- 更新日 : 2025年9月19日
個人事業主のための所得税の仕訳ガイド|納付・予定納税・還付のケースごとに解説
個人事業主として事業を営む中で避けて通れないのが、所得税に関する会計処理です。「所得税は経費にならない」と聞いても、仕訳方法や勘定科目の選び方に戸惑う方も多いのではないでしょうか。
本記事では、所得税の仕訳に関する基本的な考え方から、納付・還付・予定納税など実務でよくあるケースを解説します。
マネーフォワード クラウドでは、個人事業主を限定にエントリー&条件達成で最大6,000円分のAmazonギフトカードをプレゼントするキャンペーンを実施しております。
詳しい支給条件は、 こちらのページで紹介していますので、ぜひ併せてご参考ください。

目次
「マネーフォワード クラウド確定申告」なら日々の取引入力→申告書の作成→申告作業が、オンラインで完結します。
取引明細の自動取得と仕訳の自動作成に対応しており、手入力を減らしてカンタンに記帳・書類を作成。来年の確定申告は余裕を持って対応できます。
PC(Windows/Mac)だけでなく、スマホアプリからも確定申告が可能です。

個人事業主が支払う所得税の基本
個人事業主が納める所得税は、事業で得た利益に対して課される税金ですが、その仕組みや性質は法人が支払う法人税とは大きく異なります。帳簿への記載や税務上の扱いも変わってくるため、基本を理解しておくことが大切です。
個人事業主の所得税は原則として経費にできない
所得税とは、個人が1年間に得た所得に対して課される国税です。個人事業主の場合、事業で得た所得(収入から経費を引いた金額)を基に税額が計算されます。納付は確定申告に基づいて行い、所得が多い場合は年の途中で前期分に基づき「予定納税」として前払いも発生します。この税金はあくまで個人に対する課税であり、事業で使用した資金から支払ったとしても、原則として事業経費にはなりません。
法人税との違い
法人税は、株式会社や合同会社などの法人が得た利益に対して課される税金です。法人税は、会計上「法人税、住民税及び事業税」という勘定科目で費用として計上され、損益計算書に反映されます。しかし、法人税の計算上は法人税や住民税は「損金(課税対象となる所得を減らす費用)」には算入されません。一方、個人事業主の所得税は、事業の経費にはならず、個人の負担となります。
したがって、帳簿上は「事業主貸」などの勘定科目を使って処理し、損益には影響しないように記録します。このように、同じように所得に対して課税される税であっても、個人と法人では会計処理上の扱いが大きく異なります。
所得税以外に個人事業主が経費にできない税金の種類
所得税をはじめ、個人事業主が支払う一部の税金は、帳簿上で経費として認められません。どの税金が経費計上できるのか、またできないのかを正しく把握することは、確定申告や日々の帳簿作成において重要です。
経費にできない税金の例
個人事業主が納める所得税は、法律上「必要経費」として認められない支出に該当します。これは、事業活動によって発生した費用ではなく、あくまで事業主個人に課される税金であるためです。同様に、住民税、国民健康保険料、国民年金保険料といった社会保険関係の負担も、事業とは切り離された個人の支出として扱われ、経費として帳簿に記載することはできません。
延滞税や加算税も経費には含められない
税金の納付が遅れた場合に発生する延滞税や、申告漏れなどによって課される加算税も経費に含めることはできません。これらはペナルティとして課される性格のものであり、事業運営の正当な費用とは見なされないためです。
経費にできる税金もある
一方で、事業に直接関係する税金、たとえば個人事業税や事業用資産の固定資産税などは「租税公課」として経費計上が可能です。その他、事業に係る車両の自動車税や、事業の契約に係る印紙税、事業に係る登録免許税・不動産取得税についても経費計上は可能です。つまり、税金だからといって一律に経費対象外ではなく、その性質に応じて取り扱いが分かれます。所得税や住民税、罰金、延滞税といった事業運営に直接関連しない、またはペナルティとしての性質を持つ税金は経費になりません。
マネーフォワード クラウド確定申告では、個人事業主やフリーランスの方が知っておきたい"経費"のキホンや勘定科目を分かりやすく1つにまとめた「個人事業主が知っておくべき経費大辞典」を無料で用意しております。
税理士監修で、経費の勘定科目や具体例だけでなくワンポイントアドバイスもついているお得な1冊となっていますので、ぜひ手元に置きたい保存版としてご活用ください。
個人事業主の所得税の仕訳
