• 更新日 : 2025年10月21日

個人事業主の残価設定ローンの仕訳はどうする?減価償却・経費計上について解説

残価設定ローンは、資金負担を軽減しながら車両を導入できる仕組みとして、個人事業主の間で注目されています。開業初期や資金繰りに余裕がない場合でも、事業用車両を取得しやすい点が大きな魅力です。しかし、会計処理や減価償却、毎月の返済仕訳、契約終了時の処理など、正確な知識がなければ誤った申告につながるおそれもあります。

本記事では、残価設定ローンの仕組みから仕訳方法、経費計上、確定申告における注意点などを解説します。

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残価設定ローンの仕組みとは?

残価設定ローンは、車両を導入したいが資金繰りに余裕がない個人事業主にとって、初期費用を抑えて資産を取得できる有効な手段です。ここでは、残価設定ローンの基本的な仕組みと、それに伴う会計・税務上の扱いを解説します。

返済対象は残価を除いた部分のみ

残価設定ローンとは、購入する車両などの将来的な価値(残価)を契約時点で設定し、その残価を差し引いた金額を分割で返済するローン方式です。新車価格が300万円で、3年後の残価が100万円と設定された場合、実際に分割で返済するのは残りの200万円となります。ただし、発生する利息はこの200万円部分に対してではなく、残価額を含めた全額に対して発生するため注意が必要です。元本部分と金利部分を合わせた一定額を毎月支払う形式が一般的です。

(返済方法は元利均等返済(毎月一定額)が一般的ですが、元金均等やボーナス併用など他方式もあります。)

契約終了時には、残価100万円を支払って車両を買い取るか、車を返却して契約を終了するかを選択できます。返却した場合は、車の実際の査定価格が残価を下回っていれば、差額を支払う必要がある場合もあります。逆に、査定価格が残価を上回っても超過分が戻ってくるとは限らないため、契約内容を事前に確認することが重要です。

この仕組みの大きな利点は、当初の負担を軽減できる点にあります。初期費用を抑えて事業用車両を導入できるため、開業間もない個人事業主にとっては、資金を有効に活用できる柔軟な選択肢となります。

会計処理は全額を資産計上し、減価償却を行う

残価設定ローンは、名義上は購入扱いとなるため、会計上は通常のオートローンと同様に取り扱います。つまり、たとえ実際に支払うのは残価を除いた金額であっても、契約時点で車両価額全額(残価を含む)を「車両運搬具」などの固定資産として資産計上する必要があります。

この資産は耐用年数に基づき、原則として定額法または定率法で減価償却を行い、毎年「減価償却費」として一定額を必要経費に計上します。法定耐用年数は、新車の普通自動車であれば耐用年数は6年、軽自動車であれば4年となっており、法定耐用年数に従って毎年一定額を経費にできます。

また、ローン返済時には、元本部分を「未払金」などの負債勘定から減額し、利息部分を「支払利息」として費用計上します。このようにして、ローンを通じた支払いと減価償却をあわせて処理することで、会計上も税務上も正しく資産と費用を管理することが可能になります。

リースとは異なり、残価設定ローンでは所有権留保が付されることが多く、車検証上の所有者は販売会社や信販会社、使用者が購入者となるのが一般的です。事業用車両としての使用が前提であれば、支払利息や自動車税、保険料などもそれぞれの勘定科目で必要経費に計上でき、税務上のメリットも大きいといえるでしょう。

個人事業主が残価設定ローンで車を購入したときの仕訳は?

残価設定ローンで車両を取得した場合でも、会計処理の基本は通常のオートローンと変わりません。ここでは、購入時、返済中、契約終了時それぞれの段階における仕訳処理を解説します。

【購入時】取得価額全額を固定資産計上

車両を受け取った時点で、車両本体の税抜価額(消費税の課税事業者の場合は税抜価額、免税事業者の場合は税込価額)を「車両運搬具」などの固定資産勘定に全額計上します。同時に、その全額と同じ金額を「未払金」または返済期間が1年を超える場合は「長期未払金」として負債に計上します。

車両本体価額が税込330万円(税抜300万円)であった場合、仕訳は以下のようになります。

(消費税課税事業者の場合)
  • 借方:車両運搬具 3,000,000円
  • 借方:仮払消費税 300,000円
  • 貸方:未払金(または長期未払金)3,300,000円
(消費税免税事業者の場合)
  • 借方:車両運搬具 3,300,000円
  • 貸方:未払金(または長期未払金) 3,300,000円

