- 更新日 : 2025年10月21日
個人事業主の開業手続きの流れとは?準備から届け出・確定申告までのステップを解説
個人事業主として新たにビジネスを始めたいと考えたとき、まず何から手を付けるべきか迷う方も多いのではないでしょうか。開業には、事業計画の立案や資金準備だけでなく、税務署への届け出、社会保険の切り替えなど、さまざまな手続きが必要です。
本記事では、開業に至るまでの流れと注意点を解説します。
目次
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個人事業主が開業するまでの基本的な流れは?
個人事業主として事業を始めるには、計画から各種届け出まで段階的な準備が求められます。ここでは、事業計画の策定から税務署への届け出に至るまで、必要なステップを整理します。
ステップ1:事業内容と計画を明確にする
開業の第一歩は「どんな事業を、誰に向けて、どのように提供するか」を具体的に決めることです。これには、サービスや商品の内容、対象となる顧客、競合との違い、収益の見込みなどを整理し、事業として成立するかを検討する必要があります。また、将来的な成長やリスク対策も視野に入れた「事業計画書」の作成が望まれます。
ステップ2:資金計画と必要経費を試算する
次に行うべきは、開業に必要な資金を見積もることです。設備投資、仕入れ、広告費、家賃などの初期費用と、当面の生活費・運転資金を含めた全体予算を把握しましょう。資金が不足する場合は、自己資金以外に日本政策金融公庫や自治体の創業融資制度などを活用することも検討します。
ステップ3:屋号や事業所の所在地を決める
個人事業主では屋号(ビジネスネーム)の設定は任意ですが、名刺・請求書・銀行口座などで活用できるため、多くの人が設定しています。また、事業を行う場所(自宅、レンタルオフィス、店舗など)も決定し、後に提出する開業届に記載する情報として準備しておきます。
ステップ4:退職後の社会保険と年金の切り替え(独立する場合)
会社員から独立する場合は、退職後に社会保険と年金を切り替える必要があります。健康保険は「国民健康保険」または「任意継続」、年金は「国民年金」へ加入します。市区町村役場での手続きが必要となり、退職後原則14日以内(健康保険の任意継続の手続きは20日以内)に手続きが必要です。遅れても手続きは可能ですが、未加入期間が生じるなど不利益を受ける可能性があります。
ステップ5:開業届と青色申告承認申請書の提出
開業日が決まったら、税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書(通称:開業届)」を提出します。開業後1ヶ月以内が目安です。さらに、節税メリットを得たい場合は「所得税の青色申告承認申請書」も開業から2ヶ月以内(1月1日から1月15日までの間に事業を開始した場合にはその年の3月15日まで)に提出します。
青色申告承認申請書を提出することで青色申告が可能になります。なお、青色申告の65万円の特別控除を受けるには複式簿記による記帳と、e-Tax(国税電子申告・納税システム)による申告または優良な電子帳簿保存の条件を満たす必要があります。
開業に屋号や営業許可は必要?
屋号の設定や営業許可の取得は、すべての個人事業主に必要なわけではありません。ここでは、それぞれの意味と必要性について、開業前に知っておきたいポイントを整理します。
屋号は付けなくても開業できるが、設定することで信頼性が高まる
屋号(やごう)とは、個人事業主が事業活動に用いる「ビジネス上の名称」のことです。法人でいう会社名にあたるもので、開業届に任意で記載できます。法律上は本名だけでも事業を始められるため、屋号の設定は必須ではありません。
しかし、屋号を設定するとさまざまなメリットがあります。たとえば、屋号付きの銀行口座(「○○屋 山田太郎」など)を開設できるため、顧客や取引先とのやりとりがスムーズになり、事業者としての信頼性も高まります。また、名刺や請求書、ウェブサイトなどでも屋号を用いることで、サービス内容が相手に伝わりやすくなり、ブランディングの一環としても効果があります。
屋号は自分で自由に決められますが、他の事業者と同一または類似の名称を避ける、わかりやすく覚えやすい名称にするなど、後々の運営を見据えた工夫も必要です。なお、屋号を使用することで商標権や法人格が自動的に発生するわけではない点には注意が必要です。
一部の業種では開業前に許認可の取得が必須となる
開業にあたって、すべての個人事業主が営業許可を取得しなければならないわけではありません。ただし、業種によっては法律や条例に基づき、営業許可や資格の取得が義務付けられている場合があります。
代表的な例として、飲食業を営む場合には、保健所から「飲食店営業許可」を取得しなければなりません。中古品を扱うビジネスでは「古物商許可」が必要となり、都道府県公安委員会への申請が求められます。また、理美容業、建設業、クリーニング業などもそれぞれ所管の行政機関から許可や登録が必要です。
これらの許認可には、申請から取得までに時間がかかるケースも多いため、事業を開始する前に自分の業種が該当するかを確認し、必要な手続きを早めに進めることが大切です。
許認可が必要な業種で未取得のまま営業を始めた場合、行政指導や営業停止命令、罰金といった法的処分を受けるおそれがあります。開業準備の一環として、必ず自治体や専門機関への事前確認を行いましょう。
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個人事業主として独立する場合の社会保険と年金は?