個人事業主が支払う所得税は事業経費として扱えないため、会計帳簿では通常の費用科目ではなく「事業主貸」という特有の勘定科目を使って記録します。また、所得税の還付を受けた場合や、個人資金を事業に投入した場合には「事業主借」という科目を使用します。ここでは両者の使い方と意味を整理します。
基本的に「事業主貸」を利用する
「事業主貸」は、個人事業主が事業用の現金や預金を私的な目的に使ったときに使う貸借対照表の科目です。たとえば、生活費や国民健康保険料、所得税の納付を事業用の口座や現金から支払った場合に貸方の勘定科目を「事業主貸」として処理します。所得税の納付はあくまで個人としての納税義務に基づく支出であり、事業の経費にはなりません。そのため、損益計算書に影響を与えないように、このような私的支出は「事業主貸」で記帳することで、事業と個人の資金の流れを明確に分けられます。
所得税支払い時の仕訳
たとえば個人事業主が確定申告により決定した所得税20万円を事業用口座から納付した場合、次のように仕訳し、さらに摘要欄に所得税の納付であることを明記しておきます。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
事業主貸 | 200,000円 | 普通預金 | 200,000円 | 令和〇年分 所得税納付 |
このように「事業主貸」を使うことで、経費とは別に処理され、決算書の損益に含まれないようになります。
「事業主借」との違い
「事業主借」は、「事業主貸」と対になる勘定科目で、事業に対して個人が資金を提供した場合や、事業関連の支出を個人が立て替えたときに使います。事業用の経費を一時的に個人の財布から支払った場合には、その支出を「事業主借」で記帳しておくことで、後日精算や資金管理がしやすくなります。また、所得税の予定納税を多く納めすぎて税務署から還付金が事業用口座に振り込まれた場合も、これは個人の資金が戻ってきたものと解釈し、次のように仕訳します。(還付金が1万円戻ってきた例)
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
普通預金 | 10,000円 | 事業主借 | 10,000円 | 令和〇年分 所得税還付金 |
ただし、還付金に「還付加算金」が含まれている場合、その還付加算金部分は、「雑収入」として処理します。
「貸」と「借」の使い分けの意味
「事業主貸」は、事業から個人への資金流出を表し、「事業主借」は個人から事業への資金流入を表します。このように事業主貸・事業主借を適切に使い分けることで、帳簿上の整合性が保たれ、確定申告や税務調査時にも資金の流れを正確に説明できます。事業と生活をしっかり分けるためにも、これらの勘定科目の使い方は習得しておくべき基礎知識です。
個人事業主が確定申告で所得税を納付する場合の会計処理
確定申告で所得税を納付する際、個人事業主はその支払いを帳簿にどのように記録すべきかを正確に理解しておく必要があります。事業資金から納付した場合と個人資金で支払った場合では、仕訳の有無や勘定科目の扱いが異なります。
所得税の納付は「事業主貸」で仕訳する
前述のとおり、確定申告により確定した所得税を、事業用口座から支払った場合には「事業主貸」の勘定科目を用いて仕訳します。たとえば、所得税20万円を事業用の銀行口座から支払った場合は、次のような仕訳になります。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
事業主貸 | 200,000円 | 普通預金 | 200,000円 | 令和〇年分 所得税納付 |
この処理により、個人の税金支出が事業経費に混ざることを防ぎ、損益計算書への影響も生じません。
個人資金から納付した場合は仕訳不要
一方、確定申告による所得税を個人の財布や事業で利用していない個人名義の口座から支払った場合は、事業資金に変動がないため、帳簿上の仕訳は不要です。会計上は、事業に関係するお金の動きのみを記録することが基本であるため、個人だけで完結する支払いについては帳簿に記載する必要がありません。したがって、所得税をどの資金で納めたかによって、仕訳が必要かどうかを判断することが重要です。
このように、確定申告で納税する際には「納付方法」と「資金の出所」に注目し、帳簿処理の正確性を保つことが求められます。
マネーフォワード クラウド会社設立は、個人事業主が法人成りを検討したほうがよいタイミングをまとめた「法人化を検討すべき7つのタイミング」を無料で用意しております。
創業支援に強い税理士監修で、ポイントがまとまったお得な1冊となっていますので、ぜひ将来を見据えた情報収集でご活用ください。
