の納税が必要です。
初年度の消費税納付では想定外の金額になるケースもあり、事前に資金をプールしておくことが賢明です。こうした税負担に備えることで、納税時期に慌てることなく対応でき、事業資金を安定的に管理できます。
社会保険料の上昇にも備えておく
税金だけでなく、社会保険料も個人事業主にとっては大きな支出です。国民健康保険料は前年度の所得に応じて変動し、所得が増えた翌年には保険料も跳ね上がる可能性があります。事業が好調な年には、翌年の負担増に備えて資金に余裕を持たせておくと安心です。
また、国民年金保険料は定額制ですが、全額自己負担である点が会社員と大きく異なります。会社員であれば、事業主が保険料の半額を負担してくれますが、個人事業主は全額自己負担であるため、個人事業主はその分も見込んで資金を確保する必要があります。加えて、将来受け取れる年金が国民年金のみでは不足することが多く、年金上乗せ制度(例:iDeCoや国民年金基金)の活用も視野に入れて準備を進めるべきでしょう。
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個人事業主が節税できる方法
個人事業主にとって節税は、手元に残る資金を増やすうえで欠かせない視点です。ここでは、合法的かつ効果的に節税できる方法を紹介します。
経費を正しく計上して所得を抑える
最も基本的な節税の方法は、必要な経費を漏れなく計上することです。売上から経費を差し引いた金額が課税所得となるため、事業に関係する支出を正確に申告すれば、その分だけ所得税や住民税を抑えられます。たとえば、事務所の家賃、通信費、書籍代、セミナー参加費、業務用の交通費などは、条件を満たせば経費として計上可能です。ただし、私的な支出を無理に経費とするのは不適切ですので、領収書の整理や帳簿記録を徹底し、説明責任を果たせるようにしておくことが必要です。
控除制度を活用して課税所得を減らす
個人事業主でも利用できる各種控除制度を活用することで、課税所得を減らし、税負担を軽減できます。たとえば、「青色申告特別控除」は、青色申告をしている事業者で、複式簿記などによる帳簿をつけている場合に最大65万円の控除が受けられる制度です。この最大額を適用するには、複式簿記での記帳に加え、e-Taxでの申告または優良な電子帳簿保存を行う必要があります(それ以外の場合は55万円または10万円の控除となります)。電子帳簿の保存やe-Taxによる申告が必要ですが、節税効果は非常に大きくなります。
そのほか、「小規模企業共済」「iDeCo(個人型確定拠出年金)」などの制度に加入すれば、掛金の全額が所得控除の対象になります。これらを活用することで、節税と同時に将来の資金準備も進められます。
事業とプライベートの管理を明確にする
節税の前提として、事業と私生活の支出を明確に分けることも重要です。事業用の銀行口座と生活用口座を分けて管理すれば、経費の仕訳や確定申告がしやすくなり、無駄な支出も見直せます。結果的に、経費の最適化と適正な課税所得の把握につながり、長期的な節税効果が期待できます。
個人事業主が貯金を増やせる制度
個人事業主は将来の生活や老後に備えて、自ら資産形成を行う必要があります。税制上の優遇を受けながら効率的に貯金を増やせる制度を活用することで、着実な備えが可能になります。ここでは、iDeCo、国民年金基金、小規模企業共済、NISAといった制度を紹介します。
iDeCo・国民年金基金で年金の上乗せを図る
iDeCoは、掛金が全額所得控除となる個人型年金制度で、老後資金を作りながら節税できるのが大きな特長です。自営業者は月最大6.8万円まで拠出でき、運用益も非課税となるため、長期的な資産形成に向いています。
また、国民年金基金は、自営業者が公的年金に上乗せして終身年金を受け取れる制度です。こちらも掛金は社会保険料控除の対象となり、iDeCoとの併用も可能です(合計上限6.8万円まで)。厚生年金に加入できない個人事業主にとって、両制度は老後不安を和らげる有効な手段です。
小規模企業共済で退職金を準備する
小規模企業共済は、個人事業主が廃業や引退時に退職金を受け取れる制度です。掛金は月1,000円から7万円まで設定でき、全額が所得控除の対象となります。受取時も税制優遇があり、一括なら退職所得、分割なら年金扱いで税金が軽減されます。また、資金が必要なときには積立金を担保にした貸付も可能で、柔軟性にも優れています。
NISAで貯金を運用して資産を増やす
NISAは、株式や投資信託の利益が非課税となる制度です。2024年からは年間最大360万円、生涯で1,800万円まで非課税で運用できるようになりました。低金利時代において、現金だけでは資産を増やしにくいため、一部の資金を分散投資で長期的に育てることが有効です。
計画的な貯金で事業と生活を安定させよう
個人事業主は収入の変動や社会保障の不安定さに直面することが多く、将来に備えるための貯金が欠かせません。生活費や運転資金、税金や保険料の支払いなど、あらゆる支出を想定して資金を準備しておくことで、急な変化にも柔軟に対応できます。さらに、iDeCoやNISAなどの制度を活用すれば、税制上の優遇を受けながら効率的に資産形成も進められます。日々の収支管理を徹底し、無理のない範囲で継続的に貯金を積み上げることが、長く安定して事業を続けていくための土台になります。

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ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様
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