会社員を辞めて個人事業主として独立する際には、健康保険や年金の切り替えが必要です。自動的には切り替わらないため、退職後の手続きを正しく理解しておくことが重要です。
健康保険は「国民健康保険」か「任意継続」のどちらかを選ぶ
退職すると、会社の健康保険(健康保険組合や協会けんぽ)からは脱退することになります。その際、多くの人は市区町村が運営する「国民健康保険」に加入します。加入手続きは、住民票のある市区町村役場で行い、健康保険証の返却から14日以内が目安とされています。
もう一つの選択肢が「任意継続被保険者制度」です。これは退職前に会社の健康保険に継続して2か月以上加入していた人が、退職後も最長2年間、同じ保険を使い続けられる制度です。申請期限は退職日の翌日から20日以内で、保険料は全額自己負担になります。保険料や扶養家族の有無、出産手当金や傷病手当金の有無なども加味し、どちらを選ぶか検討する必要があります。
年金は「国民年金」に切り替える
会社員時代は厚生年金に加入していますが、退職すると国民年金(第1号被保険者)への切り替えが必要です。こちらも、原則14日以内に市区町村役場で手続きを行います。基礎年金番号とマイナンバー、本人確認書類が必要です。
保険料は定額で、収入が少ない場合は「免除申請」や「納付猶予制度」の利用も可能です。
開業時に必要な税務署への手続きは?
個人事業を始める際には、税務署への複数の届け出が必要となります。ここでは、開業届と青色申告に関する申請、そして地方税や従業員関連の届け出について解説します。
開業届の提出
個人事業を開始した際に最初に行うのが、税務署への「開業届」の提出です。正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」で、開業日から1ヶ月以内の提出が推奨されています。遅れても罰則はありませんが、提出することで事業者として正式に認識され、金融機関や取引先に対しての信用にもつながります。
提出は税務署窓口のほか、郵送やe-Taxでも可能です。2025年1月からは、開業届の控えに税務署の収受印(受領印)が押されない運用に変更されたため、提出記録の保存方法に注意が必要です。e-Taxであれば受信通知、郵送であれば送達記録の保管が重要です。
開業届には氏名・住所・屋号・開業日・事業内容・事業所の所在地などを記載します。開業日は実際の営業開始日を原則としますが、厳密な決まりはなく、初回の売上日などでも構いません。
青色申告承認申請書の提出
青色申告を希望する場合は、開業届とは別に「所得税の青色申告承認申請書」の提出が必要です。提出期限は開業から2ヶ月以内です。ただし、1月1日から1月15日までの間に事業を開始した場合にはその年の3月15日までとされています。提出しないとその年分は白色申告扱いとなり、青色申告の各種特典は適用されません。
青色申告を選択することで、最大65万円の特別控除や赤字の繰越し、専従者給与の経費化など複数の節税メリットが得られます。複式簿記による帳簿作成や決算書の提出など要件はありますが、クラウド会計ソフトの活用により、初めてでも十分対応可能です。
なお、65万円控除を受けるには、複式簿記による記帳を行った上で電子申告または優良な電子帳簿保存が条件です。紙での申告では控除額が55万円となるため、e-Taxの導入も視野に入れて準備を進めましょう。
地方税のための個人事業開始申告書も忘れずに
税務署に提出する開業届とは別に、都道府県税事務所には「個人事業開始等申告書」の提出が求められます。これは、地方税である「個人事業税」の課税対象となる可能性があるためです。
書類の名称や提出期限、様式は自治体により異なりますが、開業後できるだけ早めに届け出ておくと安心です。個人事業税は、事業所得が年間290万円を超えた場合に課税され、税率は業種によって異なります。課税対象であれば、確定申告に基づき8月頃に納税通知が届きます。
また、市区町村役場へも開業届の提出が必要です。こちらについても書類の名称や提出期限、様式は各市区町村によって異なります。また、上記の都道府県に提出する個人事業開始等申告書と兼用になっている場合や、そもそも提出が不要な市区町村もあるため、詳細は各市区町村役場に確認が必要です。
従業員を雇う場合の追加手続き
開業時点で従業員を雇用する予定がある場合は、さらにいくつかの手続きが必要です。雇用保険の適用手続きはハローワークで、労災保険の加入届は労働基準監督署で行います。給与を支払う際は、税務署に「給与支払事務所等の開設届出書」を提出し、源泉所得税の納付義務が発生します。
なお、従業員を常時5人以上雇用する場合で、事業所が「適用業種」に該当する場合は、個人事業主であっても健康保険および厚生年金保険への加入(社会保険の適用)が義務付けられています。業種や雇用形態に応じて、事前に適用対象かどうかを確認しておきましょう。
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インボイス制度への対応は開業時に必要?