個人事業主が予定納税を支払った場合の会計処理
前年の所得税が一定額を超えると、個人事業主には翌年に「予定納税」という前払い制度が適用されます。この支払いも事業経費にはなりませんが、帳簿上での正確な仕訳が必要です。納付方法によって仕訳の有無や内容が変わる点にも注意しましょう。
予定納税とは
予定納税とは、前年の所得税額を元に計算した金額(予定納税基準額)が15万円以上の個人事業主に対して課される制度で、その年の所得税を事前に仮納付する仕組みです。納付は通常、7月末までに第1期分、11月末までに第2期分として、前年の納税額の各3分の1を支払います。これは所得税の前払いにあたり、実際の税額確定後、翌年の確定申告時に精算されます。
予定納税の支払いも「事業主貸」で仕訳する
予定納税の支払いも、最終的には所得税の納付と同じ扱いであり、経費にはなりません。そのため、事業用の資金から納付した場合には「事業主貸」で仕訳します。第1期の予定納税5万円を事業用の口座から納めた場合、次のように仕訳します。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
事業主貸 | 50,000円 | 普通預金 | 50,000円 | 令和〇年分所得税予定納税(第1期) |
このように処理することで、事業と個人の支出を明確に区別できます。
精算時の扱いに注意する
予定納税で支払った金額は、翌年の確定申告で最終的な所得税額と照らし合わせて確定申告において精算されます。支払額が過剰だった場合は還付され、足りなければ追加納付が必要です。還付金が事業用口座に振り込まれた場合には「事業主借」で記帳し、帳簿の整合性を保ちます。このように、予定納税も通常の所得税と同様に、記帳の正確さが求められます。
所得税が還付された場合の会計処理
個人事業主が確定申告を行った結果、予定納税や源泉徴収によって納めすぎた所得税があると、税務署から還付金が振り込まれます。この返金が事業用の口座であった場合も帳簿上の処理が必要であり、「事業主借」という勘定科目を使って記録します。事業と個人の資金の流れを正確に反映させることが目的です。
還付された所得税は「事業主借」で仕訳する
所得税や住民税が還付された場合、それは個人に対する返金であるため、事業収益として受け取るものではありません。事業用口座に所得税の還付金5万円が振り込まれた場合には、次のように仕訳します。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
普通預金 | 50,000円 | 事業主借 | 50,000円 | 令和〇年分 所得税還付金 |
これは、事業の資金ではなく、あくまで事業主個人に対する資金が返金されたものとして扱うためです。返ってきたお金が事業用の口座に入金されても、それを個人の資金と区別するための処理となります。
源泉徴収分も相殺・記帳の対象となる
業務委託などで報酬を受け取る際に、あらかじめ源泉徴収されていた所得税額は、確定申告時に納税額と相殺されます。報酬10万円から源泉税1万円を差し引かれて受け取った場合、受け取り時の帳簿には、売上10万円と実際に入金された現金9万円を記録します。差し引かれた源泉所得税1万円は、税金の前払いとして「仮払税金」勘定(資産)等で処理するのが原則です。簡便的に、個人の税金を事業が立て替えたとみなし「事業主貸」勘定で処理する方法もありますが、税金の管理上は「仮払税金」の使用が推奨されます。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
現金 | 90,000円 | 売上高 | 100,000円 | 令和〇年〇月分報酬 〇〇商店 |
仮払税金 | 10,000円 | 令和〇年〇月分源泉徴収 |
そして、確定申告時にその源泉徴収額は所得税額と調整され、還付または追加納付が決まります。このように、還付処理や源泉徴収の扱いは複雑になりがちなため、帳簿には正確に記録を残しておくことが重要です。
所得税の仕訳における個人事業主と副業会社員の違い
副業として個人事業を行う会社員が増える中で、本業の給与と副業収入をどう扱うかは、確定申告や仕訳処理の面で重要なテーマです。ここでは、本業が会社員の副業と専業の個人事業主とで、所得税の仕訳や管理にどのような違いがあるかを説明します。
給与所得者は源泉徴収で所得税が自動計算される