さらに、購入時にかかる諸費用も同時にそれぞれの適切な勘定科目で仕訳します。以下のような処理が一般的です。

  • 自動車税・重量税など:租税公課
  • 自賠責保険料:保険料
  • 登録手数料や代行費用:支払手数料
  • リサイクル預託金:預託金(資産)

なお、残価部分については、この時点では特別に仕訳を分ける必要はありません。残価が設定されていても、取得時には全額を資産として計上するため、通常のローン購入と同様に処理を行います。

【毎月の返済時】元本と利息を分けて記録

毎月のローン返済時には、支払額を元本と利息に分けて仕訳する必要があります。元本部分は「未払金」を減額し、利息部分は「支払利息」として費用計上します。

月々の支払額が33,000円で、そのうち元本が30,000円、利息が3,000円の場合、次のように仕訳します。

  • 借方:未払金 30,000円
  • 借方:支払利息 3,000円
  • 貸方:普通預金 33,000円

このように、利息はその都度の支払い時に必要経費として処理され、税務上の損金として認められます。元本部分は資産取得に対応するローン返済のため、費用にはなりません。

なお、支払額に含まれる利息は金利変動型の場合や償還スケジュールによって異なるため、ローン会社から提供される償還表に基づいて正確に分類することが重要です。

【最終回の処理】残価支払いまたは返却で仕訳が異なる

契約期間終了時の処理は、残価を支払って車両を引き取る場合と、車両を返却して契約終了する場合で異なります。

残価を支払って買い取る場合

残価を現金などで支払い、車両を引き続き保有する場合、未払金を消滅させる仕訳を行います。

  • 借方:未払金 1,000,000円(残価)
  • 貸方:普通預金 1,000,000円

この処理により、ローンの負債が全額解消され、資産としては引き続き車両が残り、減価償却も継続されます。

車両を返却して契約を終了する場合

車両を返却する場合は、会計上「残価金額での売却」とみなして処理します。なお、個人事業主の場合、車両の売却は総合課税による譲渡所得の対象となるので注意が必要です。残価40万円で返却し、帳簿上の車両簿価が備忘価額の1円であれば、まず以下の仕訳が考えられます。

  • 借方:未払金 400,000円
  • 貸方:車両運搬具 1円
  • 貸方:事業主借 399,999円

ただし、車の市場価値が残価を下回った場合には、差額を「精算金」として請求されることがあります。その場合は、その金額を「支払手数料」等として費用計上します。

  • 借方:支払手数料 50,000円
  • 貸方:普通預金 50,000円

なお、精算金の支払いは課税仕入れに該当するため、消費税の仕入税額控除の対象にもなり得ます。

上記の処理を行ったうえで、次に譲渡所得の計算を行います。

車両の売却額(残価金額)から減価償却後の車両簿価を差し引いた残額が総合課税の譲渡所得の課税の対象となります。なお、総合課税の譲渡所得の計算については、50万円の特別控除があるため、特別控除の50万円を差し引いた残額について譲渡所得が課されることとなります。

総合課税の譲渡所得は長期譲渡所得と短期譲渡所得に分類されます。車両の所有期間が5年以内の場合は短期譲渡所得、5年超の場合には長期譲渡所得の扱いとなります。

(短期譲渡所得の場合)4年所有後、簿価5万円の車両を残価60万円で返却した場合

600,000円-50,000円-500,000円(特別控除額)=50,000円(短期譲渡所得)

(長期譲渡所得の場合)6年所有後、簿価1円の車両を残価60万で返却した場合

(600,000円-1円-500,000円(特別控除額))× ½ =49,999円(長期譲渡所得)

なお、上記の計算の結果、譲渡損が出る場合には、事業所得等の利益と損益通算ができます。

車両の売却については消費税の課税対象となります。車両の売却額(残価代金)が課税売上高となるため注意してください。

車両返却後は車両が事業資産から除却されるため、翌年以降の減価償却費の計上は終了します。帳簿上も固定資産台帳から削除し、すべてのローン残高が処理されたことを確認しておくことが必要です。

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減価償却費や利息・諸費用など経費計上はどうなる?