インボイス制度はすべての事業者に登録が義務付けられているわけではありませんが、取引先が法人や事業者の場合は、開業時からの対応が重要になることがあります。ここでは制度の仕組みと、開業初期の判断ポイントを解説します。
インボイス制度の基本
インボイス制度は、2023年10月に導入された新しい消費税制度で、正式には「適格請求書等保存方式」と呼ばれます。これは、消費税の仕入税額控除を行うためには、インボイス(適格請求書)が必要となり、インボイスを発行するためには請求書等の発行者が「適格請求書発行事業者」として登録されていることが条件になるという仕組みです。取引先が仕入税額控除を行うためには、相手方である個人事業主がインボイス発行事業者の必要があります。
開業当初は免税事業者だが、登録は選択可能
新規開業した個人事業主は、前々年の課税売上高が存在しないため、一部例外を除き、開業初年度および翌年度は自動的に「免税事業者」となります。
しかし、開業直後から「課税事業者選択届出書」を提出すれば、任意で課税事業者になることができ、同時に「適格請求書発行事業者の登録申請書」も提出することでインボイスの発行が可能になります。これはあくまで任意の選択ですが、取引先の要請や業界慣行により、開業時点で登録を決断する事業者も少なくありません。
税負担軽減措置を活用すれば負担は軽減できる
インボイス登録による納税負担を軽減する措置として「2割特例」という制度が用意されています。これは、インボイス制度に伴って免税事業者から課税事業者になる場合、2023年10月1日から2026年9月30日の属する年については売上税額の20%のみ納税すればよいという制度です。これにより、初期登録の心理的・金銭的ハードルを下げられます。
参考:2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要|国税庁
開業後の帳簿管理と確定申告はどうする?
個人事業主として事業を始めたら、取引内容の記帳と証憑の整理を日常的に行い、年に一度の確定申告に備える必要があります。
【ルーティン】帳簿の記帳と経費の管理を習慣化する
開業後は、すべての事業収入と支出を帳簿に記録する必要があります。現金や銀行口座での取引、クレジットカードの利用など、形式を問わず正確に記帳しましょう。領収書やレシートの保管も重要です。青色申告を選んだ場合には、複式簿記が求められますが、クラウド会計ソフトを使えば仕訳や帳簿作成の負担は軽減されます。日々の記帳を後回しにせず、ルーティンとして定着させることが申告ミスや漏れの防止につながります。
【年末】決算書の作成と申告準備を進める
個人事業主の課税期間は暦年単位であり、毎年12月末で事業年度が締まるため、年末にはその年の売上・経費を集計し、損益計算書や貸借対照表などの決算書類を作成します。青色申告者は「青色申告決算書」、白色申告者は「収支内訳書」が必要になります。所得控除を受けるための証明書(国民年金、医療費、生命保険料など)もこの時期までに準備しましょう。
【申告時期】2月16日〜3月15日の確定申告を正確に行う
確定申告期間は毎年2月16日から3月15日までです。この期間内に、所得税の確定申告書と各種添付書類を税務署へ提出し、納税を済ませます。提出方法は、税務署への持参・郵送・e-Tax(電子申告)のいずれかを選べます。青色申告の65万円控除を適用するには、e-Taxによる提出もしくは優良な電子帳簿保存が要件となります。なお、期限を過ぎると延滞税や加算税が発生する可能性があるため、早めの準備が推奨されます。
開業準備は一歩ずつ、確実に
個人事業主としての開業は、自由な働き方を実現する第一歩です。その一方で、事業計画の策定や資金計画、社会保険の切り替え、各種届け出や税務処理など、準備すべき事項は多岐にわたります。屋号や許認可、インボイス制度といった要素も、業種や取引先に応じて慎重な判断が求められます。帳簿管理や確定申告を含む開業後の実務も含めて、段階的に対応することで、着実なスタートを切ることができます。焦らず、丁寧に取り組んでいきましょう。

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ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様
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