会社員の場合、毎月の給与からあらかじめ所得税が天引き(源泉徴収)されており、年末調整で精算される仕組みです。そのため、基本的に自分で仕訳をする必要はなく、会社が税務処理を代行してくれます。ただし、会社員が副業を行っている場合、その副業による所得(事業所得や雑所得)の合計額が年間20万円を超えると、年末調整とは別に自身ですべての所得について確定申告を行う必要があります。なお、20万円以下で所得税の申告が不要な場合でも、原則として住民税の申告は必要です。
副業分の所得は確定申告で仕訳が必要になる
副業で得た収入が事業所得に該当する場合は、収支内訳書や青色申告決算書を作成し、帳簿で仕訳を行わなければなりません。副業収入から発生する所得税は、給与所得とは別に確定申告で合算して計算されます。納税後、所得税を事業用口座から支払った場合は「事業主貸」で処理します。なお副業が雑所得の場合、以前は厳密な記帳義務はありませんでしたが、税制改正により、前々年の業務にかかる収入金額が300万円を超える場合は現金預金取引等関係書類の保存が、1,000万円を超える場合は帳簿の作成・保存が義務付けられました。該当しない場合でも、所得を正確に計算するために記録を残すことが推奨されます。
このように、会社員であっても副業がある場合は、個人事業主と同様の仕訳や記帳が必要になることがあります。所得区分を正確に理解し、納税や会計処理のルールを把握しておくことが重要です。
個人事業主は確定申告に備えて所得税の仕訳を整理しよう
個人事業主にとって、所得税の仕訳は単に会計処理ではなく、事業とプライベートを分けて管理する大切な手続きです。所得税納付や予定納税、還付金といった金銭の動きは、必ず「事業主貸」や「事業主借」を使って記帳し、収益や経費に含めないことが原則です。仕訳のミスは税務リスクや帳簿不備につながるため、資金の出入りごとに適切な処理を心がけましょう。正確な帳簿付けが、信頼される事業運営につながります。

マネーフォワード クラウド確定申告の導入事例
データ連携機能を使って、銀行やクレジットカードの明細データを自動で取り込むようになってからは、会計ソフトへの入力作業が減ったので、作業時間は1/10くらいになりましたね。
ハンドメイド作家・ブロガー 佐藤 せりな 様
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
確定申告の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
利益が出過ぎた場合、個人事業主の対策は?節税・確定申告のポイントを解説
個人事業主として思いがけず大きな利益が出た場合、「税金が高くなりすぎるのでは」「税務署に目を付けられるのでは」と不安を感じる方も多いでしょう。大きな利益が出た場合、所得税・住民税に加えて、消費税や社会保険料、予定納税など、さまざまな影響が生…
詳しくみる個人事業主は生計を一にしない家族への給与を経費計上できる?勘定科目や福利厚生も解説
個人事業主が生計を一にしない家族に支払った給与は、経費に計上できます。節税につながるため、忘れずに経費として申請しましょう。本記事では「生計を一にしない家族」とみなされる具体例や給与支払い時の注意点、経費計上以外のメリットなどを解説します。…
詳しくみる個人事業主も社会保険適用拡大の対象!常時5人以上の個人事業所の対応を解説
社会保険の適用拡大により、個人事業主も社会保険加入が必要です。この記事を読めば、「個人事業主で社会保険が対象になる基準は?」「社会保険適用の事務手続きがわからない」という悩みを解決できます。本記事で、社会保険適用拡大の概要や、社会保険の仕組…
詳しくみる個人事業主もPayPayを導入できる?メリット・デメリットや導入方法も
近年、チェーン店のような大手事業者を中心に、キャッシュレス決済が普及しています。PayPayをはじめとする決済サービスが広まり、現金を持ち歩かない人もいるほどです。 個人事業主の方の中には、PayPayを導入してキャッシュレス決済ユーザーを…
詳しくみる個人事業主がAmazonに出店するには?やり方と費用や必要書類、確定申告について解説
個人事業主でもAmazonに出店できます。個人事業主としてAmazonに出店するにはどのような準備が必要になるのでしょうか。Amazon出店前に知っておきたい費用や出店のメリット・注意点、出店の方法、出品用アカウントの作成などについて解説し…
詳しくみるWiFiは経費になる?個人事業主が知っておきたい確定申告と通信費のルールを解説
個人事業主にとって、WiFiは業務を円滑に進めるうえで欠かせない存在です。しかし、自宅のインターネット回線やモバイルWiFiをどのように経費として扱えばよいのか、迷う人も少なくありません。本記事では、確定申告に向けて知っておくべきWiFi費…
詳しくみる