残価設定ローンで取得した車両も、通常の購入と同様に事業用資産として扱われ、減価償却の対象となります。あわせてローン利息や維持費も、内容に応じて経費として計上できます。

減価償却の基本と資産計上の方法

残価設定ローンで車を取得した場合、残価を含めた全額を「車両運搬具」などの固定資産として取得時に資産計上します。これはローンの支払総額が残価を除いた金額であっても、所有権が移転する購入契約であるためです。

減価償却は法定耐用年数に従って行います。普通自動車は6年、軽自動車は4年が一般的です。個人事業主の場合、「定額法」または「定率法」から選択でき、青色申告をしている場合は定率法の適用が可能です。

減価償却費は、たとえローンの支払いが取得時点で始まっていなくてもでも、取得時から計上を開始します。年間の償却費は、青色申告決算書の「減価償却費」欄に記載し、必要経費として所得から差し引けます。

経費として処理できる費用と勘定科目

車両関連の支出のうち、事業に直接必要なものは経費として計上できます。主な費用と仕訳の勘定科目は以下の通りです。

費用の内容勘定科目
ローンの利息支払利息
自動車税・重量税・環境性能割租税公課
自賠責保険料・任意保険料保険料
登録手数料・車庫証明など支払手数料
ガソリン代・修理・点検費用車両費
駐車場代地代家賃
高速代・パーキング代旅費交通費
リサイクル料(預託金)預託金(資産)

事業用と私用が混在する場合の家事按分

車両を事業用と私用の両方で使っている場合は、事業利用分のみを経費に計上します。この処理を「家事按分」と呼びます。

按分割合は、走行距離や使用日数など客観的な基準に基づいて決めます。たとえば、年間の走行距離のうち60%が事業利用分であれば、経費として計上できるのも全体の60%までです。

按分の根拠は帳簿やメモ等で記録しておくことが重要で、税務調査時の対応にも有効です。プライベート利用分を誤って経費に含めてしまうと、経費過大として修正申告の対象になる可能性があります。

確定申告の注意点は?

残価設定ローンで購入した車両についても、減価償却費や利息などを正しく経費計上し、確定申告に反映させる必要があります。2025年分からは税制改正の影響もあるため、処理ミスを防ぎつつ節税効果を最大化しましょう。

青色・白色申告での処理

青色申告をする個人事業主は、青色申告決算書に取得車両を固定資産として記載し、減価償却費を「減価償却費」欄に計上します。支払利息、自動車税、保険料なども、それぞれ対応する科目(支払利息、租税公課、保険料など)で経費として処理します。

また、貸借対照表にはローン残高を「未払金」や「長期未払金」として計上し、同時に減価償却累計額や残高を反映させる必要があります。契約終了時に車両を返却した場合には、帳簿から資産を除却し、精算金がある場合には仕訳に反映させます。譲渡益や譲渡損については譲渡所得として扱われるため、仕訳上は事業主借もしくは事業主貸として計上し、総合課税の譲渡所得として確定申告に反映させる必要があります。

白色申告でも減価償却や経費処理の基本は同様ですが、決算書の添付義務がないため、漏れのない記帳がより重要になります。いずれの場合も、ローン契約書や支払明細などの証拠資料を保存しておくことが、税務調査時の備えとなります。

2025年税制改正とインボイス制度

令和7年(2025年)分からの税制改正により、基礎控除額が48万円から58万円に引き上げられました。これにより、すべての個人事業主が10万円多く所得控除を受けられることになり、課税所得の圧縮につながります。また、給与所得控除も10万円引き上げられ、扶養控除の基準も緩和されています。これらの変更により、総合的に所得税の負担は軽減される見込みです。

加えて、2023年10月から始まったインボイス制度にも対応が求められます。車両を購入した際に仕入税額控除を適用するには、インボイス(適格請求書)の保存が必要です。購入先が適格請求書発行事業者であるか確認し、インボイスの保管を徹底しましょう。

参考:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について(源泉所得税関係)|国税庁

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残価設定ローンの活用には会計・税務処理の理解が不可欠

残価設定ローンは、初期費用を抑えて車両を導入できる便利な資金調達手段ですが、会計処理や確定申告での対応を正しく行うことが前提です。取得時には車両価額全額を固定資産として計上し、毎月の返済では元本と利息を分けて処理します。また、減価償却費や維持費の経費化、家事按分の対応、インボイス制度への備えも重要です。制度の仕組みと税制を理解し、帳簿付けと申告を正確に行えば、節税効果と資産管理の両立が可能になります。

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